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我流で未経験。「コネ」はないと思っていたけれど……? 驚きの「紹介」編。【絵で食べていきたい/第3回】

前回、未経験のイラストレーターが仕事をもらうのに「持ち込み」は有効だということを、かなりアツく語りました。しかしもちろん「持ち込み」がすべてではありません。「持ち込み」は一切せずにイラストレーターになったという人も意外と多くいます。その人たちは大抵「人からの紹介」で仕事をもらいはじめます。いわゆる「コネ」とか「ツテ」ですが、これもまた、私が実際に仕事をする前にイメージしていたものとは少し違いました。今回はその話をしたいと思います。

「コネ」があるのは特別な人たちだけ?

そもそも「コネ(コネクション)」とは何でしょうか。ちなみに、私が仕事を始める前にぼんやりとイメージしていた「コネ」といえば、例えばこんな感じです。

親戚に大物クリエイターがいて、その紹介で大きな仕事をもらう。

業界の大物(←誰なんでしょう)が、ひょんなことから(←どんなことでしょうか)自分を気に入り、「この子を使ってあげて」と後押ししてくれて、大きなオファーがどんどん来る……。

さすがに、今時こんな想像をしている人はいないかもしれませんが、もしこういう「コネ」が本当に存在するならば、それはごくごく少数の、選ばれた人たちの話。ある業界に未経験で飛び込んだなら、誰でも最初は「コネ」なし、というのが普通でしょう。

そんな普通の人たちに、もし「コネ」があるとすれば、それは「今、自分と一緒にいる人とのつながり」そのものではないでしょうか。

前回、私が最初に仕事をもらったのは、「持ち込み」をした編集部からと、イラストレーターの「コミュニティつながり」からだと書きました。

この「コミュニティつながり」でもらった仕事は、実は2つありました。1つはコミュニティで知り合った同業の先輩に紹介してもらった雑誌の仕事。もう1つは、別の先輩の手伝いとして連れて行ってもらった、広告制作会社の仕事です。

このように、同業者コミュニティのつながりが、私にとってははじめての「コネ」となったので、これについてもう少し詳しく話したいと思います。

はじめて紹介してもらった仕事は、先輩の代打だった

私が参加したコミュニティは、インターネット上の掲示板を中心に活動していました。そこでは、駆け出しイラストレーター同士の悩みを相談したり、活動報告をしたりするほか、確定申告や著作権のセミナー、オフ会などが開かれていました。

当時同業の知り合いなどいなかった私は、ここでたくさんの「駆け出し仲間」と出会い、先輩からいろいろな知識や情報を教えてもらいました。セミナーやオフ会にも積極的に参加しました。何しろ専門の学校にも行っていないのですから、吸収できるものは何でもしたかったのです。

そのかわり、私も頻繁に掲示板に書き込みをして、自分の「持ち込み体験談」を書いたり、ほかの人の投稿にせっせとリアクションやコメントをしたり、オフ会でも「お客様」にならず、盛り上げようと頑張ったりしました。

しばらくしたある日、先輩の一人(Aさんとします)から突然電話がありました。取材つきの仕事を打診されたけれど、自分は当日用事があって行けない。もし代わりにこの仕事を受ける気があるなら紹介しようか、という話でした。もちろん断る理由などありません。

さらに「白さん、似顔絵は描けますか?」ときかれたので、全く得意ではなかったけれど、これも「描けます!」と即答し、先輩の代理として引き受けたのが、テレビ雑誌の番組取材ルポでした。

この仕事はカラーの見開き4ページで、文章はライターさんが書き、私はイラストを担当しました。人気タレントが出るテレビ番組の収録現場に立ち会い、スタジオセットや撮影の様子をタレントの似顔絵入りでルポするものです。初めての取材ということもあり、仕事を納品するまではハラハラとドキドキの連続でしたが、このご紹介が私のキャリアをとても助けてくれたのは間違いありません。雑誌掲載後、このページをポートフォリオに入れるようになると「あ、もうしっかりお仕事されているんですね」と、持ち込み先の反応もグッとよくなりました。何しろ人気タレントの番組についての記事なので、それだけで「メジャー感」があるのです。

後日、Aさんに「あの時、どうして紹介してくださったのですか」ときいてみました。実はAさんは、先に別の人に電話をしたもののつながらず、2番目にかけたのが私だった、とのことでした。ちなみに、電話がつながらなかったという人は、当時すでにイラスト受注の実績もありました。ただ、会社員と兼業していたので、日中は電話に出られなかったのです。なので、この仕事が回ってきたのは第一に運でした。でもリストの2番目に自分がいたのは、これまでの交流で「紹介してもいい」と思ってもらえるような関係性や信頼を、Aさんと築けていたからではないかな、と思います。

同業者同士はライバルではありますが、このように「自分が仕事を受けられない時に、代わりを紹介する」とか、「編集さんに頼まれて、自分が苦手な分野を得意とする人を探す」というようなことは結構あります。こういう時、「あの人になら紹介してもいい」と思ってもらえる関係は大切です。そのために、ある程度の画力はもちろん必要ですが、決してそれだけではないように思います。仕事への熱意や、周囲に対して自分ができることで貢献する姿勢などは、普段のつきあいからこそ判断してもらえるのではないでしょうか。

先輩の手伝いとして制作会社に出入りする

2つ目の「紹介」は、別の先輩(Bさんとします)からのメールがきっかけでした。「いろいろと頑張っているようだから、自分の仕事も手伝ってほしい」というような、ややふんわりとした内容だったと思います。このBさんも同じコミュニティの参加者で、イラストレーターのほか、アートディレクションなどもするベテランでした。すでに何度も会ったり、ポートフォリオも見てもらったりしている相手だったので、メールをもらった時は大喜びしました。

Bさんが連れて行ってくれたのは、広告の制作会社でした。それまで、イラストといえば雑誌や書籍に描くことしか思いつかなかった私は、広告は別の世界の話だと思っていました。ここではじめて、広告イラストでも、有名イラストレーターが名指しで受ける仕事ばかりでなく、アートディレクターが作ったカンプ(全体の完成見本、イメージ)から実際のイラストを描き起こしたり、既存のキャラクターのポーズを変えたり、線画のイラストをCGで立体風にしたりするような、いろいろな「絵の仕事」があることを知りました。

あちこちの会社に私を連れて行ってくれたBさんは、美大予備校でデッサンを指導する程の腕前でしたが、デジタルグラフィックには手をつけ始めたばかりでした。私はゲーム会社で描いたデジタルイラストもポートフォリオに入れていたので、最初はそこに目をつけてくださったようです。ゲーム会社の人たちに比べたら、私のCGの技術はたいしたことはありませんでしたが、Bさんの周りにいるイラストレーターの中では経験があったのでしょう。また作風にこだわりなく様々なタッチの絵を描いていたので、アシスタントとして使いやすかったのだろうと思います。

この頃、ようやく雑誌の仕事をもらい始めた私にとって、外部スタッフとして広告制作の仕事を手伝えたことは、とてもありがたいことでした。まとまった収入を得られて、Bさんや制作会社の人たちから直接指導をしてもらえ、必要とされるクオリティを知り、業界の様々な情報や知識も得られるなど、メリットだらけだったのです。

今思うと、イラストレーターになると決めてから半年くらいの間に、このコミュニティに入らず、一人でやっていたら、「なんとか食べられそうだ」と思えるまでに、もっと時間がかかっただろうと思います。人の集まるところには、それなりにもめごともありましたが、当時の自分なりに精一杯人と関わったことは、意味のあることだったなと思っています。

「コネ」がない、が失礼な訳

さて、最初の仕事はこんなかたちで人に紹介してもらいましたが、仕事を続けていく間にどんどん関わる人は増えていきました。そんな中で、ちょっと意外な「コネ」もいくつかありました。

・お菓子の会社で働いていた頃、社内でデザイナーをしていた先輩と、数年後、街で偶然に再会。先輩も退職してフリーのデザイナーになっていたため、それまでやったことのなかった商品パッケージや店舗POPなどの仕事をもらうことができた。

・イベントで出会った占い師の人が、数年後にライターになっていて、SNSを通じて、まだ仕事をしたことのない雑誌のイラストを発注してくれた。

・グループ展を計画し、大きな商業施設のギャラリースペースを使わせてほしくて皆でツテをたどった。自分にはそんな知り合いはいないと思っていたが、それまで社内報の表紙を描いていた会社の人が上司に話をしてくれた。するとその上司のかたはギャラリーの責任者と知り合いで、話をつないでくれた。

・展示をきっかけにお店に行くようになったカフェのマスターがメニューのイラストを依頼してくれた。

・雑誌の編集さんが転職するたび、転職先からも発注をくれるので、自分が営業していない出版社からの依頼がどんどん増えてきた。

こうして振り返ってみると、どんなことが仕事につながるかは意外とわからないものです。とすると、社会で生活していて、「コネがない」と言うことは、極端に言えば「この人に相談してもしょうがない、仕事につながらない」などと、勝手に相手を値踏みしているようなものかもしれません。逆にフリーランスは、日々の自分の行動が、すべて営業につながっているとも考えられるのではないでしょうか。それだけに、自分でも気をつけたいと思うのは、次のようなことです。

繰り返しになりますが、常に目の前にいる人、取り組んでいる仕事を大切にすること。

どんな職業でも、堅実に仕事を続けていて自信のある人ほど、わざわざ自分の力をひけらかさなかったりします。それに、年数がたてばたつほど、小さな縁がどう転ぶかわかりません。逆に、失礼な態度をとったり、無意識にでも相手を傷つけたりしたら、相手はきっと忘れないでしょう。

そして、相手をあなどってはいけない一方で、自分もあなどられないようにすること。

「経験が欲しいんでしょ」とばかりに、無償で依頼されないように「絵で食べていきたいので仕事が欲しい」ということを、しっかり伝えていく。これも、とても大事だと思っています。

最後に、もし誰かに仕事や人を紹介してもらったら、その時だけでなく、終わってからもきちんと御礼や報告をすること。

紹介した相手は、「その後、どうなったかな」と必ず気にしています。うまくいっても、いかなくても、相手へのお礼の気持ちはちゃんと伝え、どうなったかの報告はしたいものです。ちなみに、もし紹介された仕事で、例えば未払いなどのトラブルが起きた場合は、紹介相手を責めるのでも、トラブルを隠すのでもなく、誠実に、正直に相談するのが一番良いのではないかと思います。

というわけで、まずはイラストレーターになって最初の仕事をもらった頃の話をしました。

「持ち込み」であれ「紹介」であれ、結局は「縁」と「相性」、そして「運」だったりします。そうやって得た仕事を、どうやって次につなげて、もっと広げていくのか。安定して仕事を受けるために、どんなことをしているのか。

これからは、そんな話も書いていきたいと思います。

文/白ふくろう舎

【白ふくろう舎さんの連載はこちら】

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