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「私、この記事書いたぞ!!」と猛アピールする前に考えたい、編集者の見ている「実績」とは何か【連載・欲深くてすみません。/第36回】

元編集者、独立して丸9年のライターちえみが、書くたびに生まれる迷いや惑い、日々のライター仕事で直面している課題を取り上げ、しつこく考える連載。今日は、フリーランスが仕事を得るための「実績」について考えているようです。

「私の文章が選ばれている」
そう調子に乗っていた。インタビューの仕事が増えた数年前のことである。有名媒体から依頼が来て、著名人のインタビュー原稿を書く。その原稿が世に出ると、別の媒体からも依頼が来る。と、数珠つなぎのように仕事がやってきた。「それもこれも、きっと私の原稿がずいぶんうまくなったからだろうなあ」「有名媒体で書くと箔が付くのかなあ。やっぱりフリーランスは、実績がすべてなんだ」と、どんどん鼻が伸びていき、ついには数メートル先のボタンも鼻先で押せるくらいの天狗に。

あるとき、書く仕事を志した頃に「いつかこの媒体で書けたら」と憧れていた媒体の編集者から、依頼を受けた。完全に図に乗った天狗は、仕事を終えた後に編集者に聞いてみた。
「今回なぜ私に、仕事を依頼してくれたのですか。どの原稿が決め手に?」

購入後アンケートのような体裁ではあるが、まあ実際は天狗が皿を突き出して「ここに私への褒め言葉を載せてくれ」とおねだりしてみたわけである。だって、相手は天下の有名メディアの編集者。依頼するからには、ライターの過去記事をチェックし「この文章ならば」と思って選定するのであろう。はたして、お眼鏡にかなったのは、どの原稿だったのかな? さあ言ってくれ、そして私の原稿を山盛り褒めてくれ!

ところが、編集者はこう言った。
「別の現場であなたと一緒になったカメラマンが、あなたのことを、なんかしっかりしてそうな人、と言っていたから」

あ、あーーー。
しっかりしてそう、ですか。そっちですか。

天狗、猫背になり、伸び切った鼻はしゅるしゅると縮んでいく。

いや、もちろん「しっかりしてそう」も立派な評価です。でもさあ……地味じゃない? こちら天狗につき「文章がうまい」「表現が多彩でのびのびしている」「構成の匠」「描写の神」みたいな褒め言葉を求めていたものですから。欲深くてほんとすみませんね。

しかし、やっぱりそういうことなんだな、と合点がいった。

ライターとは文章で選ばれるもの。
選ばれるための「実績」とは、「どこで、何を書いたか」。

そう思いがちだが(天狗の私だけかも)、取材ライターのように現場に足を運び取材対象者と関わる役割、他のスタッフとの共同作業が求められる役割に人を起用するとき、編集者が知りたいのは、もっと切実なところのはずだ。

「この人に取材を任せて事故らないか」
「取材対象者に失礼な振る舞いをせず、ただし迎合しすぎることもなく、的確な距離感で質問ができるか」
「企画意図を汲んだ構成ができるか」
「原稿を受け取った編集者の手間を増やさないか」

例えば、こういうことである。

では、これらの「実績」は、どうやって人に伝わるのだろう。

仕事の向き合い方や態度的なものは、最終的なアウトプット、つまり世に出た記事を見るだけではわからない。編集者が徹底的に原稿を書き直している可能性もあるから、文章力ですら記事を見るだけで判断するのは危うい。

ちなみに私は編集の仕事も多いため、カメラマンさんやデザイナーさん、イラストレーターさんを媒体に推薦することがたまにある。新しい縁を探してSNSやウェブページで調べているとき、見る「実績」は写真や誌面、イラストといった成果物だけかと言われると、そうでもない。それを見ただけでは、やっぱりわからないことも多いのだ。

もっとも幸福な「実績」は、過去に仕事をした人からのクチコミである。信頼できるスタッフの言う「信頼できる人」ほど、信頼できるものはない。私を「なんかしっかりしてそうな人」と言ってくれたカメラマンさん、ありがとう。

ただ現場で交わされるクチコミは、どうやっても自分でコントロールできない。サクラを起用して、こちらに都合の良いクチコミをばらまくわけにもいくまいし。

なので、お仕事をいただくには、常に目の前の仕事と真摯に向き合うことが大事なのです。一生懸命頑張りましょう。はい、そうしましょう。

……なのだが、もう一歩だけ踏み込んで、その見えない「実績」がどのように人とのあいだを漂っているのかを、もう少しだけ追いかけてみたい。

例えば、知り合いのライターさんからこんな話を聞いたことがある。以前、編集者と会食していて、雑談がてら「校正ゲラを、自分はこのようにチェックしている」と話したところ、その場に同席していた別の編集者から、仕事の依頼を受けたことがあるそうだ。聞くに「原稿を出したら終わり、ではなく、ゲラを丁寧に確認するライターさんは、人との向き合い方や取材のスタンスも丁寧で、実力がある人が多い」と編集者に持論があったとのこと。

なるほど、「この人に取材しました」「この原稿を書きました」といった結果ではなく、制作の過程にどのように携わっているか、自己開示するのも大切なのだなと思った。この手の話は、みずから声高に語るようなものではないが、雑談程度で話したことも案外他人は覚えているものなのだ。

フリーランスは実績がすべて、の「実績」は、結果だけではなく「過程の実績」でもある。有名媒体での執筆実績がないからだめだと落ち込んだり、ポートフォリオのデザインに凝ったりする前に、目に見えないプロセスをどう相手に伝えるかを工夫したほうが、実際の仕事につながることもあるのではないか。

そんなふうに考えを巡らしながら、鼻の縮んだ天狗は、少しでも自分のいいクチコミを流してもらえないかと、会う人会う人に全力で媚びへつらう毎日である。

文/塚田 智恵美

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