バズったことがない私もオリジナルイラストが売りたい【絵で食べていきたい/第21回】
美大や専門学校を出ていなくても、神絵師でなくても絵で食べていきたい。画力以外の力もあわせた総合力で絵の仕事を続けて10年目を超えたころから、オリジナル作品も描いて、売ることができたらと思いはじめました。今回はこれまでとはまた違う挑戦の話です。
メディア系イラストレーションと、販売用の作品との違い
イラストレーター10年目にはじめての個展をしてから、グループ展や企画展にも参加するようになりました。このころから、受注した絵を描くだけでなく、作品として鑑賞してもらえるオリジナルの絵も描きたいと欲が出てきました。
ちょうどそのころ、憧れていたイラストレーション専門誌の編集長に会うチャンスができました。作家性の強い有名イラストレーターがよく特集されるので、どんな絵柄でも描いて仕事にしたいと思っていた私には敷居が高く感じられた雑誌です。仕事のイラストと一緒にオリジナル作品を入れたポートフォリオを見ていただき、思い切って質問しました。
「今まで雑誌などメディアベースの仕事をしてきましたが、これからは展示会で作品販売もしていきたいのです。自分の絵でそれを目指すことは可能でしょうか?」
編集長がアドバイスしてくれたのはこんなことでした。
もし作品そのものを販売したいなら、メディアなどで使用されるイラストレーションとの違いを意識した方がよい。メディアイラストの多くは「8割の人に嫌われない表現」を求められる。しかし作品を販売するなら「99人に嫌われても、たった1人の心に刺さって求めてもらえる」ことが必要だと。
このアドバイスにハッとし、確かにそうだと思いました。作品としてそれなりの価格で購入するなら、この作品の魅力は自分にしかわからないと感じるくらいの強い思い入れが必要でしょう。
それからは、展示会用の絵は「一般受け」は考えずに描きたいものを描くようにしました。狙っても売れるかどうかわからないなら、誰かに刺さってくれると信じて好きなものを描いた方がいいと思ったのです。
作品がはじめて売れた理由
とはいえ、これまで「見てもらうだけでいい」と思っていた作品に価格をつけるのは心理的ハードルが高く、しばらくは価格を決めずに展示していました。
自分の絵を多くの人に見て欲しい、食べていけるだけの収入が欲しいという希望は、メディア系の仕事である程度満たされていました。その分オリジナル作品では売上げを気にせず好きなものを描こうと割り切れたのと、もっと正直にいえば価格を表示しても全く売れなかったら恰好が悪いと思ったからです。
しかしあるグループ展で、価格をつけずに飾っていた絵がはじめて売れたことで、意識が大きく変わりました。
ギャラリーのオーナーから購入希望のお客様がいると電話を受け、その場でオーナーと相談して価格を決めました。はじめて絵が売れたことが嬉しくて、お客様には展示会終了後にアポイントをとり、直接作品を手渡ししました。そのとき「なぜこの絵を購入しようと思ったのか」を聞くことができました。
お客様は魚座で、最近ベリーダンスを習い始めたので、絵を見た瞬間「これは私のための作品だ!」とピンときたそうなのです。
展示したのはエスニックな装飾に身を包んだ人魚の絵でした。確かにベリーダンスの衣裳に見え、タイトルはまさに「魚座」です。実は十二星座のシリーズを描こうと思いながら全種類描けず、その時点で描けた二星座だけ展示していました。こうした偶然も加味すると、お客様が感激してくださったのもわかります。
そのとき私が思い出したのは、「たった1人に刺さればよい」という言葉でした。
そして作品が売れたことで「私の作品を気に入って購入してくれた人がいるのだから、ずっと絵を描き続けよう。あのとき買って良かったと思ってもらえるように、もっと活躍したい!」と、身が引き締まりました。
さらに「私の作品など売れっこない」と卑下するのは、買ってくださった方に失礼だと意識が変わりました。きちんと値段をつけて販売し、売るためにできることを考えるようになったのです。
作品の購入理由、さまざま
もちろん、一枚売れたからといってすぐに次の絵が売れるわけではありません。これまで通り受注のイラストを描くかたわら、展示会やイベントに声をかけられたら出品するスタイルを続けました。それでも何枚かの作品は買っていただくことができました。一枚売れるたびに、売れた理由を考えると、絵そのものの他にも以下のような要因がありました。
・信頼・応援している人の口コミ力
地元イベントの一環として喫茶店で展示会をしたときは作品が予想以上に売れました。お店の常連さんや店主のお友達が買ってくださったのです。「贔屓にしているお店が応援している作家の作品なら買ってあげよう」という気持ちと、お店の方が私のイラストをとても褒めてくれたので価値のある作品に感じられたからではないかと思います。
このときはあらためて「口コミの力」を感じました。また「影響力がある人」のポジションには、インフルエンサーや有名人に限らず、誰もがなれる可能性があるのだと気付きました。
・展示会場が自分の「ホーム」だった
もう一つ印象的な展示は、地元のレンタルボックス形式のギャラリーでの個展です。
このお店では何年も自分の作品を販売し、企画展などに参加していたので「ハンドメイド作家仲間」とのつながりができていました。すると私が展示をするときに、お店のオーナーだけでなく、お客さんや作家さんが展示をどんどん宣伝してくれるのです。
このお店には流行のもの以上に「唯一無二」の作品を求めるお客様が多く、そういう人達は「お店や自分の好きな作家さんが推している」ことをとても重要に感じてくれます。その結果、作家さんやお客さんがかなり作品を購入してくれました。
これも口コミ力ともいえますが、口コミを広めてくれる方がたくさんいたのは、私が長年そのお店でつながりをつくり続けた結果、そこがアウェイでなく「ホーム」になったことが大きいと思います。
・より多くの人に展示に来てもらう工夫
はじめての個展から「展示会に来た人が写真を撮って拡散したくなる仕掛け」を考えていました。まだあまり展示作品の写真撮影が許可されていなかったころから、作品撮影の許可はもちろん、撮影用の仮面や顔ハメ看板を作りました。行ったことを知らせたくなる、楽しそうな写真を拡散してもらい「私も行ってあの面白い写真を撮りたい」と思う人を増やすためです。
ある個展では、イラスト作品を全面に大きくプリントした、かなり目立つワンピースを作りました。1点ものの作品として一応値段も決めましたが、むしろ目的は宣伝でした。試着OK、試着写真のSNS投稿もOKにしてどんどん写真をアップしてもらうと、面白がられて「あのワンピースを着させて」と人がやってきました。
個展としては小さい規模でしたが、このときはワンピース効果もあってか人がたくさん来てくれて、結果的に作品やグッズもよく売れました。また、ワンピース自体も以前お仕事をした芸能関係の方の目にとまり、購入していただくことができたのです。
やりたい「絵の仕事」をあきらめない
私はイラストレーターとして有名でも、SNSで影響力があるわけでもありません。それでもそのときにやりたい仕事、描きたい絵を描くことをあきらめずに挑戦し続けていくことで、少しずつでも結果はついてきたと感じます。
受注して描くイラストを収入のメインにすることで、オリジナル作品やグッズの販売を趣味としてのびのびと続けることができる。工夫しながら続けるうちに、そこからも少しずつ収入を得られるようにもなる。「絵だけで食べていく」といっても、さまざまなやり方があります。「絵だけ」にこだわらないなら、収入を絵以外の仕事から得てもいいのです。トライ&エラーを繰り返しながら、自分にとってより最適な道を見つけていけたら幸せだと思います。
文/白ふくろう舎
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