
シュートを決めた人だけじゃなくて【さとゆみの今日もコレカラ/第657回】
今年読んで最大に興奮した本が『僕には鳥の言葉がわかる』だ。
すでにあらゆる方面で大絶賛されているので読んだ方も多いと思うけれど、「鳥の言語」を研究している人の研究日誌的エッセイである。

著者の鈴木俊貴さんは「シジュウカラが20以上の単語を組み合わせて文を作っている」ことを世界で初めて解明した研究者。どうやって実験を繰り返すのかといった研究の内容も、その実験に至る思考回路も面白いのだけれど、ここそこに散りばめられているユーモアたっぷりの文章も最高に面白い。読みながら何度ぷっと噴き出したことか。
研究者は研究対象に顔が似てくる(つまり鈴木先生はシジュウカラに顔が似ている)とか、謝辞にシジュウカラのみなさんへの御礼が入っているところなどもツボである。
先日、この稀代の書籍を世に送り出した編集者さんを知る人から話を聞いた。
この本の発行までには7年の月日がかかったというのは本の中にも書かれているし、「それは編集者さん、本当に大変だっただろうな」と思っていたのだけれど、話を聞くと、「大変だっただろうな」どころではなかったらしい。
まず、鈴木先生はいつも山の中で鳥の研究をしている。原稿の進捗伺いをしようにも連絡がつかない。メッセージを送っても既読にならない。会いにいくのも一苦労である。いつまでたっても原稿はあがらない。
その編集者さんがこの本を手掛けてからの7年の間に、編集長が2回変わったという。でも、上司であるその3人は誰一人「もう諦めなさい」とか「早く本にしなさい」と言わなかった。この作品が評価され社内の企画功績賞をとったときには、出来上がるかどうかわからない本のために出張を重ねる自分をずっと見守ってくれていたことに心から感謝していると、スピーチされたらしい。
ああ、こういうヒット本ができる後ろには、たくさんの人の支えがあるのだなと知って、じーんときた。
出版できるかわからない本に対して取材費を払い続ける、その投資。その投資ができる資金力と良いものを時間をかけて作ろうとする文化。その資金力を支える過去のメガヒット作の数々。それらヒット作を手掛けた過去の編集者さんたち。
最後にシュートを決めたのは担当編集者さんからもしれないけれど、そこまでパスを送る人、ゴールを守ってくれる人、コーチや監督、果てはOBまで。それらたくさんの人の脈々たる歴史があって、最後にシュートを決めたのが、「僕鳥」の編集者さんなのだなあと感じた。
この本を出版した小学館さんは、『名探偵コナン』を発行する出版社でもある。
私は、コナンだけはAmazonではなく、コナン公式アプリから約100巻すべてを購入している。ささやかだけれど、作家さんと出版社さんに最も利益があがるプラットフォームでこの作品を応援したいと思っているからだ。
私のような読者のささやかな課金も、この本の応援席からのエールの一つになっているのかもしれないと思うとなんだか嬉しい。
本当に素敵な本なのよ。
ものすっごく清々しい気持ちになるし、笑顔になる。そして目に見える(耳に聞こえる)世界が、がらりと変化する。
みんな読んでほしい!!
【本日青山ブックセンターさんでトークイベントをします】
司会はCORECOLORでも連載をしてくれている、塚田智恵美さんです。
会場で当日券もありますので、よかったらふらり遊びにきてくださいねー。

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