
子どもにひとつ願うなら。【今日もコレカラ/第735回】
大学一年生の時、わたしたち国文科の学生38人は、それぞれ万葉集の和歌を一首ずつ与えられた。そしてその、五七五七七のたった31文字について半年かけて研究しなさいと言われた。
万葉集の多くは読み人知らずである。1300年も前の知らない人が詠んだ歌に、半年間も取り組むのである。しかも、どんなに眺めてもひっくり返しても31文字。たった31文字を半年間も研究できるのかと思ったけれど、できた。というか、最後の方はむしろ時間が足りなかった。
単語ひとつひとつ。助詞のひとつひとつ。この時代の地図を引っ張り出し、どんな場所でどんなシチュエーションで詠まれた歌かを想像し、解釈しうる可能性をひとつひとつ潰していった。
ああ、これが研究というやつなのかと大興奮した。
こういうことを研究できるようになるために、高校まで勉強していたんだなあと思った。
あまりに楽しかったので、北海道に住む親に公衆電話から電話をかけて、その興奮を話した記憶がある。長距離電話では、テレフォンカードの数字はどんどん落ちていく。当時は上野公園に行けばイラン人が違法テレカを売っていて、それを10枚、20枚と買って20分も30分も研究の楽しさを電話で話した。
自分が親になった今、思うのだけれど、あれ、親は嬉しかったんじゃないかな。大学まで行かせた甲斐があったと思ったんじゃないかな。知らんけど。
で、なんでそんなことを思い出したかというと、立て続けに「大学教授」の講義についての展示を見たからだ。
ピタゴラスイッチの佐藤雅彦さん。CORECOLORでも取材させてもらった故 田名網敬一さん。
ひとつは横浜美術館で。もうひとつは京都芸大で。
どちらの展覧会も、2人が学生たちに何を教えていたかが展示されていて、私が大学生でこんな授業を受けたら興奮しまくっちゃうし、人生変わっちゃうだろうなと思った。
そして思う。自分の子どもがこんなふうに人生の「師」と出会えたらもう、それだけで命爆誕した甲斐があると思うし、幸せだろうなと思う。
自分が親として子どもに望むことは健康であってほしい。それだけだけれど。
もしももう一つだけ神様にお願いできるなら、二つ目の願いは、面白い大人に(友達に、先輩に、師に)出会ってほしいな、である。興奮できる、尊敬できる、面白い大人に出会ってほしい。
そして、私も誰かにとっての面白い大人でいたいなあと思う。
私は佐藤さんや田名網さんみたいなひとかどの人物ではないけれど、でもどこかの誰かにとっては「さとゆみっていう、おもろい人にあってさ。今日超興奮しちゃって」と、親に報告されるような人でありたい。
それをできたら、なんとなく、まわりまわって自分の子どもにもいい出会いがあるような気がしたり。
とうわけで、今日のNHKさんでの編集講座、盛り上がっていこう。
田名網先生のお姿、チャーミングでした。
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大学の教え子であるライターがインタビューを申し込んだ。半世紀以上絵を描き続けてもなお、描く意欲が絶えないばかりか面白さを追い求めるものなのか。そもそも、田名網先生の言う「面白さ」とは何だろうか。学生時代、授業でも問われ続けた「上手さよりも、面白さ」。その意味と制作への熱量の源を辿りに、恩師のアトリエを訪れた。


