
あなたは料理上手ですか? 私は料理上手ではありません。【連載・炭田のレシピ本研究室/第19回】
毎日の料理は、ほぼレシピ本頼り。年間100冊以上のレシピ本を読んでいるフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本を紹介する連載。今回のテーマは「料理上手」です。
料理上手ですか?
私は割と素直な性格をしており、人から褒められたら元気いっぱい「ありがとうございます!」と返す。私の辞書に「謙遜」の文字はない。
そんな私だが、最近身もだえてしまった褒め言葉があった。
町内会のイベントで、お弁当を持って子供たちと大きな公園に遊びに行った時のことだ。私が作ったお弁当を見たママ友が「えー! そんなに美しい“巻き”の卵焼き、はじめて見たんだけど」と言うではないか。しかも「彩りもキレイだし、料理上手なんだね。すごいなぁ」ときた。
料理上手? まさか? 私が?
食い意地ならこの2丁目町内会のトップを張れる自信があるけど、私は決して料理上手ではない。ただただうまいものが食べたくて、レシピ通りに料理を遂行するのが苦にならないだけだ。私のお弁当が料理上手に見えたのなら、それは料理研究家の皆さまの研鑽の上に成り立っているからして……とにかく私は料理上手じゃない。
でもこんな長ったらしい説明をママ友にするのも忍びなくて、私はただ「えへへ、ありがとう……」と返した。人生でいちばん歯切れの悪い「ありがとう」だったと思う。
それ以来ずっと「料理上手とは何か?」考えていたら、ヒントになる本を見つけたので紹介したい。池田暁子さんの『料理上手の頭ん中のぞいてみました!』だ。
私は天啓を授かりたい
コミックエッセイストの池田さんは、ご自分でも認めている通り料理下手だ。別の本だが『池田暁子の必要十分料理』という本では、いろんな野菜をごった煮にして袋麺かパスタと和えたものを1日1回食べて済ませていた様子が描かれている(ご本人は、料理というより「エサ」だったと振り返っている)。
そんな池田さんが、料理上手8人に料理の秘訣を徹底取材したのが『料理上手の頭ん中のぞいてみました!』。漫画をベースにしながら、レシピもいくつか紹介されている一冊だ。

山本ゆりさん、笠原将弘さん、長谷川あかりさんなど、料理上手さんたちの多くが主張しているのが、撮影用に作ったレシピやお店で出す料理、趣味が高じて作る料理と、家庭で日々作る料理は違う、ということ。皆さん、表舞台ではいろいろなバリエーションの料理をお披露目しているけど、家族のための料理は「生活」だから、案外ルーティンで同じものを繰り返し作っていたりする。ハレとケの違いとでも言えようか。これが私には「えっ? そうなの?」だった。料理上手な人でも、毎日多種多様な料理ばかり食べているわけじゃあないらしい。
だけども私は、毎日違う料理を作りたくて、毎日違う(確実に)おいしい味にありつきたい。作り置きとか、ノーサンキュー。そう思いながらページをめくると、最後に登場した枝元なほみさんが普段どんなふうに献立の組み合わせを考えているのかを問われて、こう答えていた。
「(ほっぺたを抑えて)うーんと、ここらへんとか…あと頭とかで味を想像して…
たりないものはなにかな…って考えたら…
降ってくる!」
これだ! 私が憧れる料理上手は、まさにこの枝元さんの姿。もぐもぐしていたら、これが合うよ~と天から組み合わせが降ってくる人。悲しいかな、私はレシピをトレースするのは得意だけど、特になにも降ってこない。降ったとしても、大葉や胡麻が精々だ(それはただの薬味)。
だからママ友からの「料理上手」という褒め言葉も受け入れられなかったのだなぁ~と、すっきりサッパリしたところで、そんな料理上手になるための2冊目を紹介します。
レシピのだいぶ前でつまずいてました
それが、レシピとまではいかないけれど、知っておくとグッと料理がおいしくなる知恵が詰まった藤井恵さんの『レシピ未満のおいしい食べ方』。枝元さんの本じゃないんかい! と思うかもしれないが、私が料理上手になるにはレシピよりずっと手前にあるエッセンスが必要だと思い、手に取った。
読み進めると、それはもう知らないことだらけ。サラダを食べる時のドレッシングの「かけ方」からして、私は上手に出来ておりませんでした。藤井さん曰く、ドレッシングは上からドボドボとかけるのではなく「あらかじめ指でボウルになすりつけてから、野菜をふんわり落としてドレッシングをまとわせる」のが良いとのこと。不肖ながら、サラダスピナーで野菜の水気を切るだけで100点だと思っておりました。藤井流で作ると、気の利いたレストランのような顔付きのサラダがヴィーナスよろしく誕生します。

ほかにも、冷奴の豆腐は倒して切り口を上にして盛ると調味料がいつもの2倍馴染むとか、きゅうりは叩かずに包丁で縦に割ると水っぽくならないとか、やってみると仕上がりが見違えるワザばかり。
そして気付きました。私の料理には「観察」が足りなかったのかもしれない、と。最高の組み合わせが降ってくるようになりたーい! と思っていたけれど、そもそもレシピを再現することに夢中で、藤井さんのように食材ひとつずつがどうしたらもっとおいしくなるのか? なんて、考えてもいませんでした。まずはそこから出直します。
料理上手になれそうなのか?
じゃあこれからの私は料理上手になるために、食材一つひとつに向き合い、よく観察し、何度も繰り返し同じ料理を作り、腕を上げていくのかというと、正直ちょっとあやしいと思っている。毎日違うレシピを試して、いろんな味を食べたい私は、きっとそこまで気が回らない。
つきましては皆さま。私のことは決して「料理上手」だなんて言わないよう、くれぐれもよろしくお願い申し上げます。そのほかの褒め言葉はどんと来い、です。
文/炭田 友望
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