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ちゃんめい

「燃えるような情熱を呼び覚ましたい!」なら『BLUE GIANT』を読んで、あなただけの初期衝動を思い出して【連載・あちらのお客さまからマンガです/第5回】

「行きつけの飲み屋でマンガを熱読し、声をかけてきた人にはもれなく激アツでマンガを勧めてしまう」という、ちゃんめい。そんなちゃんめいが、仕事や人間関係、恋愛……などのお悩みに対して、おすすめのマンガと共にアドバイスをお届けします。

第5回目は、きょうのジョーさん(仮名)からのお悩みです。

“結婚する予定もないので恋愛をしたいわけでもなく、仕事もまぁまぁ順調が故に、ある程度満たされていて、人生の目標みたいなものがこれと言ってない、ここ数年です。なにか燃えるような情熱を呼び覚ましてくれる漫画を教えてください。”

情熱といえば、名作漫画には必ず”純度100%の情熱を滾らせている”キャラクターが登場する気がします。

例えば、ここ最近の大ヒット作品でいうと『鬼滅の刃』の煉獄さん。「そんなことで俺の情熱はなくならない! 心の炎が消えることはない! 俺は決して挫けない」「俺は俺の責務を全うする!! ここにいる者は誰も死なせない!!」など、情熱をダイレクトに感じる名言の多さもさることながら、どんな困難や悪にも屈せずに自分の正義を貫き通す……。そんな姿を見ていると思わずページをめくる手に力が入ります。

ですが、私たちは彼のように命をかけて悪と戦っているわけではないので、正直自分の人生と重ねることはそうないでしょう。だから、自分の中に眠っている情熱を呼び覚ますほどの共鳴が起きるかと言われたらちょっと微妙なところです。というわけで、情熱的なキャラクターが登場する漫画は数多くあれど、情熱を呼び覚ましてくれる漫画となると確かに難しいなと思ったわけですが……ありました。燃えるような情熱の火種が詰まっている、唯一無二の漫画が。

アニメーション映画も大好評公開中『BLUE GIANT』

今回紹介する作品は、今まさにアニメーション映画化されていまして。しかもとんでもなく話題になっているので、もしかしたらご存知かもしれません。ですが、やっぱりこの作品以外に考えられない! というわけで石塚真一先生の『BLUE GIANT』を布教させてください。

本作は、宮本大という一人の青年が世界一のジャズプレーヤーを目指す物語。単行本が、日本編『BLUE GIANT』全10巻、欧州編『BLUE GIANT SUPREME』全11巻、そして現在は米国編『BLUE GIANT EXPLORER』既刊8巻が絶賛連載中という、第3シリーズにまで突入している大ヒット作品です。

私が今回おすすめしたいのはシリーズ第1部となる『BLUE GIANT』。ちなみに現在公開中のアニメーション映画で描かれているのもこのお話です。

情熱の炎を燃やすのに欠かせないもの

『BLUE GIANT』の何がすごいって、痺れるくらいの“初期衝動”が詰まっているところ。

初期衝動とは楽曲の歌詞やアーティストさんのインタビューでよく見かける言葉なので、何となく雰囲気で登場させてしまいましたが、実は造語なんですよね。なので、ここでの“初期衝動”がどういう意味なのか改めて考えてみました。

例えば、音楽や漫画、芸術、なんでも良いのですが「なんだこれは!」って雷に打たれたような衝撃を味わったことはありませんか? それと同時に、周囲の目はもちろん、自分の状況が気にならないほどに熱中していく……まるで心に火が灯る、最初のあの感覚。それを“初期衝動”と呼ぶのだと、私はそう思っています。

そしてこの初期衝動こそが、情熱の炎を燃やすのに欠かせない火種だと感じるのです。

――中学のときに聴いたジャズの生演奏に魂を揺さぶられた大。そこから彼は、まったくの初心者ながらも世界一のジャズプレイヤーを目指して地元・仙台でサックスに明け暮れる日々を過ごします。

家族はもちろん、同世代の友人たちはジャズを演奏するどころか、聴くことさえしない。たった一人で未知の世界へと歩み出す大ですが、彼曰く“スゲェ熱くてハゲしい”という初めてジャズを聞いた時に感じた初期衝動を胸に、晴れの日も雨の日も曇りの日も、そして初ステージで散々な目に遭おうとも、わきめもふらずに毎日サックスを吹き続けるのです。

どうしてこんなに頑張れるんだろう。正直、大を見ているとそう思うことがあります。だけど、彼はきっと“頑張ろう”だなんて思っていない。初期衝動を信じて、それを糧に情熱の炎を燃やしている最中なんだと。大の全身全霊の演奏シーンを読んでいるとそう感じるのです。

まさに情熱の火種ともいえる“初期衝動”ですが、これは大だけではなく、他の登場人物でも色濃く描かれています。それを最も体現している人物こそが、玉田俊二というキャラクターです。

全ての人の“初期衝動”を否定しない

高校卒業後に単身で上京した大。けれど、演奏活動の場を模索すること以外、全くのノープラン。そんな彼は、大学進学のために上京した同郷の友人のアパートに転がり込みます。成り行き任せの大に文句を言いながらも、なんだか受け入れちゃう友人……それが玉田俊二です。

高校時代はサッカー部に所属し、県大会でベスト8に進出するほどサッカーに熱心に打ち込んでいた玉田。花のキャンパスライフを求めて東京の大学に進学したものの、高校時代のように打ち込めるものや切磋琢磨しあう仲間もいない。そんな彼はジャズに情熱を燃やす大に強い憧れを抱くのです。

これが玉田の初期衝動。そこからは、大と凄腕ジャズピアニスト・沢辺雪祈が結成したジャズバンド「JASS」にドラマーとしてとして加入すべく、初心者ながらドラムの練習に明け暮れていきます。でもこのまますんなり「JASS」に入れるほど音楽の世界は甘くなく……プロ意識の高い雪祈は玉田のメンバー入り猛反対するのです。ですが、そんな雪祈に大はこう言い放ちます。「音楽やりたいって気持ちにノーって言うのか?」と。

燃えるような情熱を呼び覚ます

果たして、私たちは一生のうちで何度“初期衝動”を感じられるのだろうか。いや、もしかしたら感じているのに「あの人と比べたら大したことない」と自分で優劣をつけてしまう。あるいは、誰かに否定されて無理やり無かったことにしてしまっているのかもしれない。『BLUE GIANT』は、大のような運命的な初期衝動はもちろん、玉田みたく第三者から影響された初期衝動……人の数だけあるそれを決して否定しないマンガです。

「燃えるような情熱を呼び覚ましたい!」そう思い立った時、新たに夢中になれる何かを探すのも良いでしょう。ですが、『BLUE GIANT』に触れることで、もしかしたら自分の中で無かったことになっていた“初期衝動”が呼び覚まされるかもしれません。

文/ちゃんめい

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