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締切りが守れないのは描き手の責任? スケジュール進行について【絵で食べていきたい/第26回】

この連載の第8回で、仕事で締切りを守ることの大切さを書きました。この記事を読んだ方から、「もちろん締切りを守るようにしています。でも、反対にクライアント側の都合で納期が延びたり縮まったり、振り回されることがあります。フェアではないな、と感じることはありませんか?」とご質問をいただきました。確かに、締切りを守ろうとしても、発注者側の都合でスケジュール通りに進行できないことはあります。そんなときはどう対処するべきでしょうか?

発注者側の都合でスケジュール通りに進まないことがある

どんな仕事であれ、スケジュールをたてても、その通りに進まないことはあります。多くの仕事は、多少の変更があっても問題なく終わります。それでもたまに、あまりに振り回されてこちらが疲弊するような案件があるのです。発注者側の都合で進行が変わるパターンはいくつかあります。

・そもそも案件がはじまらない場合

たとえば、コンペに通ったらお願いします、といわれて返事を待っていたもののいつまでも返事が来ない。あるいは、大まかなスケジュールを告げられて日程をおさえていたのに、予定の時期を過ぎても一向に発注がない。問い合わせると「来月ぐらいにははじまります」と当然のようにスケジュールを大幅に延期されるケースもあります。

・案件に着手できない場合

予定通りに制作指示書が来ない、来たものの情報の抜け(サイズがわからない、資料が揃わないなど)が多く着手できないというパターンです。

・案件に着手したが、予定通りに進行できない場合

たとえば、ラフのチェックが予定の日までに返ってこないので本制作に進めないケースがこれにあたります。

他にも様々なパターンがありますが、どの場合も、単にスケジュールが遅れた、予定通りに進行しなかったという話では済みません。受注側である描き手は損失を受けるからです。

スケジュールが変更されると何が困るのか?

受注側が受ける損失には、こういったことがあります。

・納期が短くなる

スケジュールがずれたのに締切り日が変わらない場合は、単純に予定していた制作期間よりも短くなります。当然受注側の負担は大きくなります。

・納期をずらしてもらっても、別の案件が入っていて余裕がなくなる

「発注が2日遅れたので、締切りも2日後で大丈夫です」と調整してもらえる場合もあります。しかし、この締切りのあとに別の仕事が控えていたら、2日遅らせてもらっても納品できない場合があります。

・スケジュールがずれたことで、他の仕事が受けられなくなる

後ろに仕事が入っていなかった場合も、本来ならこの期間に受けられるはずの新規の依頼が受けられなくなります。その案件のほうが良い条件だった、ということもありえます。

そして、受注側は締切りを守ることを厳しく要求される割には、発注側の遅れは、往々にして当たり前のように済まされることがあります。最初の質問にあった「フェアではない」という言葉は、現状に対する率直な感想だと思います。

発注者側の都合による進行遅れを防ぎにくい理由

発注者が期日を守らないことは、受注者側からはなかなか防ぎにくいと感じます。また、指摘しにくいのにも理由があります。

・お金を受け取る側のほうが心理的に劣位になりがち

本来、成果物への対価を受け取っているので、発注側と受注側の立場は対等であるはずですが、心理的になかなかそうなりません。そのため相手が期日を守らなかったことに対して対策をとって欲しいと要求しにくくなります。

・自分が困らないことには気が付けない

発注者自身も広告主や取材相手などの都合で無理をしていると、受注者に変更を依頼したときに「同じ苦労をしている」という認識になりがちです。残業や休日出勤が当たり前の職場にいる人は、発注先もいつでも対応するのが当然と感じ、それが無理なことだと気付かない傾向があると思います。しかし、スケジュールに穴が開いてもその分の給料が支払われる人と、成果物を納品するまで報酬が発生しない人の負担が同じとはいえません。環境の違いにより、受注者側が困っていることにそもそも気付けない場合も多いと思います。

受注側がとれる対策はあるか?

自分が困らない場合、人はなかなか行動を変えることができません。そのため、一番効果があるのは、相手にも「スケジュール通り進行しないと困ることになる」と感じてもらうことです。

・スケジュールが確定するまでは受注も確定しない

あいまいな状態でスケジュールだけおさえようとする人には、「今のところ空いていますが、正式に決まったら改めてご発注下さい。お待ちしています!」などと、その段階では受注を確約しないことを伝えます。

・スケジュールが変わった場合、納期も変わると事前に伝える

締切り日だけでなく、相手のスケジュール(発注依頼、チェックの戻しなど)も日程に入れて、双方で共有します。途中のスケジュールがずれたら、納期については随時相談ということにしておけば制作時間を確保しやすくなります。

・発注がキャンセルになった場合のキャンセル料を設定する

これは強気にきこえますが、飲食店をイメージすると受け入れやすいかもしれません。「直前や、相談なしのキャンセルにはキャンセル料をいただく場合があります」と依頼を受けるときのメールに一文入れておくだけでも発注側の意識が少し変わると思います。

私の経験を書きます。競合コンペの案件でよくあることです。コンペに通ったら〇日に発注するのでスケジュールをおさえて欲しいといわれたのに、通ったかどうかの返事をくれない発注者さんが多いのです。

落ちても必ず返事を下さい、とメールに書いてもあまり効果がないので、書き方を変えることにしました。返事はいつごろになりそうかを聞き、その返信にこう書くのです。

「期日までにご連絡をいただけない場合、誠に恐縮ですが、受注の約束を白紙に戻させていただくことがございます。ご理解のほどよろしくお願い申し上げます」

文面は変えることもありますが、こう書くようになってから、大抵の相手は返事をくれるようになりました。都合で返事が遅れるときも、まめに連絡をくれるのです。もちろんコンペに通らなかった場合、返事をくれない人もいますが、その場合は気にせず他の仕事を入れられるのでこちらの負担はぐっと減りました。

さらに小さい工夫で引き出しを増やして、さじ加減をする

これまで書いた方法より、さらに小さい工夫もあります。

・スケジュールに「〇日」だけでなく「〇日17時」などと時間を入れる

これは自分が受けるときにもいえますが、時間まで指定されると「夜中の12時までは〇日だよね、12時を過ぎたらもう翌日の朝イチでも同じだよね」という甘えがなくなります。待つ側も、いつから仕事にとりかかれるのか明確になります。いつまで待てば催促していいかな? という悩みも減ります。

・やりとりの最中に常に日程を確認する

ラフを送るときに、「〇日までにお戻し下さい」など、日程を確認しあうようにします。この一言があると「実は戻しの予定が遅れそうで……」と、先に知らせてもらいやすいようです。

・使いやすくてソフトな言葉をストックしておく

こちらの条件ばかり並べると、読んだ相手からはケンカ腰に感じられることもあります。たとえばこれ以上遅れると困ることを伝えたい場合、「後ろのお約束もありますので」など、状況を説明しつつ感じが悪くならないような言葉をストックしておくと便利です。同業友達の話や、依頼してくださるかたのメールなどで、良い言い回しを見つけたらメモしておきましょう。今はAIにも相談できます。

・正直に勝るものなし?

予定がなかなか決まらないうちに新規の依頼が入った場合、いっそ正直に聞いてみる手もありかもしれません。断ってしまってから予定が伸びて、「こんなことなら受けたのに、機会損失だ」というよりは、「もちろん予定を空けておりますが、別件の問い合わせがありました。予定通りの進行と考えていてよろしいですか?」と確認するのは、そこまで失礼にはあたらないのではないでしょうか。

色々と書いてきましたが、これらの工夫が常にうまくいくとは限りません。そもそも、自分が締切りを守れなかった場合、損害賠償をしろといわれてもよい覚悟がなければ、相手に同じことを要求すべきではないでしょう。多くの場合は持ちつ持たれつで、これまでや今後の関係性も視野に入れつつ、その都度自分のさじ加減で落としどころを見つけることになります。対応策の引き出しをより多く持つことで心に余裕ができ、その結果悩んだり怒ったりする時間を減らす。そして制作にかける時間を増やす。そんな風に仕事をしていけたらいいなと思います。

文/白ふくろう舎

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