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デキない先輩の背中【今日もコレカラ/第657回】

先日、ある出版社の編集長とゆっくり話をする時間があった。
これまで数多くのヒット作を生み出し、スターを輩出した方だ。中には、ミリオンセラーもある。

その方が「最近、信じられないくらい本が売れなくて」とおっしゃる。

その人は、出版講座などもするような有名人なのだけれど、ここ最近自分が手がけた本がことごとく売れないという。
「これなら売れそう!」と思って自信を持って打ち出しても売れない。「そこまでのインパクトはないけれど、光るものがあるかも」と思って出しても、やっぱり売れない。

「人に教える立場だし、編集長でもあるから、自分の担当作が売れないのは本当に気まずくて」と、その人は言う。
「出版は水モノですからねえ」と、私が合いの手を入れると「そうそう、何をやってもうまくいかないときも、あるよね」と頷く。

の、だけれど。そのあとその人は、急にくすくす笑い出した。そして
「最近、あまりにも売れないんで逆に面白くなってきちゃってさ」
とおっしゃる。

面白くなってきた? と尋ねると、

そうそう。自分の部署の後輩たちも「これだけいろいろ人に教えている編集長の担当作さえ売れないんだから、自分たちの本がそうそう簡単に売れるわけないよな」と気楽に仕事するようになったと思うんだよ。
それが結構悪くない感じになっていて。

今年、後輩の一人が作った本が、発売しばらくたってから、ずいぶん売れてきているのだという。年度の売り上げ目標は、その本のおかげで達成できそうだ。いやあ、本当にほっとしたよ、ありがたい! と大きな声で笑うその人を見ていると、朗らかでいいなあと思った。

デキる背中を見せるのも先輩。
デキずにもがいている背中を見せるのも先輩。
ものづくりには唯一の正解もゴールもないし、年功序列で結果が出るわけでもないから、いつまでも挑戦し続けるしかない。
そんなジタバタした背中を見せられるのも、先輩の大事な仕事なのかもしれない。

※「今日もコレカラ」は朝7時に更新です。バックナンバーが読めるようになりました。

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