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「買取りで」と言われたら? 著作権や契約について(その1)【絵で食べていきたい/第23回】

絵の仕事といっても、絵だけ描いていればいいわけではありません。クライアントから送られてきた契約書はお硬い文言がびっしりで難しそう……と、ついそのまま判を押したくなることもあります。うっかり大切なことを見逃したら、どんなことが起きるのでしょうか?

いざというときのために知っておきたい「著作権」

「イラストを受注する際に『買取りで』と言われたが、なんだか心配」

「契約書に『著作者人格権を行使しない』と書かれているが、どういうこと?」

イラストの仕事をしていると、時々こんな話をききます。絵の制作には慣れていても、契約や著作権という言葉にはなじみがなくて慌ててしまう人も多いのではないでしょうか。

著作権や契約について基本的な知識があれば、ある程度は自分でも判断できます(「ある程度」と書いたのは、案件ごとに専門家でも判断が分かれることがあるからです)。ここでは「買取り」や「著作権譲渡」について、基礎となる知識や不本意な条件を申し出られた場合の対策を書きます。さらに詳しい内容は、書籍や専門家から学べますが、まずはむやみに怖がったり、どうせわからないとあきらめたりしないことが肝心です。

イラストレーターは何を売っているのか

そもそも、イラストを納品して対価をもらうとき、描き手は何を売っているのでしょうか。請求書には「稿料(原稿料)」や「制作費」と書くことが多いので、イラスト制作の費用だと思いがちですが、多くの場合には「制作したイラストの使用料(利用料)」をもらっています。これは、イラストが雑誌やポスターなど「複製」した媒体で使用されることが多いからです。同一イラストでも、媒体や使用期間によって料金が異なるのもそのためです。

複製使用されることで金額が発生するので、当初の取り決めが大切になります。たとえば、ある雑誌の企画ページのカットとして依頼を受けたら、もしその企画が好評で書籍化された場合、二次使用料を別途請求できます。

イラストを発注する側が、できるだけ長い期間、色々な媒体でイラストを使いたいと思ったら、毎回著作者に確認をとって使用料を支払うのは煩雑でしょう。それを解決するために「イラストは買取りにしよう」と考えます。

この「買取り」という言葉も実は定義が曖昧なのですが、発注者は「著作財産権の譲渡」のつもりで使用している場合が多く、これが描き手と発注者の間で齟齬が生まれる原因になりがちです。

「著作権の譲渡」をするとどうなるのか

急に「著作財産権」と言う言葉がでてきましたが、「著作権」は下記の2種類に分かれます。

発注者としては、他者に譲渡が可能な「著作財産権」を自分たちのものにすれば、1回発注したイラストを、書籍やウェブサイト、広告などに安心して使用できる、と考えるわけです。その分、通常のカットの使用料の数倍の金額を支払うと言われれば、イラストレーター側にとっても悪くない条件のように感じるかもしれません。

けれど、一旦著作財産権を相手にゆだねてしまうと、制作物がいつどこでどのように使われるのか、こちらでは把握できなくなってしまいます。極端な話、「いつでも自由に使える素材」のような扱いをされても文句は言えません。当初雑誌のカットのつもりだったのに、キャラクター商品に使われても、制作者に1円も入らないなどということも起こり得ます。もしイラストが使用期限のない状態で広告に使われてしまったらどうでしょう。知らずに競合他社の仕事を受けて、バッティングしていることがあとでわかったら、大問題になるかもしれません。

さらに、本来であれば他人に譲渡できない「著作者人格権」について、「著作者はこれを行使しない」という条件が契約書に入っている場合もあります。そのまま契約を結んでしまうと、著作者の了解なくイラストの色を自由に変えたり、キャラクターの別ポーズバージョンを社内で制作したりすることもできてしまいます。

もちろん、最初に依頼した人はそこまで絵を無限に使い倒そうなどと考えてはいないでしょう。でも契約は依頼者個人ではなく所属する組織と結ぶものです。担当者が代わり、契約だけが残ったとき、誰がその制作物に対して責任を持って管理してくれるでしょうか。会社にとっては購入したイラストも資産ですから、より有効活用しようと考える人がでてきても不思議はありません。

「著作権譲渡」せずに依頼者の希望に応えるには

依頼者が「買取りで」「著作権譲渡で」と希望する理由が、「紙の雑誌だけでなく電子書籍やウェブサイトへの転載、SNSでの宣伝投稿に自由に使いたい」程度のことならば、著作権などを持ち出すまでもなく、双方の契約でイラストの使用範囲を決めておけばよいのです。

契約といっても毎回書面にして捺印して……というものでなく、メールで文章を送って確認してもらえば十分です。

たとえば「同じ内容の記事に添える使用目的に限り、ウェブサイトやニュースサイト、SNSへの転載を許諾します。その際、サイズ変更や多少のトリミングについてはこちらの許可は必要ありません」など、双方の希望の落としどころを探して文章にしておくのです。

毎回やりとりするのが面倒ならば、発注内容と一緒にイラストの使用についての取り決めをまとめた「確認表」をつくっておき、埋めてもらってもいいでしょう。

最近では紙の雑誌と同時に電子書籍も発売されることが多く、また記事をオウンドメディアに転載する出版社も増えました。そのため、「電子書籍・ウェブ媒体への転載までは初回の稿料に含む」という取り決めを事前に結んでほしいと言われることもあります。このような提示があれば、あとは稿料なども含めて各々で検討できますし、それ以外の用途で使用する場合は改めて相談できます。

知識を身に付け良い仕事ができる環境をつくろう

色々と書きましたが、これまで仕事をしてきて、ほとんどのクライアントは何も言わなくても、契約以外の二次使用をしたいときにはまずこちらに二次利用が可能かどうか、金額はいくらにするかなどの確認をとってくれました。契約書に「著作権譲渡」「著作者人格権を行使しない」という文面が入っていても、理由を説明して希望すればたいていはもめずに削除してもらえました。

大半のクライアントは「慣例だから」とか「少しでも予算をおさえたいから」とか、まずは条件を出してみただけ、という印象です。仕事は決して一方通行で進むものではないので、納得がいかない、不安だという場合は質問して先方の意図を正しく汲み取ることが大事だと思います。自分の判断に自信がなければ、経験のある同業者や専門家に相談しましょう。ネット上にも様々な問い合わせ窓口があります。

仕事では、学校のテスト問題のように誰でも同じ正解にたどり着くわけではありません。たとえ自分の要求が通っても、その後クライアントとの関係が悪化してしまっては困るということもあるでしょう。依頼する側とされる側は上下関係でも敵対関係でもなく、同じゴールを目指すチームです。お互いにとってより良い道を探すためにも、知識を得てしっかり向き合えるようにしたいと思うのです。

文/白ふくろう舎

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