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『ゴミうんち展』で感じた、モノと向き合う大切さ

幼少期は「うんち〜」と口にするだけで、ゲラゲラお腹を抱えて笑った。過去に行ったうんこをテーマにしたミュージアムは子どもだけでなくたくさんの大人で賑わっていた。巷にはうんこという言葉をフルに活用したドリルまでもある。

人はどうして「うんち」や「うんこ」に惹かれるのだろうか。

私も例に漏れず、うんちに興味を持つひとりだ。

ある日、なんとなくスマホを眺めていた時に目に留まった『ゴミうんち展』の文字。興味をそそられて公式サイトを確認すると、どうやら「循環」をテーマにした真面目な企画展のようだった。ゴミやうんちがどのように展示されているのか、興味津々で六本木の21_21 DESIGN SIGHTへ向かった。

会場に到着してチケットを購入すると、丸くて青い小さなシールを渡された。チケット代わりのそのシールを胸元にペタリと貼り、少し歩くと私の目に入ってきたのは黒くてキラキラ輝く犬のオブジェだ。作品のキャプションに目を向けると「動物の糞を乾燥させて漆で固めて作られている」と書かれていた。うんちで作られた犬のオブジェに、思わず「へぇ!」と驚きの声が出た。

その他にも、錆を育てたアート、植物の剪定作業で出た枝などの廃棄物を活かして作られたオブジェ、海から回収されたプラスティックで作られたイス、人の髪の毛をデザインに活かしたメガネやコーム……、不要なモノ、汚いモノ、触れたくないモノとして扱われがちなものを再生して作られた作品がたくさん展示されていた。

会場の一番広いスペースには、一見ガラクタのようにも思えるおもちゃらしきものがずらりと並べられている。

「クソバッジ」とタイトルがつけられたその作品は、“世界の全てはクソバッジ。あなたのゴミは、誰かにとっての宝物かもしれない。整然と並べられた様々なオブジェクトは、ピンを付けることによって元々の意味をはぎ取られ、バッジという新たな存在として生まれ変わります。クソバッジはその辺に落ちているゴミクズや、世界の片隅で忘れ去られたガラクタに命を吹き込む、愛と平等のプロジェクトです。”と紹介されていた。

特に「あなたのゴミは、誰かにとっての宝物」という言葉が心に響いた。絶賛断捨離中の私は不要なものをゴミ袋にポイっと捨てがちだ。クソバッジを眺めながら、我が家の不用品も誰かの役に立てるのかもしれないと考えた。

もう少し歩き進むと、そこにはおしゃれなタイルが飾られていた。このタイルの正体は、そう、みんなの大好きな「うんち」だ。その事実を知って「すごっ」と、またまた声が出た。私たちがトイレに流すうんちは、最終的には汚泥焼却灰になるという。その汚泥焼却灰を活かして焼き上げたタイルは、温度によって色味や輝きが変わり、それぞれの味わいを出していた。

これまでもちょくちょく美術館や展示会に足を運んできたが、会場内の全てのキャプションをじっくりと読み切ったのは、今回が初めてかもしれない。作品の説明や作者の想いを目で追いながら、何度「へぇ」「すごっ」と思わず声を漏らしたことだろう。そして、会場の入り口兼出口には『ゴミうんち展』のコンセプトブックが販売されていた。本の帯には、“自然界にはゴミもうんちも存在しない。すべては有用な資源として循環してゆく。”と記されている。展示を見る前は「汚いもの」というイメージだったゴミやうんちが、会場を後にする頃には、少し愛おしくさえ感じられるようになっていた。

振り返ると、私が「地球にやさしく生きること」を意識し始めたのは、ほんの最近のことだ。それまでは、恥ずかしながら、あまり環境を意識せずに生活していたと思う。たとえば、「子育て中はどうせ汚れるから」と安くて可愛い洋服を頻繁に買い替えたり、買った食材を使い切れずに腐らせてしまったり、「安いから」という理由だけで特に必要ないモノを購入したり。「もし使わなければ捨てればいい」、そんな軽い気持ちでモノを手にしていたように思う。

なるべく環境にやさしい暮らしをしたいと意識が変わってきたのは、今年に入ってからかもしれない。私に最も影響を与えてくれたのは、5歳の娘だ。彼女が通う保育園では、普段からSDGsについて話し合ったり、公園にゴミ拾いに出かけたり、枯れたお花を使って絵の具を作ったり、不要になった洋服でお遊戯会の衣装を作ったり、日常の中でモノを大切にする、二酸化炭素を減らすためにゴミを減らそうといったことを子どもたちに伝えてくれている。保育園で学んだことを娘は嬉しそうに私に話し「家でもSDGsしよ!」と提案してくれる。そんなわけで我が家では、生ゴミをコンポストに投入するようになり、ペットボトルのフタをきちんと回収BOXに入れるようになり、少しずつだけれども、エコな暮らしを意識するようになってきた。今回『ゴミうんち展』に足を運んだのも、「うんち」という言葉に惹かれたのはもちろんだが、もっと地球にやさしい人でありたいという気持ちが後押ししてくれたのだと思う。

会場を出た後、仕事でお世話になっている方が話してくれた言葉をふと思い出した。「死後の世界には何一つ持っていけない。モノや人、お金に執着することに、果たしてどれほどの意味があるんだろう。本当に心から求める必要最低限のモノだけを大切にする、そんな生き方をしたいと思っている」

彼女の言葉と『ゴミうんち展』を見て感じたことが不思議と重なった。もし自分にとってお気に入りの一軍のモノだけに囲まれて生活できたなら、多くのモノに囲まれて暮らすよりもより幸せな気持ちで過ごせる気がする。しかも、お気に入りのモノは大切に長く愛用するだろうから環境にもだいぶやさしいだろう。手にするモノを厳選することは、地球も、自分も、大切にすることなのかもしれない。

そんなことをひとり考えながら、かわいい雑貨屋さん、美味しそうなお出汁の店、いい匂いのパン屋さん、たくさんの誘惑を横目に六本木の街を後にした。

文/大浦 沙織

21_21 DESIGN SIGHT 企画展「ゴミうんち展」

会期:2024年9月27日〜2025年2月16日
会場:21_21 DESIGN SIGHTギャラリー1&2
住所:東京都港区赤坂9-7-6 東京ミッドタウン ミッドタウン・ガーデン
電話番号:03-3475-2121 
開館時間:10:00〜19:00

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