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「LIFE」を感じたTENDREの「『PRISMATICS』Release One-Man Tour 2022」

TENDRE(テンダー)。彼らをフェスで何度か見てきましたが、2020年に「LIFE」という曲が出た時、テーマとして語る幅が広がったと言うか、渋くてカッコいい音楽のTENDREのブランドに、更に一本芯が通ったような印象を持ちました。その頃からGREENROOM FESTIVALなどのフェスに行った時は必ず観るようにしてきました。

今年リリースされた「SWITCH」という曲が、NHK「あさイチ」の2022年度テーマ曲に決定したというニュースを聞いた時は、厚かましくも自分の仲間が出世したような、不思議と嬉しい気持ちになりました。

そのTENDREの本当の意味での「LIFE」。それを魅せてくれた気がした今回のワンマンライブ「『PRISMATICS』Release One-Man Tour 2022」の11月21日最終公演。彼らの「LIFE」、自分自身の「LIFE」を、まごころとともに見つめる時間になりました。

TENDREは、音楽アーティスト河原太朗さんのソロ・プロジェクト。本物のJAZZの音楽も感じさせつつ、ポップミュージックないしシティーポップの世界も味わえるような、独特な領域で感じる音楽です。

ポップミュージックを好んできた層にもすっと届き、気がつくとJAZZを聞いている音楽好きとしての自分も肯定させてくれて、聴くだけで自分がオシャレさんの仲間入りしたような気持ちにさせてくれます。

音楽そのものが楽しい。このバンドの音楽を聴いて、音楽の楽しみ方そのものを開発されたファンの方々は、私以外にもきっとたくさん居るのではないでしょうか。

「今日が終わったらツアーが終わってしまいます。終わってほしくないけど、始めます!TENDREです!」。感極まっている様子の河原さんの熱のこもった挨拶でライブが始まりました。スタートからテンポの速い楽曲が演奏されていきました。

2階席で見ていたので、周りの方々に合わせて座って観覧していましたが、本音では冒頭から立ち上がって飛び跳ね、手を降って観覧したい気持ちでした。TENDREの曲は、解き放たれたような気持ちにさせてくれる曲が多いです。

ついさっきまでPCに向かって静かに仕事をしていた私に、たった数曲でここまでの開放感を味わわせてくれるバンドは、なかなか見つかりません。

これまで見た中では最多の7人編成の生演奏。ご自身もアーティストとして活躍されるコーラスのAAAMYYYさんの歌声は、本当に美しく、TENDREの音楽に欠かせません。

他にもアーティストとして活動する方もいて、TENDREのバンドメンバーは本当に豪華で、音が重厚です。そのくせ、非常に透明感のある音で、胃にもたれずサラッと聴けてしまうから不思議です。

聞いたことがなかった曲にも胸をえぐられながら、コンサート中にますますTENDREのファンになっていきました。

あっという間に全曲演奏を終え、アンコールの歓声が鳴り響く中、ステージ上にはウッドベースが運ばれてきました。アンコールはアコースティック編成? と思っていたら、予想を遥かに超えるサプライズが待っていました。

河原さんがアンコールの声に誘われ、ステージ上に再登場し、お礼の言葉とともに挨拶をしたあと、少し照れくさそうに微笑み、下手側を見て、「お父さん、お母さーん」と誰かを呼びました。

なんと、ご両親の登場です。

河原さんのご両親はどちらも音楽家で、お母様はジャズボーカリストの河原厚子さん。お父様はベーシストの河原秀夫さんです。そのお二人をステージ上に呼び、セッションしてくれたのです!

実は、今回のライブで私が最も感動し、涙したのは、ここからなのです。

河原さん一家三人がステージ上に揃い、ここでも照れくさそうに挨拶したあと、太朗さんがご両親に言いました。「改めて、今日来てくれて、ありがとう。」

ご両親に向けた、本当にシンプルなお礼の言葉なのですが、それがやたらとずっしりきたのです。

自分は、こんなに真正面から自分の親に「ありがとう」って、言えるかな……。この三人の関係性が美しく、しかもいま目の前で起こっているこの光景が、その美しさに輪をかけて美しく、ものすごく感動してしまいました。

ご自分の息子さんのステージでセッションできた、お母様とお父様が感じられている幸せが、私の胸にもすこし伝わってきた気がしました。

エンターテイメントの究極は、人間そのものなのだと、分かりました。人間にとっては人間そのものが美しく、感銘を受ける対象の究極なのだということを、このとき感じていました。

お父さんのベースと太朗さんのピアノでゆっくりと心地いい演奏が始まり、お母様が歌い始めました。曲は、「Smile」です。たった三人で奏でるこのセッションが、会場全体を大きな愛で包み込み、とても胸に滲みて、また泣けました。

チャップリンが作曲したこの「Smile」という曲の意味が、やっと少し分かった気がしました。この世界には色んな境遇の人がいて、色んなことがあって、そんな中、いまここに奇跡的に音楽を引力に皆が集まって、美しく優しい音楽を奏でる三人の演奏と歌を、皆で聴いている。

人生とは、JAZZの即興のような、偶然で尊い色々な出会いが結びついて成り立っているー。

お母様の美しくハスキーで深みのある歌声が、幾重にも連なる人生の機微や、複雑だけれど美しい人と人との関わり合いを感じさせてくれました。その瞬間を噛み締めながら色んなことを考え、じんわりと「Smile」を聴きました。

その横には息子さんの太朗さんとご主人がいらっしゃる。この奇跡、あまりにも美しい。そして、このライブはもうすぐ終わり。なんと、人生は儚く美しいのか。

たった数分のセッションだったと思うのですが、頭の中で猛烈に色んなことを考えていたら、涙が溢れていました。音楽を聴きながら涙することなんて、ここ何年も無かったな……。

お母様たちとのセッションを終え、再びバンドメンバーをステージ上に呼んだあと、太朗さんが語り始めました。

「ありがとうございます。これが私の人生です!」と観客に叫ぶように発した後、「LIFE」のイントロが流れました。

やられた……。

今まで感じたことのない、体の内外にぞわぞわと何かが走るような、感動というよりかは細胞がその場で高速に分裂して感受性の房がすべてぶわっと開くような、そんな感覚を感じながら、「LIFE」を聴きました。

すごいバンドです。

「意図もしない巡り合い 振り返る風景も」という歌詞が、先ほどの河原家に見た美しさと重なって聞こえました。

人生とは何かを改めて考え、感じ、それを持ち帰らせてくれたコンサートでした。

ありがとう、河原太朗さん、厚子さん、秀夫さん。

そして、バンドメンバーの皆さん。あなた方の音楽は、奇跡です。

あなた方は、奇跡です。

今度は私も親を連れて、TENDREのライブを観に行きたいです。

ありがとう、TENDRE。

文/hanata.jp

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