検索
SHARE

「ワンピースに性別はない」男性向けの可愛い服で未来を変えるーブローレンヂ智世さん

昨今、トランスジェンダーやLGBTQなどといった言葉に表されるように、性のあり方は男性・女性だけでなくもっと多様であるという考えが広がってきている。それに伴いファッションについても選択肢の幅は増えてきた。しかし、生まれ持った男性的な体型のせいで、女性の服を着たくても着こなせずに苦しむ男性がいる。そんな男性のためのファンションブランドを立ち上げたのが、自身も小さい頃に性別やファッションに悩んだ経験を持つ、ブローレンヂ智世さん。体つきがガッチリした男性が着ても自然で美しく見えるシルエットや素材に徹底的にこだわったワンピースやブラウスは、東京大学・安田講堂で開催したファッションショーや展示会、SNSで人気を集めている。なぜ、男性向けの可愛い服を作ろうと思ったのか。他の女性服と何が違うのか。ファッションを通してどんな世の中を実現したいのか、伺った。

「着られる服がない!」を解決するメンズサイズのワンピース

――ブローレンヂは、「メンズサイズの可愛い服」をコンセプトにスタートしたファッションブランドだと聞きました。

ブローレンヂ智世(以下智世):トランスジェンダーの人や女装をしている男性が着られる服がなくて困っているのを解決したくて、2017年に立ち上げました。男性として生まれてきたけれど自分自身を女性と認識している人や、男性だけど女性の服を楽しみたい人たちです。男性は女性と比べて、骨格が大きく、筋肉も張っています。既製のレディース服だと入らなかったり、入っても動きにくかったり、バランスが不自然になったりしてしまう。着たい服を着られないつらさや可愛く見えない悲しさで、自分のことを否定されたように感じてしまう人もいるんです。そんな人たちが日常生活をもっとスムーズに楽しく過ごせるようになってほしい。そんな想いで始めました。

――メンズサイズというのは、大きなサイズとは違うのですか?

智世:レディース服を単に大きくしたのではなく、男性の骨格に合わせたサイズという意味で「メンズサイズ」と表現しています。

智世:通常、服を作る時はトルソーというマネキンに布をあてて型紙を作ります。男性と女性で骨格や肉付きが違うので、トルソーにもメンズ用・レディース用があって、ブローレンヂの服はメンズ用のトルソーに布を当てて可愛い服を作っているんです。女性の肩幅の平均は40cm。一方、男性の平均は45cmで女性より5㎝も大きい。アームホールという腕のつけ根周りも、男性の方が女性より圧倒的に厚みがあります。そういった男性の体型の特徴に合わせて作っています。

――確かによく見るとブローレンヂの服は肩幅や腕周りがかなり大きいですね。でも、全体的なバランスがいいからでしょうか、ぱっと見ただけではメンズサイズに見えません。

智世:そう言ってもらえると本当に嬉しいです。以前、東京大学の安田講堂でファッションショーを開催したことがあります。トランスジェンダーの人やこれまで服で悩んでこられた方にブローレンヂの服を着て、モデルとしてランウェイを歩いてもらったんです。観客の方からは、「みんなきれいだったね」と言ってもらったのですが、そのときも「ところで、この服のどこがすごいの?」って聞かれたんです。

ブローレンヂの服は男性が着ても美しく見えるように細部まで設計しているし、デザインにも錯視を取り入れるなど、仕掛けがいっぱいなんですよ。それを思わずムキになって解説してしまいました。でも、男性が着ていてもあまりに自然で、普通にきれいだと感じてもらえたんだって、後からじわっと嬉しくなりました。

――でも、きっと着た人にとっては、これまでの服とは大きく違ったんですね。

智世:ファッションショーのモデルをしてくれた人たちはみんな、着た瞬間に違いを分かって喜んでくれました。「体にぴったり合う!」「動きやすい!」「それに、すごく可愛い!」って、とびっきりの笑顔で鏡の前で何度も何度もクルクル回って。

智世:あるトランスジェンダーの方は、「初めて鏡の前の自分が可愛いと思えた」とも言ってくれました。見た目はきゃしゃで、レディース服の中にも着られるものがたくさんありそうな方だったのですが、「これまで全然なかった」と教えてくれました。そんな話を聞くと、改めて苦労をされていたんだなあと思い知りましたね。

――東大の安田講堂でファッションショーが開催されたのは歴史上初とも聞きました。

智世:東京大学の安冨歩教授が「性別を考えるファッションシンポジウム」として協力してくださったんです。ご自身も女装をされている方で、以前から男性向けのレディース服の必要性をいろんな知り合いに訴えていたそうです。でも、誰もしなかった。そんなとき、私が実際に作っているというのを知って社会的にも意味があると応援してくださったのです。

男らしさ、女らしさって何? 反発と悔しさと

――そもそもどうして、ブローレンヂを立ち上げようと思ったのですか。

智世:実は私自身、男の子になりたいと思っていた時期があるんです。6歳上の兄がいて、小さい頃はいつも兄にくっついて、兄と同じ男の子の服を着て、男の子たちとばかり遊んでいるような子どもでした。ところが小学校に入学すると、周りがちょっとずつ男の子と女の子で分かれていくようになったんです。私は教室でも浮くようになって、仲間はずれにされたり、学校に行くのがつらくなったりしました。

ようやく友達ができたのは3年生になった頃。その友達は女の子でした。私自身は何も変わらず、見た目も男の子のようなままでしたが、「智世は男の子っぽい女の子なんだな」と自然に受け入れてくれました。それ以降、他の友達も同じように接してくれて、友達関係で悩むことは少なくなります。

でも、中学生になるとセーラー服の制服を着なければならない。すると、「智世がスカート履いてる!」「なんで学ラン着ないの?」と、驚かれたり、からかわれたりするんです。しかも、成長とともに胸やおしりが大きくなって、これまで好きだった男の子の服がかっこよく着られなくなりました。服装が性別によって決められていることへの反発や、着たい服が着られない悔しさを私も感じてきたんです。

智世:ただ、私の場合は、高校生になる頃には、徐々に女の子の服にも慣れて、抵抗がなくなっていきました。制服のスカート丈を短くしたり、当時はやっていたギャルっぽいファッションを楽しんだりするようになりました。今から思うと女の子だからという理由で、決めつけられたり、押しつけられたりするのが、すごく嫌だったのだと思います。

たとえば親から、「女の子なんだから」と可愛い花柄のスカートを渡されたとき。他にも、「腹減った」と言うと、「女の子はお腹すいた、でしょ」と言い直されるとき。兄が習っていた少林寺拳法を習いたいと言っても、「女の子だからしなくていい。女の子は守ってもらいなさい」と言われたとき。「どうして、男と女って区別されるの?」「男と女って何が違うの?」という思いは、小さい頃からずっとありました。

高校を卒業してからは紳士服店やレディース服店の販売員などをし、23歳の時に結婚しました。しばらく専業主婦をしていたのですが、突然、漠然とした不安に襲われるようになります。友人は働いていたり、子どもの世話をしていたりしているのに、自分だけ何もしていない。一人、取り残されたように感じたのです。一時は精神的に不安定になり、病院に行っても涙が止まらなくなるような状態にまでなりました。そんなときに偶然見たのが、録画していた再放送の「ドラゴン桜」。勉強ができなかった高校生が東大合格を目指すドラマです。

「私も大学で勉強したい」。そんな想いが強くなりました。高校まで勉強をほとんどしてこなかった私にとって、こんな気持ちは初めてです。「何を勉強しよう?」と考えた時に、男女の違いについて知りたいと思いました。そこから、猛勉強。2度目のチャレンジで合格し、関西大学に入学できました。25歳のときのことです。

――心理学を学んで、何か考え方が変わった部分はありましたか?

智世:いろんな論文を読んだのですが、男女はそこまで変わらないんじゃないかと感じました。確かにホルモンや脳の仕組みは生物的な男女の違いに影響しています。一方で社会的に形成された性別もあります。結局、男はこうあるべき、女はこうあるべきという考えを刷り込まれた結果、男らしさや女らしさが作られていったんじゃないかと思うようになりました。

ある論文には、人間はほぼ水分と細胞だと書いてあったんです。それを読んだとき、ほとんどが水分と細胞なら、やっぱり男女ってそんなに変わらないんじゃないかって思ったんです。ちょっと極端かもしれませんけど、自分の中では腑に落ちて、この問題の探求に関してはいったん気がすみました。

――そこからどうして、ブローレンヂの服を作ることに?

智世:大学院の試験に不合格だったことがきっかけです。大学では認知心理学の錯視(目の錯覚)に興味を持ち、大学院に進学して研究を続けるつもりでした。錯視というのは、二本の同じ長さの棒の両端にそれぞれ外向き、内向きの矢印をつけたとき、外向きについている棒の方が長く見えるといった目の錯覚のことです。

智世:昔から脚が短いのがコンプレックスだったので、一番脚が長く見えるヒールってどんなヒールなのかに興味を持っていました。ピンヒールとかチャンキーヒールとかありますよね。どちらが脚が長く見えるのか、錯視量を測って研究したいと思っていました。ところが、結果は不合格。自分では、合格できると思っていたので、ショックでした。

でも、仕方ありません。そんなとき、気分転換に靴の修理をしてみたんです。当時、レースアップパンプスが流行していて、ヒモをつけたら自分でも作れるかなと思って気軽な気持ちで始めました。ところが、気がついたらその作業にまさに没頭。論文を読んでいるときは、読まないといけないと追い詰められていたのに、靴を作っているときは楽しくて楽しくて。私は、研究よりもこうやって手を動かしてモノを作ることが本当は向いているんだと痛感しました。

翌日には業務用ミシンを購入。昔から一度は作ってみたいと思っていた服作りに見よう見まねでチャレンジしました。これがブローレンヂの服作りへとつながっていったんです。

――そのときにはもう、起業したいという思いもあったのでしょうか?

智世:できることならこれで稼げるようになりたいという想いはあったと思います。だから買ってもらうには、どんな服がいいんだろうと考えました。錯視をデザインに取り入れることはやりたいことの一つでした。目の錯覚を起こす条件を服のデザインに応用したら、スタイルが良く見える服が作れます。そこで、まず、脚が長く見える服を作ってみたんです。でも、何か物足りない。「錯視を利用した服って誰が一番求めてくれるんだろう」と、さらに考えました。

そのときに思い出したのが、大学時代に性同一性障害について見たあるVTRです。主人公は、見た目は女性だけど、生まれ持った性は男性。見た目と戸籍上の性別が違うために受験もできず、戸籍を変えるには手術を受けないといけない。それを見たとき、私はすぐに戸籍の変更を認めてあげたらいいのにと思いました。教室のほとんどの学生もそう感じていた様子でした。しかし、そんな私達に教授はこう問いかけたんです。

「みんな認めてあげたらいいのにって思いましたよね? このドラマの主人公は女性が演じていました。でも、もし筋肉ムキムキで、髭のあとが残っている男性が主人公を演じていても同じように感じますか?」。教室はシーンとなり、授業はそこで終わったんです。

当時はその教授の問いかけに、答えが出せずにいました。でも、錯視の効果を使えば、そんな男らしい体型をカバーして女らしく見せることができるはずです。不自然なく女らしく見えるようになれば、きっと日常生活がスムーズに送れて、好奇な目で見られることもなくなる。体型と性別のギャップを埋められる。「私が作るのはこれだ!」と思いました。

智世:さらに、もう一つの経験もこの想いを後押ししました。それは、心斎橋でレディース服の販売員をしていたときのことです。若い女の子向けの可愛い服を扱っていたのですが、月に1~2人、女装した男性のお客様が来られていたのです。洋服を持って試着室に入るのですが、「やっぱり、サイズが合わなかったわぁ」と苦笑いして帰っていかれる。当時はネット販売も普及していない時代。お店に来ること自体、勇気を出さないとできなかったかもしれないのに、着たい服が入らなかったときの悲しさ。そんなお客様の姿も思い出していました。

これまで誰も作ってこなかったワンピースへの挑戦

――そうして、メンズサイズの可愛い服というコンセプトが生まれたんですね。

智世:当時はどんな服がいいのか全く分かりません。そこで、ツイッターで聞きまくったんです。当事者の方たちは、「#女装子」「#男の娘」といったハッシュタグをつけて、自分の女装した写真をアップして互いにフォローし合っていました。そこで私も真似をして自分の写真にハッシュタグをつけ、「女装子のためのファンションブランドを作ろうと思っています!」って、呟いてみたんです。すると、「女の子にしか見えない」「可愛い」って、たくさんのリツイートやフォローがつきました。皆さん、私が女装子の当事者だと思ったんですね。でも、私はとにかく当事者の皆さんとつながれたことが嬉しくて、どんな困りごとがあるかを次々と聞いていきました。すると、「肩幅が合わなくて窮屈」「腕のゴツゴツした感じを隠したい」「隠すために夏でも長袖を着ないといけないから、すごく暑い」……。どんどん、具体的な声が集まってきました。どの声も切実で、「この悩みを解決できるような服を作るぞ!」「私のやりたいことの道がやっと開いた!」とワクワクしました。

でも、みんなから「女の子にしか見えない」「すごくレベル高い!」と言われるたびに、女装子と偽っていることに後ろめたさを感じてきました。みんなにとても失礼なことをしてしまった。苦しくなった私は、1カ月ほど経った頃、「実は私は女の子なんです」と正直に打ち明けました。バッシングがくるのは覚悟の上です。ところが、フォロワーのみなさんの反応は意外なものでした。「そうだったんだ」「男の子にしては女の子に見えすぎと思った」「ブランド立ち上げるんでしょ。楽しみにしてるからね」って、責めるどころか応援してくれたのです。こんなに優しくできるのは、ひょっとしたらこれまでにいろんな痛みを経験されてきているからなのかもしれない。この人達のためにも絶対に良い商品を作る。その想いを強くしました。

――作るにあたって一番難しかったことは何でしょうか?

智世:大変だったのは、縫製工場探しです。何のつてもなかったので、手当たり次第に工場に電話をかけたり、飛び入りで訪問したりしました。でも、「メンズサイズのワンピースを作ってほしい」と言うと、「うちではそんなのはやっていないからできない、他を当たって」と言われてしまうのです。断られた工場は100件近くになります。

――やっていないからできないというのは、どういうことでしょう。

智世:私が作りたい服は、服作りの現場での常識とは違ったんです。トルソーにメンズ用とレディース用があると言いましたが、工場もメンズ専門とレディース専門に分かれていたのです。男女それぞれの体格に合った、型紙や生地の素材があり、求められる縫製技術も異なるからです。そんな工場に私がお願いしていたのは、「メンズの型紙でレディースのワンピースを作ってほしい」ということだったんです。

智世:型を作る人をパタンナーさんと呼びます。メンズ工場のパタンナーさんは主にスーツやシャツを作っており、ワンピースやブラウスは専門外です。これまでやっていないことに一から取り組むには、時間も労力もコストもかかります。でも、工場は毎日スピーディーに生産をしていかなければならない。しかも私が発注できる量は限られている。そんな環境で私の依頼を受けることは難しかったのだと思います。

――男女の骨格や体格が違うからこそ、工程も分かれていたんですね。それでも最終的には、引き受けてくださった工場があったんですね。

智世:もうあきらめそうになったときです。そこはレディース専門の工場だったのですが、話を聞いてくれると言ってもらえて訪問しました。でも、詳しくお話すると、「うーん、うちはレディース専門だからなあ……」とまた言われてしまいました。ところがその日のうちに電話がかかってきて、なんと「うちでやらせてもらいます」とOKが出たのです。本当にびっくりしました。

実は、帰り際に工場の方に駅まで車で送っていただいたのですが、その車中で運転手の方が「男性向けの女性服を作りたいんだって?」と気さくに聞いてくださったのです。私は、商談が上手くいかなかったこともあって半ばやけになりながらも、どうしてこの服を作りたいのか、どんなにこの服を切実に求めている人がいるのか、そして、この服ができたら世界が変わるんだってことを、また夢中になって話していました。この話を聞いてくれた運転手の方というのが、その工場のえらい方だったんです。

――ドラマみたいなお話ですね。

智世:世の中に新しいものを出したいという想いがある方で、一緒にやろうって思ってくださったんだと思います。その工場にはメンズ用トルソーがなかったのですが、ブローレンヂのためにわざわざ購入までしてくれました。

そしていよいよ、服作りがスタートしました。パタンナーさんが布を当ててシルエットを作ってくれます。でも、思っていたのと何かが違う。そこから何度も修正を入れていきました。「肩が強そうに見えるからもっと優しい感じにしたい」「スカートはもう少しふんわりさせたい」。私の要望に、ギャザーの位置を内側にずらしたり、量を増やしていったり。でも、やりすぎると肩の部分が盛り上がってしまうし、膨らみすぎる。一番きれいに見えるまでミリ単位で何度も修正を繰り返してもらいました。たった5ミリの差でも、印象がガラッと変わるのが服なんです。そんなやり取りを重ねて最後には職人の技で思ったとおりのものを作っていただきました。

――デザインではどのようなこだわりを?

智世:トランスジェンダーや女装子の方の話を聞いていると、可愛らしいものが好きな人が多いんですね。だから、通常のレディースよりもさらに可愛らしいデザインを意識しています。そんなデザインをガッチリとした体格の男性が着ても自然に見せるために取り入れているのが「錯視」です。

智世:白のワンピースは、胸元の黒のラインがポイント。肩幅自体は大きくとっていますが、この黒のラインを縦に入れることで、肩幅の広さが感じられにくくなり、ほっそり見える効果があります。バイカラー錯視といわれるものです。

シャツワンピースの方は、襟をV字にかなり深めにとることで、すっきり細く見せています。また、これは錯視とは違うのですが、腰の部分に縦にリボンをジグザクになるようにあしらっていて腰回りを絞れるようにしています。リボンを全部外すと妊婦さんでも着られるくらいのゆとりが出るんですよ。同じ男性でも、体格の差はあるので、ご自身のウエストに合わせて、好みの膨らみに調整できるようにしています。

――こちらのスカートは?

智世:これは、「パニート」と言います。スカートを膨らませるための「パニエ」と「スカート」を掛け合わせたブローレンヂのオリジナルです。お持ちのワンピースの下に履いていただくことで、とっても可愛くスタイルアップができますし、そのまま1枚でスカートとし履いていただくこともできます。実はお客様の声から生まれた商品で、今ではうちの一番の人気商品です。

智世:先ほど紹介したファッションショーでモデルをしてくださった方が、こんなことを教えてくれたんです。「ブローレンヂの服を着てしまうと、これまで自分が可愛いと思って持っていた服が可愛く見えなくなった気がする」って。嬉しい反面、その悩みはなんとか解決したいと思って開発しました。

通常、パニエはロリータ―ファッションやウェディングドレス、バレエの衣装などで使われることが多く、膨らみが誇張されています。でもこのパニートは大げさすぎずにお尻周りを女性らしくふんわりしてくれ、バランスもよく綺麗に見えると、とても喜んでもらっています。

――どんなふうになっているのでしょうか?

智世:三層構造で、一層目と二層目の腰周り部分にぐるっとギャザーを入れています。前の部分はストレートで、横側から後ろに周るにつれギャザーを厚めにしています。履いたときに、下腹はストンと引き締まって見えて、横や後ろのお尻はふんわりした女性らしい形に見えるよう何度も何度も修正を重ねて実現しました。どの商品にも言えることですが、生地も厳選していて、触り心地が良くしっかりした素材を採用しています。大量生産ができないので、販売価格はどうしても高めになってしまいます。せっかく買ってもらったのに手触りが悪かったり、品質が悪かったりしたら、お客様をがっかりさせてしまう。だから、より満足してより長く使っていただけるものを提供したいと思っています。

男性だってワンピースを着て会社に行ったっていいと思う

――どれもすごく素敵でしかも体型もカバーできる。性別関係なく私も着てみたいと感じます。

智世:最近では女性のお客様も増えていて、3割が女性なんですよ。先日、ある元バレーボール選手の女性が、肩周りの筋肉がとても発達しているからニットのように伸びる素材で大きめサイズの服を選んでも窮屈に感じると言っていました。そんな女性アスリートや背が高い女性の方などが買ってくださっています。

実は以前、「このワンピースを買いたいんですけど、男性向けなんですよね?」と女性の方から問い合わせがあったんです。メンズサイズというキャッチコピーのせいで、服選びに悩んでいた女性に買いづらさを感じさせていたことに気がつきました。それからは、「ジェンダーフリー」「男でも女でも」といった言い方もするようにしています。

もともとキャッチコピーにはとても悩んだ経緯があります。最初は、男性に向けて可愛い服を作っているので、男性から女性になった人という意味の「MTF(Men to Femail)」という言葉をいれたキャッチコピーも考えていたんです。着てほしい人に届けるためには、どんな人に向けて作っているのかを発信しないといけない。でも一方で、当事者の方に特別な存在とカテゴライズして排除しているように感じさせてしまうかもしれない。それで「メンズサイズ」という表現に変えました。でも、どうしても言葉には引っ張られてしまう。ジェンダーフリーという言葉だって、わざわざ言わなくてもいい世界になったらいいなと思っています。

――そんな世界は実現できると思いますか。

智世:できると思っています。地道にやっていけば、きっとそうなるって。私がよく言うのは、イギリスでは男性が雨の日に傘をさすことも昔は当たり前でなかったんだよということ。ジョナス・ハンウェイという人が初めて傘をさしたとき、「女々しい奴」「女の真似をして」と嘲笑されたそうです。それでも彼は、男性でも雨の日に傘をさしたら便利だと言ってさし続けた。それを見て、自分もさしたいと思う人がどんどん増えていって今のように当たり前になったんです。ということは、たとえば100年後に男性がワンピースを着ることが当たり前になっていたって全然不思議じゃない。

智世:私、会社員の男性が華やかなワンピースを着て会社にいけるような世の中って楽しいんじゃないかなって思うんです。今の会社員の男性を見ているとなんだか苦しそうで。紺やグレーのカッチリしたスーツばかりでなく、華やかでフワッと軽いワンピースを着られたら、それだけで気分が変わりますよね。

ジェンダー平等に何が必要なんだろうって考えたとき、私は見た目にヒントがあるんじゃないかと思っています。人が受け取る情報のうち8割は目から入ると言われています。それなら、男性も女性もワンピースやズボンを分け隔てなく着ていたら、同じように感じて男女平等に近づきやすくなるんじゃないでしょうか。

実は、ブローレンヂの服を支持してくれているのは女性の方が多いんです。「男性が可愛い服を着るのもいいね」ってとても好意的に反応してくれます。ところが、当事者でない男性はすごく好奇な目で見てきます。男は男らしくなければならないと囚われているのは、男性自身なのかもしれない。このことはとても根深い問題だと感じます。女性の社会進出や地位向上を目指すのも、もちろん大事だと思っています。だけど、まず男性を男らしさから解放してあげないと、「男は男らしく、女は女らしく」みたいな意識って、結局変わらないんじゃないかという気がしています。男性が男らしさの殻を破ったとき、もっと楽になれてその先に本当のジェンダー平等が見えてくる。私はそんなふうに思っています。

――最近は男性も女性も中性的に着られるジェンダーフリーなファッションも広がっていますね。

智世:すごくいいことだと思います。ファッションの選択肢はたくさんあった方がいい。でも、ガッチリした男性が自分を可愛く見せたいと思ったとき、それを満たそうとすると、ブローレンヂの服ぐらい振り切る必要があるんだとも思うんです。私がしたいのは、男性が着たい服を着られるように選択肢を増やすこと。一人ひとりのニーズはさまざまだし、服を作る会社もたくさんある。ジェンダーフリーなブランドや可愛らしいブランド、かっこいいブランドなどたくさん出てくればそれが一番いいなと思います。

ブローレンヂの服を作ってみてわかりましたが、市場がニッチすぎるんです。ロマンチックな可愛いデザインが好きで、かつ、価格が高めでも購入できる人というように絞っていくと、市場規模はとても小さい。そうなるとビジネスとしては成り立たないのが正直なところだと思います。だから大手は中途半端に参入しては撤退していくのだと思います。ブローレンヂの服はメディアでも注目されたり、必要な人に届いたりと少しずつ認知も広がっていますが、経営的にはまだまだで厳しいのも事実。でも、今すぐではなくても10年後、20年後に実現できる世界を思って続けていこうって思っています。

――智世さんがそこまで思えるのはどうしてですか?

智世:やっぱり求めてくれる人がいるからです。以前にアパレルショップで働いていたときも、商品を売ったらお客様から「ありがとう」って言われたことはありました。でも、ブローレンヂの服を買ってくださったお客様の反応は、それとは桁違いに嬉しそうなんです。今まで欲しくてもなかったモノをやっと手に入れたという幸福感にあふれている。そんなお客様の姿を目の前にすると、作ってよかったって心から思えます。

智世:私がしているのは小さな小さなことかもしれないけれど、自分の作ったものが確実に誰かの役に立っている。それが喜びです。それに、ツイッターを見ていると、「困ってるんだったらこんなブランドあるよ」って、お客様どうしで伝えあってくれているんですよ。そうやって広げてもらっていることにも感謝しています。

――最後に今後の展望についても教えてください。

智世:今後はオーダーメイドもやっていきたいと思っています。以前、展示会に来てくださったお客様でとても体の大きな方がいて、ブローレンヂの服も入らなかったんです。そのときは、本当に申し訳なくて。もし、オーダーメイドだったら、その方にぴったりの服を提案できます。オーダーメイドまでご希望してくださる方は、きっとこれまでに着たい服が着られずにたくさん苦しんだり傷ついたりしてこられた方だと思うんです。その人に本当にぴったり合って、きれいで魅力的に見える服を提供したい。着るだけで自分のことが大切に思えて、自信があふれだす。そんなふうになってもらえたらいいなと思っています。(了)

撮影/楠本 涼
執筆/市橋 かほる
編集/佐藤 友美

ブローレンヂ智世さん
「ブローレンヂ」デザイナー兼代表
1986年長崎県生まれ。高校卒業後、アパレル店などで勤務。25歳で関西大学に社会人入試で入学し、認知心理学などを学ぶ。卒業後の2017年、男性の体型でも可愛く着られるジェンダーフリーのアパレルブランド「ブローレンヂ」を立ち上げる。2018年には東京大学・安田講堂で歴史上初となるファッションショーを開催した。社名のブローレンヂは、ブルーとオレンジを掛け合わせた造語。ブルーとオレンジがぼんやり混ざり合う美しい夕焼けのイメージと男女の境界を重ね合わせている。
https://blurorange.jp/

【この記事もおすすめ】

writer