検索
SHARE

ゴッドハンドとさとゆみの誕生。そしてざっくざく【さとゆみの今日もコレカラ/第 324 回】

六本木ヒルズにハリウッドビューティサロンというサロンがある。前身は、メイ牛山先生が作られた日本で最も古い美容院のひとつだ。

今から10年ほど前、そのサロンの支配人とランチをしていたときのこと。支配人のケータイが鳴り「ゆみさん、ゴッドの予約にキャンセルが出ました。このあと時間あるなら、施術をされますか?」と聞かれた。

ゴッドとは、お亡くなりになったメイ牛山先生の右腕として活躍してきた御年73歳のエステティシャン。日本を代表する女優やモデル、経済界の有名人たちががこぞって通うゴッドハンドとして知られる人だった。こんなチャンス滅多にない。私はランチの後、ゴッドのエステを受けることにした。

初めて会った時、ゴッドは私の顔とカルテを見比べながら、何度も首をひねっていた。そして、「増田ゆみ様は、本当に増田様ですか?」と、謎なことを言った。

増田ゆみは当時のペンネームで、一人目の夫の苗字だった。美容業界の人たちはみな増田の名前で呼ぶので、ついペンネームでカルテを書いてしまった。

「あ、すみません。本名を書いた方がいいですか?」と聞くと、「いえ、それは大丈夫です。ただ、スタッフからご活躍の美容ライターさんと聞いていたのでちょっと不思議な感じがしまして」とおっしゃる。

「と、言いますと?」と聞くと、「大変失礼ながら、増田ゆみさんのお名前はピークが終わっております」と、言われた。ぴ、ぴーく、ですか?

ゴッドは、初対面の方に失礼なことを申し上げる無礼をお許しくださいと言いながら、自分は20代の頃心筋梗塞で臨終したことがあると話し始めた。心臓が止まりご臨終ですと医師に告げられた後、なぜか目が開き、号泣している両親とメイ牛山先生の前で息を吹き返した過去があるのだという。それから、見えるようになってしまったのです、とゴッドは言う。

なんだか妙な展開になってきた。

「見えるとは?」

私が尋ねると、

「人の健康状態や、将来のことが時々見えます」

とおっしゃる。うわあ、マジですか。

最初はそんな特異体質になってしまって戸惑ったけれど、先輩たちに力の制御の仕方を習って楽になりましたと言う。なんでも、日本には「臨死体験をしたことがある人の集会」みたいなものがあり、そのような経験をした人たちは多かれ少なかれ「見える」ようになることがあるらしい。

普段は、この見える力を封印しています。でも、お相手のために明らかにお伝えした方が良い時だけ、お話しすることにしているのです。

「増田様、ペンネームを変えるご予定はないですか?」

ゴッドは、私の顔を見て言った。

「いや、ないです。このペンネームで15年もやってきてますし、元夫の姓とはいえ、名前を変えるのはその積み重ねを捨てることになりますし」と答えると、ゴッドは「松任谷由実様も、荒井様からお名前を変えて大きく飛躍なさいました」と言う。聞かなかったけど多分顧客なのだろう。

ゴッドは続ける。「増田様の背中には、藤の花が見えます。オーラはイエローですが、見えるのは藤の花です」。

藤の花? あの紫の? 

「はい、そうです。増田様、旧姓はなんとおっしゃるのでしょうか」

そう尋ねられたので、「安藤です」と答える。「今のご主人の姓は?」と聞かれたので「佐藤ですね」と答える。

ゴッドはにっこり笑って言った。「藤が入っています」。

あっ!と声が出た。本当だ。

「安藤様でも佐藤様でも結構です。改名なさると良いでしょう。お名前を変えると、いまイエローのオーラがゴールドに変わって、ざっくざくになります」

ゴッドが言う。

「ざっくざくとは?」

「お金が入ります」

ゴッドは真面目な顔でのたまった。

それまで、ペンネームを変えるなんてありえないと思っていた私の心がぐらり、揺れた。

だって、ざっくざくだよ!

それから数ヶ月後、私はもろもろの調整を済ませ、ビジネスネームを佐藤友美に変更した。ざっくざくの誘惑に負けた。

ゴッドに改名を告げたとき、彼女はにっこり笑って「良きアドバイスができて、私も嬉しいです」と言った。

✳︎

その後、家を引っ越したので、ゴッドのサロンからは足が遠のいてしまったのだけど、その数年後、セミナーに登壇するために訪れた六本木ヒルズで久しぶりにゴッドを見かけた。

慌てて追いかけて呼び止め、話しかける。

「わたし、来週、佐藤友美の名前で初めての本が出るんです。『女の運命は髪で変わる』って本なんですよ。今日は、その出版記念のセミナーで、ハリウッド大学院大学で講義させてもらうので、ここに来ました」と報告した。

ゴッドはその時もにっこり笑ってこう言った。

「やっぱり、ね」

その日のセミナーは大盛況で、セミナーが終わってすぐに、10本以上の講演依頼がきた。本は売れ、発売3ヶ月で7万部を超えた。ざっくざく、とは言わないまでも、人生が大きく変わり始めるのを感じた。

やっぱり、ね。

ゴッドの声を思い出す。

先日近況を聞いたところ、いまも現役で、ある高級ホテルのサロンでお元気に施術されているらしい。もう80代でいらっしゃる。今も誰かにざっくざくなアドバイスをしているのだろうか。

※「今日もコレカラ」は毎朝7時に更新し、24時間で消えます。今日もコレカラ良い一日を。

ーーーーーーー

【この記事をおすすめ】

フリーランス10年目。仕事は順調でしたが、いくつか気になる点がみえてきました。たとえばこういったことです。

writer