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データも型も大事。でも、愛はもっと大事。『Business  Insider Japan』編集者/野田翔さん。【編集者の時代 第3回】

CORECOLOR編集長、佐藤友美(さとゆみ)が、編集者に話を聞くシリーズ「編集者の時代」。

激動の時代を生きる若きビジネスパーソンをターゲットに、ストーリー性のあるビジネスニュースを届ける『Business Insider Japan』。今回登場するのは、人気企画「ミライノツクリテ」の担当編集者、そして『Life Insider』の編集チーフでもある野田翔さん。野田さんは編集者としてライフスタイルメディアのPVを10倍に伸ばした経験を持つ、データに強い編集者だ。実は、アニメ好きが高じてエンタメ業界で働いてきた、自称「オタク」でもある。畑違いの業界から転職した野田さんが、ビジネスメディアで活躍するに至った理由とは? 

聞き手/佐藤 友美(さとゆみ) 構成/早坂 みさと

未経験で突然編集長。PVを10倍に増やした戦略

──これまで何度かライターとしてお仕事させてもらいましたが、野田さんの編集者人生についてお聞きするのは初めてです。早速ですが、野田さんってこの会社、出戻りだと聞いたことがあります。

野田 そうなんです。3年勤めた後に転職したのですが7ヶ月で戻ってきてしまいました。戻ってからは、『Business Insider Japan』で編集者をしています。

最初にメディアジーンに入社した時は編集者じゃなくて、ディレクターだったんです。編集者は記事を作りますが、ディレクターはメディア自体をよくする仕事。記事の分析からSNS運用、サイト構造の改善、イベント運営まで、手広く携わっていました。でも、事業のエンジンは何かといったら、コンテンツなんですよね。コンテンツを作らなければ、本当の意味でメディアをよくすることはできないと痛感し、入社の翌年から編集者を希望しました。

幸い、本人のやる気やポテンシャルを大切にしてくれる会社だったので、最初はディレクターとの兼任で、ライフスタイルメディア『ROOMIE(ルーミー)』に入らせてもらい、編集者として結果が出せたので、翌年には編集一本でやることになりました。

── どんな結果が出たのでしょうか?

野田 最初の3ヶ月でPVが2倍に。最終的には、2年で10倍のPVとなりました。

── 10倍!? どうやったらそんなことになるんですか?

野田 まずは、サイトのトップページをテコ入れしました。編集者が推したい記事の一覧と新着記事の一覧の表示の順序を入れ替えて、新着記事を目立たせるようにしたんです。編集部がピックアップする記事は更新性が低く、常にファーストビューが同じだったためです。

あとは新人ライターを発掘し、記事本数を大幅に増やしました。とくに『ROOMIE』のエンジンになったのはレビュー記事です。これは、無印良品やニトリなどの生活雑貨や、さまざまなファッションブランドのアイテムなどを実際に購入して、良い点や悪い点をレビューするというもの。ライフスタイルに敏感な方をどんどんライターとして迎え、30人くらいの方に書いていただいたんです。PVが伸びただけでなく、どんなことを伝えたいメディアなのかが読者に伝わって、ブランドができていきました。

──30人ものライターさん、どのように発掘されたのですか?

野田 『ROOMIE』の読者さんに「ライターを募集しています」とお伝えしたのがスタートです。ライターは未経験だけれど、ライフスタイルにアンテナを張っている方々から応募をいただきました。それから、ライターさんの中でもより『ROOMIE』と親和性の高い方を編集部員として迎え、またその人たちがお友達を連れてきてくれて、ライターの輪を広げることができました。

── 未経験の方に書いていただくために、どんなことをされましたか? 私も未経験の方にライティングを指導しているので、聞いてみたいです。

野田 最初は皆さんどうやって書けばいいのか分からないので、どんな原稿が読まれているのかデータを分析して検証を重ねて、最も読了率が上がる型を作りました。その型を元に執筆を依頼していました。

── どんな型なのか、気になります。

野田 企業秘密な部分もあるのであまり言えないのですが(笑)。レビューに関しては、いいところ、いいところ、悪いところ、いいところという、4つのポイントで書くのが基本の型です。編集部員でさまざまなパターンを出し分けた結果、「この型だといつも数字がいいね」というのが、分かった感じです。

タイトルのABテストができる仕組みも取り入れました。同じ内容の原稿を2パターンのタイトルで出すんです。例えば、Aは「こうなりたい」という欲求軸で、Bは「この問題を解決したい」という欲求軸。公開して2、3時間経つと、PVに差が生まれてくるんですね。読者がどちらの欲求が強いのか見極めることができて、次の記事制作に生かすことができました。そんなことをしていくうちに、どんどん数字がよくなっていったんです。

結果を出せたのは、僕が生粋の編集者ではなく、ディレクター出身だからだと思います。編集者になっても、ディレクターとしての感覚が残っていたんですよね。つまり、数字を見るということです。

僕は、データをベースにする編集者だと自分でも思っています。データと聞くと、冷たいものだと思われがちですよね。だけど、データは読者の実際の行動の記録です。想像力を持って向き合えば、決して無機質なものじゃないよなと思うんです。

ディレクターの観点からさまざまな施策を実行したところ、最初の3ヶ月でPVが2倍になって、それからは倍々ゲームのように増えていきました。

── 最終的には10倍にまで。

野田 でも、2年間やっていくうちに「これ以上は、もう伸ばせない」と思ってしまった。仕組みを作るのは得意だったので、一つ大きな実績は残せたのですが、当時の僕には大きな欠点がありました。それは、「編集力」が何なのか、よく分からないこと。編集者としての下積みがないまま編集長にしていただいたので、すべて我流だったんです。

企画においては従来の枠をはみ出ることができないし、数字が伸び悩んだ時に次の打ち手が出てこない。編集力を磨かないといけないと焦りつつ、どんどん上がっていく売り上げ目標にばかり気を取られて、当時はそこに向き合うことができませんでした。逃げたんです、編集から。

それから転職して、大手エンタメ企業の広報になりオウンドメディアのディレクターを担当しました。でも、紆余曲折あり、結局そこを7ヶ月で退社。また、今の会社に出戻りしたんです。

── なかなかにスピーディなお戻りで(笑)。

野田 社長も苦笑いです……(笑)。役員の方が「野田くん、もう一回編集長やってくれるの?」と言ってくださり、とても嬉しかったんですけど、「いち編集部員として、先輩のもとで学ぶ期間がほしいです」と、お願いしました。「浜田さんのもとで働く経験をさせてください」と。そこで『Business Insider Japan』の配属になり、浜田敬子さんの直下で学ぶことになりました。

赤点の「赤」ではなく、血の通った「赤」字を届けたい

── 浜田 敬子さん。『AERA』の元編集長で「現代の肖像」などをずっとご担当されていた方ですよね。『Business Insider Japan』の立ち上げ時に転職されたときはすごく話題になりました。

野田 はい。『Business Insider Japan』の元・統括編集長です。このメディアの価値観を作り上げた方と言っても過言ではないと思います。

── 浜田さんから、どんなことを学ばれたのですか?

野田 企画の立て方や見出しの付け方といった編集の仕事はもちろん、ライターさんとの付き合い方、普段の生活で意識することなど、あらゆることを叩き込んでいただいたと思っています。特に印象に残っているのは、「面白いものを作りなさい」という教え。ライターや編集者が心から面白いと思っていなかったら、続かないし、結果も出ないでしょう。そんなの楽しくないから、とにかくワクワクすることを追いかけなさい、と。

そして、ライターさんに寄り添って、ライターさんと一緒に面白いものを出していこう。そんなことを浜田さんはおっしゃっていました。僕、それを聞いてハッとしたんです。

野田 というのも、『ROOMIE』のとき、編集長としてたくさんの才能を集めることはできたと思うのですが、僕自身が編集者として、担当ライターさんにしっかりと寄り添うところまではできていなかったと反省して。

自分はどういうふうにライターさんと向き合えるんだろうと問い直した結果、いただいた原稿に対して感想を細かく伝えるのはどうだろうと思ったんです。

── そうそう。野田さんが編集される原稿は、コメントがすごく入るんですよね。あんなにもコメントをくれる編集者さんは私のライター人生で初めてで、びっくりしました。

野田 「この表現好きです」とか「ここはちょっと分かりにくいかもしれない」とか。浜田さんに指導してもらって思い出したのですが、こういったスタイルは、実は以前もやっていたなあと。

新卒でアニメーションの制作会社に入社しているのですが、そこで制作進行という仕事をしていたんですね。制作進行は、スムーズに制作を進めるために、スケジュールの管理やアニメーターさんの仕事の割り振りなどをする調整役。

僕がいた制作会社は、業界の中でもアニメーターさんの単価がちょっと低めで、スケジュールもタイトでした。他社だと、もっといい原稿料と余裕を持ったスケジュールを提示している会社もあるので、アニメーターさんからすると、僕らは「受けたくない案件を持ってくる人」になってしまうわけです。だから、工夫が必要でした。

── どんな工夫を?

野田 先輩の多くは、『闇金ウシジマくん』のようなスタイルで案件を進めていました。つまり、「早く原稿上げてくださいよ」と威圧的にアニメーターさんに向き合うというやり方ですね。僕も一瞬試したんですよ。でも、全く性に合わなくて。「クリエイターさんが好きだからこの仕事をしているのに、なぜ好きな人を追い詰めないといけないんだ?」って。

自分なりのやり方がないのかなと考えたときに、「好きなんだったら、好きだと言えばいいじゃん」と気付いたのです。

── 好きな人に、好きだと言う。

野田 制作進行はアニメーションが描かれた原稿をアニメーターさんから受け取るのですが、大半がお礼を言ってそのまま持ち帰るだけだったり、場合によっては対面もせずに宅配ボックスに入れてもらったりするやり方だったんですね。

僕はそうじゃなくて、その場で目を通して、感想を伝えることにしたんです。「この顔最高だな!」「この線、天才ですね!」って。もちろん、嘘じゃなくてすべて本音ですよ。すると、アニメーターさん、みんなびっくりして。こんなことをする制作進行はいないと、すごく喜んでもらえました。

末端である僕の働きかけで、単価を高くするとか、スケジュールを長くするのは、難しいかもしれない。でも、自分のできる範囲でも何かできるんじゃないかと考えたら、「愛を伝える」だったんですよね。数百時間の残業時間で体を壊してしまって、1年ほどで辞めてしまいましたが、当時のアニメーターさんたちとのお付き合いは続いています。

── 素敵ですね。

野田 浜田さんはすごい人なので、めちゃくちゃ的確な修正を入れられるわけです。でも僕は、浜田さんには到底なれない。だから、自分にできる修正の提案だけではなくて、愛を伝えることをもう一度やろう、と決めたんです。

── ライターさんの反応はいかがですか?

野田 アニメーターさんと同様に、驚きながらも、喜んでいただけていると思います。そもそも僕、「赤字を入れる」という表現が好きじゃなくて。「赤」っていうのが嫌ですよね。赤点みたいな、ネガティブな印象がある。少なくとも、自分が入れる赤字は、なるべく血の通った「赤」として受け取って欲しいなって思っています。

── 「ライターに寄り添う」で思い出しましたが、野田さんとご一緒すると、取材相手に必ず「ライターの佐藤です」と紹介してくれますよね。外注先のライターを紹介する際には「佐藤さん」と敬称をつける編集者さんが多いので、印象に残っています。

野田 あ、たしかに! 今気づきました。「佐藤さん」ではなく、「佐藤」と呼び捨てさせてもらっていますね。失礼ですいません……。多分、無意識的に「中の人」だと思っているからだと思います。

── やっぱりそうだったんですね。

野田 ライターさんは、メディアのパートナーであり、一緒に結果を出してくれる仲間なので。

── 原稿を書いたあとに話し合いをすることもありましたよね。特に記憶に残っているのは、「シーンを必ず書いてほしい」という言葉。

野田 そう! それは絶対に大事ですね。そのシーンが目に浮かぶ光景を書いてもらいたいんです。

そのためにもインタビューは、「そのときはどういう気持ちでしたか?」で終わらせない。「どこにいたんですか?」「何をしていたんですか?」「その日の体調は?」と聞いていくと、取材相手はどんどんその時のことを思い出す。

僕は今、「ミライノツクリテ」というインタビュー連載を浜田さんから引き継いでやらせていただいていますが、あの特集は、情報を伝えるだけの「記事」ではなくて人生という「物語」だと思っています。ノンフィクションの、実在の人物が登場する物語。そう考えると、映画や漫画と同じで、5W1Hがないとおかしい。シーンで書くと読者がグッと入り込みやすくなるので、ライターさんにも意識していただくようお願いしています。

入口は低く出口は高い、ジブリのようなメディアを作りたい

──「ストーリーを作る」と考えたとき、 ほかに大切にしていることはどんなことですか?

野田 コンテンツ作りで何よりも大事なのは、感情の設計。特に、終わりの感情を設計することにこだわっています。読後感こそが、そのメディアのブランドになると思うんですよ。

── ブランド。私もメディアを運営しているので、すごく興味があります。

野田 例えば、「勉強になった」を終わりの感情とするならば、インタビューを読んでも、コラムを読んでも、レビューを読んでも、「勉強になった」で終わらないといけないんです。

逆に言えば、この読後感さえ決まっていれば、どんな記事を出してもそのメディアのイメージは一定になる。「あのメディアを読むと勉強になるよね。読んだらいいよ」と言われるようになる。それこそが、ブランドであると思っています。

僕は2022年12月から『Life Insider』という『Business Insider Japan』のバーティカルメディアに携わっているのですが、ジブリみたいなメディアにしたいと社内には話しています。

── ジブリみたいなメディア?

野田 例えば、ジブリって「面白くて、ためになった」が終わりの感情だと思うんです。面白いだけじゃなく、考えさせられる、勉強になる。

これは宮崎駿さんが著書の中でおっしゃっていたんですけど、チャップリンのような作品を理想的なエンターテイメントだと考えていると。

チャップリンの映画は、最初は純粋に「面白そう」と思って見始めるけれど、見ているうちに段々階段を上がっていく感じがある。入口は低いけれど、出口はちょっと高くなって内省できるイメージ。『独裁者』とか、その典型例ですよね。

対してディズニー映画は、「楽しそう」と思いながら見始めて、「楽しかったな」と思いながら映画館から出てくる。入口と出口の高さが同じで、楽しさだけが残る。誰が見ても不快にならない読後感を作っている。

『Life Insider』は、ディズニーよりはジブリ的な記事、ひいては、チャップリン的な記事を出していくメディアにしたいんです。最後に少し、階段を上がるような。面白いだけではなく、考えさせられる、勉強になるメディアに。

── 野田さんが作る『Life Insider』、とても楽しみです。

野田 『Life Insider』は『Business Insider Japan』のB面として始まりました。『Business Insider Japan』はビジネスパーソンの「オン」のメディア。月曜日から金曜日までのビジネスタイムに読んでもらうメディアなんですね。

ただ、当然ながら、ビジネスパーソンも家に帰ったらソファに寝転がってスマホをいじっている時間もあるし、土日は映画を見に行ったり買い物に行ったりしている時間もあるわけです。そういう、「オフ」の時間に読んでもらうものを提供するのが、『Life Insider』です。

── 先ほど原稿の型の話がありましたが、現在もライターさんに依頼する上で型を大事にしているのでしょうか?

野田 いえ、ライター未経験者の方には型を提供したほうが進めやすいけれど、そのやり方が必ずしも良いとは思っていません。記事は、型よりも衝動が大事。「これを書きたいんだ!」という、熱量の部分ですね。

『ROOMIE』の頃に、昔から書いているライターさんに型を押し付けてしまって、ハレーションを起こした苦い経験もあります。「自由に書いていた頃のほうが面白かった、もう書きたくない」とライターさんに言われてしまったんです。型にはメリットもあるけれど、その反面、個人の創造性を殺しかねない。

ライターさんの書きたいもの、解像度が高いもの、出力の高いものを作るのが大前提。その上で、我々編集者はどうやって伝えるのかという手法の話をしていく。先に手法を出してしまうと、平凡なものになってしまう。

── なるほど。

野田 『ROOMIE』の頃、ニトリのアイテムを中心にレビューを書きたいというライター志望の男性がいたんですね。「じゃあ『ニトリ暮らし』ってライター名でやってみない?」と提案して、彼には月2回はニトリに行ってほしいと伝えたんです。

そうしたら彼、月2どころか週2でニトリに行って、自主的に身の回りの主婦の方々に話を聞き始め、企画をどんどん盛り上げていったんですよ。それがめちゃくちゃヒットしたんですよね。やっぱり、最初にライターさんの衝動があって、そのあとに手法がくるんだなって。

── 手法より、衝動。

野田 衝動がなくても「今月は何も浮かばないから、流行りのアレを取り上げるか」と、記事を作ることはできるし、数字が出ることはあるかもしれない。でも僕は、それはあんまりいいことだとは思っていなくて。想いのない出力でたまたまPVが上がったことを、ライターさんの成功体験にしてほしくないなと思っています。

技術はあとでいいので、オリジナリティや作家性をどんどん出していってほしい。自分の中で解像度が高いものをアウトプットしてほしいと思いますね。

新聞出身でも雑誌出身でもないことは、自分にしかない強み

── エンタメ出身者がビジネスメディアへ。野田さんのようなご経歴の方は、ほかにもいらっしゃるんですか?

野田 いえ、ほとんどいないんじゃないかなと思います。メディアジーンは元々『WIRED』を作っていた出版社なので、雑誌の出身者が多くを占めています。『Business Insider Japan』でいうと、新聞の出身者が多いですね。だけど、僕はどちらも全然読んできていないんです。雑誌も新聞も。「その企画はPOPEYEっぽいよね」と言われても、POPEYEがなんなのか分からなかったくらいですから(笑)。

みなさんとソースが違うというのは、一見弱みのようだけれど、実際には強みなんですよね。浜田さんが、「新聞や雑誌の一記事も、マンガやアニメ、映画などのワンシーンも、SNSの一投稿や友人知人の一言も、情報に優劣はない」とおっしゃっていて。そこから何を感じ取り、企画にするかが大事なんだと。「野田くんは、エンタメのジャンルに深い知識がある。それは自分の強みとして使っていったほうがいいよ」と言ってくださったのは、すごく嬉しかったです。

── 強みを認識する瞬間はありますか?

野田 編集部内で「野田くんは、全然違う角度からアイデアを出してくる」と言われたことがありました。僕にとっては当たり前でも、みなさんにとっては当たり前じゃない。同じ文化を生きてこなかったことを、逆に生かせているんだと感じました。

実は、以前所属していたROOMIE編集部は、ひそかに集英社のジャンプ編集部のスタンスを真似していました。ベテランを口説いて連れてくるのではなく、新人を発掘して才能を広げていくことを意識していました。

ただ一つ思うのは、僕のようにソースの違う人間も含め、編集者は、そのメディアの価値を体現するべきだということです。

──メディアの価値を体現するとは?

野田 例えば、ライフスタイルメディアで綺麗な家やおしゃれな生活の素晴らしさを取り上げている人間の私生活がボロボロだったら、それは嘘じゃんと思ってしまいます。編集者はメディアの価値感を体現している当事者でないといけないと僕は考えています。

『WIRED』の創刊編集長である小林弘人さん(メディアジーン 取締役CVO)に社内向けの編集講座をやっていただいた時、「紙は世界観で、ウェブはコミュニケーション」だとおっしゃっていました。「20代向け女性誌の編集長を50代の男性が務めることもできる。なぜなら、世界観は作り込めるから。でも、ウェブはそれができない。なぜなら、リアルタイムだから。今日の出来事を数日後には記事にしていくし、読者はSNSでリアルタイムで記事を目にする。ウェブ媒体の編集部員は、最も等身大でいなければいけない。コミュニケーションは偽れない」というお話でした。

その考えにすごく共感して、自分も体現者でありたいと思うようになったんです。

── 体現者。

野田 特に、僕はホワイトに働いていたいし、周りのみんなにもホワイトに働いてほしいタイプ。自分自身がライフスタイルを大事にしている人間なので、みんなのライフスタイルも大事にしたいと思っています。それが企画に還元され、読者の利益になるはず。その上で、ライターや編集者のみなさんと、グルーヴ感のある編集部を作っていきたいですね。

僕の一番好きなジブリ作品は『風立ちぬ』なんですけど、その中で、同僚とやいのやいの言いながら、議論している場面があって。「全然違うだろー!」ってヤジが飛んだりするんですけど。みんな、飛行機が好きという共通点があって、暑苦しいけれど、情熱そのものなんです。

今はリモートがメインで直接話す機会は少ないけれど、職場のありかたとして、あの一体感は理想的だなと。編集部にグルーヴ感がないと、リアルタイム性が大事なウェブではいいメディアにならないと僕は思っているので。『Life Insider』は、『風立ちぬ』のワンシーンような編集部を目指していきたいですね。

野田 翔(のだ・かける)
1992年生まれ。Business Insider Japan編集者。大学卒業後、第二新卒として株式会社メディアジーンに入社。ライフスタイルメディア『ROOMIE(ルーミー)』の編集長を2年務め、メディア規模を10倍に成長させる。その後、国内大手ゲーム会社でオウンドメディアディレクターを務めたのち、株式会社メディアジーンに戻り、Business Insider Japan編集部へ合流。有料サービス「BI Premium」の編集を経て、Life Insiderの編集チーフに。

撮影/深山 徳幸
執筆/早坂 みさと
編集/佐藤 友美

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