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「イラストレーターって食えるんですか?」問題。食べている人たちには共通点があった? 【絵で食べていきたい/第4回】 

中学生の頃、母に「絵を描いて暮らしていきたい」と話したら、「どこかの画家みたいに、死んでから絵が売れてもね……」と言われたことがあります。これは冗談としても、当時の私にとっても「絵で食べていく」ことはほんの一握りの人にゆるされた、特別なことのように思えました。しかしフリーランスのイラストレーターをはじめたら、「世の中にはこんなに同業者が多いのか」と驚くことになりました。しかも皆、ちゃんと必要なだけ稼いでいるのです。彼らには、何か特別の才能があるのでしょうか。今回はそのあたりの話をします。

「イラストレーターって食えるんですか?」 

久しぶりに会った、元職場の先輩から「イラストレーターって食えるんですか?」と聞かれたことがあります。その時はちょっと面食らって、「はあ」などと返事をしてすませてしまいました。けれどこの質問は、実は多くの人が、なかなか聞けないけれど気になっていることではないでしょうか。 

当たり前ですが、その答えは「人による」ということになります。なあんだ、とがっかりするかもしれませんが、これはどんな職業でもそうではないかと思います。極端な話、お金持ちのイメージのある医者になっても「食えない」ことはあるはずです(稀かもしれませんが)。 

とはいえ現在、私の周りには、自分の収入だけで家族を養ったり、共働きで稼いだり、働き方や収入額はさまざまでも「食えている」イラストレーターが多いです。そして、私の周囲を見る限り、イラストレーターで、しかも専業で食べている、という人たちには、一つ共通することがあるようなのです。それは、第一の目標を「イラストレーター1本で食べていくこと」に設定しているということです。 

「え、皆そういうものでしょ?」と思うかもしれません。でも、本当にそうでしょうか。「好きなテーマのイラストだけ描いて食べていきたい」とか「〇〇みたいな媒体に描けるようなイラストレーターになりたい」とか「本業のかたわら、描いた絵が収入になったらいいな」とか。「絵で稼ぐ」の中にはそれこそ人それぞれの目標があると思うのです。そして、目標のたて方が違えば、その叶え方も変わってきます。たとえば「婚活」でも、「〇〇の条件にすべて合う人を見つけて結婚する」と「来年中には必ず結婚する」という目標の人では、達成の早さや方法に違いがありそうだと思いませんか。

という訳で、「イラストレーターって食えるんですか?」という冒頭の質問には、「本人が『イラストだけで食うこと』を第一目標にしていれば、大体食える」と答えれば、もう少し納得してもらえるかもしれません。 

いくら稼げばいい? いくらで描けばいい? 

ところで大前提として、「絵だけで食べていく」という目標を達成するためには、「絵の対価としてお金をもらうこと」を考えないといけません。なんでわざわざこんなことを書くかというと、案外この部分でひっかかってしまい、前に進めない人がいるからです。たとえば会社に入って、「まだ新人なのにお給料をもらっていいのでしょうか」と悩む人はあまりいないと思います。でもこれが「イラストレーター」となると、「イラストレーターになりたいんです」といいながら「私の絵でお金をもらっていいんでしょうか」と迷いだす人が現れがちなのです。でも、立てた目標を思い出せば、その考え方では全く実現できないことがわかると思います。「お金をもらっていいかどうか」ではなく、「自分の絵でお金をもらうにはどうすればいいか」へと、考え方をシフトしないといけない訳です。 

数ある選択肢から「絵だけで食べていくこと」を明確に目標として定めたなら、次は実現するための計画をたてることになります。自分はいくら稼ぐべきなのか。その金額を稼げそうなやり方は何か。どれくらいの時間を仕事にかけられるのか。何を優先すべきかといったことも、「目標を達成するために」と考えれば、おのずと決まってくると思います。 

例えば私の場合、まずはそれまで会社からもらっていた給料と同じくらいの額を稼ぐことを一つの目標にしました。当面の目安としてわかりやすく、とりあえずそれだけ稼げば暮らしていけることがわかっていたからです。もちろん本当は、フリーランスの場合、会社員よりも経費がかかったりするので、会社員時代の収入の数割は上乗せした方が良いですし、最終的にはそれ以上に稼ぎたいという野望もありました。 

もちろんこの目標額も人それぞれで、住環境や家族構成、ライフスタイルや貯金額などによって変わります。自分の立てた目標額を達成するのが難しそうだと思ったら、たとえばもっと家賃の安いところに移るなど、支出を抑えることもできます。フリーランスは、会社員に比べると、比較的「自分のライフスタイルと稼ぎ方を選べる」ということも、実際に続けてみて気づいたことです。

ところで、最近では、イラストを依頼する際に、内容や数量と共に「1点〇〇円でいかがでしょう」と、金額を提示してくれることが多くなりました。これは当たり前のようですが、実は出版などでは、そこを書かずに問い合わせが入ることもあるのです。うっかり書き忘れた、ならいいのですが、「原稿料はおいくらでしょうか」とたずねると、「すいません、確認します」と本人もわからずに依頼している、などということもありました。 

相手から金額を提示されたとき、その額で受けても大丈夫か。あるいは「いくらになるのか、見積りを下さい」と言われたとき、どのくらいの金額にすれば良いか。 

こういう時も、「自分は月にいくら稼ぎたいと思っているか」が念頭にあれば、判断がしやすくなります。もちろん相場というものもありますから、あまりとんでもない金額を提示したら断られるかもしれませんが、大事なのは自分にその金額に対する根拠がちゃんとあるかどうかだと思うのです。 

「相場」と書きましたが、イラストの料金はさまざまです。ちなみに、多くの場合、イラストの料金といえば、使用する媒体や期間によって決まる「使用料」のことです。これについてはまた改めて説明します。今はイラスト料金の相場も、ネットや書籍である程度は調べられますし、同じような仕事をしている友人へのヒアリングもしてみるといいと思います。ご参考までに、私が困ったときの目安にするのは、「レンタルフォト」「レンタルイラスト」の価格です。使用目的や掲載媒体、使用期間、サイズなど、金額以外にも確認すべき項目がわかるので、一度見ておいて損はないと思います。 

駆け出しでも交渉はするべきか? 

私が仕事を受け始めた時、イラスト料金の件では同業者コミュニティでよく議論になりました。相場より安い金額でも受けるべきか、断るべきか、交渉するべきか。もちろん答えは人それぞれで、その理由もさまざまでした。 

ある先輩は、「まだ駆け出しで、充分な力がないうちに、値段交渉などすると敬遠される。安い方がたくさん発注されやすいから腕を磨けるし、そうやって力がついてくれば、おのずと料金はあがってくる」というスタンスでした。また別の先輩は、「駆け出しでも、相場より安かったら交渉するべきだ。安いからいいだろう、と自分が甘えてしまうことも防げるし、値段に見合わないと思えば断られたり、リピートが来なかったりするだけ。安くても受けてしまうと業界全体の相場が崩れていくから良くない」という考えでした。 

こうした意見を聞いて、私自身は、後者の先輩の言うことが自分にはしっくりくるなと思いました。なので、駆け出しのうちから原稿料をかならず聞くことや、見合わないと思えば交渉することをこころがけました。腕が上がれば勝手に値段があがっていくなどということはあまり信じられなかったし、そうなるまで待っていられなかったのです。それに「交渉するからにはそれだけのものを描かねば」という状況に追い込むほうが、自分の性格にも合っている気がしました。 

ちなみに交渉とは、単に価格をあげてくれということばかりではありません。たとえば納期をのばしてもらうとか、作画に必要な資料をできるだけ先方に集めてもらうことなどをお願いすれば、希望金額でおさめることもできるからです。このあたりの工夫はまた別の機会に書きたいと思います。 

一方、とある売れっ子イラストレーターは、駆け出しのうちはどんな安い仕事でも、納期が短くても、とにかく受けまくったと教えてくれました。それを続けるうち、クライアントに可愛がられ、「大きな仕事がきたら回してやろう」「利益があがった分、これまでの金額に上乗せして支払ってやろう」と、仕事も稼ぎも大きくなっていったのだそうです。 

それを聞いた時、「世の中は意外と捨てたもんじゃないな!」という気持ちと、「でもそのやり方は私には無理だったな」という気持ちが同時に起こりました。20代のはじめにこの仕事を選んだ友人と、30歳でデビューした私では体力も違うし、私だったらその働き方では数年ももたなかったと思うからです。ただ、この友人の話をきいたことで、あの時の先輩たちの意見は、どちらも正しかったことになるなあ、と実感したのでした。 

異なる例をわざわざあげた理由は二つあります。一つは、同じ目標を立てても、実現の仕方は幾通りもあり、正解があるわけではないこと。もう一つは、「若さ」や「体力」、「性格」といった、およそ画力とは関係ないことも、ちゃんと自分がつかえる「総合力」のうちに含まれる、ということです。 

「絵で食べていけるのか」という問いは、言うなれば外部からの、自分ごとではない立場からの問いです。「これからは絵で食べていきたい」と決めた私たちは「それを実現するために、今すぐ自分に何ができるのか」を考えて、それを一つずつ、毎日やっていくのです。 

文/白ふくろう舎 

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