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「ポッドキャストは脂肪3割の霜降り肉」 供給過多の時代に、音声コンテンツだけができること。Podcastプロデューサー/野村高文さん

Writer 那須あさみ

Editor  佐藤 友美

ポッドキャストをはじめとする音声配信メディアは年々影響力を増している。2024年のアメリカ大統領選で、トランプ氏のポッドキャスト番組への出演が若年層の支持拡大に繋がったことは記憶に新しい。日本国内でも若年層を中心にユーザーは増加していて、その利用率はTikTokとほぼ同等だ。今後ますます利用者は増えていく可能性が高まっている。
日本におけるポッドキャスト黎明期、2022年に音声コンテンツ制作レーベルPodcast Studio Chronicle(ポッドキャスト スタジオ クロニクル)が始動した。代表を務める野村高文さんは、雑誌・書籍の編集者、コンサルタント、Webメディアの編集者を経て、独立。さまざまなメディアを経験した野村さんが、なぜポッドキャストを選んだのか。コンテンツ供給が過剰な現代社会で、ポッドキャストが持つ可能性について聞いた。

聞き手/那須 あさみ
編集/佐藤 友美(さとゆみ)

年間1000本のポッドキャスト番組を制作。初の単著で問い合わせが5倍に

──いつも聴いているポッドキャスト番組が作られているスタジオにお邪魔できて感激です! いまはどのぐらいの数の番組を手がけていらっしゃるんですか?

野村:現在Chronicleで制作している番組は年間1000本ほどです。2022年の設立当時はポッドキャストに特化した制作会社が国内にはほとんどありませんでした。だから「野村さん、大丈夫ですか?」といろんな人から心配されましたが、無事5年目を迎えることができました。

──2022年には『a scope ~リベラルアーツで世界を視る目が変わる~』、2023年には『経営中毒 〜だれにも言えない社長の孤独〜』と、制作された番組が2年連続でJAPAN PODCAST AWARDSのベストナレッジ賞を受賞され、書籍化も果たされました。

野村:どちらも、自分のことを知ってもらえるきっかけとなった番組です。

前職のNewsPicks時代に毎朝配信をしていたニュース解説番組で、だんだんと「野村=ポッドキャストの人」として認識されるようになって、『a scope』で熱心なリスナーさんに聴いてもらえるようになったという手応えを感じました。

『経営中毒』は独立後に手がけた番組で、書籍をきっかけにリスナー数が一段階引き上がりましたね。Chronicleの知名度を高めてくれた番組の一つです。

──昨年の10月には初の単著『プロ目線のPodcastのつくり方』を出版されました。変化はありましたか?

野村:ありがたいことに、番組制作の依頼や私個人への相談が、目に見えて増えました。たぶん出版前の5倍ぐらいになったんじゃないかな。さまざまなメディアに呼んでいただく機会も増えて、YouTubeの番組で「これからはYouTubeじゃなくてポッドキャストなんだ」という話をさせてもらっています(笑)。 これまでのポッドキャストは、聴いている人は聴いているけど、そうでない人はまったく聴かないという状況だったんです。でも本の出版をきっかけに、「なんだかポッドキャストというものが盛り上がっているらしいぞ」と知ってくださる方が増えたのかな、と思います。

──アメリカなど諸外国ではすでにポッドキャストが巨大な市場として確立されていると聞きますが、日本の実態はどうなんでしょうか?

野村:アメリカでは2025年時点で月間リスナーが1億人を超え、市場規模も約1兆円に達しました。日本でも発信の手段として、ブログやnote、YouTubeに次ぐ第3の選択肢としてポッドキャストが本格的に検討され始めたのが昨年の2025年だと思います。 「この人もポッドキャストを始めたんだ!」というケースがたくさんありました。政治家の小泉進次郎さんや、阪神の近本光司選手もそうです。いままで文章をフィールドに活躍されてきた方々も続々と始められましたよね。

──ユーザーも増えているんですか?

野村:今年3月には最新のポッドキャスト実態調査が発表されましたが、利用率は18.2%となり、前年よりも増加しています。15〜19歳では約4割が、20代では約3割がポッドキャストユーザーという結果が出ています。全年代でも、ポッドキャストの利用率はTikTokと並ぶ数字です。 Chronicleが作っている番組で最もリスナー数が多い『News Connect あなたと経済をつなぐ5分間』には全国から感想が届いていて、「中学生のときから聴いています」という方や、親子の会話のネタにしてくださっている方もいらっしゃいます。だから、全国、そして幅広い年代に届きつつあるんじゃないかなと感じています。

バズらないけど長く付き合ってもらえるのがポッドキャスト

──野村さんは、これまで雑誌・書籍・Webメディアの編集者を経験されてきたそうですが、ほかのメディアとポッドキャストの共通点や相違点はどこだとお考えですか?

野村:私はポッドキャスト番組を制作するとき、書籍をイメージしています。

私はブックライティングの仕事もしてきたのですが、ポッドキャストの聞き手はブックライターに似ているなと感じています。

書籍は「著者×テーマ」が重要ですよね。ポッドキャストも同じで、誰が、何についてどう話をしたら価値があると思ってもらえるか、をセットで考えるんです。 メインパーソナリティーを著者と見立てて、構成案にもとづいた話を聞き出しつつ、その場で出たエピソードも大事にしていく。ただ、書籍が「赤身肉」なのに対して、ポッドキャストは「霜降り肉」なんです。

──赤身肉と霜降り肉、ですか?

野村:はい。雑談や脱線を「脂肪」と考えたとき、書籍の場合、最終的なテキストをイメージすると体脂肪率は減らした方がいいじゃないですか。もちろん、脱線的な話のボールを投げることもありますが、それは本に使える話をより引き出すための手段の一つだと思うんです。

でもポッドキャストの場合は、一見意味がない話も含めてコンテンツを構成しています。つまり書籍より体脂肪率を上げる必要がある。ポッドキャストは赤身7に対して脂肪3ぐらいの割合でいい、というのが体感です。パーソナリティーのキャラクターにもよりますが、7割は情報として意味がある話をして、残りの3割は、もういまこの瞬間に忘れてもらってもいいような話をするぐらいの感覚です。

そして雑談の比率は番組のフェーズで変えていきます。立ち上げ当初は有用な情報量を多めにして、回を重ねるごとに雑談の比率をじわじわと増やしていくんです。話し手のファンが増えて、専門性が十分伝わったなという頃に、人間らしい話も混ぜていく感じですね。

──ポッドキャストに雑談が必要なのはどうしてですか?

野村:まずポッドキャストは基本的に耳から一方通行で情報が入ってきます。本のように自分のペースで止まったり、読み返したりができない。それなのに全部が意味のある情報だと、脳が処理しきれなくなってしまいます。ずっと注意して聴かなければいけないとなると、疲れてしまうんですね。だから、意味のある話と意味のない話を適切な割合で混ぜた方が、聴きやすいポッドキャストになるんだと思います。

そしてもう一つの理由は、ポッドキャストが、話し手の人間性が伝わりやすいメディアだからです。声質だったり、パーソナリティー同士の関係性だったり、音声コンテンツには話している内容以外の情報、「非言語情報」がたくさん含まれています。そういった情報は、あまり意味のない会話、つまり雑談からの方がリスナーに伝わりやすいんです。

──音声だから伝わることがあるんですね。でも「非言語情報」という観点だと、表情や仕草などの視覚情報もあるYouTubeのような映像コンテンツがいちばん強いように思えますが。

野村:それが不思議なことに、人は聴覚情報だけのほうが、相手の感情を正確に読み取れるらしいんです。これは『プロ目線のPodcastのつくり方』にも書いたんですが、イェール大学の心理学者による研究でも示されています。おそらく感覚が1個遮断された方が、残された感覚が鋭敏になるんでしょう。

それに、映像と音声では、オーディエンスの態度にも違いが見られます。映像はやっぱりスクリーンの向こうの人、ステージ上の人なんです。一方、音声の場合は、同じ空間にいる人なんですよね。話し手がしゃべっている横に、自分もいるような感覚になる。だからポッドキャストは番組に対するエンゲージメントがほかのメディアと比べて高まりやすくなります。実際、私が音声配信を始めたばかりの頃は、リスナーが数百人だったのにもかかわらず、コメント欄やSNSでの反響がテキスト記事よりも明らかに多かったんです。

私は「おもしろいポッドキャスト」には、発見、理解、共感、空間設計が必要だと考えています。発見、理解、共感はテキストや映像にも共通の条件ですが、空間設計は、音声だけの価値だと思うんです。話し手のことをより近くに感じ、人となりを伝えることで、「この場にずっと浸っていたい」と思えるような空間設計ができているコンテンツは強いなと感じます。

──ほかにもポッドキャストならではの特徴はありますか?

野村:Web上のコンテンツに限っていえば、コンテンツに費やしてくれる時間の長さが挙げられます。ポッドキャストの「完全聴取率(最後まで聴いてもらえる率)」は、30分のコンテンツでも7〜8割近くになることがめずらしくありません。同じぐらいの長さのYouTubeコンテンツの場合、ユーザーが最後まで残る割合は「良くて2割」と言われます。それと比べると、音声はユーザーとの接触時間をはるかに長く確保できることがわかりますよね。当然、ユーザーへ届く情報量も多くなります。

──8割の人が最後まで聴くなんてすごいですね。フォローしてくれるリスナーは、どのように増えていくのでしょうか。

野村:SNSのように、バズって一気にリスナーが増えることは基本的にないですね。再生回数がじわじわと増えていって、気づいたら多くの方に聴いてもらえる感じです。
それにSNSでバズってフォロワーが増えた人の投稿は、毎回バズるわけではないですよね。でもポッドキャストの場合は一度フォロワーになってくれると、かなりの割合で聴き続けてくれるので、エピソードごとの再生回数にばらつきが少ないんです。その結果、1万人のアクティブリスナーがいれば再生回数はほぼ毎回、1万回前後で安定します。つまりポッドキャストは、発見されづらいけれど長く付き合ってもらいやすいメディアなんですね。

──なるほど。そうすると、YouTubeなどほかのコンテンツとポッドキャストでは、配信に向いている人物像も違いますか?

野村:そうですね。たとえばYouTubeはやはり1本の動画で多くの視聴者を惹きつけられることが強みになるメディアだと思います。目立つ見栄えをしているとか、1本のエピソードがすごくインパクトがある、とかですね。でもポッドキャストは、1年、2年、3年……と長い時間ずっと自分の日常生活で隣にいても不快じゃないか、みたいなところが大事だったりするんです。

たとえて言うなら、彼氏に向いている人と夫に向いている人が違うのと似ているかもしれませんね。ドキドキさせてくれる人と、ずっと一緒にいて不快じゃない人って違うじゃないですか。ポッドキャストの配信者は、毎朝の散歩で声を聴いていても不快じゃない。夫のほうなんですよね。別にときめきはしないけど不快じゃない、みたいなところはあるかもなって思います。

──彼氏と夫! 面白いたとえです。

野村:よく言われるのは、「嫌いな人の文章は読めるけど、嫌いな人の声は聴いていられない」ということです。ずっと聴き続けられるだけで、すでに相性がいいというか、ある種のハードルを越えているんです。

いま世の中は「聞き手」を求めている

──ポッドキャストとほかのメディアの違いがわかってきた気がします。これからポッドキャストを始めてたくさんの人に聴いてもらいたいと思うと、やっぱり後発参入は不利でしょうか?

野村:いや、そんなことはありません。というのも、ポッドキャストの場合はまだまだスペースが空いているんですよ。書店の棚をイメージしてもらえばわかりやすいかと思います。番組を本と見立てると、まだお店の書棚に決定版の本がない状態なんですね。書籍の世界では手垢のついたテーマも、ポッドキャストの世界では目新しく受け止められるので、空いている棚がどこかを探せばいいと思います。

それに、テレビやほかのメディアでは著名な方でも優位性を持たないのが日本のポッドキャスト市場の現状です。逆に一般的にはあまり知られていない方が、ポッドキャストでは常にランキング上位ということもしばしば見られます。

──日本でもさらにポッドキャストが盛り上がると、noteやYouTubeのように発信したい人のほうが増えてどんどん聴かれなくなる、という逆転現象がまもなく起きるでしょうか?

野村:可能性としてはあります。すでに現在でも、しゃべりたい人の数、つまりコンテンツ供給の方が先に伸びて、リスナーの伸びが追いついていないという見方もあります。ただ、固有の面白い経験を持っている人や発信をしたい人は世の中にたくさんいるけれど、リスナーにきちんと伝わるようにしゃべるためには相応の技術が必要です。そこをうまくガイドできる適切な聞き手がいれば、良質なコンテンツがもっと増えると思うんです。むしろ、聞き手がコンテンツの価値を決めると言っても過言ではない。

──Chronicleさんでは「聞き手」というポジションを募集していますね。

野村:はい。「聞き手」を職業として育成していきたいと考えているんです。私が聞き手に必要だと考えるのは、コミュニケーション能力と相場感、そして情報処理能力と瞬発力の4つです。
誰かに話を聞く仕事というと、アナウンサー、記者、ライター、編集者などが思い浮かぶかと思います。でも4つすべてを満たしている職業の方は少ないと思っていて。
全部満たしている方もいらっしゃるので、あくまでも傾向として捉えてほしいのですが、たとえばアナウンサーの方は、相手に気持ちよく話してもらうコミュニケーション能力にすごく長けています。ただ、いま相手が話している内容が「一般的なのかレアなのか」という相場感をもって判断し、話につっこむようなことはそこまで得意ではない印象があります。
一方で記者の方は、発信された情報の希少さを判断する相場感を持っています。その反面、自分の興味が先行してリスナーを置いてけぼりにしてしまったり、相手を「詰める」ようなコミュニケーションを取ったりすることもあります。

情報処理能力は、話を聞きながら、要点を素早く把握し、次に展開すべき話題や質問の方向性を判断する力です。また会話のテンポが重要になるポッドキャストでは、相手が話しやすいリアクション、要点の整理、情報の価値判断を行いながら、相槌や次の質問を繰り出せる瞬発力も大切です。

これらすべてを満たした「聞き手」は、ポッドキャストに限らずいまの世の中で確実に需要がある職業だと考えています。

──ポッドキャスト以外には、どういうところに需要があるんでしょうか?

野村:たとえばカンファレンスのモデレーターができる人は少ないですよね。あるいは企業が経営者の発信をもっと増やしたいと考えたとき、優秀な聞き手がいないと難しい。社外への発信だけでなく、社内で経営者と従業員の相互理解を深める、という目的でも聞き手は力を発揮できると思います。

私は発信したい人や面白い“思考の原液”を持っている人の話が、もっとたくさん世の中に出てくればいいなと思っているんです。AIが台頭する世の中では、その人が経験したからこそ言える話がきっとコンテンツとして価値を持つはずです。「私は、こう思うんです。なぜならこういう経験をしてますから」という言い方は、AIにはできませんから。だからそれを引き出せる聞き手を増やしたいですね。

──AIによって分析や要約をされた情報が量産される時代には、人間だからこそ発信できるコンテンツとは何かが問われますね。

野村:そうですね。いまお話ししたように、固有の経験にもとづく話は生身の人間にしかない説得力を持っていると思います。もう一つ、人間同士の対話によって生成されたコンテンツに、人間が発信をする意味があると思っています。Aさんが聞いたからこそ出てきたBさんの答え、というのが価値を持つ時代になってくるのかなと思います。
情報の要約はAIがもっとも得意とする分野なので、一度どこかで出た話をもう一度取り出すのは簡単になりつつありますよね。だから、新しい話や、すでに話したことのある話であってもさらに深掘りしたり、違う視点から話してもらうことに意味があるんじゃないでしょうか。

私自身も、ポストAI以降は聞き手としての振る舞い方を変えてきました。

──どのように変えられたのでしょう?

野村:以前は、相手の話をできるだけ正確に、撮れ高が多いように場に出してもらうことが役割だと思っていたんです。そのためには自分の意見はあまり出さず、あくまでも「相手に語ってもらうための」質問にとどめていました。でもAIが社会に浸透し始めてからは、インタビュー時に自分の主観を織り交ぜた質問をするようにしています。もちろん的が外れる可能性もあるんですが、一方で「いま初めて考えました」というお話が出てくることもあって。
実際、メディアに多数出られているゲストをお迎えしたときにも、リスナーの方から「初めて聞いた話だった」という感想が届くようになりました。

これはテキスト記事でも同じではないでしょうか。たとえ読者に「なんだかすごく主観的なことを聞いているな」と思われたとしても、聞き手の“偏り”が出た質問を繰り出す。それがいままでしたことのない話を引き出すきっかけになるのかなと感じています。

検索して出てくる情報は人生を豊かにしない

──ポッドキャストには、今後、どんな可能性があると思いますか?

野村:私がポッドキャストを軸にした仕事をしようと独立したのは、ビジネスとしての可能性を感じたことが理由の一つです。アメリカでのポッドキャストの盛り上がりも、独立を決める後押しになりました。

でもそれ以上に強かったのがコンテンツメーカーとしての忸怩たる思いです。当時、ショート動画が出始め、刺激的で細切れのコンテンツばかり増えていました。作り手も受け手も疲れているなと感じていたのです。お腹いっぱいだと言っている人々の口に食べ物を詰め込んでいるような、そんな気持ちでした。

──作り手としての葛藤があったんですね

野村:そうですね。年々加速するアテンション・エコノミーにはずっと問題意識を持っていました。そしてコンテンツが細切れになっているいまだからこそ、「長い」コンテンツに意味があるんじゃないかと考えたんです。

──なぜ長さが必要なんでしょう?

野村:長いコンテンツには、自分が知りたかったことだけでなく、思いもよらない情報との偶然の出会いが待っています。それは、検索してたどり着くことはできない情報です。なぜなら、検索やAIによって即座に得られる情報は、自分を既存の枠から出してくれないからです。能動的に検索する情報は、そのとき抱えている疑問や課題は解決してくれるかもしれないけれど、人生を豊かにはしてくれません。むしろ偶然出会った情報が、長期的にはその人の人生を変えると私は考えています。

──現代社会は、偶然の出会いが起きにくくなっている、ということでしょうか?

野村:そう思います。インターネットのアルゴリズムは、いま自分の興味・関心のあるものばかり提示してきますから。

これまでは、書籍の一文や映画のワンシーン、旅先での体験、あるいは誰かからたまたま聞いた話が、私たちの人生を思いもよらない場所へ運んでくれていました。もちろんどこかに足を運ぶことや、誰かと会うことができるなら、すればいいと思います。でも毎日できるわけではないじゃないですか。本来は旅や人と会って話すことで得られる豊かな体験を、日常生活に取り込めるのがポッドキャストだと思うんです。
というのも、スクリーンを見続ける必要がないポッドキャストは、無理なく長いコンテンツに滞在できるからです。

──今後、日本でもアメリカのようにポッドキャストが日常に浸透する未来は見えていらっしゃいますか?

野村:今後も伸び続けるとは思いますが、正直、アメリカほど普及するかどうかはわかりません。日本とアメリカでは条件が違うから流行らないという理由付けはいくらでもできると思います。ただ音声コンテンツ業界としてやれていないことが、まだいっぱいある。

お話ししてきたように、人間性が伝わるとか、ポッドキャストのエモーショナルな側面はだんだん知られてきています。でも「音声コンテンツはインプットの手段として圧倒的に便利ですよ」ということはまだそれほど伝わっていない。誰しも、自分にメリットがありそうだと感じたものには手を伸ばすはずです。
忙しい現代人にとって、耳は最後のホワイトスペースです。日常の中にもう隙間時間なんてないという人たちに、「耳はまだ空いてませんか」と訴えていけば、ポッドキャストはもっと伸びると思うんです。「ながら聴き」でインプットができるという強みを伝えていけば、より多くの人がポッドキャストを生活に取り入れてくれるんじゃないでしょうか。

──ポッドキャストが広がることで、どんな世の中になってほしいですか?

野村:人生が豊かになる人が増えればいいなと思っています。自分の人生捨てたもんじゃないなと思える人が増えるといいですよね。だってインターネットの世界には、自分より成功していると思しき人が無限に現れるじゃないですか。きっとそれがみんなの自己肯定感を下げてしまっている。でもAIが要約した見出しが並ぶ記事や、刺激的なショート動画だと捨てられてしまうような話も、ポッドキャストではじっくり聞くことができます。それで「成功しているあの人も苦労しているんだな」「自分と一緒だな」と感じて、自分には自分の人生があると思えれば、みんなけっこう豊かに生きられると思うんですよね。(了)

野村 高文(のむら・たかふみ)

Podcastプロデューサー・編集者。東京大学文学部卒。PHP研究所、ボストン・コンサルティング・グループ、NewsPicksを経て、2022年にPodcast制作レーベルPodcast Studio Chronicleを設立。『News Connect』『経営中毒』『TABI SHIRO ~足を運んで、見て、聴いて〜』など数々のPodcast番組を制作。Podcastと書籍の連動展開に強みを持ち、多数の制作番組を書籍化。2025年10月に初の単著『プロ目線のPodcastのつくり方』(クロスメディア・パブリッシング)を出版。

撮影/深山 徳幸
執筆/那須 あさみ
編集/佐藤 友美

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