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依頼メールをもらった。さあどうする?【絵で食べていきたい/第17回】

20年以上絵の仕事で食べていても、はじめての取引先から依頼のメールをもらうと少しドキドキします。何事も最初が肝心で、ここでの対応が後々の進行に影響するからです。今回は、私が依頼を受けたら最初にすることや、困った依頼メールに対してどんな対応をしているかをまとめてみました。

依頼のメールでチェックしていること

まず意識しているのは、依頼のメールにはできるだけすぐに目を通すことです。忙しい時はつい後回しにしたくなりますが、とりあえず開封して一読するようにしています。特に相手が急いでいる場合は、受けるにせよ断るにせよ、早く返事をしたほうが親切です。ただし、メールを読んだら即答する訳ではありません。返事をする前にやることがあります。

・依頼内容の確認
依頼を受けるかどうかは、少なくともこれぐらいの情報がないと判断ができません。

・使用媒体や用途(どんな絵をどこで使用するのか)

・数量やおおまかなサイズ、色数

・納期(納品日だけではなく、いつからスタートできるかも大事)

・予算
はじめからこれらを記入してもらう依頼用フォームをホームページなどに用意もできますが、その場合も必要な情報に抜けがないかチェックします。

・依頼元の確認
どんな相手からの依頼なのかも確認します。会社のURLなどが記載されていれば軽く目を通します。サイトがない場合は社名などを検索します。個人の場合は名前の他、SNSアカウントがあれば確認します(私はサイトに個人からの依頼を受けない旨を書いてあるので、問い合わせがくることは少ないですが)。

・依頼内容について、この時点でわからないことは調べる
描く内容や取引先の業種について、自分に知識がない場合は、ここで簡単に調べます。
たとえば、ライブ配信の会社からキャンペーン用イラストを依頼された時には、依頼元の会社名だけでなく、ライブ配信そのものについても簡単に調べてから返信をしました。

依頼はいただいた時が肝心だと思う理由

依頼メールをもらって、私がするのは大体この3つです。時間をかける必要はありませんが、慌ててこの手順を飛ばしてしまうと、後の進行で面倒が起きかねないからです。

たとえば、1つ目の依頼内容の確認をおろそかにすると、予算に見合わない仕事になってしまうこともあります。モノクロのイラストのつもりがカラーで、手間と時間が倍かかった。納品まで余裕があると思ったのに、制作指示がなかなかでなくて結局突貫工事になった。そういう事態を防ぐために、あいまいな部分がないかチェックします。

また、2つ目の依頼相手のサイトやアカウントを確認することは、スムーズな進行に役立ちます。たとえば立派なサイトを持っている会社でも、イラストを使った案件例などが全くない場合、イラストの発注に慣れていない可能性もあります。だから依頼を受けないという訳ではなく、こちらが「イラストの発注に慣れていない人かもしれない」と意識をするだけで、防げるトラブルがあると思います。何より、先方について少しでも知ってからやりとりをすれば、相手も悪い気はしないと思うのです。私自身、依頼メールに「〇〇のイラストを見て、是非お願いしたい」などと書かれていると、嬉しいものです。

これらをざっと確認し、検討してから返信のメールを書きます。慌てずに済むよう、私の問い合わせメールフォームにはあらかじめ自動返信の設定をしています。問い合わせメールを受信したことと、一両日中に返信することをお知らせする定型メールです。相手に安心してもらうのはもちろん、焦りやすい私が落ち着いて依頼メールを検討する時間を確保するためでもあります。とはいえ実際は、その日のうちか、遅くとも翌日早めには返信をするようにしています。レスポンスの早さも絵の仕事をする上で「総合力」の一部になると思うからです。

最初の返信メールで書くこと

返信メールには、まず依頼や問い合わせに対する御礼と、受けられるかどうかの返事を書きます。この時点では受けるかどうか判断しかねる場合は、依頼メールに書かれていなかった情報についての質問や、こちらが希望する条件を記載します。この時気を付けているのは、受けるにしても断るにしても、自分に声をかけてくれたことに対する喜びを伝えるようにすることです。正直なところ、仕事が順調で忙しい時には、新規の依頼に対して嬉しさよりつらさを感じることもあります。特に私は気分の上下が激しいので、それが態度にでないように気を付けようと思っています。忙しい時には送信する前にメールを読み直し、さらに一言二言、喜びの表現を加えるぐらいでちょうどいいようです。

スケジュールや予算など様々な都合で、依頼を受けられないと判断して断る場合もあります。断りのメールは気が重いものです。同業仲間ではよく、「忙しくなると断りの文面を考えるのも面倒で、無理だと思っても受けてしまう」という話題がでます。それで問題が起きなければいいのですが、受けてしまって後悔するなら、断る場合のフレーズをいくつか用意しておくのも手です。

ちなみに、「断りが面倒」というのは、文面を考えるだけでなく、「受けて良いかの判断をするのが面倒」という時もあります。たとえば予算的には厳しいけれど、断るにはちょっと惜しいかも、でも金額交渉はできない、というような場合です。忙しい時などは判断力が落ちるので、ここでも自分なりの方針を決めておくと楽です。私の場合は迷ったら、「もしその仕事を別の人がやっていたら、条件をきいてもうらやましいと感じるか」で決めています。負けず嫌いの私はこれで大抵引き受けてしまいますが、迷う時間はぐっと減りました。

話がそれましたが、依頼を断る時ほど、早急に、丁寧に。予算や納期の問題で、交渉の余地もない時は、下手に当たり障りのない返事でぼかさずに、はっきり受けられない理由を書いてしまったほうがいいかもしれません。相手の時間を必要以上にうばわないことも大事です。

困った依頼が来た時は

断る話など書きましたが、依頼のメールは基本的に嬉しいものです。しかし時々対応に困るような案件もあります。代表的なのは無償依頼でしょう。

無償依頼とは、文字通り、タダで絵を描いて! という依頼です。SNS経由で個人の依頼を受けている人によくある悩みのようですが、企業から無償でイラストを使いたいと問い合わせがくる場合もあります。はじめから「無償で」と書いてくれる場合はいいのですが、金額の確認をしてはじめて無償のつもりだったとわかることもあります。

「絵を依頼したい。まずは〇〇のサンプルを数枚描いて、見せてください」とか「コンペに提案したいので、指定のイラストを描いてください。コンペに通ったら正式に発注をします」というケースもあります。でも、無料でサンプルを描き下ろしていたら、こちらはよほど高額の依頼が決まらないかぎり赤字です。私の場合は「描き下ろしのサンプルは有料になりますがよろしいですか」と確認して、相手に判断をゆだねるようにしています。どうしても発注前に検討したければ、なんとか費用を捻出してくれますし、その場合はこちらも価格交渉に応じます。無料でなければ難しい、と依頼が取り消されることもありますが、それはそれであきらめがつきます。もちろん、無料でサンプルを描いてはいけない訳ではありません。実績作りやサービスとして受ける場合もあるでしょう。あくまで各人の判断で決めれば良く、それができるのもフリーランスの醍醐味だと思います。

極端な安価や無理なスケジュールで、しかも可能かどうか確認もなく「宜しくお願いします」とメールが来たこともあります。この時は「イラスト料金とスケジュールについて、当方ではこのような目安でお受けしています」と希望納期と目安の金額を書き、ご検討くださいと返信しました(この依頼はすぐ取り消されました)。

日々の仕事をスムーズに進めていくために

無償依頼も、厳しい条件の発注も、先方に悪意があるわけではないでしょう。こちらにとってはあり得ないと思うような条件でも、相手を悪者とみなすと話がややこしくなります。自分が安く見られたのだと憤慨する必要もありません。相手と自分の認識が違うだけです。などと書いている私自身は、実際にこういうメールを受け取った時はすぐ腹を立てますが、その気持ちを相手にぶつける必要はないのです。たとえ相手のほうが非常識だったとしても、悪者あつかいされれば反感のほうが残ってしまいます。

世の中には色々な考えの人がいます。では完全にトラブルを避けようと、事前にサイトなどに書いておけばいいかというと、分厚いマニュアル付きの家電のように「読まない人はそもそも読まない」ということも起こり得ます。かくいう私もマニュアルを読まずに家電をいじろうとする「困ったユーザー」の一人です。

私は思い込みが強く、感情の起伏が激しい上に、それを表現すればスッキリするどころかグッタリ疲れてしまう面倒な性格です。できるだけフラットに、おだやかな対応をこころがけることで多くの相手とうまくいき、結果的に自分も楽だとわかってきたので、現在はここに書いたような対応をしています。でも、ルールだらけで店主は気難しいけれど、強力なファンを集めている飲食店もあります。それぞれが仕事を続けていく上での最適解は何か、今回の記事が何かの参考になれば幸いです。

文/白ふくろう舎

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