
さらば、ようこそ、暴飲暴食【連載・炭田のレシピ本研究室/第6回】
スマホ片手に検索すれば、いくらでも素晴らしいレシピに出会える時代。それでもやっぱり「レシピ本」が好き! この連載では、ジャンル問わず年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、同じテーマのレシピ本を2冊ご紹介します。なぜ2冊かというと、取り扱うテーマが同じでも、本によってアプローチが違って面白いから。
今回のテーマは「整える」。歓送迎会にお花見、ゴールデンウィークと、立て続けの飲食チャンスに盛り上がる今日この頃。いつもより重めな体を整える2冊をご紹介します。
元気がウリの食レポ係
20代の頃、勤めていた会社が作る雑誌で「食レポ係」をしていた。先輩編集者の企画を元にどこかしらの地方へ行き、おいしいものをたらふく食べ、コメントをして、その姿をカメラマンさんが撮る。
この食レポ係は自分の仕事が少ない新人の役目だったけれど、私は「リアクションがいい」という出川哲朗さんみたいな理由で、新人じゃなくなっても定期的に食レポ係に起用され続けた。原稿は先輩が書いてくれるし、おいしいものにありつけるし、たとえ1日7食ぜんぶが激辛料理だとしても、楽しい仕事だった。
そんな食べることが大好きな私の体が、最近なんだかおかしい。これまでのように好き勝手に食べられない。30代を折り返した頃から、おやつに買ったケーキを食べきれずに翌朝に回すことが増えてきた。4個も5個もいっぺんに買うからだという至極もっともな理由はさておき、これは早急に体を労わる必要がありそうだ。
そう思って本屋さんに向かい、いつもはあまり見ない食養生のコーナーを見渡す。手に取ったのは『大原千鶴のととのえレシピ』。薬膳や発酵、腸活の本も魅力的だけど、それらを一から理解して取り入れるのは時間がかかると判断して、サウナのようにパパッと整いそうなこちらを買って、健康のために走って帰った。

いけずじゃない京都
この本の著者の大原さんは、京都の料理旅館「美山荘」が生家の料理研究家。ぱらぱらとページをめくると、料理の作り方だけではなくけっこうなボリュームでコラムが差し挟まれている。京言葉で語られているので、実家が横浜にある「ハマっこ」の私は、はじめのうちはちょっぴり身構えながら読んでいた。だけど、こんにゃくを使った焼き肉風のレシピに「なんぼなんでもこんにゃくがそのまま肉になるはずはありません。そこまで期待されたら困ります(笑)」とあったりして、大原さんの語り口は想像よりもずっと軽やか。京都に対する警戒心がほどけていく。京都、けっこういいじゃん。
そしていくつかレシピを作ってみて意外だったのは、どれも味付けがしっかりしていること。京都&ととのえる、なんだからうす~い味付けで健康になるやつだよね……という事前の予想を裏切り、どれも普段の食卓にのぼる一品として成り立つ。出汁と野菜を中心としながら、にんにくでパンチを効かせたり、黒七味や粉山椒で香りを足したりと工夫がされていて、食べ疲れないのに満足感があるのだ。
私のお気に入りは「鶏がゆ」と「車麩とズッキーニのチャンプルー」。鶏がゆは材料を鍋に入れて煮込むだけでいいので、難しいことを考えなくても手軽に整うのがいい。チャンプルーは、肉を使わないので消化にエネルギーが要らないからか、料理としてのボリュームはあるのに翌日の体が軽い。お花見からのゴールデンウィークで暴飲暴食待ったなしの私にとって、心強い1冊を手に入れた。京都、ええどすな。
ついに薬膳に手を出すぜ
さらなる整いを求め私が手にした2冊目は、齋藤奈々子さんの『レンチン薬膳ごはん』。1冊目を選ぶ時、整いたいけど難しいやつだよね……と薬膳をスルーしたが、この本は全くややこしくない! 食材には陰と陽があって、自然界は木・火・土・金・水の五行で表されて、みたいな薬膳チュートリアルはごく軽めに留めてあり「自分の体の変化にアンテナを張り、病気になる前に防げるような食事をしよう」という内容がさらりと説明してあるだけ。その代わり、レシピの横には薬膳視点での説明書きがあり、どの食材がどう効果的なのか紹介されている。つまり、食べたいレシピを選ぶだけで整いにつながっていくのだ。これが食いしん坊には嬉しい。どうせなら「食べて整えなきゃ(義務)」より「食べたいものを選ぶと、自然と整う」がハッピーだ。

私がよく作るのは、「牛肉とさつまいもの甘辛煮」。さつまいもは甘くておかずにはならないと思っていたが、韓国風の辛めの味付けと牛肉の存在感のおかげで立派なおかずに変身する。しかもレンチンで完成。老化に効果的らしく、食卓に並べる度に「なるべく元気に生きておくれよ」と夫に熱視線を送っている。食事は勝手に愛情を込められるところも、いいですね。
他の料理もガーリックシュリンプとか、キーマカレーとか、明太子とアボカドのパスタとか、およそ薬膳っぽくないレシピも紹介されているので、薬膳に対してハードルを感じていた私のような人におすすめしたい。
「整う」という手札
だのに、である。日々せっせと体を労わり、整えているはずの私は、来月友人と一緒にモリモリに盛られた季節のパフェを食べに行く。お誘いのLINEを見た瞬間、「整え」のことは忘れて二つ返事で「行くー!」と指がタップしていた。さらに、Googleマップでお店の場所をすぐさま検索して「近くにずっとブクマしてたお菓子屋さんがあるから行きたい」と提案していた。しかも、そのお菓子屋さんの近くにこれまた長年ブックマークしていた「予約が取れないトンカツ屋さん」があり、まさかね~と思いながら確認したらちょうど2席だけ空きがあり……もちろん予約した。
後日我に返って、LINE越しに「流石に食べすぎだよね、ウチら」とこぼすと、友人から「この先もっと食べられなくなるんだから、いま食べるんだよ!!」と返ってきた。2個並んだびっくりマークに、彼女の強い意思を感じる。整えは、これからを生き抜く手札。いま食べられる食を楽しみ、いまよりきっと食べられなく未来に向けた頼れる相棒。これまで私の本棚にはなかった「整える」レシピ本を引っさげて、いつまでも健やかに食べていきたい。
文/炭田 友望
【この記事もおすすめ】