
「好き」を仕事にするために、今日からできること【絵で食べていきたい/第28回】
「フリーランス」に興味はあっても、現実はそう甘くないだろうと不安を感じる人もいるかもしれません。会社員経験を経て、フリーランスとして憧れだった絵の仕事をしている現在、過去にやっていてよかったこと、しておきたかったことは何か考えてみました。
「好き」を仕事にしてフリーランスで働くために今できること5カ条
学生さんから「フリーランスになるために今のうちにしておくべきことはありますか?」と質問を受けました。これは会社員のかたからもよくきかれます。私はなりゆきでフリーランスになったのですが、今振り返って「これをしておいてよかった」と思うことはあります。まとめると以下の5つです。
1 好きなことを「人のために」実践する
2 本業を極める
3 今いる環境を最大限に活用する
4 出会いを大切にする
5 とにかく行動し、継続する
1つずつ説明します。
1 好きなことを「人のために」実践する
「絵が好きな人」にはありがちですが、私は学生の頃、教室でも隙あらば絵を描いていました。絵で食べていきたいなら、まずはたくさん描いてスキルを向上させることです。そして、ただ好きなように描くだけではなく、人のために描くとさらに良いと思います。学生なら、友人やSNSのフォロワーのリクエストに応えて描く。学校行事のポスターなどを描かせてもらう。職場なら、プレゼンシートやマニュアル、店頭POPなどのイラストを引き受ける。
目的に沿った絵を描くことはクライアントワークの練習になりますし、業務の範疇なら職場にとってもプラスになって一石二鳥です。私も学校では文化祭や行事のパンフレットの表紙を描かせてもらいました。会社では販売マニュアルをイラスト入りで勝手に作成したところ、先輩から店長、主任へと話が伝わり、企画部に異動するきっかけにもなりました。
誰かのために絵を描く良い点は他にもあります。途中でやめられないので完成すること、他者の目も入るために完成度もあがることです。完成させるというのも大事なスキルです。
2 本業を極める
学生なら学業を、仕事をしているなら今の仕事を頑張ります。たとえばクライアントワークでは、相手の意図をきちんと汲み取り、希望された制作物を返す力が必要ですが、これは学生時代に「国語」で学ぶ読解力がものをいいます。頭の使い方も、身体の使い方も、吸収力があり、教われるときに教わるのが一番効率的です。
仕事も同様です。事務仕事は絵と関係ないと感じるかもしれませんが、フリーランスとして働くなら一通りの事務ができないと困ります。事務作業を外注するにしても、基本的なことがわからなければ何を外注すればいいかもわからないのではないでしょうか。私の場合、会社でビジネスメールを書いていたことはとても役に立ちました。けれど、どうせならもっと経理面の書類の書き方や意味を教わっておけば良かったと思いました。事務の他にも、繁忙期には商品撮影やディスプレイなども手伝ったので、フリーランスになってからグッズの撮影や展示をする際に、かなり助かりました。
もし、今の仕事はスキルとして得るところはない、お金のためだけにやっているのだ、と思うならば、しっかりお金を貯めましょう。好きなことで、しかもフリーランスで食べていくのに最初から安定した稼ぎを得るのは簡単ではありません。そんなとき、貯金は頼りになります。
3 今いる環境を最大限に活用する
せっかく学校や職場にいるなら、その環境を活用しない手はありません。
美術書や技法書は買うとそれなりの金額ですが、たいていの学校の図書館にはおいてあります。思い切り運動ができる場所も、学校以外ではその都度お金を払ったり、予約が必要だったりします。学生の頃に部活で鍛えた体力にはフリーランスになってからも助けられました。
会社員も、その業界ならではの情報を入手したり、出張経費でいろいろな場所にいったりできます。ゲーム会社では、最新の3Dソフトの使い方も教わりました。個人で学ぼうと思ったら時間もお金もかかります。福利厚生も活用しましょう。会社によっては、ジムが安く使えたり、資格取得に補助金が出たりします。フリーランスになると健康管理もスキルアップの勉強もすべて自腹なので、ありがたみがよくわかります。
4 出会いを大切にする
学校でも職場でも、所属しているからこそ出会える人たちがいます。自分が希望する業界で働いている卒業生がいるかもしれません。授業や部活動にからめれば、インタビューも申し込みやすいでしょう。
人脈などというと特別に聞こえますが、実際のところ、人脈とは「自分が出会った人とのつながり」です。クラスメイト、先生、先輩後輩、同僚、取引先、顧客……そういう人たちとの関係が、その後に意外なところで人生を変えることはあるのです。白馬の王子様は来なくても、小さな縁がまた次の縁を呼び、意外なチャンスを運んでくれることはあります。今は学生同士、社員同士だとしても、自分も相手も、数年後にどこで何をしているかはわかりません。
5 とにかく行動し、継続する
ここまで書いたことは、今目の前のタスクにしっかり向き合って、効率よく自分の「総合力」を高める方法です。せっかく学校や会社にいるのに、「本当の自分の居場所はここではない」と、無駄に時間を過ごしてしまったらとてももったいないからです。私が会社をやめる前の数年間は、やめたいと思いながらもやめられずに過ごして、会社にも自分にも良くなかったと思います。きっぱりやめるか、いる間は前向きにできることをやるべきでした。
さらに余力があるなら、絵を習ったり、資格を取る勉強をしたり、作品を作ってSNSで発表するなどのプラスアルファの行動ができます。費やせる時間は限られますが、フリーランスになっても、限られた時間の中でできることをするという条件は変わりません。スケジュール感覚を身につけるためにも、習い事なら課題はきちんと出す、資格なら受験日を決めて必ず受ける、SNSなら毎週◯曜日にアップするなど、小さなゴールをたくさん設定しつづけるのがコツです。
高校生の頃、雑誌のイラストコンテストに応募していました。毎月締切りがありましたが、私はそのうちの数回しか送れませんでした。それでも締切りがあったから、その数枚を完成できたのです。そして、ここで継続して描けなかったことが、私が一度は「絵で食べていくこと」を諦めた理由にもなりました。少なくとも当時の自分には毎月絵を仕上げる根性も、入賞する力もないとわかったのです。
挫折した、残念な話だと思うかもしれませんが、数回でも応募したことで「もし応募したら入賞して、仕事になるかも」と夢を見続ける期間を大幅に短縮できたと思っています。もちろん、諦めずに大学に入っても応募するという道もありました。大切なのは選択のための判断材料ができたことです。
結局会社勤めを経て30歳から、フリーランスのイラストレーターになりましたが、それを可能にしたのはそこまでに行動し、積み上げてきた経験のすべてです。
コンテストでは入賞できなかったけれど、仕事で描いたイラストは実際にパッケージとして使用された。そういった過去の経験があったからこそ、自分に向いている「絵の仕事」の方向を定めて、初年度からお金になる仕事を得られたのだと思います。
今いる場所で得られる力をつけ、目標に向かって小さな行動を続けていく。この積み重ねが、「好き」を仕事に変えるための確かな一歩になるのだと思います。
文/白ふくろう舎

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