
運命の出会い。とぅくとぅん。【さとゆみの今日もコレカラ/第749回】
一人目の夫と出会ったのは、机の下だった。
何を言ってるのかと思ったでしょう。私も書いてて、何を書いているのかなと思っている。
先日新しくオープンした神谷町のシェアラウンジに行った時、半個室的なスペースに入って、なにかすごく懐かしい気持ちになった。
そうだ、わたし、学生時代、こういう狭い場所で勉強するの好きだったと、思い出したのだ。
ただし、狭いスペースでデスクにむかって勉強するのではない。そのデスクの下のスペースに潜り込んで三角座りして、参考書を読んだり、英単語を覚えたりするのが好きだった。

↑このスペース
身動きが取れない場所だと、目の前の参考書に集中できる。
この日も、ああ、この場所に潜って読書したいなあ、という衝動と戦っていた。
でも、こんなところに潜っていたらお店の人に不審者だと思われてしまう。
*
新卒で入社した会社はテレビの制作会社で、まだブラック企業という言葉もない時代。私が配属された部門は墨汁のような漆黒のブラック環境だった。
『世界ウルルン滞在紀』という番組のADだったのだが、編集期間になると家に帰れない。正確には帰れるのだけれど、夜中2時に帰って6時に出社とかだから、家に帰るよりも編集室で1秒でも長く仮眠を取りたい、となる。
AD同士の寝る場所ジャンケンがあって、勝つとソファ、二番手だとパイプ椅子を3つ並べて、負けると床に寝袋で寝る感じだった。
ただ、私には秘密の寝場所があって、それが、編集デスクの下の棚板の上だった。
編集室のデスクはデカい。大きなモニターが2台とスピーカーが2台載っているくらいだから、幅が広い。その頑丈なデスクの足元には、収録テープをずらっと並べられる棚板が渡されていた。そのテープを本棚に移動させ、空になった棚板の上で寝るのが、すごく落ち着くのだ。
ソファーじゃんけんに負けた日は、深夜、無人になった編集室に潜り込み、さらにデスクの下に潜り込み、朝、この部屋を使っているディレクターが出勤してくるまで爆睡していた。
ところがある日寝過ごしてしまって、目が覚めたら私が寝ているデスクの椅子に誰かが座っていた。
私が寝ている場所からは脚しか見えないけれど、男性のようだ。
今ここで、デスクの下から、おはようございますと言って這い出していったら、めちゃくちゃびっくりさせちゃうだろうなと思ったので、その人が席を立つまでは息を殺していた。
でも、10分経っても30分経っても、その人は席を立たない。
やべえ、私のついているディレクターが出勤してきてしまう。トイレにも行きたい。切羽詰まった私は、なるべく驚かせないように、あのー、と声をかけながらデスクの下から這いずり出た。
席に座っていたその人は、うわあああああああっと声を出して、椅子から飛び退いた。
いやそうだよね。ゴキブリだって驚くのに、人間が足元から這い出てきたら驚くよね。
驚かせてすみませんと謝り、相手の顔を見て思わず舌打ちしそうになった。
入社式の時から、めちゃくちゃカッコいい先輩がいる、と目をつけていたプロデューサーではないか。
よりによって、こんな場所で出会うなんて。
「そんな場所で寝るんじゃない! ちゃんと家に帰りなさい!」
18歳年上の憧れの先輩に説教され、私はすごすごと編集室を出た。
のちの夫である。(1人目)
神谷町のデスクを見て、そこまで一気に思い出した。
さてと、仕事すっか。
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