しんどい期の常備薬にどうぞ『しあわせは食べて寝て待て』【連載・あちらのお客さまからマンガです/第15回】
「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、今一番読んでほしい! と激推しするマンガをお届け。今回は、何をやってもうまくいかず、しんどい思いをしているあなたに勧めたい『しあわせは食べて寝て待て』について語ります。
人生には何をやってもうまくいかない、しんどい時期が存在する。そんな時は、家で爆食パーティーをしたり、友人に付き合ってもらって飲み倒したり、自分を奮い立たせるために高い買い物をしてみたり……。しんどい時期なりのアクティビティがあるのだが、ぶっちゃけどれもそこそこ時間とお金を消耗する。また、年を重ねていくうちにそれらを楽しむパワーが心身ともに落ちていき、逆に疲弊して負のスパイラルに陥ってしまうこともしばしば。
というわけで、最近の私はしんどい時期にこんなことをやっている。家で一人きりになって、とにかくネガティブなことを言いまくるのだ。自分の不甲斐なさを叱責したり、ひたすら他人を罵るなど、なんだって良い。ただ、最後に一言こう付け加えるのだ。「なーんて嘘だけど」と。そう思っていなくてもとりあえず「なーんて嘘だけど」と付け足すことが大切らしく、そうすることで人間の脳が本当に“嘘”だと勘違いして、いじけた気持ちがなんとなく薄れていくのだそう。これは、水凪トリ先生の『しあわせは食べて寝て待て』という作品から教わったことだ。
寝て待つスタイルは果報だけじゃない?!
「果報は寝て待て」なんていうけれど、そうか、幸せも寝て待つスタイルで良いのかと。この作品に初めて出会った3年前の春、タイトルを見ただけで肩の荷が下りたというか。10〜20代は「幸せは自分で掴むもの!」を地でいくタイプだったから、なんだか許されたような気持ちになったことを今でもよく覚えている。
主人公は、オーバーワークによって病気を患い、キャリアも夢も希望も失ってしまった麦巻さとこ。何かと体調を崩しやすくなってしまった彼女は、これまで勤めていた会社を辞め、デザイン事務所で週休3日のパート事務員として働いている。
収入が減ったことから引越しを検討していたさとこは、面倒見の良い大家・鈴さんの存在と家賃の安さに惹かれて、団地へと住まいを移すことに。のどかな時間が流れる新居で待ち受けていたのは、内見に行った時と変わらずに世話焼きの鈴さん、そして鈴さんと一緒に暮らしている青年・司だった。そして、この2人から薬膳を教わったことをきっかけに、さとこは“体を整える食”を取り入れ、徐々に自分の心身のペースを取り戻していく。
こういう常備薬みたいなTipsを増やしたい
――何かと乾燥しがちなオフィスでは、喉を潤すために杏子のドライフルーツを食べる。気持ちが凝り固まっている時は、さつまいもなどの自然の甘みを摂取する。作中には思わず真似したくなるような手軽な薬膳Tipsが溢れているので、もしも人に本作をざっくり説明するとしたら「薬膳がテーマのマンガ」というかもしれない。でも、本作は何も薬膳布教マンガというわけではなく。鈴さん、司、さとこ、みんなが薬膳に傾倒しすぎていないというのか、程よい絶妙な距離感で取り入れているところがとても心地よい。
「こんな方法もあるんだよ」という押し付けがましくない、鈴さんと司の優しさ。そして、「やってみよう」と、時に熱中しすぎて危ういところもあるけど、無理せずに自分のペースで愉しむさとこの心のヘルシーさ。この2つが本作を構成している栄養素な気がしていて、読んでいるだけでなんだか萎んだ心に水が入っていくような感覚がある。
良さそうと思ったら、無理せずに取り入れられるくらい手軽で。でも、合わなかったら途中で止めたって良い。本作はちょうど良い体温で、かつ薬膳以外にも冒頭で話した「なーんて嘘だけど」みたいな自分のペースを取り戻すような方法が詰まっている。
何をやってもうまくいかなくて、しんどい時期。そんな毎日に風穴を開けるような暴飲暴食、高額な買い物をするなど、つい劇薬を求めてしまいがちだけど、これからはこういう常備薬みたいなTipsをたくさん増やしていきたい。
文/ちゃんめい
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