
一期一会の交差点【さとゆみの今日もコレカラ/第471回】
クラウドファンディングのリターンの読書会と、「今日もコレカラ」のZINEの営業のために、京都に滞在している。
関西に来るたび、飲んでくださいと連絡するのだけど、10回に2回くらいしか会えない先輩と今回は会えた。
ライターとして、桁が違う稼ぎ方をされている先輩に、今度会えたら質問しようと思っていたことをいろいろ聞く。私がいま考えていることも、聞いてもらう。いただいたアドバイスを、脳内にメモる。
もう一軒付き合ってくださいとお願いしたら「明日朝早い」とフラれたので、先輩から聞いたことを整理しようと思って、一人でバーに入った。
その店は、雑誌の京都特集に、かなりの頻度で登場するバーだ。前から一度行ってみたいと思っていた。想像していたより広く、カウンターに5人もバーテンさんがいた。
繁盛している。お酒の種類も多い。そして、非常に居心地が悪い。この居心地の悪さは、何だろうと考えながら、ちびちび飲んだ。
隣で若い男の子がやはりちびちび飲んでいる。若いのに渋いな。声をかけていいかな、ダメかなと30分くらい探っていたのだけれど、ケータイケースがコナンだったので、思い切って話しかけた。
彼の前には4本のウィスキーボトルがおかれている。どれが美味しかったですか? と聞いて、「絶対にこれ」というから、それを私も頼んだ。喉が焼けるくらい強かった。
コナンの映画で何年のどのシーンが好きかとか、誰推しかとか(安室さん推しだった)、東京からきているというので、おすすめのバーを教えてもらい、台湾の蒸留所にいったときの話など聞いた。
店の居心地は悪かったけれど、それはちょっと楽しかった。ではまたいつか、東京のバーでばったりお会いできたら、などと言って別れる。
店を出たら寒かった。もう少し飲み直そうと思い、京都で日本酒サロンをしている、ライターの堀さんのお店に向かった。
タクシーをひろい、運転手さんに「最近、インバウンド、どうですか?」と聞くと「桜の季節まで、少し落ちついていますかねえ」とおっしゃる。「近頃は、東欧のお客様が増えていますよ」なんて話になり、「たしかに、ドイツ語でもフランス語でもない言葉だなあと思う人たち、多いですよね」なんて答える。
運転手さんが「ひとつ、クイズを出していいですか?」と言ってきた。「もちろん」と答えると「これまで私は、何か国のお客様を乗せたでしょうか」となぞなぞを飛ばしてきた。
「え、それ、乗った人に毎回どこからきたかを聞いているということ?」と尋ねると、そうだと言う。
「クイズにするってことは、多いってことですよね?」と聞くと、運ちゃんはちょっと振り返り、「まあ、そうですね」と、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「国連加盟国が139カ国、でしたっけ? うーん、じゃあ、50くらい? え? 70くらい?」と答えると、運ちゃんは、「104カ国です!」と胸を張る。
すごい! と私が言うと「ちなみに、国連加盟国は139じゃなくて、193カ国ですから、まだまだ半分ちょっとですね」とおっしゃる。
「それ、全部記録しているんですね」と言うと、「そうです。やはり、アフリカは少ないですねえ。まだ、5カ国くらいです」などとおっしゃる。
目的地についてからも、車を降りずにしばらく話をした。
なぜ、客の国籍を聞くようになったのかと尋ねたら、「お客様が車をおりるときに、サンキューと言うのではなく、その方の国の言葉でありがとうを言いたいと思ったからです。いろんな国のありがとうを覚えましたよ」と言った。
タクシーを降りて小道を歩いて堀さんのお店についたら、もう閉まってた。結局もときた道を戻り、宿まで歩いて帰った。もう寒くない。ぽっと、している。
あの運転手さんの話を聞くために、私は堀さんの店に行ったのかもなあと考える。堀さんの店に行くために、居心地の悪いバーに行ったのかもなあと考える。
いい話だったな。またあの人のタクシーに乗りたいな。でも、わたしが乗っても、193カ国コンプリートには寄与できないかと思ったら笑えてきて、ご機嫌で眠りについた。
一期一会の交差点。
かっこう。
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