「好きなことを仕事にしたい」とお悩みなら『コンプレックス・エイジ』で“好き”と関わる方法を模索して【連載・あちらのお客さまからマンガです/第7回】
「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、仕事や人間関係、恋愛……などのお悩みに対して、おすすめのマンガと共にアドバイスをお届けします。
第7回目は、皐月さん(仮名)からのお悩みです。
“30歳になったばかりの会社員です。会社で副業が解禁になったので、以前から好きだったアート関連で何か仕事ができたら良いなと考えています。好きなことを仕事に繋げるにはまず何をすべきでしょうか?”
好きなことや趣味が仕事になる。こうして大好きなマンガにまつわる記事を執筆する“マンガライター”として活動している私は、まさに皐月さんの理想そのものかもしれません。
ただ、私の場合は大好きなマンガを仕事にしよう! と意気込んだことはなく、その代わりに「自分の好きとどう関わっていくのか」をずっと考え続けてきました。
「好き」にも賞味期限がある
一番好きなのはマンガですが、その他にも映画やアニメ、声優さんやロックバンドなど……私はとにかく「好き」に溢れた人生を送ってきました。マンガは自分の好きなタイミングで楽しめますが、声優さんやバンドに熱を入れるとなると、トークイベントやライブに参加するのはもちろん、そもそも参加するためのチケット争奪戦に参加したり。お金や時間に体力など、何かと消耗することが多い「好き」だったように感じます。(もちろんその先には何にも代え難い素晴らしい時間が待っているんですけどね)
学生時代は今ほど経済的に豊かではなかったけれど、とにかく自由に使える時間と体力があったから、そんな「好き」に目一杯埋もれて堪能する日々を過ごしていましたが、社会人になるとそうもいきません。自由に使えるお金は増えるけど、その分プライベートの時間は減る。そして、何よりも学生時代のような熱量で楽しむ体力や気力がなくなってきていることに気づきました。
あぁ、「好き」って永遠じゃないんだなと。「好き」にも賞味期限が存在するのかもしれないと軽い絶望を感じた瞬間でした。
「好き」とどう向き合うのかを描く『コンプレックス・エイジ』
そんな当時の自分に痛いほど刺さったマンガがあります。それが、佐久間結衣先生の『コンプレックス・エイジ』です。
主人公はコスプレに情熱を注ぐ、26歳の派遣社員・片浦渚。学生時代に始めたコスプレはただ衣装を着て楽しむのではなく、自ら衣装を製作し、さらに仕草やポージングまで徹底的に作り込むという完璧っぷり。作品の世界観やキャラクターを完全再現する彼女のコスプレは界隈では一目置かれ、コスプレイヤー・凪として人気を博しています。
けれど、そんな充実した日々も永遠には続きません。ふと鏡を見た瞬間に気づく、自分の老い。年下のコスプレイヤーを見て感じる、もう二度と手に入らないあの頃の若々しさ……。誰にも等しくやってくる加齢、加えてコスプレ業界ならではの身バレやネットでの誹謗中傷問題といった人間関係の葛藤を覚える中で、渚は自分の「好き」とどう向き合うのかを改めて考え始めるのです。
「好き」と関わる方法は一つだけじゃない
『コンプレックス・エイジ』を読んでいると、知られざるコスプレ業界の裏側が垣間見えるという面白さがある一方で、「好き」と関わるにも色々な形があるよなと。新しい発見で溢れています。
例えば、渚の友人・公子はコスプレもしますが、撮影が得意なことからコスプレイヤーのカメラマンとして活動していますし、コスプレイベントでは、年齢を重ねなければできない老婆のキャラクターを演じているコスプレイヤーも登場します。さらに、渚の良き相談相手である典子さんは若い頃からゴスロリに心酔しているのですが、還暦を迎えた今でもゴスロリへの愛は健在。ただ、若い時と全く同じなのではなく、年齢に合わせて“和製ゴスロリ”に身を包み、下北沢でアンティークショップを営むなど、加齢とともにアップデートしながらゴスロリを楽しんでいます。
「好き」をずっと楽しみたい、仕事にしたい……。そんな「好き」とずっと関わっていく生き方は決して簡単ではない。けれど、その生き方は一つではないし、年齢と共にその関わり方をアップデートしていくことでいつまでも「好き」と繋がっていられるのだと、そんな希望を『コンプレックス・エイジ』は教えてくれます。
「好き」と「仕事」の間に目を向けてみて
例えば私の場合。この連載の冒頭で申し上げている通り「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」ということをよくやっていたのですが。今から4年くらい前に、飲み屋で出会った方に「おすすめのプレゼンが面白いから何かマンガ関連の仕事をやってみたら?」と言われたのが全ての始まりでした。
一口にマンガ関連の仕事といっても『コンプレックス・エイジ』方式で考えるとたっくさんあるんですよね。例えば、マンガを描く(創作)のか、出版社で作品作りのサポート(編集)として、あるいは読者に作品を届ける本屋(流通)として関わるのか。また、作品の魅力を発信するライターとして関わるのか……。ざっと考えても関わり方はこれくらいあります。結果、私の場合は最後の“作品の魅力を発信するライター”がピンときて、さらに色々なタイミングも相まってパズルのようにかちりとハマり、今に至ります。
この作品の面白さはこんなもんじゃない! と、自分の筆力のなさに絶望することもありますが、大好きな作品について思いっきり語れたり、時には憧れの漫画家さんに取材させていただくこともある“マンガライター”というお仕事。なんて役得なんだろう……と思いながら、毎日楽しく仕事をしています。
好きなことを仕事にしたい。皐月さんのお好きなアートと、それを仕事にするまでの間には、どうやって関わるのかの方法が無限に広がっていると思います。例えば、アートを制作するのか、キュレーターとして働くのか、あるいはアート作品を売買できるようなプラットフォーム運営に関わるとか……。あ! あとできれば会社員のお仕事とうっすら繋がるような内容だと良いかもしれません。私の場合、当時会社でコンテンツを制作する業務をしていたので、第三者に何かを「伝える」「書く」という部分で“マンガライター”と良い相乗効果が発揮されたこともありました。好きとどうやって関わるのかと同時に、その手段として今ご自身がなさっている業務を棚卸しすると意外な道が見えてくることも……。ぜひ新たな扉を開く鍵を探すような気持ちで考えてみてはいかがでしょうか。
文/ちゃんめい
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