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ピアスとコーラと母の記憶【さとゆみの今日もコレカラ/第 227 回】

昨日は女性誌の撮影だった。髪の専門家として、50 代、60 代の読者の方々のヘアケアの相談にのるという内容で、読者モデルの方と撮影をした。

モデルさんとの2ショット撮影中は、「楽しそうにおしゃべりしていてください」と言われたので、鮮やかなオレンジの衣装がお似合いですねという話や、ショートヘアだと大きなピアスが映えていいですね、などと話をしていた。

私よりも少し年上であろうその女性は、「こんな華やかな色の服を着たことがないので、恥ずかしい」とはにかんでいる。とても上品な佇まいで、育ちの良さのようなものがにじみでている方だった。

ピアスの話をしたときは、「実は私、ファーストピアスをつけてから、まだ3カ月目なんです」とおっしゃった。

私も、初めてピアスを開けたのは 35 歳を過ぎてからだった。そのことを彼女に伝え、「親が『体に穴をあけるなんて』というタイプの両親だったので」と添えると、「うちも、同じです!」と彼女の言葉に力がこもった。

「だから、私、このピアスも、去年母親が亡くなってから初めて開けたんですよ」と、彼女は言う。そうでしたか。いくつになっても、母親の存在ってありますよね、などと私も相槌をうつ。

私は、「お母さまはおいくつでお亡くなりになったのですか?」と聞いた。聞いてすぐに、しまった、と思う。その年齢を聞いて、私はどうするつもりだったのだろう。

多分私は、「生きているうちは、ピアスを開けられなかった」という彼女のお母さまのことを想像してみたかったのだと思う。この上品な所作は母親ゆずりなのだろうか。彼女は、お母さまとどんな会話をして生きてきたのだろう  か。

「85 歳でした」と彼女は言う。

カメラを意識しているから、私たちは2人とも笑顔を作ったままだったけれどほんの一瞬、彼女の瞳が揺れたような気がした。

それからも、お互いの母親話は続いた。

「私、母の影響で、いまだにコーラが飲めないんです」と、彼女は言う。「もしかして、コーラを飲んだら骨が溶けるって言われました?」と私が聞くと、「さとゆみさんもですか? 私も骨が溶けると言われました!」となって、2人で大笑いした。

「テレビからは悪いビームがでているから、30 分以上見たらダメって言われませんでしたか?」と私が尋ねる。「えええ、それは言われませんでしたよ!」などと、話は尽きない。

撮影は結構長く続いた。

カメラマンさんと編集者さんはだいぶ離れた位置から撮影しているので、私たちが何を話しているのかは聞こえていないようだった。

しばらくたって、「はい、オッケーです!」と声がかかり、写真をチェックしてくださいと言われパソコンを覗いたら、ものすごく楽しそうに爆笑する2人が写っていた。

「何の話をしていたんですか?」と聞かれたので、「コーラを飲めないという話なんかを」と、答えた。「もう少しお話したかったです」と言いながら、彼女は帰って行った。衣装から着替えた彼女は、モノクロのコーディネートだった。

2024 年の初夏。

人生で初めてオレンジ色の服を着たという美しい女性に、その人のお母さまの話を聞いた。どこにも行かない、そしてこの日限りの短い会話だったけれど、彼女を育てた人の存在を感じた。

こちらの世界で話題にすると、天国ではその人のもとに花が咲くという。彼女のお母さまのまわりに、ぽっぽっぽっぽと花がたくさん咲いているといいなと思った。こちらの世界を覗き見て、「あら、あの子、ピアスをしているわ」と、お母さまは笑うかしら。

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もしまた夢で母に会ったら、伝えられるだろうか。「ずっと会いたかったよ」と。

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