
10秒の旅【さとゆみの今日もコレカラ/第573回】
昨日、新横浜の駅でエレベーターに乗ろうとしたら、品のいいおじいさんとおばあさんがエレベーターを待っていた。
「なかなかこないねえ」と、おじいさんが話す。エレベーターはちょうど上の階までいったところのようで、そこでしばらく止まっていた。
話しかけられたおばあさんはにっこりと頷く。ハンドバックを肩にかけ、もう片方の手でそのバッグをそっと押さえていた。少しだけ腰がまがっている。
一方のおじいさんは、ボストンのほかに水筒と、あきらかに女物とわかるバッグをひとつ、それ以外にもこまごまと紙袋を手にしていた。おばあさんの荷物も持ってあげているのだろう。手には新幹線のチケットが見える。
2→1→B1とランプが動く。
エレベーターの扉が開いた。
「お先に入りますね」と私に話しかけたおじいさんは、最初におばあさんを中に通してあげる。
そして、ええと「開ける、開ける」と言いながら開ボタンを押して、私たち家族が乗り込むのを待ってくれた。
おばあさんが「うわあ、広い」と言っている。エレベーターの広さを言っているようだ。定員6名ほどのエレベーターである。
おじいさんは「ほんとだねえ。広いねえ」とおばあさんに言い、「普段、家からほとんど出ませんので」と私たちに笑いかける。
私が、「このエレベーターは、そちら側のドアが開きますよ」と乗った方向と逆のドアを指差すと、おばあさんはさらにびっくりした様子だ。
ものの10秒程度。
エレベーターはゆっくりと上昇し、新幹線の乗り場のある階で止まってドアが開いた。おじいさんが、また開ボタンを押して待ってくれる。「お先にどうぞ」と言われ、エレベーターを降りた。
「よい旅を」と、二人に声をかけられる。
「はい、ありがとうございます」と言って、お辞儀をした。
たった10秒だったけれど。
でも、もうすでに、とても素敵な旅を体験させてもらったな、と思いながら。
★今日もコレからは毎朝7時に更新して24時間で消えるショートエッセイです。今日もコレカラ良い一日を!
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