検索
SHARE

雨が降っても、槍が降っても、やめない覚悟。「sumika 10th Anniversary Live 『Ten to Ten to 10』」

ライブ開始とともに流れたのはsumikaの4人が映るオープニング映像。一気に景色がにじむ。ぼやける。「ぐすっ」という音がどこからともなく聞こえる。自分も鼻を啜っていた。ここにいる人はみんな同じ気持ちを抱えた味方だ。そう思った。

遡ること8時間前、電車に揺られて横浜スタジアムに向かう。武蔵小杉で乗り換えると、sumikaのグッズを身につけた同志が目についた。どんよりした鈍色の曇り空が窓に広がる。数時間後の素敵な時間を想像して胸を高鳴らせたと思えば、次の瞬間には鼻の奥がつんとして、目が潤んでいる。私は完全に情緒不安定な人、そのものだった。

sumikaのギタリストである黒田隼之介さん(隼ちゃん)が逝去されたのは2023年2月23日。10周年ツアー「sumika Live Tour 2022-2023『Ten to Ten』」のファイナル公演を見た、たった4日後のことだった。目がなくなるような笑顔でこちらを見ていた姿が目に焼きついて離れない。

ギターのストラップを短めにして小脇に抱えてかき鳴らす、大好きな隼ちゃんが今日のステージにはいない、らしい。事実は理解しても、想像ができない。2023年5月14日。sumikaの10周年をお祝いする「sumika 10th Anniversary Live 『Ten to Ten to 10』」の始まりはそんな心持ちだった。

開場時間まではなんとか耐えてくれていた空模様が、人がスタジアムを埋め出す頃にはポツリ、ポツリ。だんだんと雨足は強くなり、足元が濡れる。16時の開演時間を20分ほど過ぎたころ、ステージに光が灯った。

流れたのはsumikaの4人が映るオープニング映像。デビュー当初から今までのsumikaの笑顔があり、隼ちゃんの笑顔もあった。隼ちゃんを見た瞬間に胸がぎゅっと痛くなって、会場全体の空気もざわめき、揺れ動く感じがした。

そして、メンバーがステージに登場し、歓声と大きな拍手にスタジアムは包まれた。

ボーカルの片岡さんからの「ただいまーーーー!」に、全力で「おかえりーーーー!」と叫ぶ。

続けて片岡さんは「そして、おかえりなさい」と私に、会場にいるひとりひとりに伝えていった。この場に帰ってこられた喜びに震えた。

「sumika、張り切ってはじめます」

「ワン、ツー」

雨が降りしきる中での「雨天決行」が始まった。この曲は「雨が降っても、槍が降っても、やめない覚悟」と言葉にしてから演奏を開始するのが定番だ。その「雨天決行」からスタートするということは、sumikaを続ける覚悟を示しているに違いなかった。少なくとも私はそう受け取った。

大きなモニターは4分割でメンバーが映る。右からキーボード&コーラスのおがりん、ボーカル&ギターの片岡さん、ドラムのバロンさん。そして、一番左には隼ちゃんのレスポール。ステージ上にはギターが置かれていた。sumikaは4人だと訴えるような演出に、涙が溢れて仕方がない。でも、どれだけ泣いても今日は雨が隠してくれる。

そんな切なさの反面、やっぱりsumikaのライブは最高で楽しい。このアニバーサリーライブの特別さが際立ったのは、ツアーでお馴染みのサポートメンバーに加えて、ストリングスやホーン隊までいたことだ。お耳が潤う豪華仕様。隼ちゃんの気配を感じて頬が濡れる瞬間もあったけど、どんどんヒートアップして、心が踊る、足が動く、手拍子を叩く、叫ぶ!史上最高の曲数をやるという宣言通りに、全力ジャンプでタオルを振り回す曲から、じっと聞き惚れる曲まで沢山の曲が演奏された。sumikaの様々な表情を感じ、軌跡をたどる時間を堪能した。

MCの中で、収容人数の大きい横浜スタジアムでライブができたのは「信用」と「信頼」を積み重ねた結果だと片岡さんは話した。片岡さんのエッセイ『凡者の合奏』を読んだときから、私は片岡さんがずっと「信用」と「信頼」を考え続けてきた人だと思っている。過去の実績によって、大きなステージに立てる。でも、それ以上に無償の感情で繋がる信頼が、sumikaにとって掛け替えのないものなのだろう。

前身バンドがメンバーの離脱から解散したこと。sumikaを結成して、順調に進み出したときに片岡さんの声が出なくなったこと。今回の出来事。沢山の幸せと同時に多くの壁があった。でも、全部ひっくるめてsumikaが「続けること」に覚悟があるから、信頼してついていくことができる。

ライブ中にもsumikaとの信頼関係を感じる印象的なシーンがあった。「ソーダ」の間奏中のドラムソロのときだ。いつもに増してバロンさんがイケイケのドラムパフォーマンスを披露し、ソロ終わりのシンバルをバチーンとならした。そこから片岡さんの歌が始まる。……はずなのに、聞こえるのはおがりんのピアノの伴奏だけ……。

なんと、片岡さんがタイミングに入りそびれて歌えなかったのだ。

バロンさんが良すぎて上手く入れなかったから「ごめんごめん、もう一回やっていい」と言った片岡さんのゆるさといったら。これぞ自然体。口元が緩んでしまう。3万3千人のことをsumikaは信頼して、身を委ねたライブをしていたからこそのシーンだと思う。だから、私は嬉しくてにやけた。アクシデント、ご馳走様です。

アンコール後のステージには誰もいなくなったが、まだ終わらない。「雨天決行」をBGMに映像が流れ、会場から大きな拍手と歓声のうねりが起きた。上映延期をしていたsumika初のドキュメンタリー映画を7月に封切りすること。「Live Tour 2023 『SING ALONG』」の開催。さらに、「Live Tour 2024 『FLYDAY CIRCUS』」のツアー日程まで発表。未来の約束を沢山してくれることに、僕たちは続けると決めたから安心していいよという声が聞こえるようで胸が締めつけられた。sumikaに込められた意味は「終の住処」。一生、夢が途切れるまでみんなの集まる“住処”であるsumikaを続ける覚悟を感じた。以前のライブでも片岡さんは「幸せにします」と言っていて、プロポーズか、と思ったけど、sumikaはメンバーもスタッフもファンも愛する家族のような存在だと考えている気がする。その日の最後のMCでも「やっぱり、やっぱり必ず、幸せにします」と言っていた。

暗闇と静寂に包まれ、全て終わったかのように見えたが、ざわっと音が揺れた。目を移すとセンターステージには再びメンバーがいて、最後の演奏がはじまった。その曲は「雨天決行 -第二楽章-」。3万3千人で歌い交わした。そして、ステージのモニターに映ったのは3人だけ。おがりん、片岡さん、バロンさん。もう4分割ではない。忘れられない喜びも一生続く悲しさも、4人の思い出も、大切に腕の中に抱えながら、これからは3人で歩んでいくんだね。

点と点を繋いで、進んできた先にあった10周年。本当に、本当に、おめでとうございます。続ける選択をしてくれて、ありがとうございます。愛してます。一生ついていきます。幸せにされます。私もsumikaを幸せにします。

39曲、4時間という長い長いライブが終わったら雨は上がっていた。天気まで演出の一部だったのか……。翌日は本当に本当に綺麗な晴天だった。悲しいこともあるし、辛いこともあるけど、後悔をしないように前を向いて頑張る。そして、いつでも先の予定を教えて待っていてくれるsumikaに私は何度でも会いにいくのだ。

文/岡田 美佳子

writer