
お料理12年生、揚げものにハマる。【連載・炭田のレシピ本研究室/第11回】
年間100冊以上のレシピ本を読むフードライターの炭田が、いま推したいレシピ本2冊を紹介する連載。料理を日常的にするようになり12年目にして「揚げもの」にハマりました。
義理姉と私の夏のメモリー
夏、夫の姉ファミリーと家族旅行をした時のこと。ホテルに併設されているプールで一緒にぐるぐる流されていた姉が、さるメーカーの揚げ鍋の素晴らしさを熱弁していた。
「その鍋な、油が全然飛ばへんねん」
「料理好きやろ? 絶対買った方がええって」
「今度うち来て揚げてみ。いつ来る?」
彼女はいつも話が早い。あれは私がまだ26歳だか27歳だった頃。当時の恋人と別れたその日の夜、新橋のカレー屋さんで泣きながらチーズナンを頬張って「そういえばあなたの弟と私、同い年だったよね? 紹介してよ」とやけくそで絡んだ時も、彼女は「ええよ」と二つ返事で答えて、自分の弟(現:私の夫でもある)に連絡してくれたっけ。
今回も、私が「えぇ~揚げ鍋なんて使うかな~? しまう場所がなぁ」とか「でも高いでしょー?」とか、流れるプール2周分ぐだぐだ言ってる間にサクサク話をまとめて、揚げ鍋お試しデーの日取りを決めてくれた。そして旅行のあと1ヶ月もしないうちに姉の家にお邪魔して、結局私もその揚げ鍋を買った。そんなわけでいま、揚げものにハマっている。
自宅で揚げ甲斐のある食べ物、春巻き
はじめのうちは、からあげを揚げまくっていた。夫の好物だし、肉がそんなに好きじゃない小学生の娘も食べるし、なにより揚げたてはうまい。からあげさえ出せば、みんなハッピー。でも揚げものを日常的にするようになってくると、欲が出てくる。もっといろんなもの、揚げたい。そこで手にしたのが、夏井景子さんの『エブリデイ春巻き』だ。

私の春巻きのイメージは、作るのめんどくさそう。これに尽きる。タケノコやら人参やらを刻んで、春雨を戻して、ひき肉と一緒に炒めて、そのまま中華風おかずとしてご飯にかけてもおいしいだろうに、わざわざ皮で包んで揚げるだなんて……正気?
が、この本で紹介されている具材は切るだけ、もしくはレンチンしてそのまま包めばヨシ。「揚げもの」が楽しくて堪らない私にとっては、お茶の子さいさいだ。いざ包んで揚げてみると、皮がバリッバリでうまいのなんの! スーパーで買う、皮がふにゃ〜っとした春巻きとは全く違う食べ物に感じる。子供と「うちらがYouTuberだったら、ASMR動画撮っちゃうところだね」と、皮のバリザク音を楽しんだ。
私のお気に入りの組み合わせは「豚ひき肉、じゃがいも、カレー粉、ローズマリー」。ごく細く切ったじゃがいもが、揚げているうちに皮の中で蒸されてほっくほくに。そしてカレー粉とローズマリーにより、春巻きなのに洋風な顔つきになるのが食べていて面白い。これ以外も「牛ひき肉、りんご、ゴルゴンゾーラ」や「オクラ、枝豆、みょうが、干しえび」など自分では思い付かないような組み合わせが多くて楽しい。数種類ずつ巻いて「これは何かな~?」と、おみくじみたいに食べると盛り上がるのでおすすめだ。
揚げただけの野菜がアメージングうまい!
そんなこんなで揚げものライフをエンジョイしているうち、本棚に眠らせていた1冊の存在を思い出した。有元葉子さんの『レシピを見ないで作れるようになりましょう。』だ。タイトルの通り「レシピ」はなく、すべての料理の作り方が文字だけで説明されている中々に硬派な本で、私は読むたびにいつの間にか夢の世界へお出かけしていた。ぐーすかぴー。

故につまみ読みの断片的な記憶しかないが、野菜の揚げ方について詳しく紹介されていた気がする。これまで野菜は「揚げ焼き」で凌いでいたが、いまの私ならイケるのでは……? そう思い目次を確認すると、まさに「野菜を揚げる」という項目があった。ページをめくると、深い紫というか紺というか、光を受けて皮が艶々と輝く美しい「なす」の写真に惹かれた。早速作り方を読み込んでなすの素揚げを作ってみると、これがもう、びっくりするほどおいしい。なすを洗わずに、ただ切って、高温に熱した油で揚げるだけ。ものの1分ほど。なのに、ご馳走の味がする。普段は作り手の私の手間を考えてなのか、あまりおかわりをリクエストしない夫が「これ、まだ作れたりする?」と聞いてくるほど、うまい。この日は追加でなすを4本揚げた。
小学生の娘が好きなのは「フライドポテト」。これまた信じられないくらい、うまい。じゃがいものいい所だけを凝縮した味とサクサクの食べ心地で、家にいながら上等なレストランで出てくるようなポテトにありつけるんだ、と口に入れるたび新鮮に驚く。皮を剥いたあと塩水につけて、5分茹でてからじっくり揚げるという、けっこう(かなり)面倒な工程を踏むのだが、手間が味を超えるので食いしん坊としてはやらざるを得ない。
眠くなってないで、もっと早く読めばよかった! と後悔した1冊である。どうにも眠くなるという過去の私みたいな人は、こめかみにメンタームを塗るなり、まぶたにセロハンテープを貼るなりして、読み進めてほしい。絶対うまいから。
週5で揚げものしてるな~
「なんか最近、お肌がツヤピカしてるよ」
ある朝、夫に声を掛けられた。褒め言葉だと思ってニコニコしていたら「油もの、摂り過ぎじゃないかな」と目を逸らしながら言うではないか。え? そゆこと? そういえば顎に吹き出物が出来てるなぁって思ってたんだけど、よもや? いくら楽しくておいしくても、ちょっと頻繁に食べ過ぎたようだ。持ってきた鏡と睨めっこしながら「揚げものは週末のお楽しみかなぁ」とぼやいていると、背後で夫がウンウンと頷いていた。仕方ないのでお気に入りの2冊を舐めるように見て、週末に何を作るか考える暮らしに変えようと思う。レシピ本は、作るのはもちろん、眺める楽しみもありますからね。
文/炭田 友望
【もうすぐ連載1周年! お祭りやります!】
『炭田のレシピ本研究室』が、11月に連載1周年を迎えます。うれしくっておめでたいので、11/29(土曜日、いい肉の日)に東京・神田で個人的にイベントを催すことにしました。その名も「味祭り」。食いしん坊さんならどなたでもウェルカム! お一人でのご参加も、もちろん大歓迎です。ぜひお気軽にワイワイおしゃべりしにいらしてください。
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