
8割の人が考えること【今日もコレカラ/第642回】
むかしむかし。20代の頃の話だ。
ある人が、夜更けにこんな話をしてくれた。
「僕ね、姉に聞かれたことがあるんです。『ねえ、死ぬ時に、8割の人が考えることって何だか知ってる?』って」
彼のお姉さんは看護師だった。
日々、病院で亡くなっていく人と接している。
彼女の答えはこうだった。
「8割の人は、『こんなはずじゃなかった』って思いながら死んでいくんよ」
その話をしてくれたお姉さんは、さらに付け加えたと言う。
「あんたは、そんな人生にならんようにしなさいね」
お姉さんいわく、人は死ぬ時に気づくのだという。
どうしてやりたいことを諦めたのだろう。
どうしてあんなに人の目を気にしたのだろう。
どうして自分らしく生きなかったのだろう。
そして、こんなはずじゃなかったと言いながら死んでいく。私は、そんな人生は嫌。だから、もう少ししたらこの街を出ていく。本当にやりたいことをやろうと思っている。
そう話してくれたそうだ。
その話をしてくれた数日後、お姉さんは不慮の交通事故で亡くなった。だから彼は、その言葉を遺言のように思っていると話してくれた。
こんなはずじゃなかった、と思わずに済む生き方はどんな生き方だろう。そう考えて、彼は東京に出てきた。
ずっと憧れていたけれど、でも入社試験で落とされた美容院の門をたたき、しかしやはり入社はかなわず、生活費もないので下北沢の路上で道行く人の髪を青空カットし、お金が貯まったらその美容院に髪を切りに行って「この店で働きたい」と直談判し……を繰り返し、とうとう入社を認められた。
私が彼からこの話を聞いた時、彼は当時日本で最も有名な美容院の店長を任されていた。
そして、ここまでどんな道のりだったのですかと聞いたら、お姉さんの話をしてくれたのだ。
何かをしようと思った時、私は人の目を気にしない。失敗したら恥ずかしいとか、ダサいとか、そういう感情もまるでない。
それはどうしてかというと、24歳の時に「8割の人は『こんなはずじゃなかった』と思いながら死んでいくのよ」という言葉を聞いたからだ。
どうしてやりたいことを諦めたのだろう。
どうしてあんなに人の目を気にしたのだろう。
どうして自分らしく生きなかったのだろう。
死ぬ時にそんなふうに思い返したくない。
せっかく棚からぼた餅的にもらった命なんだから。どうせ、棚からぼた餅的に授かった命なんだから。そして今日もラッキーなことにまだ生きているのだから。
この地球を楽しみたいし、この自分の身体と脳みそを使って楽しみたいなあと思っている。
私の大好きな美容師さんと、そのお姉さんの話でした。
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ひたすら熱い何かが、ずっと込み上げてくる。気を付けていないと、今にも涙が溢れ出そうだった。


