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AIの文字起こし機能が最近すごいので、この調子でインタビュー原稿も書いてもらえないか考えてみた【連載・欲深くてすみません。/第22回】

元編集者、独立して丸8年のライターちえみが、書くたびに生まれる迷いや惑い、日々のライター仕事で直面している課題を取り上げ、しつこく考える連載。今日はAIにインタビュー原稿を書かせる方法を考えているようです。

日ごとに秋の気配を感じる今日この頃、AIさまにおかれましては、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。「AIが著しい発展を遂げている昨今……」とか散々原稿に書いてきたけれど、正直ここまでとは想像していませんでした。「よその子とゴーヤは育つのが早い」と博多華丸さんが言っていましたが、そのとおりですね。

と一筆したためたくなるほど、AIによる文字起こしの精度に驚いている。数年前は「鈍感力」を「盆が来たる」と聞き間違え、メンタルヘルスに関するインタビューの文字起こしが、地域の寄り合いによる盆支度の報告のようになってしまうなど、バブバブ赤ちゃんの様相を呈していたAI文字起こし機能。これが近頃、グングン精度が上がっている。

最近では親切に、文字起こし内容を要約してくれるようになった。

これがまあ、想像以上に質の高い要約だ。特に、話の趣旨や目的を読み取る力が、思ったよりもずっと優れている。会話の文字情報しか知らないはずなのに、その背景にある企画意図を的確に捉えていて、ゾッとしたこともある。

ところが、人物に迫るインタビュー原稿を書くとなると、この要約はまるで使いものにならない。私が「これは原稿の核になる」と感じたエピソードを、平気で落しやがる。

議事録として使う分には、きっと十分だろう。AI氏は、おそらくもう、話の目的や趣旨をある程度読み取り、それに従った「要点」を抜き出せるようになっている。

まあ、だけど、特に人物にスポットを当てる原稿の場合は、インタビューで得た情報の「要点」をまとめて書くわけではないのでね。

AI氏「へええ〜。では得た情報から、何をどうピックアップして、まとめているんですか? それがわかれば、私はあなたよりもっと速く正確に、書けますよ」

突如AI氏がズイズイと私に迫ってきた。向上心があり、意識高い系のAI氏。うっとうしいが、かわいいやつ。

仕事を奪われるかどうかは一旦脇に置いて、AI氏に、私のインタビュー原稿の書き方を教えることはできるだろうか。

原稿の書き方、と言いつつ、この仕事は、パソコンに向かい書き始めるまでの時間が長い。実際にあった例をもとに、具体的な私の「インタビュー原稿を書きあげるまで」を想像してみる。

ある社会活動をしている山田さん(仮名)にインタビューし、活動を始めた山田さんの動機、活動にかける思い、これからの展望についてまとめることになった。

ちなみに、その業界ではすでに名高い山田さん。上に書いたような情報は、これまでもさまざまな形で世に発信されている。

え? だったらインタビューするまでもなくない? それこそAI氏を呼んできて、企画趣旨や入れたい要素を伝え、ネット上の情報の集約をお願いすれば、インタビュー記事っぽいものができるのでは?

うん、多分できる。

ところが、実際に人間がインタビューに赴くと「およ?」と思うようなことがたくさん起きる。

たとえばネット上には、活動を始めるきっかけとして「子どものときの社会貢献活動」という情報があった。しかし実際にインタビューしてみると、まあ本人も一応そうおっしゃるのだが、なんだかどうも話がふわふわしている。

そこで事前に調べた情報をもとに、いろいろと率直に聞いていくと、実は山田さんは明確なきっかけや動機があって社会活動を始めたわけではなく、もともとは強い問題意識もなかった、とわかる。

へええ〜、それ、面白い、と私なら思う。望まず、自然の流れで大きなムーブメントに巻き込まれ、いつのまにかそれを先導するまでに至った山田さんの姿が、私には魅力的に思える。

さらに、過去のインタビューの文章を読んだときは「強く、迷わない」人物のように見えた山田さんだが、本人を目の前にするとどうも印象が違う。

めちゃくちゃ迷っている。迷っているからこそ、強い言葉で自分を奮い立たせようとしているような。
この姿もまた私には、とても魅力的に見える。

インタビューの場ではそういう、うれしい誤算がたくさん起きる。過去の情報から導かれる推定の外に、まったく異なる解釈ができる素材がごろごろと転がっている。人物とは多面体であり、聞き手によって見せる顔も違うのだ。

そして人が何かに惹かれるしくみも、摩訶不思議である。企画趣旨に沿った要点ではなく「沿えなかった点」に、むしろ魅力を感じてしまうことがある。

「うわっ、そうだったのか」「面白〜い!」「なんて素敵なんだろう」と、私の心の動きをはかるメーターがグンと上昇するその瞬間の、相手の言葉、エピソード、振る舞い。

これを書くための構成をしなければいけない。

「はい、これ、私がめっちゃ感動したやつ!」と、いきなり読者に差し出したところで受け取ってはもらえない。あくまで企画の趣旨は守りつつ、一番伝えたいこと(時には企画の趣旨からはみ出してしまったものも含む)から逆算して、全体のストーリーをつくっていく。

そして、これが本当に不思議なところだが、なぜ心メーターが上昇したのか、つまり「一体なぜ私は、この人の、この部分に魅力を感じたのか。これを伝えなければいけなかったのか」は、自分で原稿を書き終えてみなければわからないことがほとんどである。おそらく書きながら気づくこと、考えていることがたくさんあるのだろう。

これをふまえ、もしAI氏に執筆を依頼するとしたら。
インタビューを終えたあと「私ね、ここに、めっちゃ感動したの。理由はうまく説明できないんだけど、この人のこういうところ、すごく魅力的だと思うの」と強調し、「この魅力が伝わるよう、諸条件をクリアしながら構成してちょーだい!」とお願いすればいいのだろうか。

うーん、技術にはまったく明るくないけれど、もう少しAI氏が成長すれば、いけそうな気がする。なんせ、よその子とゴーヤは育つのが早いと言うし。

だとしても、やっぱり生身の人間と相対して、疑問を抱き、感動し、魅力を感じること、すなわち心メーターをグンと上昇させる工程だけは、どのように外注して良いのかわからない。これは人間の仕事として残っていくのだろうか。

なるほど、2年後には、ライターあらため感動屋さんを名乗っている可能性がある。

文/塚田 智恵美

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