奇をてらわない。身近な友達のようなメディアを作る。ESSEオンライン/山田佳代子編集長【編集者の時代 第7回】
CORECOLOR編集長、佐藤友美(さとゆみ)が編集者に話を聞くシリーズ「編集者の時代」。
今回登場するのは、月間1億PVを誇る日本最大級の暮らし系メディア、「ESSEオンライン」編集長の山田佳代子さん。
「トレンドは急いで追わない」「刺激的なことはしない」「隣に寄り添い、信頼できる友達のようなサイトを作る」。リニューアル後、飛躍的にサイトを成長させた秘訣を聞くと、基本に忠実な答えが返ってくる。ESSE本誌のブランドを守りつつ、ESSEオンラインを着実に育ててきた山田さんに、読者にリピートされるページづくりの秘訣を聞いた。
聞き手/佐藤 友美(さとゆみ) 構成/いしげ まやこ
検証を繰り返して、着実にPVを伸ばす
――リニューアルしてからPVが伸びたと聞いています。具体的に何を変えて、どう効果があったのかをお聞きしたいです。
山田:ESSEオンラインが立ち上がったのが2016年の春で、リニューアルが2021年の11月です。
システムが変更になって表示速度が速くなり、ページを自由にカスタムできるようになりました。表示速度が速くなるとGoogleの評価も上がります。ユーザーを待たせないので、回遊率がアップするメリットも。サイトのスペックを改善することはPVに直結する一因になったと思います。
でも、システムの変更以上に重要だったのは、リニューアルを機に内面的な改革を進めたことです。
ちょうどリニューアルに先立って、当時のESSE統括編集長を中心に「これからの暮らし」という50代に向けたコンテンツを立ち上げる話がありました。別サイトではなく、同じドメインの中にその企画ページを作る形です。当時、60代以上を対象にした媒体はいくつかありましたが、50代に向けたコンテンツは手薄な状態だったので、「子どもが大きくなって、ひと息ついた世代に読みやすい情報を増やそう」と。
山田:リニューアルの準備を始めた時期に人員も新規の記事も一気に増加したので、毎日出す記事の本数を見直し、マニュアルを作るなどの統一ルールも決めました。
また、記事を出す前の企画会議は週単位で行っていたのですが、雑誌同様、季節ものを取りこぼさないよう月単位でも行うように変更。さらに記事を出したあとの振り返りを強化しました。ビフォアの打ち合わせも大事だけど、アフターの反省会も必要だよね、と。この振り返りを取り入れたのが大きかったと思います。
――振り返りは具体的にどういったことをするんですか?
山田:週1の会議では記事のランキングを出しているので、まずはそこにメンバーが各々自由に感想を書き込めるようにしました。「この記事はもっと伸ばせたはず」とか、「これは想定通りのPVが獲れた」など。その後、月の会議ではこれらをもう少し掘り下げて話し合います。基本的には各自の反省と成功体験を共有する場になっていますが、タイトルとアイキャッチについて話すことが多いですね。次に生かすためにはビフォアだけでなく、アフターの会議こそ重要だと実感しています。
また、以前から行っていた外部配信先も少しずつ広げていきました。Yahoo!ニュースさんやSmartNewsさんで記事が出せるようになると、ESSEオンラインのPVにも返ってきます。例えばYahoo!ニュースさんだと、最後まで読んでもらえると関連記事が表示されます。そこをクリックするとこちらのサイトに飛んできてくれる。外部サイトからの流入も非常に多いです。読者がどの記事からサイトにきてくれたのかも振り返りでチェックしますし、検索流入のランキングも確認します。
山田:扶桑社は他にもオンライン編集部があるので、媒体を横断した社内勉強会も刺激になっています。「日刊SPA!」編集部に共有してもらったアイキャッチの話も勉強になりました。ビフォア&アフターを見せる記事の場合、アフターの綺麗な写真をアイキャッチに使いがちですよね。しかし、部屋の片付けや掃除の記事の場合、意外とビフォアの散らかった写真の方が反応が良かったりする。そういったことも教えてもらいました。
PVだけにこだわるつもりはないのですが、露出が増えるとESSEオンラインを知っていただく良い機会になります。ESSEは元々雑誌がベースにあって本誌からの転載記事もありますが、サイト単体の知名度も上げていきたいと思っています。そう考えるとやはりPVは1つの大きな指標になる。
――聞いていると悪い意味ではなく、非常にスタンダードな積み重ねをされている気がします。
山田:それが何よりも大事だと思っているんです。WEBの配信は雑誌と違って毎日のことなので、忙しいとつい確認や検証が甘くなりがちなのが課題です。そこで1日の配信記事本数を10~12本程度に押さえて、確実に目を通せるようにしました。また長い記事は分割して、1記事を読みやすいボリュームにする工夫もしています。1記事にかける時間も短縮されますし、読者の方もスキマ時間で読みやすく良い循環になる。
何か特別なことをするよりも、基礎を怠らず着実に積み上げてきたことが成長につながったと実感しています。
その地道で堅実な雰囲気は、記事の内容にも反映されていると思います。突飛な企画や刺激的な記事は作らず、安心感や清潔感を大事にしています。テーマが「暮らし」なので読者の幅も広いし、スキマ時間でサクッと読めて、場所も選ばずどこでも読みやすいことがPVにもつながる。そのためには周りを気にせず安心して読める内容にすることも大事で、その結果「病院の待ち時間や電車の移動時間で読んでいます」という声もいただきます。それでいて「読むと意外と役に立つことが書いてあるな」と思ってもらえると、また覗いてくださる。そういった好循環を作ることを意識しながら、PVを伸ばせるようにしています。
最近出した谷原章介さんや料理人の笠原将弘さんのインタビュー記事もたくさん読まれました。
谷原さんの場合は、お子さん6人を含む大家族の晩ごはん作りについて、笠原さんの場合はシングルファーザーとしての子育てについて主に聞いてもらいました。
谷原さんも笠原さんもテレビに出ていて人気があるので、普段は見られない彼らの暮らしに密着した一面を伝えたいと思って。
――私の子育てエッセイ『ママはキミと一緒にオトナになる』の紹介記事を出していただいたときも、その切り口の作り方に驚いたんです。エッセイの内容は書籍に書いてあるままなのに、タイトルやリードの書き方でこんなにも多くの人に読んでもらえるようになるのか! と。今日はその話もぜひ伺いたいと思っていました。
山田:さとゆみさんの書籍の記事は、ESSEオンラインで2本出させてもらいましたね。あの記事は担当や編集デスクにも相談しながらタイトルを考えました。とても多くの人に読まれて私も嬉しかったです。
押さえるべきは「共感」と「覗き見」と「発見」
――私のエッセイ記事の1本目のタイトルは、“40代、離婚後シングルで息子と2人暮らし。「我慢できずに離婚」と「離婚しない」は似ている”でした。もとのエッセイのタイトルは「私たちは似たりよったりの星に住んでいる」だったのですが、ESSEさんの切り口がとても新鮮で。書籍のパブリシティ記事ではなく、まるで体験談のようにも思えます。この記事が出て、Amazonで本は一時売り切れ、重版もかかりました。
山田:Yahoo!ニュースのコメントも盛り上がりましたね。このタイトルは周りに相談して、何度も考え直しました。もう1つの記事は、出した後に一度タイトルを変えたんです。最初は、“40代シングルで息子と2人暮らし。教員だった父が残した「待てる親になりなさい」”でした。その後、デスクから良い案が出て、“40代、離婚後シングルで子育て中。「九九が言えない息子」への焦りを救った亡き父の言葉”に変更しました。
「待てる親になりなさい」って、良い言葉なんですけど、上から目線で忠告されそうだったり、啓蒙されると感じたら人は読まない傾向があります。その点、子どもの発達や成長は普遍的なテーマでもあるので読まれやすい。さらに「九九が言えない」という具体的な要素も入れて、より関心を持ってもらいやすいタイトルに変更しました。
――一度出した記事を変えたりもするんですね。タイトルを変えるときの、傾向と対策などはありますか?
山田:ESSEは夜、記事をアップするのですが、早ければ翌朝に変えることもあります。出してみてわかることもあるので、必ず反応を確認して検証します。あまり伸びていないものを変えることもありますが、伸びているものをさらに躍進させるために変えることも多いです。ただし、ひとつの記事のタイトルを何度も変えることはありません。
やはり暮らし系が強いので、生活のコツやハウツーの記事はよく見直しますね。一度のPVで満足するのはもったいなくて、変えることでもっと多くの人に読んでもらえるならそこを取りこぼしたくない。
また、50~60代からの働き方やファッションなど、年代別のライフスタイル系はタイトルを変えると大きく伸びることが多いです。経験上、レシピ系はタイトルを変えてもあまり伸びない気がします。
――読まれるタイトルのコツを教えてほしいです。よく数字を入れて自分ごと化させると良いなどと聞きますが、ESSEさんも取り入れていますか?
山田:数字を入れた方が良いときもあれば、そうでもない場合もあります。例えば年代を入れて出した後に、「この記事は50代と限定しなくて良かったかも」と考え直して外すこともあるし、その都度様子を見て話し合っています。
タイトルにも流行りがあるんですよね。答えが明確になっている方が読まれるときもあれば、全部は言い切らない方が反応が良いときもある。例えば、“74歳、おひとりさまの「持たない工夫」4つ。食器もゴミも最小限、古い写真も必要ない”。これは言い切らないパターンです。持たない工夫は4つと示していますが、タイトルでは「食器」「ゴミ」「古い写真」と答えは3つまでしか明かしていません。
数字を入れて自分ごと化させるのも大事ですよね。でも先程のタイトルは自分ごと化よりも、「持たない」ことによって生活にどんな良いことがあったのか、という、ライフハック的な要素を盛り込みました。
タイトルを考えるときに、編集部全体で最も意識していることが3つあります。それは共感と覗き見、あとは発見の要素を入れることです。
山田:「共感」は、行動のきっかけづくりになるように意識します。例えば、“今からでも間に合う!1万円以下で揃う卒入学の服コーデ”のように、「それなら買おうかな」と思ってもらえるような打ち出し方をする。
「覗き見」は、「人の生活を少し覗いてみたい」という人間の欲求をくすぐる。先程例に挙げた記事でも、「74歳のおひとりさまってどんな暮らしなのかな?」と気になりますよね。ほかにも“52平米で家族4人暮らし”とか、“クローゼットに服は10着”と言われると、「私も4人家族だけどうちは〇〇平米だ」「私は10着なんて無理!」と、自分と比較したあとについ覗いてみたくなる。自分ごと化だけでなく、さらに好奇心をくすぐるようなタイトルも効果的だと思っています。
「発見」は、「この記事を読むことで、新しい知見が得られそう」と思ってもらえるような要素です。さとゆみさんのエッセイ記事はまさに「発見」ですよね。タイトルを見て「どういうこと?」「知りたい」と思ってもらい、記事を読んで自分の知らなかった考えや価値観に触れる。
タイトルにも流行りがあるのでトライ&エラーを繰り返してはいるのですが、自分ごと化だけでなく、この3つのどれかは押さえるようにと意識しています。
トレンドは追わない。「かゆいところに手が届く」記事を作る
――タイトル以外の部分でこだわっていることはありますか?
山田:もちろん読まれるためにタイトルは大事ですが、最も重要なのは記事の中身です。せっかく記事を開いてもらっても、「読んでよかった」と思ってもらわないと意味がない。釣りタイトルにせず、タイトルに見合った内容を届けること。それこそが一番大事だと思っています。
ESSEの人気コンテンツはやはりライフハックです。「暮らしをワンランクアップさせる」というテーマを掲げて、家事のコツや、役に立つ生活情報などにこだわっています。今話題の人にインタビューするなど、トレンドに飛びつくようなことはあまりせず、地道に毎日の生活に密着した話題を取り上げることが多いです。
また、本誌のブランドイメージを守ることも大事にしています。その上で、雑誌では取り上げないようなニッチな企画を出し、プラスアルファの部分を育てていく。雑誌はページ数が限られるので、載せる情報も取捨選択されます。載せ切れなかった情報をサイトで追いかけ、深掘りした記事を出すこともあるし、オリジナルの記事もどんどん作り出しています。
――山田さんはESSEの雑誌もオンラインも経験されていますよね。どのような違いがありますか?
山田:暮らしをテーマにしているという基本は変わりませんが、雑誌ではできないことがWEBではできたり、考え方が違う部分があります。
山田:例えば、「50代の方の団地暮らし」の記事がよく読まれたとします。雑誌だと次も同じテーマで企画を打つことはあまりしませんが、WEBでは同じテーマを何度も使って記事を作ることが多いです。もちろんまったく同じ記事にはしませんが、「50代、団地暮らし、やめて良かったこと」とか、「50代、団地暮らし、収納のコツ」など。同じベースで少しずつ応用して記事を量産することができ、関連記事もよく読まれるので良い循環になります。
これはWEBならではの方法で、雑誌ではできません。読者の方から「この企画、前も見ました」と意見されてしまうし、そう思われると買ってくれません。その点、WEBは毎日大量の情報が流されて、良い意味で忘れ去られていきます。どの媒体で読んだかわからないこともあるんじゃないでしょうか。また雑誌と違って、どこか既視感がある方がWEBだと読んでもらえる傾向もあると感じています。
また、雑誌では採用されないニッチな話題を取り上げることができるので、その部分はWEBの利点だと思います。最近だと、“「布団の敷パッド」ゴムが伸びる問題。100均アイテムでサクッと解決”。この記事はとてもよく読まれました。少し気になっているけれど、わざわざ人に聞くほどでもない。だけど解決法があるなら知りたい、という心理にピタッとハマる内容だったと思います。暮らしを良くすることがテーマなので、気になる小骨をそっと抜くような、かゆいところに手が届くような記事を作ることを常に意識しています。
――私がESSEオンラインさんで八木花子さんと連載しているヘアの記事も、ニッチな内容の方が読まれる傾向がありますよね。100回を越えてネタに困るようになり、取材当日にモデルさんに悩みを聞いたり、掲載する週の天気で内容を決めたりしていたら、意外と評判が良いです。
山田:さとゆみさんの先日の記事、“アラフィフはショートヘアにしたほうがいい?年齢に合った「似合う髪型」になる方法”は、とてもよく読まれました。これこそ、かゆいところに手が届く記事ですよね。みなさんがひそかに気になっていて、知りたい内容だったからこその反響だったと思います。
ただ王道があってこそのニッチでもあるので、ニッチな記事ばかりを出せば良いというものでもない。塩梅が難しいところではありますね。
――季節の話題は王道になってしまいがちな気がしますが、どうされていますか。
山田:毎年同じように見えて、実は変化しているんです。例えば、梅雨時や夏の暑い時期だと、毎年「洗濯系」の記事を出します。今年は梅雨が短かったので、「部屋干し系」の記事が去年より読まれませんでした。同じ季節でも気温や気候が影響して、求められる記事も変わってきます。
山田:猛暑の時期は「生ごみの処理方法」や「臭い下着の洗い方」の記事、この辺りはよく読まれます。ここ数年は猛暑が続くので傾向として変わらないかと思ったら、不思議と「ごみ系」の人気が下がってきました。タイトルと同じくテーマにも流行りがあるので、やはりその都度確認することが大事です。
同じテーマでトレンドが移り変わるパターンもあります。夏といえば「麦茶」もよく取り上げますが、ここ数年で麦茶を取り巻く環境が変わってきました。最初は、「美味しい麦茶の作り方」でしたが、次の年には「麦茶をラクに作る方法」になりました。「お湯出しがメインだったけど、面倒だから水出しで良くない?」というブームになって、でも水出しに抵抗がある人も一定数いる。そのせめぎ合いが記事になったりもしましたね。そのうちに「麦茶ポット」の話題になり、「使いやすい麦茶ポット」や「洗いやすい麦茶ポッド」が紹介される記事が人気になります。無印の麦茶ポッドは人気がありましたね。そして去年、ついに「麦茶を作らない」という域に到達しました。
今は性能の高い浄水器をつけているご家庭も多く、「水が美味しいからわざわざ麦茶を作る必要ないよね」という新たな価値観が出てきたのです。麦茶ひとつ取っても年々様変わりするので、テーマが王道でも切り口は毎年変わります。こうしてブームを追いかけていると面白いですね。
――季節の話題以外のネタは、どうやって探しているのですか?
山田:ファッションでいうと、ESSEでは流行りの服装を特集したり、急いでトレンドを取りに行くようなことはほとんどしません。毎日の生活により密着して、服にかけるコスパを重視します。「1万円以内で何コーデできるか」や、「ユニクロでどれだけオシャレに着こなせるか」など。プチプラファッションは他の媒体でもよく話題になっていますが、「ユニクロだとバレない商品」とか、「他の人と被りたくない」というテーマが多いですよね。ESSEはそうではなく、「いかにコスパ良く、いつもよりオシャレに見えるか」という方向性で作ります。たとえば気になる体型をカバーする方法や、着こなしのコツなどの方向にシフトした記事を心掛けています。
ファッションでも美容でも同じく、かゆいところに手が届く内容は意識します。「ウエストインってどうするの?」や「抜け感を出す着こなしって結局、何?」など、今さら聞けない基礎講座のような記事も人気です。みなさん意外とよく知らないまま、流していることも多いのではないでしょうか。
山田:憧れのファッションや違う世界の暮らし情報を届けるのではなく、地に足の着いた記事を作りたい。まるで身近にいる物知りな友達のように、生活に直結するお役立ち情報を届けるサイトでありたいです。みなさん毎日、仕事に家事に忙しく生きていると思うので、少しでも家事がラクになったり、生活が楽しくなったりするお手伝いができれば嬉しいと思っています。
また、少し年配の方のライフスタイル記事も人気があります。最近だと、“90歳、マクドナルドで働いて23年。日々のバス通勤と3時間半勤務が元気の源”、この記事もたくさん読まれて印象的でした。検証すると、年配の方が読んでいるのではなく、40~50代の少し下の世代が読んでいるんですよ。みなさん自分の未来について、興味や不安があるのかもしれません。年配の方の働き方や、楽しく暮らしているコツを取材した記事は反響も大きいです。参考になることも多いので、今後も明るく暮らす年配の方のインタビュー記事などには力を入れていきたいですね。
――年配の方のインタビュー記事がランキング上位を独占しているとき、ライタークレジットを見たら、八木ななみさんだということが続きました。
山田:さとゆみさんのゼミ生さんですよね! 八木さんは超ヒットメーカーで活躍してくれています。ESSEらしい企画をたくさん出してくれて、積極的に取材も行ってくれます。最近も50~60代の方のファッション、例えばワークマンコーデや、ユニクロのワンピースコーデなどの企画を考えてくれました。人気もありシリーズ化しています。今後はそういった人気シリーズや連載を書籍化したり、イベントを開催することも念頭に入れています。ESSEオンライン発の新しいスターやインフルエンサーも発掘していきたいです。
※取材後、新しい読者組織「ESSEフレンズエディター」を立ち上げられています。
ギャル雑誌とESSEに通じる共通点
――今、お話を伺いながら、山田さん、今のお仕事がすごく楽しそうだなあと感じました。出会った頃は、『小悪魔ageha』から別の編集部に移籍されたばかりでしたよね。
山田:懐かしいです(笑)。実はESSEの仕事に就いた頃、よく当時のことを思い出していました。『小悪魔ageha』と『ESSE』って、似ているなと個人的に感じていたんです。
――ギャル雑誌と、暮らしをテーマにした『ESSE』が?
山田:表面的なことではなく、裏側の部分ですね。『小悪魔ageha』は読者の方たちに何度も直接取材に行って、現場からネタを拾っていました。実際に目で見て聞いたものから企画を考えていたんです。当初、自分はギャルではないので読者の気持ちがわからないと思っていました。でも取材で掘り下げていくうちに、「メイクやファッションで、コンプレックスを前向きに解消している」という多くの女性が共感できるマインドが根底にあることに気付いたんです。
『ESSE』も「かゆいところに手が届く記事」を作るために、アンケートを取ったり、本人の生の声を取材したりする。作り方も似ているし、面倒な家事を少しでもラクにする方法、楽しく暮らすコツを考えるという部分でも、通じるものを感じていました。
また、どちらも軸が自分にあります。『小悪魔ageha』の場合は「彼氏のためではなく自分のため」、「コンプレックスを解消して自己肯定感を上げたい」、『ESSE』の場合は「夫や子どものためだけではなく自分の暮らしを向上させたい」、「オシャレもして楽しく暮らしたい」と言った風に。『ESSE』は意外と子育ての話題が少ないのですが、企画にも自分軸を大事にしていることが表れていると思います。
――2つが似ている話はとても面白いです。今は、雑誌の休刊も増え、WEBメディアに移行することも増えました。山田さんは、今後の情報発信についてどう考えていらっしゃいますか?
山田:難しい問題ですね。でも今後メディアの傾向がどう変わっても、現場の生の声をちゃんと拾ったり、暮らしに密着した記事を作ることは大事にしていきたいです。
一時、ESSEでも流行りのバイラルメディア(他サイトの引用を主流としたまとめ記事)のようなことをやろうとしたんですけど、結果うまくはいきませんでした。やはり話題の人をすぐに取り上げるような、トレンドに敏感な動きはうちには必要ない。少し後発でもいいから、より掘り下げて役に立つ内容を届けるサイトでいたいと思っています。
――情報と一緒にECサイトを運営しているメディアも、最近はよく見かけます。
山田:ECサイトはブランド力が高かったり、ターゲットが絞り込まれているメディアには向いていると思います。うちも検討したことはありますが、読者層が広いので難しさも感じました。それもあり、着実にPVを獲りにいく方法に一番尽力しています。
山田:今後は会員施策などに力を入れて、コアなファン作りを強化していきたいと考えています。コロナが落ち着いたときにSNS担当発案で試写会を企画したら、思ったより応募がありました。座談会や読者参加型のイベントなど、リアルなつながりにも多くのニーズがあると思っています。
また、雑誌の売れ行きも落ちてきましたが、座談会などで話を聞くと、50~60代の方たちにはまだまだ需要があります。WEBのように情報が大量に流れると、自分に必要なニュースを選択する必要がありますが、雑誌だと腰を据えて読むことができる。また自分で選び取りお金を払ったものには価値を感じると思うので、そういった意味でも雑誌のような媒体は必要だと思います。
今は雑誌に代わるコンテンツが溢れているので、若い世代だけでなく30~40代の方たちの間でも、雑誌離れは進んでいますよね。
しかし漫画などを見ていると、紙の売れ行きが落ちてもアプリがすごく発展しています。縦でも横でもビューアーが選べて、紙のようにページをめくってストレスなく読める。しかも自分の好きなキャラクターのグッズまで、そのアプリ内で作れる。読者の方が喜ぶ仕組みを先進的に開発されています。
ESSEは暮らし系メディアなのでまた漫画とは違いますが、今後の在り方を考えたときに参考になる部分があると思っています。この先の課題として、アプリなのかSNSなのか、WEBマガジンのようにネット上で雑誌の形を取るのかはわかりませんが、雑誌に代わる新しい開発が必要なのかもしれない。読者の方が年代や生活スタイルに合わせて、自分好みの形で情報を得られるようになると良いのかな、と考えてます。(了)
山田 佳代子(やまだ・かよこ)
大学卒業後、4コマ漫画誌、ギャル雑誌、実用書・ムック編集を経て2015年、扶桑社に入社、月刊誌『ESSE』編集部に所属。産休・育休を経て2020年にESSEオンライン編集部に配属。その後2021年にサイトマスター、2023年に編集長に就任。一児の母でもある。
撮影/深山 徳幸
執筆/いしげ まやこ
編集/佐藤 友美
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