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脚本家・古沢良太さん『コンフィデンスマンJP』『リーガル・ハイ』に見る「マンガ的キャラを実写で魅力的に」【連載・脚本家でドラマを観る/第3回】

コンテンツに関わる人たちの間では、「映画は監督のもの」「ドラマは脚本家のもの」「舞台は役者のもの」とよく言われます。つまり脚本家を知ればドラマがより面白くなる。

はじめまして、澤由美彦といいます。この連載では、普段脚本の学校に通っている僕が、好きな脚本家さんを紹介していきます。

どうなる?家康

今年(2022年)のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』はご覧になりましたか?(興奮冷めやらぬ方はこちらの記事も併せてどうぞ )

僕は毎週毎週、惹き込まれては目を背けの繰り返しで、日本の「ゴッドファーザー」北条家に、胸が苦しくなるも大満足の1年でした。
そして早くも来年(2023年)の大河ドラマ『どうする家康』を楽しみにしているのですが、この脚本家が『コンフィデンスマンJP』『リーガル・ハイ』の古沢良太さん。
ということで、今回は古沢良太さんを紹介したいと思います。

その前に、『鎌倉殿の13人』の脚本家は三谷幸喜さんでした。
大河ドラマの2022→2023は三谷さんから古沢さんへのバトンタッチとなるのですが、お2人のバトンタッチで思い出されるのが、フジテレビのコメディです。
古沢さんは2012年に『リーガル・ハイ』を執筆されたのですが、『リーガル・ハイ』放送以前は、三谷さんがフジテレビで名作コメディを連発していました。

三谷幸喜さん脚本作品
「古畑任三郎」シリーズ(1994~フジテレビ)
『王様のレストラン』(1995フジテレビ)
『総理と呼ばないで』(1997フジテレビ)など

古沢さんは『リーガル・ハイ』の後、『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(2015)『コンフィデンスマンJP』(2018)と、フジテレビを代表するコメディが続き、このことから、「フジのコメディは三谷から古沢に引き継がれた」と話題になりました。

このお2人が並び称されるのは、お2人の脚本に共通項があるからです。

それが「ウェルメイド」。ウェルメイドとは、出来のよい、構成のしっかりした、という意味です。脚本においては、複雑で論理的にもしっかりした質の高いストーリー、意外性に富んだ巧妙な伏線回収のある作品を指し、その代表格が三谷幸喜さん。そして、その次に名前が挙がるのが、古沢良太さんなのです。
(「次に名前が挙がる」というのは、ランキング的な意味ではなくて、時代的なものです。お2人ともウェルメイドの旗手なのです)

コメディ色の強い作品が続いている古沢さん。『どうする家康』も、大河としては珍しい、破天荒コメディとなるのでしょうか。どうなる? 家康!

事件モノに配属

それでは古沢作品を考察していきたいと思います。古沢さんは、テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞の大賞受賞者で、新人賞→デビュー組のひとりです。(※現在は「テレビ朝日新人シナリオ大賞」に改名)

テレビ朝日新人シナリオ大賞受賞者は「相棒チーム」か「科捜研チーム」のどちらかに配属になるとうわさで聞いたことがあるのですが、古沢さんは、キャリアの前半をどっぷり「相棒シリーズ」に捧げます。(2005~2014年)

他にも

『警視庁捜査一課9係』(2006テレビ朝日)
『変装捜査官・麻生ゆき3』(2007テレビ朝日)
『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008テレビ朝日)
『外事警察』(2009 NHK)

など、「事件モノ」の脚本家として活躍されます。
しかし古沢さんの書きたいものは事件モノではありませんでした。『ゴンゾウ 伝説の刑事』ノベライズ本のあとがきに、原作者としてコメントを書かれています。

「来年の7月クール書きませんか」とテレビ朝日水曜9時ドラマのチーフプロデューサー、松本基弘氏からお誘いを受けたとき、じつは乗り気ではなかった。
理由は二つ。
一つ、この枠はいわゆる「事件モノ」と呼ばれる刑事ドラマの伝統枠であり、そして僕は本来「事件モノ」がそんなに得意ではないこと。人間ドラマが作りたい。
二つ、どんな刑事ドラマを作ろうが、どうせいまや大ヒットドラマに成長した『相棒』の後塵を拝するだけだから。
しかし松本Pは「好きに書いていいから」とおっしゃる。
そこではたと考えた。ならば乗り気でない根拠の二点を回避すればいい。
一つ、刑事ドラマのふりをした人間ドラマにする。
二つ、『相棒』とまったく違うことをやる。

『ゴンゾウ 伝説の刑事』(朝日文庫)あとがきより

前回この連載で書かせていただいた金子茂樹さんも、得意ではないラブストーリーでヒットを飛ばし、その後、ご自身の得意とするホームドラマの会話劇で人気を不動のものにしました。
人気脚本家になるためには、「まずは不得意なジャンルでヒットを飛ばす」という、何か法則めいたものでもあるのでしょうか。

ゴンゾウ~伝説の刑事 (Amazonより)

かつて捜査一課に在籍し、伝説の刑事と呼ばれていた主人公の黒木俊英(内野聖陽さん)は、今は備品係で雑務をこなし、ゴンゾウと呼ばれている。ゴンゾウとは警察用語で「能力や経験があるのに働かない警察官(鬼瓦権蔵)」という意味の隠語。ある日ヴァイオリニストの女性が射殺される事件が起こる。『相棒』など1話完結の事件モノが多い中、このドラマは全編にわたって1つの事件のみが中心となる。巧妙なトリックもなく、主人公が華麗な推理をすることもないが、この事件に関わることで歯車が狂ってしまった多くの人たちの人生が描かれる、人間ドラマ。向田邦子賞受賞作。

事件モノからの異動

先ほど古沢さんが事件モノの脚本家だったと書きましたが、それはテレビドラマでの話。同時期に人間ドラマのヒット作を次々と書かれています。

映画
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)
『キサラギ』(2007)
『釣りキチ三平』(2009)
『探偵はBARにいる』(2011)

テレビ朝日で事件モノを書きながら、映画で人間ドラマの経験を積み、刑事ドラマのふりをした人間ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』というエポックメイキングな作品を書き上げると、それ以降、NHK、テレビ東京、フジテレビと、各局が古沢さんにオファーをはじめます。

冒頭で紹介した『リーガル・ハイ』『デート〜恋とはどんなものかしら〜』『コンフィデンスマンJP』といった、フジテレビのコメディを牽引する名作の誕生があり、そして来年のNHK大河ドラマ『どうする家康』へと続いていくのです。

フジテレビ局コメディ部で大躍進

古沢作品の特徴は3つあると思っていて、その中でも、最もコメディと相性がいいのがこちら。

古沢作品の特徴①、それは「マンガ的キャラを実写で魅力的に描くこと」です。

これは、マンガ原作を実写ドラマにする、ということではありません。
マンガに登場するような極端にデフォルメされた主人公を作り、最後に、血の通った人間と思わせる山場を作る、キャラクター構成術です。
コメディと相性がいいというのは、キャラクター設計の最初の段階で、マンガの世界観やデフォルメされた主人公を受け入れやすいということです。

視聴者は、「なるほど、これはコメディだから、リアリティが必要のない楽しいエンタメね」と思い、気を許して観ていると、急に主人公がリアリティを持ち、こちらに迫ってきます。ドラマが一気に自分事となって、より深い理解やカタルシスを感じることができるのです。

古沢作品の大人気キャラクター、『コンフィデンスマンJP』の主人公・ダー子さん(長澤まさみさん)を見てみましょう。

コンフィデンスマンJP (Amazonより)

『コンフィデンスマンJP』は、ダー子(長澤まさみさん)、ボクちゃん(東出昌大さん)、リチャード(小日向文世さん)の3人を中心としたコンフィデンスマン(信用詐欺師)のチームが、様々な業界の悪徳企業のドンやマフィアのボスなど、欲望にまみれた金の亡者たちから、金を騙し取るエンターテインメントコメディです。

主人公のダー子は、色仕掛け“以外”の詐欺を見事にこなす知能と、抜群の集中力を持つ詐欺の天才。しかし中身は「でたらめ」「いい加減」「詰めが甘い」といったダメな部分がデフォルメされた愛すべきキャラクター。

そんなダー子たちが起こす詐欺の数々は、現実世界ではあり得ないような奇想天外な手法ばかり。僕たちは、この壮大なエンタメに、たっぷり満足させられるのですが、詐欺が成功し、お宝を手に入れたところで、一気に自分事となり、考えさせられます。ダー子が、この詐欺に加担してくれた大切な仲間たちに、相応の報酬を分け与え、「詐欺師なのに信頼が大切」という、ダー子の信条が明らかになるのです。

続けて『リーガル・ハイ』の主人公・古美門研介(こみかどけんすけ)(堺雅人さん)を見てみましょう。

リーガル・ハイ (Amazonより)

『リーガル・ハイ』は、正義も金で買えると豪語し、あらゆる手段を使って勝ちにこだわる、無敗の敏腕弁護士・古美門研介(堺雅人さん)と、真面目で正義感の強い新米弁護士・黛真知子(新垣結衣さん)の2人がバディを組み、様々な訴訟に立ち向かう法廷コメディ。

古美門は、偏屈・毒舌・皮肉屋・女好きのドM・浪費家という人格破綻者で、正義感や被疑者の人権などというものに全く価値を感じない。そして対外的にも、敵対する検察・弁護士を徹底的に叩きのめすという素行の悪さにより、当然ながら業界内での評判は最悪という、徹底的に変人要素を詰め込んだ嫌われキャラクターとして描かれます。

あらゆる卑劣で姑息な手を使って勝ちにこだわるので、正義感の強い新米弁護士・黛は、そのやり方を嫌悪します。しかしどの訴訟も、勝者と敗者、本当はどちらが幸せなのだろうと考えさせられる結果となり、古美門の考える正義が明らかになるのです。

変人で嫌われ者のマンガ的キャラ古美門が、心のうちを吐き出し、人間古美門になる名シーンがあります。
第9話にある、5分を超える悪口をまくし立てるシーンで、これがずっと「耳の痛い本当のこと」なんです。ものすごいインパクトがあり、古美門のことが一気に好きになってしまいます。よかったら皆さんも観てほしいです。

古沢作品の特徴②は、「主人公のキャラクターと物語のテーマが、表裏の関係になっている」です。

『デート〜恋とはどんなものかしら〜』のあらすじを見てください。

デート〜恋とはどんなものかしら〜 (Amazonより)

内閣府の研究所で働く藪下依子(杏さん)は、恋愛経験がない。心配した父(松重豊さん)から見合いを勧められるがことごとく失敗。父のためにもと思い、結婚相談所に登録する。一方、自身を高等遊民と称し、ニートを続ける谷口巧(長谷川博己さん)は、母の代わりに寄生できる女性を探している。結婚相談所で出会った恋愛力ゼロ、恋愛感情ゼロの2人は、デートを成功させることができるのか?

少女マンガの主人公のような藪下と谷口が、初デート、クリスマスデートといったベタなシチュエーションを通じて、本当の恋愛を見つけるストーリーとなっています。

先ほどの『コンフィデンスマンJP』で、詐欺師が信頼を大切にしていたり、『リーガル・ハイ』で、悪徳弁護士が正義を重んじていたりもそうですが、この「主人公のキャラクターと物語のテーマが、表裏の関係になっている」という設定が、ドラマのどんでん返しの基盤になっていることも、古沢作品の特徴といえると思います。

古沢作品の特徴③は、「時系列のシャッフルを多用する」です。

回想が何回も出てくるとか、「原因→結果」ではなく「結果→原因」という構成になっているなどありますが、一番分かりやすいのが、『コンフィデンスマンJP』の「種明かし」だと思います。

ダー子たちは、騙したと思ったらバレていた、と思ったらそれも計算だった。ということが、何度も何度も起こっていて、この騙し騙されの解答編が最高に痛快なのです。「そうきたか!」という快感は、やはり古沢作品の醍醐味だと思います。

どうする古沢良太

最後にひとつ、この記事で古沢作品の特徴を体験してもらえないか、実験をしてみたいと思います。

古沢作品の特徴といえば、「マンガ的キャラを実写で魅力的に描くこと」でした。では、古沢さんはなぜ、主人公をマンガ的キャラにするのでしょう? それは、古沢少年が漫画家志望だったことが原因なんじゃないかと推察します。いかがでしょうか。

古沢良太という脚本家を主人公にしたこの記事で、時系列のシャッフル、つまり「種明かし」を体験してもらい、カタルシスを感じてほしかったのですが、あまりうまくいきませんでしたね。つまらない実験失礼いたしました。
やはりこういったことは古沢さんご本人にお任せして、僕たちは、古沢さんの描く愛すべきキャラクターたちを、楽しみに待ちたいと思います。

古沢さんが次に選んだキャラクターが、「鳴かぬなら鳴くまで待とうホトトギス」の徳川家康。「殺してしまえ」の織田信長、「鳴かせてみせよう」の豊臣秀吉に比べて、なんだか凡人ぽくないですか? そんな家康を、どんなマンガ的キャラとして描き、血を通わせるのか、本当に楽しみです。
織田信長については『THE LEGEND & BUTTERFLY』(2023)という木村拓哉さん主演の映画で確認しましょう。こちらも古沢さんが脚本です。(了)

文/澤 由美彦

参考資料
ドラマ
「相棒シリーズ」(2005~テレビ朝日)
『ゴンゾウ 伝説の刑事』(2008テレビ朝日)
『外事警察』(2009 NHK)
『鈴木先生』(2011テレビ東京)
『リーガル・ハイ』(2012フジテレビ)
『デート〜恋とはどんなものかしら〜』(2015フジテレビ)
『コンフィデンスマンJP』(2018フジテレビ)
『鎌倉殿の13人』(2022 NHK)※

映画
『12人の優しい日本人』(1991)※
『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005)
『キサラギ』(2007)
『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007)
『釣りキチ三平』(2009)
『60歳のラブレター』(2009)
『探偵はBARにいる』(2011)
『ステキな金縛り』(2011)※
『ALWAYS 三丁目の夕日’64』(2012)
『外事警察 その男に騙されるな』(2012)
『映画 鈴木先生』(2013)
『探偵はBARにいる2 ススキノ大交差点』(2013)
『少年H』(2013)
『寄生獣』(2014)
『寄生獣 完結編』(2015)
『エイプリルフールズ』(2015)
『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』(2016)
『ミックス。』(2017)
『探偵はBARにいる3』(2017)
『コンフィデンスマンJP ロマンス編』(2019)
『コンフィデンスマンJP プリンセス編』(2020)
『コンフィデンスマンJP 英雄編』(2022)
※印作品の脚本家は古沢良太さんではありません。

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