
女体と卒論、七転び八起き【さとゆみの今日もコレカラ/第767回】
「女体」というテーマのエッセイのお題をいただき、日々なんだか女体について考えている。
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和田裕美さんとのパワフルここに極まれりみたいなコラボセミナーの帰り道、池尻のワイン食堂に寄った。
蝋燭の灯りで澁澤龍彦の『血と薔薇』第3号を読む。めったに読まない澁澤龍彦に手がのびたあたり、女体のヒントがほしかったみいたいだ。
「エロティシズムと残酷の綜合研究誌」と銘打たれたこの雑誌、ソムリエの佐野さんによると「3号で終わっちゃったんですよね」とのこと。

目次をタイピングするだけで、垢BANされそうなxxxワードが並ぶ。
野坂昭如さんが『愛しのxxxよ、さようなら』(xxxは自主伏せ字です)というエッセイを寄稿していて、うわちょっと待て、この人『火垂るの墓』の人だよね、とクラクラする。

宦官の写真の話に始まり、祖母にロックオンされた話に続き、なぜ自分が性的不能者の話を書き続けるかの話につながる。
いやほんとこの方。『おもちゃのチャチャチャ』を書いた人で、デビュー作は『エロ事師たち』で、その翌年には『火垂るの墓』。あとはあれよね。モデルやって政治家やって、角栄に立ち向かった人なのよね。
こういう話を聞いていると、人の人生って、ほんとカラフルし放題だし、人は何歳からでも何者にでもなりうると思っちゃうよねえ。
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わたしは国文科出身なのだけれど、卒論にはひとつ縛りがあって「生存している作家についての卒論は不可」であった。
生きている作家は、1作増えるごとに、過去の作品の意味づけが変わる。作品はソリッドでそれ以上変化しないにもかかわらず、最新作が出たら評価が変わるという(だから卒論には適さない)ことが、なんだか人生の縮図のようだった。
晩年に最高傑作がある作家もいたし、その逆もしかり。
なんだか、いつまでもジタバタしたりいいよと言われているようで、いい話だなあと思っていた。
野坂さんのように、晩年、とんねるずを平手打ちしたり、ダウンタウンと殴り合ったりしてもいいわけで。そして若い頃お金を使い込んだ永六輔さんに、最後はずっと可愛がられたりしてもいいわけであって。
人生七転び八起き。どこが起承転結の結かだなんて、死ぬまでわからんよねえと思いながら、帰ります。
女体、何、書こうかなあ。
★「今日もコレカラ」は24時間に1回、夜あたりに更新されます。時間未定の夜更新になったので、数日分のバックナンバーは文末においておきます。
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【バックナンバー】
もらってうれしい小さなギフト【さとゆみの今日もコレカラ/第767回】

先日、お世話になった媒体の編集者さんにお礼をしようと、ライター3人でお疲れ様会を企画した。
「何かお礼の品をお渡しする?」と相談したとき、参加者の一人が「ワインがお好きな方なので、お店に1本持ち込むのはどうでしょう」と提案してくれた。
たしかに、わたしが逆の立場だったらすごく嬉しい。大げさになりすぎないし、その場でみんなで飲めるのもいい。こういうことをさらっと考えつくのが素敵だなあと思う。
そして迎えた当日、編集者さんは逆に私たちに手土産を用意してくださっていた。それがこの、ハンカチ。なんと、卵かけごはん刺繍!! 1日3個食べたいくらい卵LOVEなわたしなので、テンションあがるあがる! よく見ると、TKGの文字がある!! お箸もお箸置きもある!! 凝ってるーーー!
わたしは卵かけご飯だったけれど、一人ひとり違う柄のものを用意してくださっていて、小さなお子さんがいるライターさんのハンカチは恐竜の刺繍入りだった。
そういえば、過去にもお香をいただいたり、スリランカのお茶をいただいたり、いつも気遣っていただいている。こういうさりげないのにありきたりじゃない手土産を用意できるような大人になりたい!
手土産とはちょっと違うけれど、プレゼントもセンスが出るよねえ。
前に、出産した友人に、仲間内でプレゼントを贈ろうとなったときに「赤ちゃんへのプレゼントはいろいろもらっているだろうから、忙しくなるママのためにスープストックの冷凍詰め合わせはどう?」と提案してくれた友達がいた。これも逆の立場だったらすっごく嬉しい。仲のいい友人だからこそのプレゼントって感じがする。
誕生日に名前入りのアヴェダのクッションブラシをプレゼントしてくれた友人もいた。わたし、アヴェダのクッションブラシのヘビーユーザーでいくつも使い倒しているのだけれど、名前を入れられるとは思わなかった。これも特別感あったなあ。
同じく誕生日が近い友人と紀伊国屋書店さんで待ち合わせして、お互いに贈りたい、でも読んだことがない本を見た目だけ買うというプレイをしたこともある。これも楽しかった。
前にも書いたことがあるけれど、「たくさん本が読めますように」と、キンドル用のページクリッカーをもらったときも嬉しかったな。気にかけてもらっているんだなあと思ってじーんとした。
みなさんにも、もらってうれしかった手土産ありますか? そして、さりげなくて喜ばれる「勝負手土産」があったら教えて欲しい!
「すみません」を卒業した日【さとゆみの今日もコレカラ/第766回】

以前、デザイナーのNさんと、ライター仲間のTちゃんと、3年かかって完成した書籍の打ち上げで、プチ旅行をしたことがある。
Nさんと私は同世代。Tちゃんは一回り以上若い。私たちは、礼儀正しくめちゃくちゃ感じのいい、そして原稿がすっごくうまいTちゃんのことを、大好きだった。
このときも、一緒に温泉に入ったり、飲んだりして、とっても楽しい初日を過ごした。
ところが、次の日の朝のことである。
昨日、夜中まで語り合っていたらしい二人が、なにやらお金のやりとりをしている。
「あ、また言った! 罰金100円!」と、いうNさんの声が聞こえる。
どうしたの? と聞いたら、
「あのね、Tちゃん、なんでもかんでも『すみません』って言うんだよー」
とNさんは言う。
ああ、たしかにそれはそうかも。
たとえばお箸をとってあげたら「すみません」。
タオル、ここに置いとくねーと言ったら「すみません」。
いい原稿だったよーと伝えたら「すみません、ありがとうございます」。
Nさんは、
「それ、全部『ありがとう』でいいじゃんねー。きっとTちゃん『すみません』が口グセになっちゃっているんだよー」
と言う。うん、たしかに。
たとえばお箸をとってあげたら「ありがとうございます」。
タオル、置いとくねーと言ったら「ありがとうございます」。
いい原稿だったよーと伝えたら「わーい、ありがとうございます」。
でいいじゃんねー、と。
たしかNさんの言うとおりだ。Tちゃん、何も悪くないのだから「すみません」と言う必要はない。
それに、改めてよく考えてみたら「すみません」と何度も言われるほうも、そんなに気持ちよくないかも。だって「すみません」って言われたら「いえいえ」って言わなきゃならないし、何度も「すみません」って言われ続けたら、なんか、こちらがいじめているみたいだよね。
だから、その口グセを旅行中に治そうぜと、昨夜二人で相談して「すみませんって言ったら罰金100円ゲーム」が始まったらしい。
これが、かなり面白かった。
実際に意識して聞いていると、Tちゃんは、一時間に何度も「すみません」と言っている。本人も、スーパーナチュラルに「すみません」と言っては、「はっ!」となって、Nさんに「はい、100円!」と言われている。
でも、500円めの罰金くらいから、「すみ……じゃなくて、ありがとうございます!」とか「す……じゃなくて、嬉しいです!」とTちゃんが言うようになって、2泊3日の旅行の最後のほうはもう、「す」すら、言わなくなっていた。
別れ際、貯まった500円の罰金で、みんなで缶コーヒーを買って飲んだ。
Tちゃんが「ものすっごくいいことを教えてくださって、ありがとうございました!」とにっこにこで帰っていった。
何ヶ月か後、Tちゃんは「すみませんて言わないの、まだ続いています!」と教えてくれた。
それまではどことなくおどおどとした雰囲気だったのに、今は、しっかり落ち着いているように見える。心なしかオーラまでキラキラしている。もともとめちゃくちゃ仕事はできる人なのだ。
Tちゃんはその後、ある媒体でトライアルで書かせてもらった原稿を絶賛され、レギュラーライターに昇格したという。その数ヶ月後、さらに彼女はその媒体の編集者に抜擢され、私に仕事を依頼してくれる立場になった。
相変わらず感じがいいし、優しいし、丁寧なTちゃん。
もともと超素敵だったけれど、もっと素敵になったTちゃん。
最初の一歩は「すみません」を「ありがとう」に変えたことだった……のかもしれないなって思ったよ。


