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絵の仕事にはどんなものがある?【絵で食べていきたい/第11回】

「絵で食べていきたい」と思った人がイメージする「絵」や「絵の仕事」というのは、人によって偏りがあるように思います。仕事を始める前の私にとって「絵の仕事」とは、主に出版や広告の業界で自分が目にしてきたような絵を描くことでした。でも実際に絵を仕事にしてみると、そこは想像していた以上に広い世界でした。知らない、あるいは知っていたのに目に入っていない仕事がたくさんあったのです。

思ったより多かった「絵の仕事」

絵を仕事にしたいと思った時、駅ビルに貼られた巨大なポスターや、書店に並ぶ華やかなイラスト集、キャラクターグッズの原案など、憧れの、やってみたい仕事が数多くありました。その上で、私が仕事を得るために最初にしたことは、雑誌の編集部への持ち込みでした。雑誌に自分のイラストが載ったらいいなあと思ったのはもちろんですが、理由はそれだけではありません。自分にとって一番身近で、道筋がぼんやりとでも見えていたのは、出版社への持ち込みだったからです。

スタートは雑誌のカットイラストでしたが、現在までに、私が手掛けた絵の仕事の種類は随分増えました。憧れていた駅ビルキャンペーンのキービジュアルの依頼を本当にもらった時は嬉しくて、何度も現地に見に行きました。やってみたかった仕事以外にも、実際に依頼されてはじめて「こんな絵の仕事もあるんだ、自分にもできるんだ」と気づいたものも多くありました。これほど様々な絵の仕事があって、自分にもそれを描くチャンスがあることに、以前の私は思い至らなかったのです。

当時の私と同じく「絵で食べていきたい」と考えている人たちの中には、無意識に自分で「絵」や「媒体」のジャンルを限定している人もいるのではないかと思います。自分の見ている範囲以外にも、仕事になる可能性があるとわかれば、少しハードルが下がるかもしれません。意外と身近に、絵を描かせてくれる人がいると気が付くこともあるでしょう。どんな仕事があるのかを具体的に知ることで、これまで以上に可能性を広げられるかもしれません。

ご参考までに、私がこれまで実際に受けたことのある仕事を大まかなジャンルで分けてみました。厳密に分類できないものも多いのですが、あくまでざっくりと感じを掴んでいただけたらと思います。

・出版

雑誌の挿絵・表紙・グラビア撮影の背景画 書籍の装画・挿絵 パンフレット 教科書 学習参考書 企業の社内報 各種会報誌 フリーペーパー イラスト素材集 

・広告

新聞広告・雑誌広告(純広告とタイアップ広告) 広告マンガ 商業施設のキャンペーンビジュアル(ポスター・パンフレット・店内装飾・映像・チラシ) 交通広告(駅のポスターや電車の中吊り) テレビCM動画 DM イラストマップ 

・ウェブ(出版・広告でウェブ媒体に展開されるもの)

ウェブサイトのバナー 記事のサムネイル(記事一覧に表示される縮小画像)・カット ランディングページ アプリ(占いや診断ほか)のイラスト LINEスタンプ ウェブコンテンツ用CM動画 キャラクター制作

・放送、演劇

テレビ用イラスト(番組内のフリップやイメージイラスト) 演劇の背景用映像イラスト ライブや公演の映像・フリップ 公演ポスター

・流通

商品パッケージ 説明書 通販カタログ ストアサイン(看板など) のぼり 店頭POP メニュー表

・コンテンツ(ここでは「創作物」的な意味)

コミックエッセイ・ストーリーマンガ(書籍・電子書籍・アプリ配信など) イラスト入りエッセイ・コラム 絵本 塗り絵 実用書

・ゲーム(この仕事だけはフリーランスより前、ゲーム会社の契約社員として受けました)

 コンシューマーゲームのグラフィック(ドット絵) NPC(プレイヤーが操作しないキャラクター)のデザイン

・その他

 観光地の案内看板 工事中外壁のイラスト 自動販売機用画像

ざっと思い出せるだけでも、これくらいの種類がありました。もちろん、私が受注したことのない仕事もまだまだあります。たとえば、以下のようなもの。

CDジャケット カレンダー 飲食店や美容サロンなどの店内・店外の壁画 カードゲーム用イラスト ゲームグラフィック アバターデザイン キャラクターデザイン アニメーション(原画・動画) グッズ・雑貨用のイラスト アパレル用のイラスト テキスタイルイラスト MV 動画のイラスト CMのコンテ ストックイラスト 制作動画配信 法廷画 映像やゲームのコンセプトアート制作 ファッション画 医療・科学誌のサイエンスイラスト グラフィックレコード  ホワイトボードアニメーション など

このようにひとくちに絵の仕事といっても、媒体や使用目的によって、数えきれないくらいの種類があります。さらに、描くことそのものでなく、キャリアを生かしたイラストやマンガの講師なども含めると、できる仕事はさらに広がります。

私は「イラストレーター」? 「マンガ家」?

私は現在自分の職種を「イラストレーター」としています。でも、上に書いたように時にはマンガも描きます。昔は絵を展示して販売したら、「画家」と呼ばれたように思いますが、最近ではイラストレーターが作品を展示販売することは珍しくありません。

一方、同じイラストレーターでも、描く内容によってさらにジャンルを分けて「ファッションイラストレーター」「テクニカルイラストレーター」などと名乗る人もいます。さらに「コンセプトアーティスト」(映画やゲームの制作前に、イメージや世界観をイラストなどで視覚化する人)「コンテライター」(テレビCMなど、映像制作の際に設計図となる一連の静止画を描く人)のように、専門の職名を持つ人もいます。

肩書はどうあれ、いつも同じような仕事をしているとは限りません。いちいち変えるのも面倒なので私はざっくり「イラストレーター」と名乗っていますが、イラストレーターだからイラストの仕事しか受けられないという訳ではないのです。

逆に、必要に応じて職名を変える場合もあります。これは極端な例ですが、以前「日本画の塗り絵用の線画」を頼まれた時のことです。編集者さんからプロフィールの肩書を「日本画家」にしてほしいと頼まれたのです。さすがにこれは困りましたが、仕事によっては肩書を使い分けたほうが分かりやすく、相手にも安心感を与える場合があります。

お伝えしたいのは、職種にとらわれすぎて自分の活動範囲を狭める必要はないということです。逆に、プロフィールなどではうまく職名を使い分けて、自分の仕事をより伝わりやすくできる場合もあります。最近は自分で「〇〇系イラストレーター」などと新しい職種を作っている人も多いようです。たとえば「イラストライター」という肩書をつけた南伸坊さんは、そのはしりとも言えるでしょう。

「稼ぎ方」もそれぞれ、絵の仕事

ここでの「稼ぎ方」とは「就業形態」の話です。絵の仕事というと真っ先に「フリーランス」という働き方が思い浮かぶかもしれませんが、それだけではありません。

初めて就職した菓子メーカーで、社内に「デザイナー職」があることを知った私は、会社に勤めながら絵の仕事(イラストというよりは主に「デザイン」ですが)ができるのかと驚きました。しかも、私はそのデザイナー職ではなかったのに、新製品の社内用マニュアルやパッケージのイラストを頼まれたこともありました。忙しい会社で、自分のやるべき仕事も手一杯だったので、こういった絵を描くのは基本的に時間外の作業でした。それでも好きな絵が描けるのだから文句はありませんでした。何より、給料をもらいながら絵を描けるのだと気づいたのは私にとって大発見だったのです。

このような経験があったので、その菓子メーカーをやめた後は、「次は絵を描くことそのものでお給料をもらえる仕事ができないかな」と思い、当時景気が良さそうだと思ったゲーム会社に応募したのです。さきほど絵の仕事リストにあげたうちの、ゲーム系の仕事はこの会社で契約社員として手掛けたものです。

学生の頃に、「絵の仕事」=「フリーランスで安定しない」「いつ芽が出るかわからない」と思ってすぐあきらめて、別の業種に就職せずに、実情を調べればよかったなあと思うこともあります。でも、会社員の経験があればこそ、私はフリーランスでやって来られたとも感じています。結果として後悔はしていないのですが、選択肢は多いに越したことはないでしょう。当時の私のように、絵の仕事と言えばフリーランス、と思い込んでいる人もいるかと思いますので、この「就業形態」についても書いておきます。

◆会社勤め(通勤・在宅)

デザイン事務所 印刷会社 出版社 メーカー 制作会社(広告・映像・ゲーム・アニメなど)

◆フリーランス

【依頼を受けて仕事をする】

・直接受注(会社・個人から)

対面(リアル)での受注:持ち込み 紹介 エージェント会社経由など

オンラインでの受注:クラウドソーシング スキルマーケット イラストレーター登録サイトなど

・ロイヤリティ(使用料)方式:ストックイラスト 印税 ドロップシッピングサイトなど

【作ったものを販売する】

対面(リアル)販売:展示やイベントで販売

オンライン販売:オンラインショップ マーケットサイトやアプリ

以前書いたように、私にとって「絵の仕事」とは、マンガで賞を獲る、フリーのイラストレーターとしてブレイクするくらいのイメージしかありませんでした。一方、ある友人は私とは逆に、学校を出たけれど、絵で食べていくにはデザイナーとして就職するしか道はないと思っていたそうです。でも、デザイナーとして就職した会社でデザインやイラストを担当するうち、これならフリーランスでやっていけるかも、と意識が変わったのだとか。意外とみんな、たまたま目に入った一部の世界だけにとらわれているのかもしれません。たとえば今なら、SNSで万単位のフォロワーがいないとイラストレーターとしてデビューなどできない、と思っている人も多いのではないでしょうか。

私がイラストの仕事をはじめた頃は、まだクラウドソーシングやスキルマーケットのサイトもありませんでした。絵の講師をするにも、以前なら教室を開く、スクールと契約するといった手間がかかりましたが、今はオンラインではじめることもできるのです。これからも、どんどんクリエイティブワークを支えるシステムは増えていくと思います。情報をキャッチするために常にアンテナを立て、考え方を柔軟にしておくのも、絵で食べていくためにはとても大事なことだと思っています。

文/白ふくろう舎

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