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あえてテレビを否定する場所に行く。局で出世も目指す。『日経テレ東大学』P高橋弘樹さんの働く哲学

好奇心をそそられるトーク展開、バチバチの議論で話題を生んでいる、YouTubeチャンネル『日経テレ東大学』。チャンネル開設から約1年半で、登録者数は80万人を超えた。

看板コンテンツは、ひろゆきさんと成田悠輔さんがMCを務める「Re:Hack(リハック)」だ。ゲストにやってくる政治家や起業家、著名人は、2人の前でうっかり弱音を漏らしたり、怒りに震えたり、本音を曝け出したりする。

わかりやすい対立を煽るコンテンツも少なくない中、このチャンネルでは、バトルは起きるが煽りはしない。議論が偏ると、置物のように画面の隅に座っていたパンダが間に入り、話を深めていく。

その正体不明のパンダの心がもっとも分かる男とされているのが、このチャンネルを立ち上げ、企画・製作統括・出演をする、テレビ東京の高橋弘樹さんである。

『家、ついて行ってイイですか?』をはじめ、さまざまな人気テレビ番組を立ち上げたプロデューサー。テレビとYouTubeは、いわば可処分時間を奪い合うライバルとも言える。なぜ高橋さんはYouTubeの世界へ進出したのだろう。独立するのではなく、テレビ局の中でそれをする意味は?

取材に伺うと「こんな感じで撮っているんです」と、オフィスビルの一室にある撮影スタジオを見せてくれた。「ベンチャー感、あるでしょう」と笑う高橋さんに、予定不調和を生む動画制作の秘密、そして組織に所属しながら新しいクリエイティブを生み出す働き方について聞く。

揉めても凍りついてもカットしない。文脈ごと届ける意味がある 

――高橋さんのWikipediaを見たら、見出しに「YouTuberに転身」とあって。

高橋 いやぁもう、久々にWikipediaを見たらツッコミどころ満載なんですよ。身長も間違ってる。僕、183センチもない。169cmですから。見栄張る場合でも170cmって言ってますから。でもまあ「YouTuberに転身」は間違ってないんじゃないですか。世間がそう見ているということですから。

――テレビ局のプロデューサーが、本気でYouTubeオリジナルのコンテンツに取り組んでいるのは相当珍しいんじゃないかと思うのですが。

高橋 おっしゃる通りで、まだあんまりないですよね。

――初めて『日経テレ東大学』の動画を見たとき「予定調和じゃない」とドキドキしました。YouTubeだからできることなのでしょうか?

高橋 「してはいけない」のコードは、テレビとYouTubeでそこまで変わらないです。テレビも実は、規制らしい規制はそんなになくて、政治の中立性を保つことや、お昼にエロいものを流さないことくらい。ただし踏み込んだ表現をするときには「~だから、この表現をしてもいい」のロジックをしっかり立てないといけない。

例えば『空から日本を見てみよう』とか『家、ついて行ってイイですか?』では、空撮をしたり、人の家を撮ったりします。「それ、いいの? モザイクをかけたほうがいいんじゃない?」って声はもちろん出てくる。実際、モザイクをかけてしまう番組もありますよね。でも調べてみると、建物に著作権はないんですよね。もちろん取材対象と丁寧に話して、迷惑をかけないようにするのは大前提。でもちゃんと調べて、理解して、ロジックをちゃんと組み立てていくと、描けるものって案外多いんです。知らないから怖がって、手前で止めてしまう。

――規制とはちょっと違う話ですが、『日経テレ東大学』は「あっ、ここ流しちゃうんだ」って思うところがカットせずに使われていますよね。緊迫する瞬間や、逆にゆるいやりとりも。

高橋 僕は、あんまり編集で切らない方が好きですね。尺に余裕があるなら、見せた方がいいなって思う。揉めたとか凍りついたとか、そうした瞬間を含めて「文脈」じゃないですか。文脈を変えずに編集するって結構難しいんです。

――日替わりでいろんな番組が配信されていますが、特に「Re:Hack」は、現場が凍りつく瞬間が多々見られます。立憲民主党代表の泉健太さんが出演された回では、泉さんが途中、問いかけに対して答えようとせず「いや、いい」を連発するなど、テレビ番組なら編集でカットされてしまうんじゃないかと思うような、ピリピリした瞬間も使われていました。あれはなぜ、編集でカットしなかったんですか?

高橋 なんだろうな。そのシーンが泉さんという人の“本当”を描く上で、必要だなと思ったから。それに、ご本人に致命的なダメージを与えてしまうわけでもない。僕は泉さんご本人のお考えがあってやっているんだろうなって感じたから、それなら僕個人が判断するのではなく、泉さんに寄り添ったほうがいい気がしたんですよね。

それに、僕、本当に「わからない」と思ってるんですよ。

――わからない、とは?

高橋 あの動画を配信したときは「泉さん、逃げてる。MCの質問にまともに取り合おうとしなくて、ひどい」って思った視聴者もいると思う。でも、どうですか。その後しばらく経って、泉さんをやりこんでいたMCのほうが炎上して、世間から叩かれたとしますよね。すると、あの動画はこう変わるんですよ。「あのMCとまともに取り合わなかった泉さんが、やっぱり正しかった」って。

――なるほど。その時々によって動画の文脈が持つ意味や、見え方が変わる。だから「わからない」なんですね。

高橋 そう、その意味を僕が判断しちゃいけない気がするんですよね。編集するにしても、文脈を変えてはいけない。

――じゃあ高橋さんは「ピリついたらどうしよう」なんて思っていらっしゃらないんですね。

高橋 全然ないですね。どう最後落とし込むんだろうって思って見ている。プロレス見るみたい。

――逆に「ピリついたらおいしい」と思っている感じでもない。

高橋 テレビマンですから、下世話な気持ちで「面白そうだ」と思わなくはないですが、ピリつくのって基本的には嫌ですからね。気まずくなりますから。あ、でも「本音が出るチャンスだ」とは思います。あ、ここから本音出るな。ここで何を言うのかな、それとも逃げるのかな。そういう意味での楽しみはあります。

パンダは現場で編集する。「ダメな僕」が引き出す、天才たちの人間的魅力 

――公開した後にクレームがきたり、「ここは流さないでください」と言われたりしたことはありますか。

高橋 基本的にはないですね。特に政治家の方は、編集権に介入できないことや、あまり口を出すと言論統制に見えかねないことも、よく理解されているので。ただ、僕の判断であえて切ることはあります。話し手のポジション取りが行きすぎて、視聴者に誤解を与えかねないケースとか。視聴者をミスリードしてしまうと思うときには、カットすることもありますね。

――そのバランス感覚って、どうやって養うのですか?

高橋 テレビ番組をつくるときにはお茶の間を想像する癖があったから、それかな。メディアにいる人間は、どこか疑いながらニュースを見る人も多いですけど、純朴な若い人が見たらどう見えるだろう。視聴者の顔を思い浮かべながら、編集しているかもしれませんね。

――坂上忍さんが出演された回で、テレビの過剰な忖度について議論されていますよね。話の中で「ドラマの撮影現場で、カメラに向かって包丁を突きつけるのが禁止になった。先端恐怖症の人への配慮だというが、それは行き過ぎだ」と出演者が盛り上がっている中、高橋さんだけがボソッと「その表現は本当に嫌がる人がいると思うから、僕はやめたほうがいいと思うんですけど」とおっしゃった。

高橋 はいはいはい。

――すごく印象的でした。実際に視聴者からの声を聞いたのですか?

高橋 そうではないんですけど、なんだろう。「嫌がる人をゼロにする」なんて無理なんですけど、生まれつきのことや、どうしたって逃れられないものが人間にはあるじゃないですか。それを描かなければ伝えたいことが絶対成立しないとか、社会正義が歪められるのであれば、注釈を入れて描くかもしれない。でも、そうではないのなら、あえてその表現を選ぶのではなくて、もっと工夫したほうがいいと思う。極端なことを言えば、爆撃で人が死にまくるシーンを見せなくても、戦争の悲惨さを描けるのと同じで。

あと、うーん、ちょっと重い話ですけど、性被害のトラウマを語る方の話を聞いたことがあるんです。その語られた様子が尋常ではないというか、嗚咽にまみれながら話されていて。そのとき、僕には想像もできないスイッチがあるんだと思いました。何気ない表現がフラッシュバックにつながり、致命的な痛みを招いてしまうことがあるんだって。

――そうした経験の中で、「これはその表現をする、これはあえてその表現を選ばなくてもいい」の考え方がつくられていった。

高橋 テレビ局ってそういう訓練をしますよ。どこまで描いていいか、なぜか、といった自問自答は、会社の中でよくやる気がしますね。まあ、心配性が過ぎる上司もいますけど。常にいろんな角度から自問自答し、議論しながら、表現を選ぶ判断軸や考え方を形成していきます。

――「Re:Hack」では“ピラメキパンダの中の人”として、成田さんとひろゆきさんの会話を引き出したり、会話の間に入ったりされています。その時はどんなことを考えているんですか?

高橋 まずはやっぱり、バランス。バランスが偏ったら、逆ポジションに立つ。それから、視聴者目線で「これは回収しないと終われないよね」とか、「ここはより深掘りしないと、視聴者は納得しないよね」ってことを考えていて、その場で質問します。つまり、パンダでいる間は「現場で編集する」という意識でいる。

なぜかというと、YouTubeで今、1本40分強の動画を、週に7本出しているんですよ。単純に考えれば週1のバラエティ番組の7倍のカロリーがかかる。何かを捨てなきゃいけない、となったときに、現場にいる間に構成を立てておいて、編集のカロリーをできるだけ削ぐようにしたんです。ほとんど編集しなくていいように、現場で構成をするようになった。これはYouTubeに来て作り方を変えたところのひとつです。

――編集をリアルタイムでやっている。

高橋 テレビ東京で、コストカットした作り方をいっぱい学んできたんですけど、よりコストカットする方法は、自分がその場で編集しちゃうことだった。

――MCの2人に気持ちよく話してもらおう、といった気持ちもありますか? そのために自分がダメな人間になるとか。

高橋 まあ人間ってね、そういうのありますよね。人としてダメな部分を見せていくのは、僕は結構好き。それが効くなと思ったら躊躇なくやりますし。ダメすぎると付き合うのも嫌になってしまうので難しいんですけど。

……今ちょっとカッコよく言いましたね。僕はフリじゃなくて本当にダメな人間なんで。独身の間は、一生懸命遊んだし(笑)。あ、さっき僕の財布見ましたよね?

領収証で膨れ上がった高橋さんの財布

高橋 これがすべてなんですよ。もう、だらしないでしょう。

――そういう「ダメな自分」を躊躇なく見せることに、どんな効用があるんですか?

高橋 ダメな人間だってことも見せて「教えてください」ってスタンスのほうが、やっぱり相手が教えてくれるのでね。まあ、ひろゆきさんや成田さんは本当に頭がいいので、こっちが変に下手に出る必要はありませんけどね。

上司の嫌味をドラマのネタにしたらバレた。理不尽とどう向き合うか 

――テレビ局という大きな組織の中で、新しいクリエイティブに挑戦することの難しさもあると思うんです。多分、今、山ほど「会社辞めないの?」って聞かれていると思いますが…。

高橋 本当にね(笑)。めちゃくちゃ聞かれる。

――そもそも社内公募に企画を出されて、YouTubeをつくるようになったんですよね?

高橋 日本経済新聞社がYouTubeの企画を募集していたんです。基本的にはテレビ局でYouTubeは作れないんですよ。隣の業界だから。でも気になるじゃないですか。日経新聞とテレ東のコラボ企画というのも面白そうだなと思って。

下世話な言い方をすると「儲かりそうだ」みたいな思いもありました。ぶっちゃけた話、テレビ番組をつくっている制作スタッフでYouTubeにも手を出している人が結構いて。ギャラがいいと。だとしたら、その仕組みを見ておきたい。テレビとは違うロジックが相当働いていそうだったから。

――独立して個人でYouTubeチャンネルを立ち上げるのとは訳が違うと思うのですが、さまざまなところに企画のお伺いを立てなければいけない、ってことはあるんですか。

高橋 もちろん僕だけが決めているわけではなくて、日経サイド、テレ東サイドと議論しながらつくっています。ストップがかかるのは…組織って「謎の力」が働くことがあるでしょう。

なんか…海辺で耳をすますと、向こうの方でざわついてる音が聞こえる、みたいな感じ(笑)。なんだろうな、ただざわついてる音が入ってくる感覚ってあるじゃないですか。

――誰がストップをかけているか、すら明確ではない。

高橋 そうなんですよね。何重もの人を経てきた声だから、明確ではない。「誰かが、心配という名の邪魔をしてきている」と感じることもありますし。大体、僕が信用してないのは「お前のためを思って」ってやつ(笑)。「お前のためを思っておじさん」が来たら、そう思う方の背後に何か言ってる人がいるんだろうなってのは、サラリーマンの経験則的にわかりますよね。

――そんな時、どうされるんですか?

高橋 議論をして「僕はこう思います」とはお伝えしますよ。でも最終的に会社を代表する決定権は、僕は持っていないので、指示には従います。ただ常々公言しているのは「僕は全部メモっていて、会社を辞めた時に本にします。そのつもりで話しかけてきてください」って。相当うざいと思います。

――(笑)ノートに書いているんですか? 携帯に?

高橋 携帯に書いてたんですけど。ま、正直なことを言うと、言うだけ言っているだけで、根に持つほどのことなんてほとんどないんですよ。だから「辞めた時に本にします」は実現させるかわからないですけど。あ、でも、「面白い」と思った発言とか、人とか、コンテンツの中に登場させてしまうことはある。ドラマのセリフにしちゃうとか。観察して、描いて、ニヤニヤする。

――「あれ、俺のことだろ?」って言われたことはないんですか。

高橋 …あー、あります、あります(笑)。バレた。見てねえだろうなと思ったら、見てて、すごいひやっとして。あ、わかりましたかーって言いました。

――理不尽さを感じて「もう組織でなんてやってられない」と思うことは。

高橋 それは、めっちゃあるんじゃないですか。テレビ東京が悪いんじゃなくて、組織ってそういうもの。いろんな価値観の人がいるから。

そう思うようになったのは、労働組合で執行委員長をやった時なんです。子ども手当の制度にしたって、独身の組合員からは「優遇するんじゃない」「仕事の皺寄せはこっちにくるんだ」ってなるし、子どもがいる組合員からは「いやいや、子どもを育てるのは社会のためじゃないか」ってなる。この議題ひとつで、一生まとまらないですからね。

これと同じように、立場が違う人たちの間で起きる考えの不一致は、仕事においても発揮される。だから組織である以上、理不尽なことがあって当然なんですよ。お互いのポジションを完全に理解するのは無理なので、感じた理不尽は、作品の中で成仏させるようにしています。

――組織でものをつくる中で、たとえば「この人をキャスティングしたら何か言われるだろうな」といった感覚があったとして、根回しをしておくんですか。

高橋 根回しはします、もちろん。「こういう理屈があるので、安全ですよ」って話しておく。ストップをかける人のモチベーションの基本は「自分の出世を阻害されたくない」なんですよ。「なぜリスクを未然に防げなかったんだ」って言われないように、先に止める。だから「大丈夫、安全です」っていう理屈をあらかじめつくっておけばいいんです。

――高橋さんが何かしたことによって、自分が責任を問われたくないってことですね。

高橋 もちろん、一部、社会正義上での議論もありますよ。でも世の中の余計な心配事の9割が出世理論からきているとは思う。「皆様にはご被害は及びません。いざとなれば責任は私が取ります」ってコミュニケーションはしておくかな。

ただね、心配する立場もわかるんですよ。僕らは担当している番組が限られているから、一生懸命「これをやるためのロジックは…」と考えられるけど、上司や法務部はいろんな案件を抱えているから。一つひとつ細かく見るというよりは、大きめに心配するんです。そりゃあ何十件も案件を抱えていればそうなりますよ。だから僕らは、一つひとつロジックを立てて「大丈夫なんです」って説明すればいい。

自ら「姥捨山」に行く。これは、我流出世ゲームの一手 

――根回しをしても、実際にYouTubeの制作上でストップがかかったことも。

高橋 有名なアテンダーさんとかね。国会議員になったという現象が何なのか聞いてみたかったんですけど、それはまあ、俳優さんと一緒にドラマをつくっている局の人たちから見れば、ダメだろうなと。

――それはテレビ局でものづくりをしているからこその「ダメ」だと思うんですが、歯痒さは感じませんか。

高橋 でも、それ以上の恩恵をテレビ局から受けていると思うんですよ。だって、やりたい企画を通したら、これでつくってね、って製作費をくれるわけです。

紙を提出するだけで、何千万ってお金が引き出せるんですよ。つまり、僕は会社を、ATMみたいに思っている(笑)。楽しいことをしたいです!で、お金を出していただける場所って、そうそうないですから。それもふまえて、会社員でいたほうが「おいしい」って思っています。

――その「おいしい」ってどういう感覚でしょう?

高橋 そうだな。35歳くらいのとき、この先、何を楽しみに生きていくんだろうって思ったんです。恋愛市場からは撤退したし、酒もやめた。あとの楽しみは何だろうって考えたら、ものづくり、海が好き、不動産が好き。そしたら葉山あたりに、別荘とまで大きくなくていいけど、リノベーションして楽しめるくらいの物件がほしいな。そのお金が必要だ。

でもお金って言ったって、稼げれば何でもいいわけじゃない。何で稼ぐか、の美学もある。クリエイティブな仕事をしたい。嫌なことはしたくない。会社で出世ゲームをしている上司は、全員つまらなそうに見える。じゃあ、フリーになるか? いやいや、優秀なATMを失うのはもったいない。リスクもある。

さてどうしよう。ここで手詰まりになりました。それなら、今言った「ほしい」と「したくない」を全部満たす新しいゲームを考えよう、って。で、従来と違うルートで、クリエイティブな仕事をし続けてテレ東の常務になるゲームを自分の中で始めた。

ところが、従来とは違うゲームだから、失敗するリスクもあるじゃないですか。これまでの出世ルート上で、真剣に頑張っている方たちから見れば、僕なんて鼻につくと思うんですよね。

だから常務までいけたときと同じ生涯年収を、違う手段で確保しておこうと思いました。常務にまでなれば、生涯年収が2億くらい上乗せになるかな。じゃあ本業で結果を出して、本を書くとか副業の収入でトータル2億稼げるようにしておこう。それができれば、常務になれなくても同じ生涯年収になる。こんなゲームを自分で勝手にやっているだけなんですよ。

――やりたいことをやって出世する、たとえ出世できなくても出世したのと同じだけ稼ぐゲーム。つまり、テレ東で出世を目指しているんですね。そういえば過去のインタビュー記事でも「今はYouTubeにマン振りするプレイ」っておっしゃっていて、「そうか、プレイなんだ」と思ったんですけど。

高橋 そう。今はYouTubeの世界にどっぷりつかって、テレビを否定するスタンスに立とうと思っている。そうでないと何も吸収できない。ちょい噛みは誰でもできるんですけど、そうじゃなくて、YouTuberとして「テレビから可処分時間を奪うぞ」って気概でやらないと、わからないことがある。

ただ、YouTubeをガチでやってテレビに戻る、って経験をしている人もあまりいないじゃないですか。それにも興味があって。何か思いつくことが変わるんじゃないかな、とか。

テレ東の常務になるためには、テレ東の成長に貢献しなければいけないじゃないですか。でも今、明らかに地上放送の収入は減っている。だから今、伸びている業界に本気でテレ東が進出していくぞ、くらいの気持ちで入ったほうが学べますよね。

――そうやって新しいクリエイティブをつくってきた人が、ちゃんと出世する道をつくりたいってことなんですね。

高橋 かつ、後輩の邪魔をしないことが大事だと思っています。これ、YouTubeをやっている理由のひとつなんですが、やっぱり40歳を超えてテレビの枠を、後輩と争ってはいけないって気がしたんです。邪魔じゃないですか。

これは成田さんと話していて思ったんですよ。成田さんが老害、老害って言うから、僕も「いや〜老害邪魔だな」と思ってたんだけど、あれ?って。そういえば僕が入社したとき「邪魔だなあ、なんでこのおじさんがいつまでもこの放送枠をやってるんだろう」って思った人が、当時36歳くらい。そう考えたら、僕なんて相当おじさんだから、今更、テレビの枠を後輩と争っちゃいけないなと。争ってたら老害なんですよ。

なら、普通と違う素敵な老害。超ファンタスティック老害を目指そうと思った。

つまりいい意味の「姥捨山」っていうかね。40歳になったら村を出て行って、新天地で開拓したほうがいいなって思ったんです。

そこで、しがみつこうとしていた元々の村で耕すより大きな利益を出す。

それが、超ファンタスティック老害ってやつですよ。

――新規事業や新しいクリエイティブへの挑戦って「若い人の活躍する場所」というイメージが強いと思うんですが、「姥捨山として行く」んですね。

高橋 そうですね。そうはいってもまだ、YouTubeよりテレビの世界のほうが予算は潤沢ですし、視聴者も見てくれているんですよ。そんないい村に暮らしていたのに「お前、もう年だから、村から出て行って森とか開墾してこい」って言われたらつらいじゃないですか。それでも行く。そして、帰ってきたときには、元いた村よりも大きな村を耕してきたよって言えたらいいなって。

だから、今の目標は、テレビのゴールデン番組より大きなメディアをつくること。違う村を開拓して会社に貢献するのが、真の“クソ老害”の仕事だと思います。

高橋弘樹さん

テレビ東京プロデューサー、映像ディレクター。1981年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。2005年テレビ東京に入社。入社以来、制作局でドキュメント・バラエティーなどを制作する。プロデューサー・演出を担当する『家、ついて行ってイイですか?』では、ひたすら「市井の人」を取り上げ、これまでに600人以上の全くの一般人の「人生ドラマ」を描き続ける。『吉木りさに怒られたい』『ジョージ・ポットマンの平成史』『パシれ! 秘境ヘリコプター』などでプロデューサー・演出。現在は『日経テレ東大学』企画・製作統括を務める。著書に『1秒でつかむ』(ダイヤモンド社)、編著に『天才たちの未来予測図』(マガジンハウス新書)など。

撮影 深山 徳幸
執筆 塚田 智恵美
編集 佐藤 友美

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