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原画の迫力と当時の記憶が脳内になだれ込む。「冨樫義博展−PUZZLE−」

混雑は覚悟をしていたが、会場は読者の熱気で溢れていた。

現在、森アーツセンターギャラリーで開催中の「冨樫義博展−PUZZLE−」である。

連日、チケットの完売が続くこの展示になんとか訪れることが出来た。

今年は何かと冨樫義博が話題にあがる年だった。それまでの沈黙を破るかのように5月にTwitterを開設。そして、10月には長く休載していた『HUNTER×HUNTER』の連載開始ときた。Twitterには基本的に「言葉」がなく、ラフ画の写真のみ。まるで何かの暗号のような投稿にファンは毎回盛り上がった。

「冨樫義博展−PUZZLE−」は、冨樫義博が読者に向けて仕掛けた「謎」を解き明かすような展示だ。会場に入ると、最初から面をくらう。原画に辿り着くまでの道のりは壁から天井へと全てのキャラクターがパズルの「piece」になって埋めつくされていた。まるで冨樫義博の描く頭脳戦の様な雰囲気に来場者のざわめく声が聞こえる。描かれたひとつひとつの「piece」は主役のキャラクターだけではなかった。例え一コマだけの登場のキャラクターでも、ロジカルな物語の結末を組み立てるのに欠かせない「piece」だということに気付かされる。

私が『幽☆遊☆白書』を読んでいた時は小学生だった。その頃はひとつ年上の兄と毎週欠かさず「週刊少年ジャンプ」を読んでいた。当時、『幽☆遊☆白書』は人気絶頂の漫画でアニメも含めて私は夢中になっていた。数々のバトルシーンや頭脳戦、作品に登場する端正な顔立ちのキャラクターは私の心を鷲掴みにした。

小学生の頃の私の『幽☆遊☆白書』の感想は、「なんだか分からないけど……カッコイイ!」と言ったストレート過ぎる感想だった。多分、物語に張られた伏線や頭脳戦もあまり理解していなかったように思う。

当時は作中に散りばめられた「言葉」をまったく意識していなかったが、この作品がいかに力強い「言葉」を意識していたか原画を見て痛感する。キャラクターたちの力強いセリフを覚えているのがその証だ。今回の展示を訪れる際、私は『幽☆遊☆白書』を全く復習せずに挑んだ。それにもかかわらず、しっかりと各シーンのキャラクターのセリフを覚えていることに自分でも驚いてしまう。『幽☆遊☆白書』の魅力はバトルシーンだけでなく、「言葉」の強さが効果的に作用していたのだ。

モノローグや技の解説文で使われる「言葉」は、時には「絵」以上の説得力がある。

今回の展示で冨樫義博は、「製作過程の中で一番好きなのはダントツでネーム」と語っていた。シンプルで心に響く名セリフは全て「ネーム」で生み出されていたかと思うと、思わず胸が熱くなる。

ひとつひとつ原画を見ていく度に、脳内にジャブジャブと小学生の頃の記憶とともに原画の迫力がなだれ込んでくる。一枚、一枚に込められた原画の熱量に私の身体も次第に熱くなる。『幽☆遊☆白書』のコーナーだけでも相当な体力を持っていかれてしまった。

現在も連載中の『HUNTER×HUNTER』は、巧妙な設定と先の読めないストーリー設定が人気の作品だ。長い休載を間に挟んでも、読者が離れないのは想定できない展開が待ち構えているからだ。展示された資料設定に、来場者の口から思わず考察がこぼれる。

作品の無二の魅力は、きっと読者を常に退屈させない細かい設定にあるのだろう。

「キメラ=アント編」が一番盛り上がった頃に、冨樫義博の体調不良で休載が始まった。

実際に「キメラ=アント編」は物語の始まりから終わりまで8年かかった。8年の間で、読者がこのストーリーに飽きることはなかった。そして「キメラ=アント編」のラストは読者の想定を覆す終わり方で幕を閉じた。揺るぎない「感動」と「余韻」を残すラストシーンを今でも覚えている人は多くいるだろう。

冨樫義博の描く物語は、冨樫義博しか終えることが出来ない。「暗黒大陸・王位継承戦編」もクライマックスに近づいている。

文/Tajimax

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