1万2000人の身内。『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』リスナー超感謝祭2024
「やっぱりね……」2024年5月23日深夜3時。私は思わずぼやいた。
『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』の放送開始時間であり、横浜アリーナで行われる番組イベントのチケットの先着順の販売が開始されるはずだった。
3時直前にチケットページに入ろうとしても画面が表示されない。何度も更新ボタンを押してみるが、しまいにはエラーページが表示されてしまった。眠い目をこすりながらイライラしていたところに、ラジオから佐久間さんの声が流れはじめた。
「えー、皆さんにお知らせしないといけないことがあります。その前に本当はやろうとしていたトーンでお話ししますね」
「佐久間宣行のオールナイトニッポン0 リスナー超感謝祭2024新時代! チケット最速先行発売スタートしました……!!!」
「……とやりたいところだったんですけど。まず、この10分間で僕の身に何が起きたのかを説明します。ブースの外に黒いスーツの大人たちがわらわらと集まり始めてですね」
そこから、現状を説明する佐久間さんのトークが始まる。結局のところ、チケット購入ページに想定以上のアクセスが集まり、サーバーがダウンしてしまったのだ。番組開始早々に今日のチケット発売の中止が決まった。
「今日のために有給を取ってくれたり、起きてくれていたみなさん、本当に申し訳ない! 今日はもうチケットを販売しないので寝てください!」
寝てもいいのだけど、佐久間さんは今日の放送をどう乗り切るのかな。そんな野次馬根性も働いて、私はその後も聴くことにした。見事だったのは、佐久間さんのこのトラブルに対するスタンスだ。一般的にパーソナリティは番組を代表する立場で謝罪モードで話すのではないかと思う。佐久間さんも謝罪は交えていたが、サーバーダウンというトラブルに見舞われたパーソナリティとしての自身の気持ちも包み隠さず話したのだ。
「夜中の先着発売って大丈夫だよね? って俺は一応聞いたのよ。でも、大丈夫だって言うし、その方が放送も盛り上がるっていうから、たしかに反対はしなかった。それは俺にも責任があります。まぁ一言でいえば、番組の力をなめていましたねってことですね! もちろん皆さんには本当に申し訳ない」
「俺も会社員だったからわかるんだけど、こういうトラブルが起きると担当の人は報告書を書かないといけないのよ。本当はチケット販売が終わったら仕事を終えて、明日は午前休とか有給だったと思う。でも、緊急で報告書を書いて明日には上司に報告しないといけないはずだから帰れなくなっちゃうのかも」
聴いているうちに「せっかく起きていたのにチケットが買えないなんて!」という気持ちから、「なるほど、そういう事情だったのね」と事態を飲み込み、最終的には「トラブルの処理をする人たち大変そう」という気持ちになった。佐久間さんの一連の対応からは、トラブルに動じない姿や精神的な安定感、さまざまな人の視点に立つスタンスがにじみ出ていた。私はいつの間にか、このトラブルの当事者のような気持ちになっていた。
当事者意識をもたせる。これこそが、私が思う佐久間さんの最大の武器だ。言い換えれば自分の視点で見てくれる仲間をつくる。佐久間さんのラジオを聴いていると、まるで佐久間さんの内輪の人間のような感覚になってしまうのだ。
こんなトラブルを経て、チケットは後日先行抽選で販売された。私はこの番組のリスナーである知人と何度か抽選販売にトライして、立ち見席ではあったけれどチケットを手に入れた。
そして2024年10月27日。横浜アリーナで番組イベントが開催された。イベントの冒頭には、白衣を着た佐久間さんが海沿いを自転車で走る姿が壮大な映像で流れた。『Dr.コトー診療所』ならぬ『Dr.サク診療所』がテーマになっている。会場はたちまち爆笑に包まれた。(『Dr.コトー診療所』は2003年に放送されたTVドラマです)
私はライブやお笑いイベントに参加する機会があるけど、こうした場では最初のうちは声を出して笑いづらいことが多い。その場の空気に慣れるまで最初は雰囲気が堅く、少しずつ観客が自分の感情を表に出しやすくなり、盛り上がっていくのだ。しかし、佐久間さんのイベントは最初から観客のみんなが声を大きく出して笑っていた。
それはなぜか。私なりの解釈だけれどラジオを聴くとき、ほとんどの人は一人だ。周囲に人がいたとしてもイヤホンなどで聴いているから、リスナーはそれぞれが佐久間さんと1対1で向き合っているかのような感覚をもちやすい。しかも、佐久間さんは腕のいい制作者であるのは確かだが、仕事の裏側やプライベートの失敗談をよく話すので、リスナーは親近感を覚えやすい。人によって違いはあると思うが、私は佐久間さんの仕事の部下や後輩であるかのような感覚でラジオを聴いている。だから、大勢の観客がいる会場でも、「自分だけ笑ったら浮いちゃうかな」と考えもしなかった。
なお、先ほど話した『Dr.サク診療所』の映像が観客にうけた理由は完全な内輪受けなのだが、一応言葉で説明を試みてみる。佐久間さんは最近仕事部屋を自宅の近くに借りて、シェアサイクルで自転車通勤をしている。それが。『Dr.コトー診療所』の主人公である、離島で診療を行い自転車で患者のもとを訪ねるコトー先生のようだという話がラジオで出ていたことがあった。ただ、それだけのことなのだ。番組を聴いていない人には本当にピンとこない。でも、その番組を聴いている人にだけわかる面白さだからこそ、より身内感が高まり盛り上がったのだと思う。
また、イベントに参加して少し驚いたのは観客の年齢層や性別比率だ。イベント前は「男性リスナーが多いから6割くらい男性かな。49歳の佐久間さんより年下の層だと20~40代くらいかな」とぼんやり思っていた。しかし、実際は40~50代が多く男性比率が8~9割だった。この層は滅多に横浜アリーナには集まらない層らしく、「男性トイレがこんなに混み合うことに会場の人が驚いていた」と佐久間さんも語っていた。私にとって佐久間さんは尊敬する先輩や上司という感じだが、リスナーによっては同世代で頑張っている同期だったり、ちょっと面白い後輩みたいな存在で捉えている人もいるのかもしれない。
イベントの終盤、ゴンドラに進化した自転車に乗った佐久間さんが観客の前をぐるっとまわり、サインボールを投げる時間があった。観客の顔が佐久間さんからも見えるように客席の照明がついた。その様子を見て佐久間さんが言った言葉がこのイベントの雰囲気を表していた。
「みんな、ちゃんと働いている人たちだね。ここに日本の労働が集まっている!」
佐久間さんの番組のリスナーは、仕事が好きなタイプの人が多い傾向があると思っている。私はリアルタイムではないものの毎週radikoで佐久間さんのラジオを欠かさず聴いている。不思議なことに、忙しくて時間がない時ほど聴きたくなる番組だ。それは、佐久間さんの心の安定感とパワフルさ、いわばエンジンの大きさにホッとするからだ。
どう考えても私より多忙であろうその人は、テレビ東京を独立してからネット配信番組、テレ東以外のTV局のゴールデン番組制作、深夜番組の出演など、どんどん新しい仕事に挑戦し続けている。そして多忙を極めながらも、時間を縫って映画や舞台、小説などエンタメを楽しんでインプットをする。手がけた仕事の裏側やプライベートの失敗談を「ガッハッハ」と豪快な笑い声と共に噺家のように語る。仕事に熱中しすぎるがゆえに私生活はけっこうポンコツだし、高校生の娘にはめっぽう甘い父親でもある。
佐久間さんは番組イベントでさんざん観客を爆笑させた後、最後にこんな主旨の話をした。
「このラジオが本当に大好きで続けたいと思っています。でもいつかは終わるのを知っています。だからこそ毎週手を抜かずに一生懸命やってきました。人生には勝った負けたでいうと負けることの方が多いかもしれない。でも今日は僕にとって生きていてよかったなって思う時間でした。本当にありがとうございました」
このイベントがあったのは日曜日。イベントの裏話を話すこの週の佐久間さんのラジオはいつも以上に楽しく、聴き終えてやっとイベントが終わったように感じた。さて、今日も仕事を頑張ります。
文/久保 佳那
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