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後発から国内 No.1くらしメディアを育てた秘訣。『ヨムーノ』元編集長・武田史子さん。「タイトルを何度も変えバズるまでねばる」

国内最大級の生活総合情報ウェブメディア『ヨムーノ』。同メディアは、「くらしをもっと楽しく!かしこく!」をコンセプトに、人気のショップやグルメ、ファッションなどくらし全般における情報を日々発信している。2017年10月から本格的にサービス提供を開始し、2019年には月間900万UUを突破した。4年後の2023年1月には2,200万UUを超え、PV数は月間1億3,500万超となった。
2023年11月まで編集長を務めた武田史子さんに、後発メディアである『ヨムーノ』が短期間でPV数を伸ばすために行った戦略や、AIに負けない編集者の在り方を伺う。
4年前より武田編集長のもとで記事の書き方や企画の立て方を学んだ、ライターの八木が聞く。

聞き手/八木 ななみ

バズらない記事なら、タイトルを5回変えてねばる

──『ヨムーノ』の記事はタイトルが独特ですね。「むむむ」や「3軒回って見つからない」などポップな言葉がたくさん見受けられます。これらは編集部でつけているのですよね?

武田:そうですね。『ヨムーノ』初期の頃は、ほとんど私がつけていました。私はかなりタイトルにこだわりが強いと思います。タイトル命と言ってもいいくらいです。というのもウェブメディアに携わる前は、12年間、『サンキュ!』という雑誌の編集をしていたのですが、その時に雑誌の企画タイトルの大切さを痛感していたんですね。

──ウェブ記事のタイトルはわかるのですが、雑誌の企画タイトルとはどの部分を指すのでしょう?

武田:表紙に書かれている企画の見出しです。読者が雑誌を読むかどうかはこれらのタイトルにかかっているといっても過言ではありません。これは先輩から教わったり積み上げた経験則によりますが、表紙を見て5秒以内に3つのタイトルがその人に刺さらなければ、その雑誌は手にとってもらえません。
実際に書店で雑誌を購入する人をスパイのように観察したこともあるのですが、やはりその通りなんですよね。ふらっと書店にやってきたお客さんは、「今月何を買おうかな」とたくさんある雑誌をチラ見しながら歩いています。雑誌の表紙をぱっと見て5秒以内でタイトルなどを確認します。欲しいタイトルがなければそのまま素通りしています。

──書店でそんな調査もするのですね。

武田:『サンキュ!』の発売日直後の土日には、毎月書店チェックを行っていました。だいたい2〜3時間くらい観察していましたね。購入せずに他の雑誌を買った人がいたら、会計後にその理由を尋ねることもありました。ある時は「他の雑誌にはダイエット特集があったけど、『サンキュ!』にはなかったからやめました」と言われたことがあり、「来年は絶対ダイエット企画をやるので、その時は買ってください」と伝えたのを覚えています。
こういった経験もあり、雑誌時代から表紙に掲載されるタイトルには命をかけていました。その後、転職しウェブメディアの『ヨムーノ』の編集長になり、そこからは一段とタイトルマニアになりました。というのも、雑誌以上にウェブメディアは読まれにくいことがわかったからです。

──どうしてそう感じるのでしょうか。

武田:ウェブ上には、似たような記事が膨大にあるからです。特に『SmartNews(以下、スマニュー)』のようなニュースアプリでは、各メディアが出した記事が次々と更新されていきます。画面には約4〜6記事のタイトルとトップ画像が表示され、スクロールすればほぼ延々に記事タイトルが流れていきます。読者はそのタイトルを見て瞬時に読む・読まないを判断し、ガンガン下にスクロールしていくわけです。判断する時間はわずか1秒程度。雑誌の5秒よりも短いんです。1秒間で読者の手を止めさせるにはよほどのことがないと難しいと感じました。実際、初めの頃は記事を出しても読まれている感触は全然ありませんでした。

──どのようにタイトルを工夫してPV数を伸ばしていったのですか。

武田:ニュースアプリを見ている読者は「このメディアサイトが作った記事だから」というよりも「この記事がなんだか面白そうだから」といった理由で読みはじめます。
理由というよりも直感に近いかもしれません。一瞬で「面白そうだから読もう」と感じてもらうために、雑誌の時以上にインパクトがあるタイトルをつけることを心がけました。よくやっていたのは感情がダダ漏れになっているようなワードを頭につけることです。「すすすごいカニ!イオンの新作パスタ3選」とか。出だし部分に感情がダダ漏れしているのが伝わりますでしょうか。

──おっしゃる通りインパクトがあります。ここまで言葉を崩すんですね。

武田:極端にいえば、文法としての正確さよりも、読み手に刺さるかを重視しています。『ヨムーノ』のライターさんは、何かのお店や商品に対する熱狂的なマニアが多いんです。マニアのみなさんは驚いたことや感動したことを、熱量高く表現してくれます。書き手の感情が爆発した言葉が記事内にあれば、その言葉をタイトルに入れるようにしていました。

一方で、タイトルと内容にギャップがあると、読者をがっかりさせてしまいます。「もう二度とこのメディアの記事は読まない」と思わせてしまうのは避けたいので、読者の方に指摘されたり、SNSで「タイトルが不快」といった内容の書き込みを見つけた場合は、編集部で共有していました。とはいえ、タイトルが読んでもらうキッカケにならなければ、内容がどんなに有意義だったとしても読まれません。そこのせめぎ合いは常にありました。バズるまで何度もタイトルを変えることもしていました。

──そんなことができるんですか?

武田:できます。ウェブメディアならではの面白いところですね。記事を出してから30分もすると、どれくらい読まれているかを計測ツールが数値化してくれます。それを見ていれば、その記事がバズったか、はずしたかが大体わかります。はずしてしまった記事があれば、すぐにタイトルやサムネイルの写真をさし変え、それらが反映されたらまた様子を見ます。
同じように、スマニューでもバズっているかどうかをタイムリーに観察していました。アルゴリズムは公開されていないので試行錯誤でしたが、スマニューにうまく掲載されていないことがわかったら、タイトルと画像を工夫し、浮上するのを待っていました。多い時だと5回くらい修正してねばっていましたね。

──タイトルとトップ画像だけしか掲載していない部分なのに、5回も直す場所があるものですか。

武田:まずタイトルの言葉の順番を変えます。これだけでもかなり読者数が増減します。他にもウケがいい言葉に変えるなど、仮説をもっていろいろと試します。もちろん写真を変更することも有効です。そうやって毎日触り続けていると、「こっちのほうがアクセスが上がるな」という傾向が見えてきます。こういったことを毎朝6時に起きてパジャマ姿のまま、やっていました。トレーダーみたいですよね。

──朝6時ですか!

武田:はい。『ヨムーノ』の記事は朝7時〜8時に多く読まれていたので。朝6時に記事を公開し、みんなが読みはじめる7時台にはスマニューのトップに並んでいたい。だから、8時までの2時間が勝負です。それ以上遅いと、スマニューに上がってきた他の記事に押し流されてしまいます。

──想像以上に短い時間なんですね。トレーダーと表現した理由も頷けます。

武田:そういったことを続けたところ、だんだんウケる鉄板のキャッチフレーズもわかるようになってきました。たとえば「売れすぎて買えない」とか「発売と同時にすぐ売り切れ」など、買うのが困難だと思われそうなタイトルは、読者の心を惹きつけるようですね。

──それだけタイトルのことを考えているなら、タイトルに使えそうな語彙を普段から集めているのでしょうか。

武田:流行っている言葉をおさえていました。他にもお店のメニューや歩いている時の看板、テレビのテロップなど文字になっているものは気にしています。読者の方と実際に話した時の会話も重要です。面白いことを言う人がいたら、その人の発言をスマホにメモっていますね。

──記事は週に何日、何本くらい出していたのですか?

武田:365日毎日です。だからこの4年間はどんなに酔っぱらっても毎朝6時に起きて記事のチェックをしていました。
編集部で1日に出していた記事の本数は、初期の頃は1日2〜3本でした。そこから記事の投稿数はどんどん増え、多い日は15本〜30本ほどに。その頃には編集部のみんなも、タイトルの勝ちパターンを分析し、つかめるようになっていました。だから私が1からタイトルをつけるようなことはなくなっていましたね。UU数も初期は70〜80万だったのが、1年で700万くらいになりました。

──UU数を1年で10倍にしたんですか!

武田:おかげさまでその翌年には1,000万に到達しました。

──え、編集者の数は?

武田:UU数が1,000万に到達するまでの2年弱の間は、編集者は4人でした。UU数が2,000万になったあたりで、編集メンバーを10名ほどに増やしました。とはいえ『ヨムーノ』以外のメディアを兼任しているスタッフも多くいました。記事は月に800本ほど出していましたね。

──つまり1人当たりが担当している本数は月80本というわけですね。

武田:いえ、専任の人と兼任の人では本数が大きく異なります。専任の人ですと月に100本以上は担当していましたね。

定番企画を見直し、雑誌の売り上げを回復

──武田さんは『ヨムーノ』の前は2012年から2016年までベネッセコーポレーションで雑誌『サンキュ!』の編集長をされていらっしゃいますよね。この時、売り上げをV字回復させたという話を聞きました。

武田:V字回復と言うと大袈裟ですが、雑誌不況でずっと下がり続けた部数が下げ止まり、前年越えを達成しました。

──この頃は雑誌がまったく売れない時代でしたよね。販売部数が下がらないだけでも奇跡だと言われている頃に、どのように部数を回復させたのですか。

武田:みんなでやったことなので、私がやったというのも語弊がありますが、意識したことをお話してみますね。
大きく変えたことのひとつは、読者層とマーケティングを見直したことです。『サンキュ!』のような生活情報誌は、人気の企画が大体決まっています。読者層は20〜40代の女性、最もウケるジャンルは節約系という具合です。しかし勝ちパターンは決まっているにも関わらず、雑誌は売れない。とても行き詰まりを感じていました。ですのでまず、読者のターゲット層を見直すことにしました。

当時、読者ターゲットは年齢で考えるという方法が主流でした。でも晩婚化が進んだこの時代、同じ40代の女性でも1歳のお子さんを持つ方と、高校生のお子さんを持つ方とではライフスタイルも考え方も大きく違うわけです。そこで年齢ではなく、志向性を重視した分析に変えました。晩婚化が進み、子どもの年齢が同じでも、親の年齢に差があるケースが増えてきたこと。加えて、価値観も多様化してきたからです。今の読者ニーズと、編集部が目指す方針に沿って、たとえば「堅実派向けの王道企画を6割、トレンド好きな人向けの企画3割、1割を新規チャレンジ企画」といった具合に、雑誌1冊の設計を見直すことにしました。

──企画の作り方から、がらっと変えたんですね。

武田:当時はドキドキしながらやりました。部数が下がっていたからこそ、思い切ってできたことだと思います。他にも鉄板とされていた「節約」の特集に偏っていたのを、収納や料理などジャンルの幅を広げました。それまでは1年間に発行する12号のうち11号で節約の記事を大きく取り上げていた時期もありましたから。さらに「節約が何より大事。切り詰めてカツカツで生活するけど、でも楽しいよ」みたいな伝え方をしていました。でもここも見直して「削るだけじゃなく、生活が豊かになるためのお金の使い方をする」のような表現に変えました。

──同じ節約でも、大きく印象が変わるものですね。

武田:さらに表紙のデザインも変えました。『サンキュ!』は1996年の創刊時からずっとビジュアルを大きくは変えていませんでした。以前は、わかりやすくインパクトと生活感のあるデザインが人気だったのですが、それを、手に届く憧れ感とわかりやすさを同居させたデザインに変更しました。

──それほど大きくやり方を変えてしまうと、社内はざわつくのではないでしょうか。

武田:たしかにそうですね。ただどちらかといえば、当時の編集部員は変化していくことに対してすごく前向きでした。特に表紙を変えることはポジティブに捉えているようでした。実際、反対意見はほぼなく、「みんなでチャレンジしてみよう! 素敵になるっていいことだよね。今の読者層に向けて一番いいものを作ろう!」という雰囲気でした。たまたま売れた、というのではなく、変わりゆく読者層にあらためて真剣に向き合い、そこに向けて変化を恐れずにチャレンジしたことが、部数上向きにつながったのだと思います。

──大きなリニューアルを遂げた後、売り上げ部数は上がったのでしょうか?

武田:読者からのネガティブな反応はなく、部数も下げ止まり、前年越えを達成する号も出ました。

「写ルンです」で、読者のリアルを掘り起こす

──武田さんは 徹底読者主義だと聞いたことがあります。

武田:読者のニーズや本音を知り、記事に活かすことには、こだわりがあります。特に『サンキュ!』時代はアンケートだけではわからない読者の本音を、どうやったら探れるかをよく考えていました。というのも、みなさんアンケートだと結構いいことを書きがちなんですね。本音にまで至っていないことが多いんです。そこで本音を探るために読者の家に行き、ふれあうことを大事にしていました。アンケートを見ていて、いいなと思う方がいたらまず1時間ぐらい電話取材で話を聞きます。そこでもっと知りたいと感じたら、「写ルンです」を送り、家の中の冷蔵庫や押し入れ、 財布の中などを撮ってもらいました。

──あれ、その頃だとすでにスマホはあったと思うのですが。

武田:ありました。けれどスマホやデジカメで撮影をお願いすると、みなさんきれいに映しちゃうんですよね。生々しいほうがいいので、当時はあえて「写ルンです」を送っていました。現像した写真を見ると、冷蔵庫の収納術などがわかります。当時は、実際に2日かけてお家の取材をしていました。1日目は下取材、2日目には撮影をします。1日目の下取材では、初対面なのに冷蔵庫や押し入れを開けて中を見させてもらったり、夫婦の馴れ初めを聞いたりします。そこまでしないと、相手も一歩踏み込んだ本音をなかなか話してくれません。そうしたふれあいを重ねたことで、アンケートには書かない深い話や家族の困りごとなどの本音を話してもらえるようになります。ニーズではなくて本音をつかむというのは、時間をかけて大事にしてきたところですね。

──そこで得た本音が、徹底読者主義の読み物につながるのですね。読者さんのお家に、武田編集長が自ら行けないこともあると思います。そういった時には、編集者さんやライターさんにどういうことをお伝えするんですか?

武田:その読者さんの人となりが伝わる、その人ならではのセリフ、技を必ず1、2個入れてもらうようにお願いしていました。読んだ人に「あの人すごかったね」という印象が残るといいなと思っています。

──実は武田さんと一緒にお仕事をしてきた人に数名お会いしたことがあります。みなさん、武田編集長とのお仕事は楽しいとおっしゃっています。

武田:編集者の仕事はコミュニケーションが大事だと考えています。編集者は個性的な人が多く、得意不得意もはっきりしていることが多いので、それぞれが適材適所で得意・好きを生き生きと発揮できる環境が一番だと思っています。だからこそ、一緒に働く編集者には得意なことが仕事でできていると実感してもらえたらと考えていました。
それに編集者が楽しくないと、記事や誌面にも元気がないどんよりとした感じが出ちゃうんですよね。逆にめちゃめちゃ得意で思い入れがあってノリノリでやった記事はウケます。
私も昔、上司だった編集長に「隣の人に思いやりを持てない人が、読者に喜ばれるものを作れるわけがない」と言われました。その言葉にすごく納得したんです。編集者だけでなくカメラマンさんやデザイナーさん、ライターさん、アルバイトさんもみんながやりやすいように意識しています。私は「読者に少しでも役立ち、少しでも楽しんでいただけるものを作る!」という同じ目標に向かって、チーム一丸で楽しく仕事ができることが何より幸せです。

──もしかしてスポンサーさんやクライアントさんにも、楽しんでもらえるように接しているのでしょうか。

武田:そうですね。読者さんも広告のクライアントも同じく、喜んでいただきたい気持ちは一緒。クライアントさんのニーズを汲んで、期待をちょっと超えるものを作るよう全力で取り組んでいます。広告のクライアントさんだけでなく関わってくれる人にもそれぞれ喜んでほしいと思って作っています。

──私も武田編集長と『ヨムーノ』でお仕事をさせていただいていました。武田編集長が多くの人から愛されるのは、断り上手だからだという理由も大きいと思っています。というのも以前、私が考えた企画に対する断りメールがとても丁寧な長文だったからです。「まだ『ヨムーノ』でやるには早い。今のタイミングではない」という誰も傷つけないメールだったんです。

武田:もともと断るのはすごく苦手です。相手を傷つけないかと心配になります。でも編集長という立場になってからは、守らないといけないものも多くなりました。ちゃんと断らないと、メディアを守れなくなる場面に遭遇することもあります。だから頑張って断っています。
断る時に気をつけていることは、相手を全否定しないことです。なぜダメかをちゃんと言わないと、相手に納得してもらえません。かといって曖昧にすると傷つけてしまうこともあります。だから冷静に、ダメな理由をわかりやすく相手に伝えるように気をつけています。この時にできれば代替案も考えてセットで伝えています。代替案まで考えないと断りづらいんですね。

ウェブも紙も厳しい時代。AIにできないことをしないと生きていけない

──武田編集長は、紙(雑誌)、ウェブと両方の編集⻑を経験されています。紙媒体はよくオワコンなどと言われていますが、今後もウェブメディアが主流の時代が続くのでしょうか。

武田:紙は紙で厳しいですが、今はウェブもかなり将来が厳しいと思っています。ウェブは一時期イケイケでしたが、ここ最近は広告単価が下がっています。

──広告の表示量がどのメディアも増えていますよね。

武田:ウェブメディアの編集者は記事が広告だらけになるのに抵抗を感じている人が多いです。でもマネタイズを考えると広告に頼らざるをえない。マネタイズが厳しいと、メディアの存続が難しくなってしまうから。

──国内最大級のサイトの編集長をやっていた方でも、今のウェブメディアは厳しいと感じているのですね。

武田:そうですね、かなり厳しい状態だと思っています。PVを増やし続けるためには、休みなく記事を量産し続けないといけない。だけど広告単価はどんどん下がっているので、PVが多いだけでは稼げなくなっている。悪循環です。

──これまでにないマネタイズの方法が求められるというわけですね。話は変わりますが『ヨムーノ』でおこなわれていたプロジェクト「女子がゼロから家づくり@千葉県長柄町」では、編集長自らがスポンサーを探して営業していたと聞きました。

武田:この企画は千葉県出身のママ4人が、荒廃した杉林の杉を伐採して家を作るというものでした。もともと『ヨムーノ』は日常生活を扱うメディアなので、建材や工具を扱う企業と関わる機会はほぼありませんでした。しかし逆に言えば、新規開拓ができそこからチャンスも生まれるのではないかと思い、自分で営業をはじめてみました。
断られることももちろんありましたが、最終的には11社が協賛してくださいました。『日本経済新聞』やNHKの『首都圏いちオシ!』など、大手メディアから取材を受けました。もしこれらの広告を定価で購入したなら、数千万円かかる計算です。
昨年の秋に家が完成し、今は杉の燻製でクラフトビールを作るプロジェクトに、広報として関わっています。家づくりと同じく、荒廃した杉を活用していく計画です。今後はグルメとか地域情報メディアに取り上げていただくよう働きかけるだけでなく、近隣の町や荒廃した杉の活用に悩んでいる地域との連携や企業とのコラボも視野にいれています。広報といいながらも、これまた営業をしていくことになると感じています。

──広報をしたり営業をしたり大忙しですね。

武田:私は、一生編集者を全うしたいです。でも昨今のメディア不況を考えると「記事を作るだけが編集の仕事だ」と思っていると、どんどん仕事がなくなってしまうとも感じていました。なので、今回のクラフトビールのようなチャレンジはすごくいいなと思っています。編集者は世の中からまだ見えないニーズを拾い出し、期待をちょっと超える形で世に出して、人々に喜んでいただくことを目指す職業だと思っています。そう考えると、人をつなぐことも営業も、街や人などのまだ知られてない魅力を発掘するのも、すべて編集者が得意とすることです。だから広報も営業も、町をつなぐことも含めて編集だということを、このプロジェクトを通して身をもって検証したいと思っている最中です。
現在はフリーランスの立場で、仙台や千葉など、地域メディアの編集に携わっています。

──今、あえて地域メディアに関わる理由はどういうところにあるのでしょうか?

武田:地域に根ざしたメディアなら、AIにも負けないと考えるからです。

──どういうことでしょうか。

武田:今後、編集者やライターさんはAIにできないことをしないと生きていけません。勝つには、新しいものかAIが発掘できないものを取り上げる必要があります。ネット上になく、AIが発掘できないテーマとして、地域というジャンルはいいと思います。
今関わっている地域メディア『くふうロコ仙台』は地元の人にとって、一番役立つ楽しいメディアになることを目指しています。地元発のリアルなことや地元の人もまだ気づいてない魅力を発掘し、それを面白く出したい。仙台に住む人が、自分の町や住む人たちのことを自慢したくなるメディアになればいいなと考えながら進めています。

──地方メディアのマネタイズをどう考えますか?

武田:まだ正解はありません。もちろん広告が大きな収入源なので、ある程度PVを伸ばし、地域の方に検索してもらえる記事を増やし、ユーザー数や影響力を確保することは大切。そのうえで地元企業や自治体などに、広告営業を進めることも考えられます。
ただ、広告だけで収益を増やすにも限界があるので、たとえば地元の人のコミュニティを作って運営したり、そこから派生するイベントや物販など幅広いトライアンドエラーを繰り返し、勝ちパターンを増やしていくことが大切なのではと思います。

──武田さんの話を伺っていると、編集者は編集だけが仕事ではないのだと感じます。

武田:編集者はニーズを拾って形にするのが仕事。ただ、「編集にこだわり、営業は避けたい」「紙媒体にこだわり、ウェブメディアは敬遠する」という雰囲気はあるかもしれません。でもせっかく編集者にはニーズを拾う力があるのだから、形にこだわりすぎて新しいチャレンジをしないのはもったいないと個人的には思います。今後はAIに負けない編集者が求められる時代になります。私も手探りの状態で、答えが出ていないことも多いです。残りの年月でちゃんと形にしていきたいです。(了)

武田史子(たけだ・しこ)
編集者。1998年株式会社風讃社に入社、育児雑誌『ひよこクラブ』の編集に携わる。2004年株式会社ベネッセコーポレーションに入社、2013年より生活情報誌『サンキュ!』編集長。株式会社DeNAを経て、2018年に株式会社オウチーノに入社し、くらし情報メディア『ヨムーノ』の編集長を務める。その後、2024年よりフリーの編集者に転身。現在は、地域に根付いたメディアの立ち上げや町おこしのプロジェクトに関与するなど、活躍の場を広げている。

ヨムーノ https://yomuno.jp

撮影/深山 徳幸
執筆/八木 ななみ
編集/佐藤 友美

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