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大事な人に会えない寂しさではなかった/ARAKI SHIRO氏のショーを鑑賞して向き合った心の声

11月23日にアイランドシティ中央公園(福岡市)で行われた『FUKUOKA ASIA DESIGNERS SHOW2022』。このショーは、2年前から福岡の若手デザイナーの発掘・育成を目的として行われていたイベントだ。レディー・ガガの衣装を担当したこともあるコスチュームデザイナーARAKI SHIRO氏の演出・脚本・衣装で行われたショー。「出会わない時代に心が感じること」、このテーマを自分に問いながら鑑賞したショーは、心の声を聞く大切さを思い出させてくれた。

私は普段、本を読むことが好きだ。

本は、自分の生きる環境や寿命を超えた「知」にタッチできるツールだからだ。自分の全く知らない世界を擬似体験することで視野を広くしてくれる。ときに、名言や著者の人生が、目の前の悩みや進路の選択に影響を与えることもある。たくさんの本の言葉と物語が私自身の人生に影響を与えてきた。今回、このショーは1冊の本から受ける影響と同じ、いや3倍くらいの濃度を感じた。本とは違い、モデルもダンサーも決して言葉は発さない。言葉を使わず、目に見えるもの感じるものに、思いをこめて、波動を打たれているような、そんな感覚だった。

ショーは、集団の規則的な行進から始まる。そこから徐々に数人のコンテンポラリーダンサーが離脱していき、思い思いに踊り出す。初めは控えめ。同じような動き。そして、造形的な衣装のモデルがランウェイを曲線状に歩く。ヘッドピースの隙間から覗く顔は、うつむくと寂しげで、顔をあげると目線の先に未来に対する希望があるようにも感じた。終盤には、ダンサーの動きは大きくなり、いつの間にか、会場全体を使った大きなパフォーマンスへと変わっていた。会場の装飾のようにみえた白い造形には、表面に浅く水が張ってあり、ダンサーが水を蹴り上げ、水飛沫を立てる演出は新しかった。

おとなしい「静」の世界観が、徐々に感情的に「動」き出し、葛藤から、ひとつの気持ちにまとまっていくような、そんな心の動きを表していたのでないかと思う。

演劇でもファッションショーでもなかったこのショーにはどんなメッセージが込められていたのか。ショーが終わってからもずっと考えていた。このショーの主題であった「出会わない時代に心が感じること」とは? 会場で感じた、波動のようなものを、鮮明に思い出すために目を閉じる。できるだけ頭を使わずに、心や肌で感じたことはどんなことだったか、じっくりとあの空間と向き合った。そして思った。刺激的な日常の中で、私は今日のようにどれくらい自分の心の声を聞いていたのだろうか。私たちは日々、仕事や恋愛など社会の中で、競争や評価に参加しながら生きている。忙しさで揺れ動く気持ちを人生の高揚感や喪失感と思い込んでいなかっただろうか。人と出会わない時代に、私は「他者から与えられる安心感」と「自分を信頼できる安心感」の違いを改めて認識することができた。心の声を聞くとは、集団から離脱して踊るコンテンポラリーダンサーのような、自分の内側の欲求と繋がることではないだろうか。信頼できるものとの絆の深さが人生を豊かにしてくれる。

ARAKI氏が「人間は唯一考えることを許された、豊かな人生を築くことのできる生き物だ」と、過去のインタビューで言っていたのを思い出した。環境に順応するより、魂のエネルギーに耳を傾け、心に素直に1日1日楽しむことの大切さをこのショーを通して、全身で感じることができた。

またその日、会場の各所で見かけたスタッフさん。ひとりひとりが自身の役割のために、動き回っていたのだが、マスクをしていてもわかるほど、みんな活き活きとした表情をしていた。あの緊張感とエネルギーは、演出家と出演者だけのものではない、このショーに関わる全ての人たちの思いとパワーだった。

次世代のデザイナー発掘プロジェクトでもあるこのショーを来年以降も追いかけていきたい。

https://www.instagram.com/reel/ClYeIq0J7wH/?igshid=YmMyMTA2M2Y=

文/工藤 千奈

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