
先延ばしグセよ、さようなら。『すぐやる人の頭の使い方』
「やるやる詐欺やん!」やりますやりますと言い続けて2ヶ月あまり。一向に社内処理を進めない営業マンに電話口で思わず口にしていた一言。「すいません、本当にやります」何度も聞いた返答にこれで何回目? と言いたい気持ちを抑えて電話を切る。ふうっと一息ついた途端に聞こえてきたのは「でも人のこと言えなくない?」という心の声だった。そう、私ももれなくやるやる詐欺師。さすがに2ヶ月も先延ばしにしたことはないけれど、なんやかんやと理由をつけては後回しにしがちな人間だ。
学生の時はテスト勉強。出題範囲と日程が公表されるやいなや、意気揚々と勉強スケジュールを立てるところまでは良かった。けれどいざそのスケジュールをこなそうとすると、驚くほど計画通りに進まない。19時~20時に予定していた国語は、気が向かないからとすっ飛ばし、休憩と書いた30分はちゃっかり1時間に延長。テストが終わるといつも計画通りにいかないなと思うのがお決まりだった。社会人になってからは、スケジュール管理に一苦労。緊急かつ重要なタスクはぱっとこなせるのに、締め切りにゆとりがあると、また気が向いた時にやろうと後回し。そうこうしているうちに急な対応依頼が降ってきて、締め切りギリギリに滑り込み。どうしても間に合わなくて頭を下げることもあった。
年齢を重ねても一向に改善する気配がない先延ばしグセ。「ああ、またやってしまった」と自己嫌悪に陥るループから解放されたくて手に取ったのが『すぐやる人の頭の使い方』だ。著者の鈴木進介さんは20年以上前、私と同じように先延ばしグセが治らず、何をやってもうまくいかないことに悩んでいたという。私もこれまでネットでありとあらゆる方法を調べ、試してきた。それでも先延ばしグセは全くといっていいほど改善せず、ずっと努力不足やモチベーションの低さが原因だと思い込んできた。けれど鈴木さんによると、先延ばしグセの原因は頭の中が整理されていないことなのだという。
「どれからやろう」「失敗したらどうしよう」「めんどくさいな」。頭の中が整理されていれば、こうした考えが浮かぶ前に行動に移すことができるという。本当かな? と思いつつ、本をパラパラとめくった。思考を整理するための43のコツと書かれたうちの1つ「やる気はなくても1分だけやりきる」を試してみる。すると1分なら……と案外すんなりと行動に移せた自分がいた。やるやん、自分。1つ試すと他のも試してみたくなるもので、気付けば43個全てのコツを実践していた。今回は私が特に効果的だったと感じるコツを3つ紹介してみようと思う。
1つ目は「スタート期限」で始める日を決める。文字通り、締め切りとは別に取りかかる日を自分で設定する方法。締め切りまでに少し余裕があると、ついまだ時間があるからと先延ばしにしていた自分にとって、このコツは画期的だった。これまでは先延ばしにしつつも、頭の片隅にはやらなければいけないタスクが頭にチラついていた。けれど始める日を決めることで、きれいさっぱりと無くなったではないか。いざその日がきたら先延ばしのしようもないので、とにかくやるしかない! と腹を括ることができた。ただそもそも取りかかる日の設定を誤ると最終的に時間に追われることになるので要注意。
2つ目はとにかく身体を動かして「作業興奮」を引き起こす方法。例えばPCを開いてあいうえおと文字を打ち込む。机の上を1分間片づけてみる。そうやって身体を動かすことで脳内が刺激され、作業興奮と呼ばれる現象が引き起こされるという。この作業興奮がやる気を生み、集中力を高めてくれるのだ。ただそもそも身体を動かすのすら億劫な時もある。そんな時は「5秒ルール」も活用すると良いという。5秒ルールとは、すぐに行動に移したい時に「5、4、3、2、1、Go!」と口に出して動くだけというシンプルなもの。実は人間の脳はやらなければいけないことがあっても5秒以上考えるとやらなくてもいい理由を考え出すそうだ。この脳の性質を逆手にとり、口にしたらすぐ行動に移すクセづけをする。初めは半信半疑だったものの、楽しくゲーム感覚で取り組めるようになったのはこのコツのおかげだと感じている。
3つ目は「プランB」を用意する。予定通りに進まなかった時を想定して、代替案を用意しておく方法。プレッシャーのかかる仕事を抱えている時など、取りかかるのが精神的にしんどい時に効果的。これまで「至急対応して!」と言われた仕事は対応こそできてはいたものの、緊張で手汗をかくこともしばしば。頭の中は失敗したらどうしようと不安でいっぱいだった。そこでプランBとして、仮に対応がスムーズに進まなかった時のプランを事前に考え、対処法も合わせて用意。すると、同じ至急の依頼でも心持ちがまるで違った。プランBを考えたことで、失敗したらどうしようという不安も薄れ、気負うことなく対応することができるようになった。
実際、このレビューも1つ目で取り上げたスタート期限を決めて書き始めた。期限前には旅行に行ったものの、焦ったり不安になったりすることなく、旅行を思う存分楽しむことができた。そして書き始める際には、2つ目で取り上げた作業興奮を引き起こすことを意識し、ひとまずタイピングをするところから始めてみた。今日はPCを開けないかもと思う時もあったけれど、そんな時には5秒ルールを活用。こうして本で学んだコツを使いつつ、ここまで止まることなく書き進めることができている。締め切りは迫っているはずなのに、楽しい。そう思える日が来るなんて、この本を読むまでは思いもしなかった。とはいえこれからも先延ばしにしたくなる時もあるだろうし、面倒くさい気持ちに押しつぶされそうになることもあると思う。そんな時は自分にムチを打つのでも、がっかりするのでもなく、43個あるコツを活用し、前に進んでいけたらいいなと思っている。
文/川田 遥夏
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