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白鳥になりたければ白鳥の湖へ~目標達成のためにできること1【絵で食べていきたい/第10回】

「絵で食べていきたい」と思う人たちの中には、どちらかといえば内向的で1人で行動するのが好きな人もいるかもしれません。私自身、1人の時間がないとすぐつらくなります。それでも、夢だった絵の仕事を続けていられるのは、付き合う友達や仲間の影響がとても大きかったと感じています。今回は目的達成という面から、人との出会いや付き合いの大切さを考えたいと思います。

やりたいことへの近道は、すでにやっている人と会うこと

昔から、不思議に思っていることがあります。スポーツの世界などで、何年も破られない「前人未到の記録」があっても、1人がそれを破って新記録を作ると、その後には次々に同じ記録を出し、さらにそれを超える人が続くことです。フィギュアスケートの4回転ジャンプ(クアドルプル)など、私が10代の頃はマンガの中で描かれた夢でしかありませんでした。でも今や、何人ものアスリートがこの技をこなしています。もちろん、同時にたくさんの人がそれを目指していたから同じ時期に花開いたのだ、と考えることもできます。でもそれ以上に、1人でも実現した人がいれば「人間には不可能だと思っていたが、そうではなかった」と、周りの人の認識が変わるからではないでしょうか。

これはスポーツに限らず、どの世界でも当てはまることだと思います。不可能だと思っていたことを実際に目の前でやられると「もしかして私にだってできるのでは」と思うのです。それが身近な人なら尚更です。

前置きが長くなりましたが、今回私が書きたいのは、「何かやりたいことがあるなら、実際にそれをやっている人に会ったり、行動を共にしたりするのが効果的」ということです。たとえば、絵で食べていきたいと思ったら、すでに絵で食べている人に会ってみる。もし今「絵で食べていきたいけど難しい」と思っている人とばかり付き合っているなら、「難しくても食べていく」と実際に一歩踏み出している人たちと付き合うようにするのです。タイトルの「白鳥になりたければ白鳥のいる湖へ」とはこういう意味です。

私が白鳥の湖で実現できたこと

目標を達成したかったら、すでにその目標を達成している人たちとつながる。私も実際に何度もこの効果を実感しています。といっても、私の場合、最初に立てた目標は「これからは絵で食べていきたい」ということだけでした。それ以外の目標は、先に人とのつながりができてから新たに見つかったことが多いのです。どういうことかというと、一緒にいる人たちがやっていることを見て「え、そんなことができるんだ。じゃあ私もやりたい!」と、目標そのものが新たにできたり、やりたいけれど自分には無理だと無意識にあきらめていた目標に気付いたりしたのです。たとえば、こういったことがありました。

・友達が本を出したら、自分も出せそうな気がしてきた!

雑誌のカットの仕事がメインだった頃、私にとって「自分の本を出す」のは、憧れではありましたが違う世界の話で、遠い目標でした。そもそも、イラストレーターが本を出せるとしたら、画集を出すことくらいしか思いつきませんでした。しかし、SNSをきっかけに同業の、しかも仕事先が重なる友人ができると、少し認識が変わりました。この同業の友人たちとの付き合いを「湖A」とすると、「湖A」のうちの何人もが著書を出しているのに気が付いたのです。私と全然違うジャンルの仕事をしている人ではなく、同じ女性誌などでカットを描いている人たちです。それぞれの本の内容は、自分の趣味や気になる分野をテーマにしたイラスト入りのエッセイだったり、実体験のコミックエッセイだったりと様々です。はじめのうちは「どうしてみんな、本を出せるのだろう」と不思議に思い、うらやましがるだけでした。でもそのうちに、同じように「うらやましいね」といい合っていた友達までもが、本を出しはじめたのです。もともと負けず嫌いの私ですから、悔しくないはずがありません。「本を出せたらいいな、どうやったら出せるのかな」から、一気に「みんなができているのに、私だけできないなんておかしい!」へと意識が変わりました。

ここでやっと私は「いいなあ、私も本を出したい」とはっきり口にできるようになりました。実際の経緯は長くなりますのでまた別のところでお話ししますが、願いを言葉にできてから3年後には、はじめての著書を出版しました。イラストルポでもコミックエッセイでもなく、自分の作った仮面作品の写真とその作り方に、イラストや文章を添えた、ジャンルでは「趣味実用」といわれる本です。もし本を出している人たちと友達になっていなければ、これは絶対に実現できなかったことだと思っています。

・初のコミックエッセイも友人のおかげ

以前(第6回)にも書いたのですが、私がはじめてコミックエッセイの本を出せたのも、「湖A」ですでにコミックエッセイを描いている友人が編集者さんに紹介してくれたのがきっかけでした。そもそも、コミックエッセイを描きたいと思ったのも、周りの友人たちが当たり前のように描いていたからではないかと思います。それまでコミックエッセイを描いたことがなかったので、もし一から持ち込みなどをしていたら、描かせてもらうのにそれこそ何年かかったかわかりません。この時の本は原作者が別にいて、作画担当の人が描けなくなったために代理で描く、という特殊な案件でした。こういうチャンスこそ、公募などでは得られないものです。同じ「湖」にいることで、こういった恩恵にあずかる可能性も増えてきます。はじめてのコミックエッセイ執筆は苦労もありましたが、周囲には何冊もコミックエッセイを出版しているベテランがたくさんいて、それを読んでいたことがかなり役に立ちました。もちろん、友人たちのすごさを改めて実感して、自分の未熟さに悶絶もしましたが、ここでも、「みんなが描いているのだから、私にだって描けるはず」という気持ちが支えになりました。

・展示やイベントをしている人たちと行動すると次の誘いが来る

はじめて個展をしたのはフリーランスになって10年目でしたが、それをきっかけに、展示やイベントをメインに活動する人たちと知り合うことができました。まず個展でお世話になったギャラリーの方が企画展やグループ展に声をかけてくれました。そこで何人かと知り合うと、同じようなイベントに参加している人たちとのつながりがさらに増えました(このつながりを「湖B」とします)。展示のやり方、場所の選び方、物販のコツ、ディスプレイの仕方など、色々なイベントや展示に参加するたびにレベルアップができました。グッズを作るのが楽しくて色々種類を増やしたのもこの頃です。そしてその流れで、思いもよらない「台湾のイベントにイラストレーターとして作品やグッズをブースで出展する」という貴重な経験もできました。この時は周りから「すごいね、どうやって参加できたの」と聞かれたものです。私も「湖B」での付き合いがなければ「一体どんな人が外国でのイベントに参加できるのだろう」と思う側だったはずです。

今思えば、最初に未経験でいきなり個展を開くような無謀な真似をせず、先にこうしたグループ展などで経験を積んでから集大成の個展をすればよかったかもしれません。もともと私は「なんでも1人でやろう、できる、なんならそのほうが手間がなくて早い」と思ってしまうタイプなのです。でも今は、経験のある人から教わり、一緒に活動したほうが、学びが早い上に成果も大きいことを知っています。個展をする前に、先に他の展示やイベントをたくさん見てまわり、いいなと思った展示をしている人にはどんどん話を聞かせてもらうと思います。

・収入の高い人に会うと、収入を上げやすくなる

同業者の友人たち、「湖A」の人数が増えていき、付き合いも深まってくると、売れっ子の内輪話などを聞く機会も増えます。それまで自分の稼ぎに対して、まあ悪くない方だろうと満足していた私は、ここでもまた「え、皆そんなに稼いでいるの」と驚くことになりました。もちろん人それぞれなのですが、私が頑張った年に得た、過去最高の収入額を、当然のように常に超えている人たちもいたのです。憧れの先輩イラストレーターが、というなら話もわかります。でも、私よりも若かったり、デビューしてからの年数が短かったりする人でも、稼げる人は稼いでいました。当然私の闘志はメラメラと燃え上がりました。

けれど一方で、たくさん稼いでいる人たちの働きぶりも目の当たりにすることになりました。目標を実現した人たちに会うたびに思うのですが「そんな道があるのか! 知らなかった」と驚くこともある一方「やっぱりそれをしないといけないのか……近道はないのか」と改めて思い知ることもあります。たとえば、イラストを描くだけでなく、アニメーションにして動かすところまで自分でできれば、1件あたりの受注金額はグッと高くなる。けれど、その分描く枚数も作業も増えるので、時間給で考えるとさほど上がっている訳ではなく、仕事の総量も増えているようだ、ということがわかったりします。負けず嫌いのくせに怠け者の私は、これまで以上の枚数を描いたり、仕事量を増やしたりして収入を上げるのは、正直大変だなと感じました。それよりはむしろ、今の収入をキープしながらもっと楽に仕事を続ける方法を、稼いでいる人たちから学べないかなと思ったのです。単価の上げ方、効率よい仕事のすすめ方など、学べることは色々ありました。極端な例を挙げれば、同じ媒体でもイラスト単価が自分より高い人もいるとわかるだけで、料金交渉がしやすくなるものです。交渉すれば同じ稿料がもらえるとは限りませんが、それでもおかげで随分、以前よりは働き方をセーブしつつ収入をキープできているように思います。

とはいえこれには負け惜しみも含まれており、効率よく働いた上にどんどん収入を伸ばせればもちろん文句はありません。「3000万円稼いでいる人たちと知り合ったら、3000万円稼げるようになりました!」「でも、前よりゆったりと働いています!」くらいはいってみたいところです。が、今のところ「稼いでいる人たちは基本的にすごく働いているか頭をつかっている、あるいはまめである」という認識のほうが強まってしまい、「自分にも当然あの金額が稼げるはず」と思えるまでの意識改革はできていないようです。

白鳥の湖はどこにある? コミュニティへの入り方と、気を付けたいこと

という訳で、何か目標を達成したい時には、すでにその目標をクリアしている人たちとつながろうという話をしてきました。でも中には「それが難しい」「そもそも、その湖がどこにあるのかわからない」と思う、かつての私のような人もいるかもしれません。なにしろ私自身、20年近くやってきてそれに気付き、ようやく意識して行動しはじめたところです。今思えばあれをしたから湖に行けたんだなという私の経験や友人たちの話をここにいくつかシェアしますので、参考にしていただけたらと思います。

・SNSなどでつながる

私が駆け出しの頃、イラストレーターを目指す友人たちを見つけたのは、インターネットの掲示板でした。この掲示板で集まった仲間の中には、同じような駆け出しだけでなく、すでにたくさんの実績がある先輩イラストレーターもいたのです。当時はSNSもない時代です。その頃から比べると、今は格段に同じ志を持った人とつながりやすくなりました。活躍しているイラストレーター自身が積極的に発信して交流が生まれていることも珍しくありません。そういう人の中でも、自分が憧れる仕事をしている、興味のある人とつながることをお勧めします。「この人ならフォロワー数も少ないから、つながってくれるかも」というような気持ちで付き合う相手を選ばないことです。その気持ちは相手に必ずどこかで伝わるし、いずれ自分もつらくなるからです。そして、自分がやりたいことを実現している、目標となる人を見つけたら、積極的に相手にギブするようにしましょう。相手の発信に感想コメントを返すのでもいいし、著作や作品を買って感想を伝えるなど、相手に貢献するのです。自分が本当に興味のある相手なら、そんなに難しいことではないと思います。イベントがあれば参加するのもいいし、そこで直接会うことができるかもしれません。そこでも自分をアピールするより、まず「よき参加者」であるように努めたいところです。「私がやりたいこと」を受け入れてもらう前に、「相手がしてほしいこと」を考えてみて下さい。

・学校や講座に通う

改めて美大を目指す! という大それたことでなくても、専門学校や短期スクール、セミナーなどに通うことは、絵などを学ぶだけでなく、同じ目的を持った仲間を作るためにも有効です。そもそも、こういった学校やセミナーで教えてくれる講師自身が「自分の目標を達成している経験者」です。もし今、すでに学校にいるなら、先生から講義を受けるだけでなく、もっとたくさんの情報や経験を教えてもらう気持ちで学ぶといいと思います。そして一緒に学ぶ生徒は、同じような目標に向かう同志のようなものです。私の知っている、あるプロイラストレーターのグループは、専門学校の同期生で結成されているそうです。卒業後も各々がフリーランスとして活躍し、またグループとしての活動もすることで、より幅広い仕事ができます。もちろん仲間を作るとは、毎回飲み会に参加しろということではなく、そこで生まれた関係性を大事にするという意味です。

・直接会いに行く

友人知人には、自分が仕事をはじめる前から「それまで全くつながりのない憧れの先生や、大御所のイラストレーターに会いに行った」という剛の者もいます。ある人はまだ子供の頃に有名マンガ家に会いに行き、またある人は憧れのイラストレーターに直接面会を申し込んで会ってもらっています。これができたのは相手から「この人なら会ってみてもいい」と思われるような行動力と情熱、そして人柄があってこそだと思います。私の場合、憧れの人となると自分からは遠すぎて、「いつかはああなりたい」と思っても、「会いたい」とまではなかなか思えません。けれど世の中にはそんなことができる人もいる、と知るだけでも、自分なりに次の行動が見えてくるのではないでしょうか。憧れの人に実際に会う体験は強烈なはずです。意識改革への影響は計りしれません。

ここまで書いて思い出しましたが、私も過去に、子供の頃から憧れていたマンガ家の先生に、直接会わせていただくチャンスがありました。一緒にお食事までできたのですが、もう緊張しまくってしまい、なんとかお話しするのが精一杯でした。一方、私の友人には同じ「憧れの先生」とそのまま「趣味友達」になってしまう人もいたのです。その友人と私では絵の力にも差がありましたが、それを別にしても、友人が今ではその憧れの先生と親しく付き合ったり、関わりのある仕事をしていたりするのを見ると、自分を振り返って比べてしまい、うらやましく思います。そもそも友人は、仕事を一緒にしたいから友達になったわけではないでしょうし、相性や人柄といった要素ももちろんあります。でも、もし私が本気で後悔していて、同じように憧れの先生と何かしたいと思うなら、たとえば紹介してくれた友人に頼んでまた会わせてもらうとか、積極的にイベントなどに参加するとか、何か行動しているはずだと思うのです。結局私の場合、本心では「憧れの先生」と「ファン」という関係以上にはなろうとしていないのだと思います。

考えてみると、会いたい人に迷わず会いに行く友人たちは、自分のやりたいことが常にはっきりしていて、その目標に一番近い人は誰かと考え、まっすぐ最短距離を選んでいるのかもしれません。結果として志が近い者同士なので、年齢もキャリアも超えた交友関係が生まれるのでしょう。実際、このように行動を起こす人が目標を達成するのはとても早いと感じます。やり方は人それぞれ、タイプの違いでもありますが、自分の場合とどこが違うのか考えてみることは、結構大事だという気がします。

話がそれましたが、ここに書いた以外にも、自分の目標を達成した人を見つけて、会って話を聞くなど、一緒に行動する方法はあると思います。遠くであれ身近であれ、追いかけたい人を見つけたら、あの手この手でなんとかその人たちと交流してみて下さい。きっと、自分で無意識に設定していたリミットを超えて、新記録が出せると思います。

ちなみに「そんなに付き合う相手を増やして大丈夫かな?」と心配する人もいるかもしれません。実際、人間が一度に付き合える人数は限られています。たとえば誘われた全ての行事に参加したり、濃密な付き合いを続けていたりしたら、自分の時間がなくなってしまいます。そこまで無理をする必要はなく、今自分にとって一番大事なことを優先しながら、できる範囲でつながりを持てばいいのだと思います。一度仲間になったなら、その後に関係が薄くなってもゼロにはなりません。それに自分だけでなく相手もまた、やりたいことが変われば付き合いから離れることもあるのです。そういう時は、応援し合える関係でいるためにも、お互い前向きに送り出しましょう。

文/白ふくろう舎

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