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人生最大の失敗【さとゆみの今日もコレカラ/第297回】

まだ、ヘアライターをしていた頃のことだ。

越後湯沢の温泉から帰って、六本木のペットホテルに預けていた犬を迎えに行った時、ケータイが鳴った。大阪の美容ディーラーさんからの着信だった。

「ゆみさん、いま、どこにいますか?」と聞かれ、え、六本木ですがと答える前に「新幹線の南口改札にいるのですが、見当たらなくて」と言われ血の気が引いた。

人はパニックになるととりあえずケータイをガチャ切りするものですね。電話を切ったあと、心拍数200くらいになった瀕死の心臓でぶるぶる震える手をおさえこみスケジュールを確認すると、その日は大阪で美容師さん相手にセミナーをする日だった。開始時刻は2時間後。オレ、いま、六本木。 詰んだ。

最悪だったのが、その日は全国各地から200人もの美容師さんが集まってくださっていたこと。不幸中の幸いだったのは、あるグループ会社単体の社内研修セミナーだったこと。チケットを買ってもらったわけではなかったので、全額払い戻し保証とか、違約金というようなことにはならなかった。

とはいえ、次の日早朝大阪にすっ飛んで、その会社の社長さんと、アテンドしてくれていたディーラーさんと、私を推薦してくださった美容師さんにお詫びをした。生きた心地がしなかった。

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後日、私がさんざん迷惑をかけたディーラーの副社長さんがベルギービールを飲みに行きませんか?と、誘ってくださった。そして、「ゆみさんがすごく落ち込んでいると聞いたので」と、ご自身の失敗談を話してくださった。

その方の会社は当時、日本で最も大きなヘアデザインコンテストを開催する会社だった。大ホールを貸しきり、1万人近くの美容専門学生と美容師が全国からエントリーする。予選があり、勝ち残った人だけが決勝でまたヘアスタイルを作ることができる。その大舞台の表彰式で、事件は起こった。

各部門、入賞したり審査員特別賞を取ったりした美容師とそのモデルは番号を読み上げられ、ステージに上がる。しかし途中から会場がざわめき出した。予選落ちしたはずの人が呼ばれたり、「俺はこのスタイルを選んでいない」と審査員が言い出したりしたからだ。いったい何が起こっているのか、現場は騒然とした。

このとき、コンテストの実行委員長をしていたのが、若かりし頃の副社長だった。現場では何が何だかわからなかったけれど、のちに、得点集計の際に昨年のエクセルを呼び出してしまったことによるミスだとわかった。

そのコンテストのために壮絶な練習を重ね、モデルを雇い、旅費をかけて、この場に臨んだ1万人の出場者たち。自分が責任者だったとしたら?想像するだけで背筋が寒くなる。

それからどうしたんですか?と聞いた。彼はそれからの365日間毎日、出場してくれた人たちへのお詫び行脚に費やしたという。

本来だったら1万人の前で祝福されるはずだったグランプリの人、それ以上に大変だったのは、本当はグランプリではないのに会場で賞を受け取ってしまった人。恥ずかしくてもう美容師を続けられないと言われ、ただただ泣いて謝るしかできなかったこともあったという。

会社を辞めようとは思いませんでしたか?と聞くと、それは思いもしなかったと言う。少なくとも、次の年のコンテストまでは、お詫びをしてまわらねばと思ったし、再発防止のための策も作らなくてはならないと考えた、と。

それから何年も経って、彼は副社長にまでなっている。全国の美容師さんからよく彼の名前を聞く。とても信頼されているのだろう。

私にこの話をするために、わざわざ時間をとってくださったことに、深く感謝した。そして、語るのも辛いであろうこの話を聞かせてもらえたことに感謝した。

それに比べたら私のしたミスなんて大したことないと思ったわけじゃない。その逆で、ミスした後からの時間の過ごし方がその人の人生を変えるのだと教えてもらった。

もう、20年近く前の話だけれど、今もよく思い出す。

✳︎「今日もコレカラ」は毎朝7時に更新し、24時間で消滅します。今日もこれから良い一日を。

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【この記事をおすすめ】

こういう常備薬みたいなTipsをたくさん増やしていきたい。

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