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『デュラララ!!』で体感する2010年の池袋 【新連載 Tajimaxのアニメでたどる平成カルチャー/第1回】

日頃「平成カルチャー」について記事を書いたりインタビューを受けたりしているTajimaxが、今一番注目している2010年代をアニメでたどる新連載。あまりにも速いスピードで時代が変化した「平成」最後の空気感を、アニメで紐解く。

『デュラララ!!』に描かれた2010年の「新しい池袋」とファンタジー


『デュラララ!!』(第一期2010年1月〜6月TOKYO MX)は池袋を舞台にした群像劇で高校生、オカルト、カラーギャングを中心とした物語だ。原作は成田良悟による電撃文庫より刊行されたライトノベルで、スタイリッシュな映像表現とアクションシーン、伏線を回収していく構成が多くのアニメ好きの心を掴んだ。

人気声優陣が出演しているのも勿論あるが、特にアニメ好きを公言していなくても、『デュラララ!!』はアニメライトユーザーでも入りやすく、2期以降の「承・転・結」と続くストーリーを観ていなくても、1期の『デュラララ!!』だけは観ていたという人も意外と多い。

それは、ストリート感があるヤスダスズヒトのイラストの力だったり、THEATER BROOKやROOKiEZ is PUNK’Dといったアーティストが主題歌だったりしたのも理由の一つだろう。

『デュラララ!!』と同じ「池袋」が舞台の作品といえば、遡ること10年前、2000年に放送された『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系2000年4月−2000年6月放送)のドラマを思い出す人も多いだろう。
だが、デュラララ!!での「池袋」はひと味違う。『池袋ウエストゲートパーク』でのカラーギャングのイメージから、「ファンタジー」の要素がプラスされ、2010年ならではといった「新しい池袋」の街が描かれている。

池袋の群像劇、カラーギャング、高校生、オカルト、もしくはミステリーといった要素だけでは、2000年の池袋のイメージと何も変わりはない。しかし、そこに「ファンタジー」の要素が加わると、不良がはびこる世界からどこか混沌とした不思議な雰囲気を纏う、ミステリアスなイメージに変貌を遂げる。

では、ここで示された「ファンタジー」な要素と何か?
それは、首なしライダーのセルティ・ストゥルルソン(以下略・セルティ)や力のリミッターを知らない平和島静雄といった、キャラクターたちの存在だ。このようなアニメの世界で成立する存在を作中に導入することで、リアルに描かれた池袋の街並みとのアニメの世界とのギャップが引き立ち、「日常」と「非日常」、「リアル」と「フィクション」が交錯する今までない「新しい池袋」が描かれている。

2010年以降のインターネットと私たちが求める「繋がり」

2000年と比べると、2010年以降は、人と人との繋がり方もだいぶ変わっていった。

2000年頃からインターネットが急速に普及していった。最初私たちは、そこに「情報」を求めたが、次第に、「繋がり」、つまり仲間意識をも求めるようになっていった。

2010年には、私たちの「繋がり」は「リアル」な世界だけではなく、「インターネット」という新たな場でも一般化していく。

「繋がり」という言葉は、一見ポジティブな感じで聞こえは良い。だが、「仲間」や「友達」という、お互いの関係性の確証がない、とても曖昧な言葉だ。しかし、そんな確証がない曖昧な言葉でも、「繋がり」は、どこか私たちの心を安心させたり、拠り所になったりもした。

この2010年特有の「繋がり」は、『デュラララ!!』において、顕著に表現されている。

とくに、『デュラララ!!』に登場する「ダラーズ」の集団は、最も2010年以降の「繋がり」を感じさせる存在だろう。

作中で描かれる、カラーギャングの「ダラーズ」は、不良でなくても誰でも入れる。
 ネット上の『ダラーズ専用サイト』を媒体として、サイトにアドレスを登録することでメンバーとなれるシステムだ。 その特性上、縦横の繋がりが極端に希薄であり、たとえメンバーでも、リーダーはおろか現実でのチームメイトが誰なのか知らない。
それ故に、チームカラーは「無色透明」であり、見た目が不良ではない、所謂「普通の人」という名の「保護色」に包まれている。 

ケンカが強いとか、どれだけ名の知れた不良が所属しているとかは関係ない。「ダラーズ」の一番の強みはサイトの「登録者数」、すなわち「数」なのだ。
一期では、暴力を振るうことなく圧倒的な「数」を知らしめることにより、敵対する矢霧製薬の組織を退けた。作中における、この描写はまさに現在のSNS社会を予見させるものがある。

時代はSNSが「mixi」から「Twitter」へと流れが変わりつつあった頃だ。2000年初めの、「コミュニティ」に所属する連帯感ではない、もっと多くの人と情報を共有すること、そして、拡散力で得る、バズやトレンドのような一体感。そこには、私たちが「2010年」以降に求める、他者との「繋がり」が垣間見える。

作中に散りばめられた「2010年」の欠片たち

『デュラララ!!』には多くの「2010年」の欠けらが散りばめられている。
セルティが使用している「HTC Shift」(2008年に製造された台湾メーカーの小型情報端末機)や竜々峰帝人が使用している「au INFOBAR 2」を模したデザインのガラケー、また2000年初期に流行したチャットルームの存在も2010年前のカルチャーを感じて面白い。「池袋」の街も含めて、まさに『デュラララ!!』は「2010年」をピンポイントに感じることが出来る作品だろう。セルティが黒バイクで屋上から駆け降りた東急ハンズも、ワゴン組の車が置いてあったサンシャイン通りの駐車場も、もう池袋にはない。

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