検索
SHARE

アレのことか。【さとゆみの今日もコレカラ/030】

二匹の魚を焼いて食卓に出す時、相手が家族であれ友人であれ、美味しそうなほうを選んで渡してしまうのは、誰しも経験があるのではないかと思う。

ちょうどよく焼けたオムレツ、カリッとあがった春巻き。上手くいったほうを相手に差し出す時、私は亡くなった祖母を思い出す。

小学生の時、両親の都合で、しばらく祖父母の家から学校に通ったことがある。
今でも覚えているのだけれど、当時の給食には頻繁にパック入りの魚の佃煮が出た。私はその味が苦手でいつも持ち帰っては祖母に渡していた。3度目の佃煮パックをランドセルから出した時、祖母がしみじみ、「ゆみは本当に優しい子だねえ」と言ったので驚いて、「え、嫌いだから持って帰ってきてるだけだよ」と答えた。すると祖母はみるみる悲しい顔になり「てっきり、自分が好きなものをおばあちゃんにも食べさせたいと持って帰ってくれたと思っていたよ」と言う。

その時は、チョットイミガワカリマセンと思った。自分が好きなものを人に分けるなんてあり得ない。何を言ってるんだろう、この人は、と感じた。

「祖母が言っていたのは、こういうことか」と気づくまでには、それから数年かかった。以来、誰かによくわからないことを言われたら、そっとポケットに入れておくことにしている。ときどき、「ああ、昔言われたアレのことか」と思う瞬間がある。

祖母は私が高校生の時に亡くなった。棺桶に小刀のようなものが入っていたから、これは何かと住職に聞いたら、「仏様のところに向かう道中、悪い鬼がやってきたら切り捨てるための刀だ」と言う。私は、「おばあちゃんは、絶対にそんなことをしません」と伝えた。「もし、鬼に会ったとしても、一緒に仏様のところに行きましょうと手を差し出しちゃうような人なんです」と言った。住職は一瞬困惑の表情を浮かべたけれど、「そうでしたか。優しいおばあさんだったのですね」と、頷いた。

はい。佃煮を持ち帰ると勝手に喜んでしまうような祖母でした。

文/佐藤友美(さとゆみ)

※この文章は毎朝7時に更新され24時間で消滅します。今日もコレカラよい一日を。see you tomorrow❤️

________________________

【今日のおすすめはこちら】

母の作る昼食は、カットしたトマトとセロリの葉が少し入っただけのスープ。玉ねぎとベーコン、レタスはオリーブオイルと岩塩だけで味付けされていて、ソテーしたチキンにはバジルが添えられている

writer