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「この世界は、まだ見ぬ美に満ちている」。『HERALBONY Art Prize 2025 Exhibition Presented by 東京建物|Brillia』を観て

「ふつう」という言葉が、あまり好きではない。

障害のある子を持つ私は、「ふつう」と「それ以外」という区分や対応を幾度となく経験し、その度に傷ついてきたからだ。

そんな時に、希望をもたらしてくれた企業がある。
「異彩を、放て。」をミッションに、障害のイメージ変容と福祉を起点に新たな文化の創出を目指している株式会社へラルボニー(以下、へラルボニー)だ。
同社は、障害のあるアーティストに正当なロイヤリティを支払う循環を生み出している。

一般論にはなるが、一般企業での就労が難しい障害や難病のある人は、「就労継続支援B型」と呼ばれる福祉サービスを利用するケースが多い。
自分のペースで働きながら知識やスキルの習得ができる一方、雇用契約は結ばないため、最低賃金が適用されないという特徴がある。そのため就労支援は「給与」ではなく「工賃」と呼ばれ、平均工賃は月額23,053円だ(令和5年度実績。厚生労働省のデータより)。

お互い健康に歳を重ねることができれば、先立つのは親の方だ。障害があっても、自分らしさや特性を活かして付加価値の高い生産活動を行い、自立できる社会であってほしい。そう願う私にとって、へラルボニーの取り組みは大きな希望だった。

そんなへラルボニーが主催するアート展「HERALBONY Art Prize 2025 Exhibition Presented by 東京建物|Brillia」に、先日足を運んだ。

「HERALBONY Art Prize」とは、へラルボニーが主催する、世界中の障害のある表現者を対象とした国際アート・プライズだ。
本展は、その「HERALBONY Art Prize 2025」にて、グランプリをはじめとする各受賞作家と最終審査進出作家、総勢61名による全65点の作品が一堂に展示されている。

平日の日中だったが、会場は予想外にたくさんの人が訪れていた。

私はアートに疎いので、「正しいアートの鑑賞の仕方は知らないけれど大丈夫だろうか」と心配していた。だが、作品を目の前にした途端、時間を忘れて自由に楽しんでいた。

遠くから見て、近づいて見て、を繰り返す。何度見ても、見るたびに新しい発見がある。
そして、作品を見たあとに作品名を確認する。すると、また違った解釈が与えられて楽しい。
例えば、私には人同士が激しいやり取りをしているように見えた絵。その作品のタイトルは、『良い友達』だった。そうか、良い友達か。一緒にはしゃいでいる時の絵だろうか。それとも、喧嘩するほど仲が良いということだろうか。

受賞作品につけられていた、キャプションボードも良かった。
家族と共にユーラシア大陸を列車で横断した経験が創作活動に大きな影響を与えた人。
これまでに見た図鑑や、訪れた動物園や水族館の記憶が、作品に鮮明に刻まれている人。
担任の先生に教わったことがきっかけで、刺繍に魅了された人。両親も針を使えることには驚いたという。

本人のアーティスト活動だけでなく、作家たちが歩んできた人生が、家族や先生といった共に過ごしてきた人たちによって、彩りがさらに豊かになっていることが窺えて心があたたかくなった。

正しさとかルールとか、そういったものから解き放たれた創造性に溢れる作品たちのおかげだろうか。夢中で鑑賞しているうちに1時間が経過していた。数々の、「異彩」のパワーに圧倒される。

会場入り口で読んだ「主催あいさつ」にあった「この世界は、まだ見ぬ美に満ちていることが伝わるでしょうか。」という言葉を思い出す。
はい、伝わっています。本当に、美しいですね。
ひたすら熱い何かが、ずっと込み上げてくる。気を付けていないと、今にも涙が溢れ出そうだった。

会場では、グッズの販売も行っていた。来場の記念にと、気になっていたサブバッグ「くらげ」を購入する。

対応してくれた方は、へラルボニーのスタッフさんだった。「応援しています」と一言伝えて、会場を去るつもりだった。でも、言葉を発した瞬間、ずっと必死に止めていた涙が一気に溢れ出てしまった。

「私の息子も、障害があって……いきなりすみません……」

見ず知らずの人が急に話し始めたと思ったら泣き出して、スタッフさんは本当に困惑したと思う。申し訳ない。でもそれくらい、感謝しているのだ。この取り組みは、希望なのだ。

主催あいさつには、
「この展示が、ひとつの出会いとなり、ひとつの問いとなり、
やがて大きなうねりとなって世界を動かすことを願って。
新たな「ふつう」を再定義する運動に参加してください。
そして、伝えてください。みんなで、塗り変えましょう。
異彩を、放て。」
とあった。

そうか、私が好きではなかった「ふつう」は、再定義できるのか。
それなら、私も塗り変える一員として参加したい。

そう思い、このレビューを書いている。

お互いの特性を尊重し合いながら、それぞれが望むように生きられる世の中。そんな世の中が、新たな「ふつう」となることを願って。

文/小野瀬 わかな

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