
not にんげん but にんげん【さとゆみの今日もコレカラ/第 86 回】
スーラの絵が好きだ。
光の三原則を初めて知った時、赤と緑と青が混ざってなぜ白になるのかが何度説明されてもわからなかった(今でもまだ完全に理解できていない)。でも、スーラの絵を見ていると、なるほど光かくあらん、と思う。
スーラは 31 歳で夭折した。死因は髄膜炎ともジフテリアとも言われている。
スーラにまつわるエピソードは、すべてドラマティックでどれも好きなのだけれど、亡くなるその2日前まで、内縁の妻と子どもがいたことを、家族すら知らなかったという話が好きだ。親しい画家仲間たちはその事実を葬式で知 り、驚いたという。
狭いパリの中で、どうやって恋人と子どもの存在を隠したのだろう。しかも、スーラはその恋人をモデルにした絵も発表している。いや、モデルが恋人になったというべきか。極端に寡黙だったというスーラと彼女は、どのように恋に落ちたのだろう。普段どんな会話がなされていたのか。
スーラは自宅をアトリエにしていた。子どもが泣くその横で、画家は黙々と点描をしていたのだろうか。
スーラが死んだとき、彼女は2人目の子どもを身籠もっていたが、死産した。長男も、スーラの死の1ヵ月後に病気で死んでしまう。
2人の子どもを抱え頼る人を失う絶望と、その2人の子どもも失い自分だけ生き残る絶望と。どちらがどのようにいかほどだったかなどと想いを馳せる。
そうして目の前の点描に視線を戻すと、ひとつひとつの点に歴史あり,、と思う。そして絵から離れて距離をおくと、光あり、と思う。そして、さらにもう一歩引くと、闇もあることに気づく。この作品は光と闇の対比だったか。そういえば、スーラが生きた時代のパリは、ナポレオンによって街がどんどん再編された頃だった。
20 分ほどよったりひいたりしながら絵を見ていると、そりゃこういう絵は AIには描けないよなあ、と思う。いや違う、描き手が AI だったらこんなふうに人生と絵を重ね合わせて解釈しないよなあと、思う。恋に落ち子をもうけ、病を得て死ぬ人間が描く絵だからこそのメタ解釈だ。
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でも、そこまで考えて、ああそうだ、この絵はそもそもレプリカだったと思い直す。これはスーラが描いた絵では、ない。技術を駆使して模倣されたレプリカを、私は 20 分も熱心に見てスーラに想いを馳せていたのだ。
にんげんってなに? ほんものってなに?
3度目の来訪。大塚国際美術館。
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【この記事をおすすめ】
安達さんは 2003 年「フジテレビヤングシナリオ大賞」大賞を受賞し、脚本家デビューされました。
その後、出産、育児、主婦業が多忙となり、本格的な活動から少し遠ざかりますが、2011 年、『大切なことはすべて君が教えてくれた』の脚本担当に抜擢。全 10 話をひとりで書き上げました。ここからフジテレビのドラマを5年連続で執筆することになります。
この5本は、どれも登場人物の強い気持ちが前面に出た人気ドラマだと感じます。中でも、この5本で際立っているのは、登場人物が誰かに「憧れる」気持ちです。


