スパイスを使いこなしたい。なぜならカッコいいから。【新連載・炭田のレシピ本研究室/第1回】
スマホ片手に検索すれば、いくらでも素晴らしいレシピに出会える時代。それでもやっぱり「レシピ本」が好き! この連載では、ジャンル問わず年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、同じテーマのレシピ本を2冊ご紹介します。なぜ2冊かというと、取り扱うテーマが同じでも、本によってアプローチが違って面白いから。
今回のテーマは、料理にちょっと慣れてくるとなぜだか手に取りたくなる「スパイス」のレシピ本。買ったはいいけどなかなか使い切れないスパイスをレスキューする『もう余らせない! おのこりスパイス5種でリピ決定おかず(印度カリー子著)』と、レシピも知識もみちみちに詰め込まれた『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド(稲田俊輔著)』の2冊を紹介します。
冷蔵庫に眠りがちな調味料、スパイス
「スパイスカレーでも作るか! 暇だし!」
元気いっぱい冷蔵庫を開けたら、ガラムマサラは2年1ヶ月、コリアンダーは2年3ヶ月、クローブは2年10ヶ月、賞味期限が切れていた。これは多分、数年前に夫が「今日はタンドリーチキンだよ」と、時々しかしない料理を振る舞ってくれた時の残り。一生懸命YouTubeを見ながら作ってくれて、おいしかったけれど「ちゃんと使い切るんだよね?」と不安に思っていたスパイスたちが、案の定余って、いま私の目の前にいる。なんてこった。
きっと我が家だけじゃない、この「スパイスおのこり問題」。まずはこちらを解決する1冊をご紹介します。その名も、印度カリー子さんの『もう余らせない! おのこりスパイス5種でリピ決定おかず』。スパイスを使ったレシピ本はこの世に数多あれど、新たにスパイスを調達するのではなく「既にあるし、余ってる」ことを前提とした、なかなか珍しいレシピ本。
ちなみにスパイスを余らせているのはさも夫だけ、という口ぶりですが、実は私も賞味期限が2年2ヶ月過ぎたシナモンを冷蔵庫の奥の奥に眠らせている。しかも、夫が絶対に触らない「製菓材料」とラベルを貼った箱の中に隠していることを白状します。カリー子さんにはお見通し……。
はじめて知る、スパイス単体の味
まず作ってみたのは、いちばんはじめに紹介されている「ピーマンの豚肉チーズ巻き」。半分に切ったピーマンの窪みにチーズをのせ、豚肉でぐるりと巻いて焼き、クミンと醤油、みりん、酒で味付けした一品。ピーマン×豚肉×チーズなので、食べてみると予想通りおいしい。
でもそれより「私、クミンの味、いまはじめて知った!」ということに驚く。これまで「なんだかエスニックな調味料群」でしかなかったスパイスの中から、クミンだけがぴょーん! と飛び出て、私のベロにその味わいや特長を教えてくれる。
そして、クミンだけを味わったことで、スパイスを冷蔵庫の中に眠らせていた理由に気付いた。私が「スパイス」だと思っていたのは、あらかじめその料理専用に配合された「ミックススパイス」の味だったのだ。だから、レシピの指示通りに混ぜ合わせた「ミックススパイス」は使いこなせるけれど、ソロのスパイスは持て余す。一つずつの味を理解していなければ、何がどんな味でどう使いこなせばいいのか分からないのは、当然のこと。
クミンを単品で味わったことで、焼きそばにかけてちょっとエスニック風にしても美味しそうとか、茹でた野菜にかけるだけでも使えそうだなとか、クミン料理のアイデアがどんどん沸いてきた。クミン以外のスパイスも、コリアンダーが爽やかに香る「塩レモンチキン」や、ナツメグがアクセントの「ハワイアンチーズ餃子」などの料理をレシピ通りに作って味わううちに、どんな個性の持ち主なのかが分かってくる。
この本に沿って料理をしていけば、きっとスパイスを普段使いできるようになる。そんな期待を抱かせる1冊だ。スパイス一つずつのキャラクターを理解するなかで確信した。
組み合わせるほど、カッコいい?
そしてこうなると、ミックスしたスパイスも体感してみたくなるのが人情。2冊目のご紹介は『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』。実はこの本、1年くらい前に「スパイスに詳しくなりたい!(なぜならカッコいいから)」と思った時に買ったもの。「雑草が好きです」という前書きを読んでフフッと笑って、そのまま寝かせていた。フードサイコパスを名乗る稲田俊輔さんの本だけあって、なんせ文字量と紹介されているスパイスの種類がべらぼうに多い。当時の私が手に取るにはまだ早かったのだ。
まずはいちばん簡単そうな、4種のスパイスを使った「クイックチキンカレー」を作ってみる。いざ作って食べると、スプーンをくわえたまま「ん?」と声が出た。チキンがぷりぷりしておいしいけれど、私が知っているカレーと違い随分あっさりしている。食べやすくて、くどくない。カレーは味が濃く、否応なしにご飯がすすむ食べ物だと思っていたが、そうではないカレーというのも存在しているらしい。そしてこの穏やかなカレーを食べ進めているうちに、カレー及びスパイス料理に対して「スパイスがたくさん入ってて、複雑であればあるほど偉い=カッコいい」と信じ込んでいたのかも? と思えてきた。言ってみれば、ハイブランドと古着と流行りの服を上手に組み合わせてこそ真のオシャレ! だと思っていたのだ。
でも、上下ユニクロの服を着ていても素敵な人がいるように、スパイスも定番の数種類の組み合わせで問題なくおいしいのかもしれない。
いつかスパイス上級者になった暁には、最終章で紹介されている11種のスパイスを使う「チキンチェティナード」にも手を出してみたいけれど、スパイスの“重なり”を楽しむだけでも十分楽しいことを教えてくれる本だった。『完全ガイド』を手に、少しずつレベルアップしていきたい。
スパイスって、つまりEXILE
こうして2冊の本を行き来してスパイス料理を作りながら、私はなぜか「HiGH&LOW THE MOVIE」というEXILEの系列グループが総出演している映画を観た時のことを思い出した。友人に猛プッシュされて観たその「ハイロー」は、続編だったので話の筋は詳しくは分からなかったけど、色んなバリエーションの男子たちが次々にスクリーンに映り、ド派手なアクションをこなし、それぞれが個性的でカッコよかった。
鑑賞後、気になった役者さんの名前を検索していくなかで、映画を観る前まで「イケイケなお兄さんたちの集団」だったEXILEの面々は、この横顔の美しい人は三代目 J Soul Brothers、このサングラスが似合う人はEXILE THE SECOND、この目元にホクロがある人は劇団EXILEなど、少しずつ区別がつくようになった。こうなると、テレビや雑誌を観るだけで「あ、ハイローに出てた人だ」と理解できるようになり楽しい。ただの大所帯グループだった群れが、個性が光る一人ずつになり、さらに楽しさが広がっていった思い出だ。
8年前にハイローを観て感じたあの楽しさを、まさかスパイスで味わうことになるとは。『もう余らせない! おのこりスパイス5種でリピ決定おかず』でスパイス界の中心メンバーを知り、『個性を極めて使いこなす スパイス完全ガイド』で中堅や期待の星を知る。そんなふうに2冊を使いこなしてスパイスの中に“推し”が出来たら、ぜひ私にも教えてほしい。
文/炭田 友望
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