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ちゃんめい

河原和音先生はやっぱりすごい! 恋愛少女マンガがご無沙汰な人に全力で贈りたい『太陽よりも眩しい星』【連載・あちらのお客さまからマンガです/第19回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、今一番読んでほしい! と激推しするマンガをお届け。今回は、大人になってからあまり読まなくなったという恋愛少女マンガから選出。河原和音先生の『太陽よりも眩しい星』について語ります。


基本的にマンガなら何でも読むスタイルの私ですが、悲しいことに年齢と共に食指が鈍ってきてしまったジャンルがあります。それが恋愛少女マンガ。大学生の頃までは熱心に読んでいたのですが、社会人になってからは恋愛少女マンガのまばゆい輝きと、自分の現実との乖離があまりにも激しすぎて物語をうまく楽しめず……。あぁ、対象年齢を過ぎてしまったのだな、なんて思いながらそっと距離を置くようになりました。

なんですけどね、河原和音先生はやっぱりすごい! やってくれましたよ……!

河原和音先生といえば、ご存知『高校デビュー』『青空エール』などを代表作に持つ、青春恋愛マンガの名手。リア友か?! ってくらい熱烈に応援したくなる魅力的なヒロインに、どこまでも対等に向き合ってくれる外見も内面も最高なイケメン彼氏たち。そして、甘いだけではないシュワッと弾ける炭酸のように爽やかな恋の物語に中高時代の私は夢中になりました(分かるって人は同じ世代です、心の中で握手しよ)。

そんな河原和音先生は現在「別冊マーガレット」で『太陽よりも眩しい星』を絶賛連載中なのですが、これがもう本当に素晴らしい、素晴らしすぎる! 高校生たちの恋愛模様を描いた作品なのに、現代社会の荒波に揉まれている私でも食い入るように読んでしまう。そして、もうシンプルに「良いもの見たわ……」と胸がいっぱいになるのです。

例えるなら、推しが急に売れた!? 幼馴染設定の妙

まず、本作の主人公・岩田朔英(いわた さえ)は、小学生の頃からずっと幼馴染の神城光輝(かみしろ こうき)に片想いをしているという設定なのですが、「良い感じの幼馴染がいる」というのは恋愛少女マンガの定石ですよね。でも、河原和音先生はもうここから一味違います。

幼い頃から平均より背が高く頑丈な朔英。対して、光輝は背が小さくてか弱い男の子。朔英は光輝を守りながら密かな恋心を抱いていたのですが、彼は年齢を重ねるごとにたくましく成長していき、中学生になる頃には背が伸びて校内の人気者に。

つまり、私が好きだった男の子は、いつの間にか誰もがかっこいいと一目置く男の子になってしまった。朔英の言葉を借りるならば「推しが急に売れた」「好きだったまんがが急に社会現象になる」状態で、光輝はどんどん遠い存在に変わっていってしまうのです。そして、私なんかが好きになって良い相手じゃなかったのだと、朔英は自分の恋心に蓋をしてしまいます。

「アイツの良いところを知っているのは私だけなんだから!」みたいに、好きな人の昔を知っているという点が、恋愛少女マンガにおける幼馴染設定の最高に美味しいところなのに、『太陽よりも眩しい星』ではそれが逆に切ないスパイスとなって効いてくる。もうこの設定からして痺れてしまうのですが、もっとすごいのはここからです。

“この恋の素晴らしさ”に心が打ち震える

どんなにかっこよく成長しても、壁ドンするわけでも急にオラつくこともなく、小学生の頃から変わらぬ笑顔と優しさを朔英に向ける光輝。そんな彼と接していくうちに、朔英はたとえ叶わなかったとしてもこの恋を簡単に捨ててしまうのは止めようと決意するのです。

そして、高校入学後は同じクラスになったことで再び急接近していき、さまざまな学校行事を経て朔英の心はさらに揺れ動いていくのですが。本作を読み進めていくと、この恋が叶うかどうか以前に“この恋の素晴らしさ”にただただ心が打ち震えます。

そもそも恋の素晴らしさってなんでしょうね。今まで経験したことない感情を体験できる、互いに高め合うことで人として成長できる……。色々あると思いますが、私はこの2人を見て「自分のコンプレックスを優しく溶かしてくれる」という恋の新しい一面、いや、恋の眩しさを知りました。

例えば、朔英はすごく優しくて素敵な女の子なのに、平均より背が高く頑丈なことを気にしていて自分のことを“可愛い女の子”と思えないタイプ。クラスメイトの男子から「1周回って可愛いタイプ」とクソ失礼な言葉を投げかけられても反論せず、大人しくやり過ごそうとしてしまうのですが、光輝は絶対に黙らない。彼だけは「1周回らなくても普通に可愛いだろ」と呪いを解く言葉を真っ直ぐ投げかけてくれるし、朔英が怪我した時は誰よりも心配をしてくれる。自分は頑丈だから大丈夫だと言っても、そんなわけないと真っ先に駆けつけてくれるのです。

『太陽よりも眩しい星』が放つ光に触れてみて

別にめちゃくちゃ凝ったセリフを吐くわけでも、何かド派手なイベントが起きるわけではないけれど、好きな人が、自分の心のなかに抱えているコンプレックスを、まるで最初から無かったもののように溶かしてくれる……この恋の尊さよ!

朔英は光輝の存在を『太陽よりも眩しい星』だというのですが、こちらから言わせてもらえば、光輝と深く関わっていくうちに少しずつ自信をつけ、彼に向ける眼差しがパッと明るくなっていく朔英の姿もまさに『太陽よりも眩しい星』です。

私はもうすっかり大人になってしまったから、朔英に自分を重ねることはもちろん、感情移入させることは正直ないけれど『太陽よりも眩しい星』を読んでいると、ただただ「ありがとう」と言いたくなる。ときめきとかキュンとかポップな感情ではなく、誰かを好きになることの先にこんなに素晴らしい景色が広がっているのかと。なんだか心が浄化されていくような感覚があるのです。私のように大人になってから恋愛少女マンガはご無沙汰という方は、ぜひ『太陽よりも眩しい星』を読んで、この光に触れてみてほしい。

……ちなみに、この2人は恋愛云々の前にお互いのことを人として尊敬しているので(それが良い)、割とすぐに、しかも頻繁に「好きだよ」と爽やかに言い合います。え、それはどっちの好き?! こんなに好き好き言っといて付き合わなかったらぶっ飛ばすよ?! と、かつて恋愛少女マンガを読みながらやきもきしたような女児心が蘇るのがなんだか懐かしくて、とっても嬉しい。みなさんはどうだろう?

文/ちゃんめい

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