
地獄の責め苦?【さとゆみの今日もコレカラ/第758回】
人間は、自分がやっていることに意味を見出せないときに、大きなストレスを感じるそうだ。
たとえば、囚人や捕虜などに、一日中地面に穴を掘らせ、次の日はその穴を埋めさせ、また次の日は穴を掘らせ……を続けると、多くは発狂したり病んだりするのだという。
地獄の責め苦の中でも、賽の河原の地獄が一番つらいなどという。石を積み上げ、積み上げ終わったら鬼がそれを倒しにくる。また積み上げる。また倒される……。そういう地獄だ。
少し違う角度の話だけれど、先日、多くの有名アーティストを育てたボイストレーナーの人が「トレーニングの課題曲が、死ぬほど嫌いな曲だったときの話」をブログに書いていた。
若いとき、彼女自身が鳥肌が立つほど嫌いな課題曲を克服するのに、3ヶ月も歌い続ける必要があったという話だった。大げさではなく針のむしろだったという。
その経験から、自分が教えるときは、
1、その曲を学ぶことの意味はなにか? メリットはなにか?
2、課題としてクリアするべき具体的なポイントはなにか?
3、どんなアプローチで、練習すべきか?
を説明して、生徒さんがフラットに歌に向き合えるようにしているのだという。
(「この曲嫌い!」をどうするか? 大槻水澄さんのブログより)
これは本当に大事な視点だと思うし、私も勉強になった。
というのも以前、ライティングゼミで出した課題に対して「あまり面白味を感じられなくて、さとゆみさんは、なぜこんな課題を出すのだろうと思った」と言われたことがあったからだ。
演奏したり歌ったりする人も同じだと思うが、ライターも自分が好きなジャンルの仕事だけ、好きな人のインタビューだけを選り好みできるわけじゃない。だから、どんな課題でも「面白がれる」要素を探すことは実は大事なのだけれど。
でもそれ以前に。
課題を出すほうの人間が「これを課題に選んでいる理由」を伝えられたら、もっと良いのだろうなあと思った。
穴を掘って、穴を埋めて……みたいな苦行にならないように。
なんてことを考えたのは、昨日、ネット回線の営業の電話を受けたから。
覚えのないケータイ番号の着信に出ると
「お客さまがお使いの○○プランの優先なんちゃらが今月で切れます。継続いただけると月々2000円ほどお安くなります」
という営業電話だった。
「ええと、それは東京の家の話ですか? 京都の家の話ですか?」
と質問したら
「えっ?」と驚かれ「2ヶ所あるんですね。すみません、それは私にはわかりません」
と言われた。
「うーん、じゃあ、いま御社のプランが切れてしまうと、うちの回線はどんなプランに戻るのですか?」
と聞くと
「それもこちらではわかりかねます」
という。
「ええと、私はいま、何を判断すればいいのでしょう」
と聞くと、向こうも
「ええと、ええと……」
と焦っているのがわかる。わたしも困ってしまって、
「御社のプランの継続をやめると、インターネット使えなくなるんですか?」
と聞いたら
「それは大丈夫です」
という。声がとってもおどおどしている。
「じゃあ、結構です」
といって電話を切ったのだけれど、結構ですといったとき、電話口のお兄さん、ホッとしたような様子だった。
お兄さん、この仕事をするのつらそうだなあと思った。
ただ、2000円安くなりますという言葉を呪文のように教えられ、電話をかけさせられる。
自分が何のために穴を掘っているのかを、聞かされないまま営業電話をさせられているのだ。しんどいだろうなあ。
なんてことからいろいろ想像した日でありましたことよ。
お兄さん、発狂したり病んだりしませんように。
「今日もコレカラ」は毎朝7時(頃)にアップして24時間で消える文章です。今日もこれから、良い1日を!
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