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もうかえってこなくていいんだよ【さとゆみの今日もコレカラ/第470回】

2016年に発売した『女の運命は髪で変わる』は、19刷まで重版してもらった本だ。当時、全国100か所くらいで本に関する講演やセミナーをさせていただいた。

講演会場で、書籍を販売させてもらうのだけれど、ある時、恐ろしいことに気づいた。

書籍は段ボール箱で運ばれてくる。10冊ごとに茶色の紙に包まれ、それが5組で50冊とか、10組で100冊とかまとめて送られてきた。

回を重ねるうちに、その段ボールの中身が全部「3刷」分になり、全部「5刷」分になっていく。「ああ、あの日に増刷された分だ!」と、奥付を見るのが楽しみだった。

ところが、発売から8ヶ月ぐらい経ったころだろうか。10冊の束が、完全に包装されず、帯のようなもので簡易にとめた包装で送られてくるようになった。

あれ、なにか仕様が変わったのかな? と思って帯をとき、奥付を見たら「2刷」とか「7刷」とか、「12刷」とか、刷られた日が違う書籍が一緒に送られてきている。

あのときの、背筋がすーっと寒くなる感じを、今でも覚えている。

ああ、この本は、返本されてきた本なのだ。

そう気づいた。

たくさん刷ったはいいけれど、書店で売れず戻ってきた書籍。その出戻りの子たちがいま、この講演会場に運ばれてきたのだろう。

講演のあと、その1冊1冊にサインをして、買ってくださった人たちに手渡すときは「ああ、よかったね。これでもう、誰の手にもとられず戻ってくることはないね。もらわれたお家で、可愛がってもらってね」と、子どもを嫁に出すような気持ちで手渡していた。

こんなこともあった。

紀伊國屋書店さんのオンラインを見ていると、在庫が15冊しかなかった私の本が、ある日突然、800冊くらいになっていたのだ。

ああ、全国の紀伊國屋さんに一度は配られたものの、売れなくて戻ってきた本が一斉に「オンライン書店」に登録されて在庫が増えたんだろうと想像した。オンラインでも売れなければ、出版社の倉庫に戻ってきてしまう。その時ももう、生きた心地がしなかった。

その本がなんとかもう一度、誰かのもとに届きますように。誰かに読んでもらえますように……。祈るように、毎日在庫数を確認していた。

「実売数」ではなく、「刷り部数」で売れ数をはかる商習慣のある書籍は、市中在庫や倉庫在庫を抱えていることも多い。過去には、返本が多すぎて、ミリオンセラー(正確にいうと「ミリオンプレス」だ)を出したのに倒産するといった出版社もあったと聞く。

そんな出版業界の仕組みを、デビュー作で知れたのは本当に良かった。

以来、重版をかけていただくたびに、在庫を抱えるリスクを負っても重版の経営判断をしてもらったことに、深く頭を下げるようになった。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうごいます。

いま、この「今日もコレカラ」のZINEに、一人ひとりメッセージをつけて、送っている。毎日のように、誰かのもとにお送りしている。

このZINEは、一度も返本されてこない。

ちゃんと、この宛先にある名前の方のもとに届いて、きっと一度は開かれていると思う。おすすめしたページだけかもしれないけれど、きっと1ページは読んでもらえていると思う。

12年間、商業出版の世界で本づくりに関わってきた私にとって、これは、奇跡だ、と思う。

毎日、その奇跡の一冊を、お届けできているのだと思う。

これが、泣いちゃうくらい、嬉しいんです。

文章を書いていて、こんなに幸せなことって、ないなと思うんです。

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やっぱりこれは、私のために書かれた本だった。

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