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私のやりたいことって何ですか。意志を持って進むための『WILL「キャリアの羅針盤」の見つけ方』

「明日会社がなくなったら何をするか」だって?

私は心底安心すると思う。だって、次のチャレンジが待っているじゃない。

この問いは『WILL「キャリアの羅針盤」の見つけ方』(以下「WILL本」)の第1章の見出しであり、私が本からもらった最初の問いかけだった。

私は長く人事領域、特に採用に関わる仕事をしてきた。仕事をしていても、友達と話していても、キャリアに悩んでいる人は多い。仕事柄、キャリアにアンテナが立つのかもしれないが、本当にみんなそろいもそろって悩んでいる。かくいう私もキャリアの悩みは尽きない。

過去を振り返ると、私は何かをやめる決断が苦手だった。

人生で初めてのアルバイトは家と高校の中間点にあるマクドナルドで、高校1年生の春から、2年生の終わりまで続けた。受験に向けてやめようと考えていたときに、家族の都合で引越しが決まった。そのとき、私はちょうどいい言い訳ができたと思った。「よかった、これでやめたいと伝えるのが楽になる」と。そして、意気揚々と店長のもとに行った。

大学時代、はじめたアルバイトは駅構内のカフェスタッフだった。オープニングスタッフとして入り、大学を卒業して就職直前までやり切った。やり切った、というか。途中で少し人間関係に悩んで気が重かった時期があったけど、やめずに続けた。今思えば、気軽に別のバイトに変えてもよかったのに。

やめる決断が苦手でも、社会人になるまではよかった。自然と節目が訪れる。小学校、中学校、高校、大学、就職と環境の変化に合わせて、自分の「やりたいこと」を考えて、大小さまざまな意思決定をしてきた。

それが今はどうだろう。社会人は、特に組織という大きな船に乗っている人は、行き先を自分で決めなくても進んでいける。今の役割を精一杯やってできることを増やす。ちょっとだけ横に外れて、新しいことにチャレンジする。そうやって仕事を継続しながら、なんとなくできることは増えても、「私のしたいことは何か」なんてじっくり考える機会は訪れない。

現に1on1で「今後のキャリアについてどう考えている?」とまっすぐに上司から聞かれると、有難いと同時にドギマギする。「次はこれをやりたいです」なんて、元気よく語っているけれども、今の延長線でみえる世界を言葉にしているだけのような気もする。もしかしなくても、「いい子ちゃん」を演じているのでは……。そんな自分に気づいてぞわっとする。

だから、「WILL本」は改めて自分のやりたいことを考える良いきっかけになった。この本ではキャリアデザインにおけるフレームワーク「WILL(やりたいこと)」「CAN(できること)」「MUST(やるべきこと)」の中でも、特にWILLに焦点を当てている。

本を読みながら、付属のワークシートを活用してワークを進めていく。まずは、今までの人生を曲線で表し、その時々の出来事を振り返る。過去、現在、未来に関する要素を深掘りして解像度を高める。それから、友人とも一緒にワークを深めた。書いたワークシートにツッコミを入れてもらい、自分とは違う角度からの問いかけをもらって深掘りする。質問は考えたことがない方向から飛んでくることが多くて、いつも使っていない脳みそを使う筋トレのような時間だった。

過去を振り返ると「達成感」「一体感」が得られることに夢中になってきたし、視野が広がったと感じられたときにワクワクしている自分に気づいた。未来に関して考えると「人」というキーワードが多く出てきて、「知りたい」欲求が強い。あとは、コツコツ積み重ねていく、じっくりタイプというのもわかってきた。

ワーク終盤に差し掛かり、できあがった私のWILLは「適材適所でたのしいはたらくをつくる」。一緒に進めてきた友人にWILLを披露したところ、気になった点があったようでいくつか質問してくれたが、言葉に詰まる自分がいた。

ワーク後の帰り道。頭の中でぐるぐると考え続けていたら、ハッと気づいた。モヤモヤの根源は、WILLが“自分自身のWILL”ではなく“現在の仕事である人事担当者としてのWILL”になっていたからだった。「WILL本」でも組織のWILLと自分のWILLを切り分けて考えるのが重要だと序盤で注意があったのに。大失敗。

そのようなわけで、別日に気を取り直して「WILL本」を片手にワークに再挑戦した。この本に登場する人物は3人。著者であり、「WILL発掘ワークショップ」を開発した大川陽介さんと他2人。その2人が本の世界でワークを行い、途中で大川さんから説明されたり、会話したりしながらWILLを完成させていくつくりになっていた。

ステップを行ったり来たり。ひとりでワークをもう一度行ったときに、この本の本領が発揮されたと思った。それは「WILL本」が私の目の前に大川さんをぼわんと登場させるツールだったから。本に書いてある手順はいたってシンプルである。だからこそ、ワーク中に問いかけてくれる相棒が必要だった。

わたしはひとり。でも、私には本がある。大川さんが擬似的に問いかけを投げてくれるので、友人とワークしたときと近い感覚を味わえた。

大きくやり直したのは「パワーワード採集」と「WILLの構造化」の部分。ワークで見つけた言葉を書き出し、その言葉の共通点や因果を考える。その後、組み合わせて、短文にして成形する作業だ。「挑戦」「行動」「直感」「新しい価値を生み出す」などを寄せていくと自分が在りたい姿の言い換えは「変幻自在」かな……と考える。人生をかけてしたいことってなんだろうと深めていったら、人の想いをつむいで伝えて、何かが生まれるといいなと思った。だから、リトライ後の暫定版WILLを「自分が介在者として想いを人につむぎ、ワクワクを生み出し、自らも成長したい」とした。

大人になるまでは節目があり、自然と考える機会を持てていた「WILL」に、私は社会人になって初めて向き合った気がする。会社という継続的に価値を生み出す組織にいると、考える機会がなくても何とかなってしまっていた。

けれども、今も私のWILLが正しい方向を指しているのか、正直に言って自信がない。一度うまく導き出せなかったからこれが「正しい」のか不安が付きまとう。

でも、わかっている。WILLは変わるもので、正解はないのだ。何はともあれ進む方角を決めて、一歩、動く。動いたら見えてくるものがある。そこから、WILLを見直して考えたらいいのだから。

文/岡田 美佳子

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