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大河ドラマに託す願い。『光る君へ』ファンミーティング

そのオープニング映像は、どの大河ドラマよりも謎めいていて、恐ろしく美しい。今年のNHK大河ドラマ『光る君へ』だ。冬野ユミさん作曲、反田恭平さんのピアノと朝川朋之さんのハープ、NHK交響楽団が奏でるテーマ曲をバックに、暗闇の中で差し伸べられる男女の手。周囲を彩るのは血、墨、あぶく。届きそうで、指が絡みそうで、最後まで二人の手は結ばれない。その二人とは、紫式部と藤原道長である。

大石静さん脚本の『光る君へ』は、吉高由里子さん演じるまひろ(紫式部)と、柄本佑さん演じる藤原道長の絆の物語。史実にはないが、二人は幼少期に出会い、長じても互いに共鳴し合う「ソウルメイト」だった……と、まるで少女マンガのような秘めた関係を軸に紫式部の生涯が描かれる。長年に渡り大河ドラマ視聴を趣味としている筆者は、放送前は複雑な心境でいた。作品の根幹が架空の設定で、一年間もつのか? 「平安時代のセックス&バイオレンスを描きたい」、と意気込みを語る大石静さんの言葉にも恐れをなした。ソウルメイトって、せ、セックスって! 大河ドラマ『新選組!』の近藤勇・土方歳三、少女マンガでは『ガラスの仮面』の北島マヤ・紫のバラの人とか、大好きだけど。大好きだけど? 「夫婦愛」がテーマだった大石静さんの大河ドラマ『功名が辻』に没頭できなかった身としては、心配が先に立つのである。大河ドラマは恋愛ドラマにあらず。キュンキュンしたくて観ているのではない。

ところが。オープニング映像から鳥肌。少女まひろは夢のように愛らしく賢く、道長は心優しい。ユースケ・サンタマリア演じる安倍晴明は怪しさ満点で、道長の父役の段田安則さんは容赦なくしたたか。まひろを導く謎の盗賊も現れたり……(大好き)。魅力的な登場人物たちの裏で、平安貴族の争いは韓流ドラマも真っ青なドロドロ具合。都には土埃が舞い、平民は飢えて怒っている。そして初回から血が流れ、その悲劇がまひろと道長を宿命付ける。「平安時代のセックス&バイオレンス」、お、面白いじゃないか。毎週日曜日を心待ちにする日々が始まった。大石先生、疑ってすみませんでした。大石先生の朝ドラ『ふたりっ子』、大好きでした! 『オードリー』再放送も、待ってました!

ただ、「なんでそこまでハマってるの?」と聞かれると、うまく答えられない。「いや吉高由里子の演技が上手で」「柄本佑が色っぽくてびっくりなんだよね」、そんな通り一遍の言葉では言い表せない何かに惹きつけられている。その正体を明らかにするために、私は『光る君へ』ファンミーティングに応募した。

〈ファンミーティング〉! 私が初めて参加したのは、2022年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』のファンミーティングだ(詳しくはぜひこちら) 。最終回直前に集った人々、演者も視聴者も、老いも若きもが一堂に会して「ありがとう」を伝え合う場。あの日のNHKホールはリスペクトと熱気に溢れていた。

今回はまだ物語の前半戦。ファンミーティング単独の開催ではなく、NHKホールや公園通りで開催している「超体験NHKフェス」(3/16〜3/20開催)内のイベントの一つだ。NHKホールにメインの出演者4名が集結。司会は『光る君へ』で語りを担当する伊東敏恵アナウンサー。高倍率だったろう。私は落選したが、友人に救われた。一枚の当選ハガキで2名まで参加できるのが、さすがみなさまのNHKである。

出演者の等身大パネルや吉高さん着用衣装に出迎えられて、3階席へ。ステージ中央には見覚えのある大階段が……。『紅白歌合戦』だ! さすがNHKフェス! 果たして、出演者の4名はその大階段を降りて登場してくれた。吉高さん、柄本さん、町田啓太さん(藤原公任役)、ファーストサマーウイカさん(清少納言役)。町田さんは階段途中でつまずくシーンあり。華やかさにめまいがしているのはこちらだというのに、どうかお足元にはお気をつけくださいませ!

放送中の深刻なストーリーとは裏腹に、役をどう理解しているのか、衣装を着る上での苦労は何かが、楽しそうに語られていく。打ち解けた雰囲気から、撮影を積み重ねてきた信頼関係が伝わってくる。放送はまだ第11回までだが(ファンミーティング当時)、撮影はすでに第25回まで進んでいるとのこと。

「吉高さんは気遣いの人。周りをよく見て、人の話もすごくよく聞いている」と柄本さん。「客席を明るくできますか? 皆さんを見たいです!」と観覧者へ水を向けてくれたのが、吉高さんの人柄を表していた。劇中のまひろも、人の顔をじっと観察しながら話を聞くシーンが多い。

柄本さんはいつもバッグを複数持ち歩いていて、お土産でもらうキーホルダーやお守りをたくさん付けており、リュックの外ポケットには歯ブラシを差しているとのこと。ツッコミどころが多いのがこれまた道長に似ている。まひろへ贈る和歌が古今和歌集の歌そのままだったり、ストレートすぎる恋文だったりしたもの!

町田さんもそのまま藤原公任のように、全てが完璧なタイプ。馬に乗る打毬(だきゅう・平安時代のラクロスのようなスポーツ)シーンをぶっつけ本番でこなしたとのこと。「顔も心も綺麗で、嫌いになる方法を教えてほしい!」と吉高さんに詰められていた。

ファーストサマーウイカさんはトークがキレキレ! 頭の回転が早く、思ったことをすぐ口に出すところが随筆家である清少納言そのもの、と言われるそう。書道経験があり、「字がキレイで羨ましい」と吉高さん。吉高さんは左利きなので、撮影に向けて右手で筆の練習を始めたそう。全て役者自身が書いた字が劇中で使われているのがリアルだ。

それぞれが、役をそのまま生きて、輝いていた。今回のファンミーティングは、このキャスティング以外は考えられなかったことを改めて教えてくれた。

さて、なぜ私が『光る君へ』にこんなにもハマっているのか。そうだ、「書」だ! 

まひろは学問、とりわけ漢詩や和歌が好き。学者である父に「お前が男であったら……」と嘆息されるほどの才女。代筆屋として、依頼者の代わりに和歌を書く仕事に生きる希望を見出していた。第2回の「代筆仕事だけが私が私でいられる場所」というセリフが象徴的だ。女性は男性に選ばれて生きる以外の選択肢がなかった時代、その仕事は秘密だった。

第6回では「道長から遠ざかるためには、何かをしなければ」「この命に使命をもたらすためには、何かをしなければ」と呟いていたまひろ。おそらく、苦難を乗り越え、『源氏物語』を生み出す紫式部になるのがまひろの選ぶ道なのだろう。それがまひろの幸せだったのかは、まだわからない。ただ、物語を書き綴ることでまひろの心が少しでも安らかになる未来を、願う。

私は「書く」ことに敬意と畏れを抱くライターだ。人に何かを伝えることはとても難しいから、と嘯いて、いつも書くことから逃げている。「書ける」ことに、憧れだけは持っているのだけれど。命を削ってものを書いたことなど、ないのだけれど。

だからこそ、まひろから目を逸らせない。生きる意味を書くことに見出す。その決意に血が滲むことを、ほんの少しは知っている。大石静さんは第2回の脚本を書き終えた頃に、介護していた旦那さんを看取ったという。ここにも、「書く」運命に導かれた女性がいた。

『光る君へ』は世界最古の女流作家、紫式部の物語。これからまひろは紫式部になる。その命の軌跡を、せめて私は見届けなければいけないのだ。

文/佐々木 みちえ

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