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衣装×ダンス×音楽。0歳から楽しめるおとぎの国へようこそ! 『DANCE 4 TACT FESTIVAL 2023×ひびのこづえダンスパフォーマンス』

私の義母は観劇がとても好きだ。なので、孫と舞台やコンサートに行くのを楽しみにしている。その結果、私も劇場に行く機会が増えた。

息子がいろんなものを経験し、刺激を受けて大きくなったらいいな。そう思って探してみる。すると、今までは全く目に入っていなかったが、0歳から参加できる催しが沢山あり驚いた。子どものためと思っていたのに、今ではすっかり私の方が親子観劇にハマっている。

今回、3世代で鑑賞したのは、『DANCE 4 TACT FESTIVAL 2023×ひびのこづえダンスパフォーマンス UP AND DOWN×川合ロン×高村月×平位蛙×原摩利彦』。あまりに感動し、劇中に使われていた音楽がまた聴きたくてSNSで検索した。舞台を見て、こんなにも余韻が残ったのは初めてだ。

劇場に入ると、中央に設置された正方形の大きな舞台に驚いた。四方を取り囲むように客席がある。舞台の頭上には、白糸で大きな刺繍が入ったボリューム感のあるグレーのドレスを真ん中に、いくつか布やスカートらしきものが垂れ下がっていた。

「子どもOKですよ!」と大々的に謳われていても、公演中に泣かないかなー騒がないかなーと気になる人は多いと思う。私も、2歳の息子が1時間落ち着いて観ていられるのかと内心ドキドキしていた。

舞台は、今回の衣装をデザインした、コスチューム・アーティストひびのこづえさんの挨拶で始まった。「泣いても大丈夫です。赤ちゃんも子どもたちも、好きなようにリアクションしてください」その一言で、私の肩の力がフッと抜けた。この空間は、すごく温かく、息子にとって安心で安全な場所に思えた。

舞台に登場するのは、川合ロンさん、高村月さん、平位蛙さんの3名のダンサーだ。まるでトランポリンの上を飛び跳ねるような軽やかなステップで私たちをおとぎの世界に連れていく。冒頭の挨拶、ひびのこづえさんは「この舞台は、衣装を最初に考え、そのデザインを元に音楽と踊りを作り上げました」と説明していた。コスチュームデザインが今まで見たことがないほど独特で、見ているだけで目から楽しい! 義母から「ひびのさんが衣装担当の舞台を追いかけている」というのを聞いたときは「どういうこと?」と思ったが、実際に目で見て納得した。

裸の王様、三匹の子豚、シンデレラ……おとぎ話がテーマのこの舞台。セリフは一切無い。でも、ダンスと表情と衣装で、今はシンデレラがドレスを義姉たちと取り合うシーンだな、というのが伝わる。

遂にドレスを手にしたシンデレラ! ドレスを着て、くるくる、回る! 回る!

たっぷりとドレープが入ったシンデレラのドレスは、回転するとスカートが二等辺三角形のように美しく広がり、裾からは特徴的なデザインのパニエが覗く。クルックル回る高村月さんの汗も、スカートと同じ放射線を描いて飛び散る。

手を伸ばせば届きそうな近さ。「綺麗……このドレス、ほしい……」ため息とともに思わず自分の声が漏れた。瞬きを忘れるほど、吸い込まれる。踊り手のエネルギーと、衣装のパワーが掛け合わされ、目が離せない。シンデレラが舞台の上に倒れ込むと、仰向けに横たわった胸の動きから、ドクンドクンと脈の音が聞こえるようだった。会場全体がいっせいに息を呑んだような一瞬の静けさがあり、その後、割れんばかりの拍手とワッと歓声が上がった。                   

物語は、まだまだ続く。天井から吊るした舞台の装飾だと思っていた赤い布。3人がそれぞれ手に取り、ビニールのような布に音楽に合わせてバサバサと風を送り込む。すると風船のようにふわりと赤いドレスが宙に浮かび上がった。すかさず、体をその中に滑り込ませると3人の赤ずきんが誕生だ。なんて自然で、衣装を際立たせる演出なのだろう。

会場が薄暗くなると「こわいよぉ……」と抱っこでしがみついてくる息子。でも、顔はずっと舞台に釘付けで、小さな体いっぱいにエネルギーを吸収しているのが伝わってきた。最後の衣装は、グリム童話の『星の銀貨』をモチーフにしたもの。頭上からミラーボールが登場し、会場全体をキラキラの光が包み込む。銀貨に見立てた大きなスパンコールが散りばめられた全身タイツの衣装に、光が反射しながら踊る姿はとても幻想的だった。なんだか、夢の中にいるみたい……。

楽しくて心も体も踊り出すような音楽は、原摩利彦さんが作編曲を担当。会場の隅では、3歳くらいの男の子がずっと音に合わせて踊っていた。その気持ち、よくわかる。曲のテンポが変わると、「あ、物語が変わるのだな」と耳で予感し、どんな演技がスタートするんだろうと目を凝らす。体全部で音を聴き、気づいたら私の体もリズムに合わせて揺れていた。

こんなプロが集結した舞台を年齢フリーで観られる贅沢。せっかく東京に住んでいるのだからこの恩恵をもっと享受したいと思ったし、子どもたちにもっと観てほしい。私は一観客なのに、空席があることが悔しかった。

息子は帰り道、「おねえちゃん、くるくる まわってたねぇ」と言いながら、ぴょんぴょんと飛び跳ねていた。再演があったらまた観たいなぁ。そのとき息子は、なんていうかなぁと思いながら、YouTubeにアップされた『UP AND DOWN』のメインテーマ曲を、何度もリピートしている。

聴くたびに、目の前に忘れられないあの世界がやってくるから。

文/本間 友子

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