
トマトの貯金箱【さとゆみの今日もコレカラ/006】
発車メロディの音が聞こえた。瀬戸の花嫁だ。半分寝ぼけながら、ここはどこだっけと考える。そうだ、岡山から松山に向かう電車の中だ。まだ2時間はある。再び眠りに引き込まれたら、家族で四国に来た時のことを夢に見た。
父母は旅行好きだった。北海道の小樽からトヨタカムリをフェリーに乗せ、何度「内地」を旅しただろう。初めての愛媛は、瀬戸大橋ができる前。フェリーの中で聴いた瀬戸の花嫁を、家族四人で大合唱しながらみかん畑の間を走った。
昔訪れた場所がテレビに映るたび、今治でタオル工場を見たよね、うどんが美味しかったよなあ。あら違いますよ、うどんは丸亀ですよ。そうだっけ、また行きたいねえなどと話をしている。私が高校を卒業するまでは、47都道府県全て制覇していたから、ニュースで映る景色がどこであれ、彼らの会話が途切れることはなかった。
旅をするのは、思い出すためなのだと、私は両親から学んだ。
社会人になり久しぶりに規制した時、実家のタンスの上にトマトの形をした貯金箱をみつけた。ヤカンよりも大きい。
「お父さんと結婚した時に買ったの。この貯金箱がいっぱいになるたびに旅行をしようねって約束したの」と、母が言う。
父が退職してからは、さらに回数が増えた。旅先から何枚も写真がLINEされてくる。お互いがお互いを撮るから、いつも一人ずつ映っている。自撮りを教えてあげなきゃと思っているうちに、父がスキルス胃がんになった。
抗がん剤治療が始まる前、私は息子を連れて両親と旅行に行った。合間に自撮りの方法を教えた。その後、母から送られてくる写真は、ちょっとブレた2ショットになった。後半は病室からのものが増え、最後は車いすだった。
母の自撮りがうまくなった頃、父は亡くなった。病室にはアルバムが何冊も持ち込まれていた。ここでも思い出話をしていたのだろうか。また行きたいねえと言ったのだろうか最後の旅は、どうしたって一人だね。
*
松山駅に着いたら深夜なのに暖かかった。日中は29℃もあったんですよ、とタクシーの運転手さんが言う。
愛媛は初めてですかと聞かれ、いいえ、以前家族と来たことがありますと答える。家族みんなで瀬戸の花嫁を歌いながら車をかっ飛ばしました。
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