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自分のポリシーと合わない仕事の依頼があったらどうする? 絵で食べていきたい/第39回】

絵を仕事にすると、描きたい絵、得意な絵ばかり描けるわけではない、とよく言われます。それは覚悟したとして、では自分のポリシーと合わない仕事の依頼があったらどうでしょうか。今回はこのテーマについて考えます。

ポリシーに反する依頼とは何か

子供のころ読んだ芸能人のインタビュー記事に、苦手な食品のCM出演依頼があって苦労した、というエピソードがありました。「そうか、CMに出演しているタレントが、本当に好きなものを紹介しているとは限らないんだ!」と衝撃を受けました。

食品の好き嫌いに限らず、仕事となれば好きなことばかりできるわけではない。これは誰でもある程度予想していることではないでしょうか。絵の仕事も同様で、だからこそ趣味のままにしておきたい人も多いと思います。

しかし、仕事だからあまり選り好みしないでおこう、と決めていても「これは自分のポリシーに反する」と感じる依頼があるかもしれません。ここでの「ポリシー」とは、「信念」「信条」や「こだわり」という意味です。もし、自分のポリシーと合わない仕事の依頼があったらどうするか。私自身や周囲の同業者の経験も参考に考えてみます。

前提として、プロとして絵の仕事を受ける場合、明らかに公共良俗に反する依頼はほぼないと思います。その上で、たとえばどんな依頼が「ポリシーに反する」のでしょうか。

ポリシーそのものはひとそれぞれですが、依頼のどの部分が反するか、という基準で分けて考えてみましょう。たとえばこんな場合です。

1:発注者がポリシーに反する 
2:依頼内容がポリシーに反する
3:依頼の条件がポリシーに反する

ひとつずつ考えます。

1:発注者がポリシーに反する

発注の内容とは関係なく「この発注先から仕事を受けることが自分のポリシーに反する」と感じる例です。

ポリシーは個人の内面的なものなので、法的、倫理的に問題がなくても、自分にとっては受け入れがたい場合があります。たとえば、自分が信仰していない宗教団体や、支持できない商品を製造している、賛同できない活動を支援している企業からの依頼などです。さらに、通常なら問題ないけれど、たまたまそのとき不祥事が起きて、その対応も含めて受け入れがたいとか、発注者には問題がないものの、掲載される媒体が自身のポリシーに反する、というケースもあるかもしれません。

2:依頼内容がポリシーに反する

クライアントではなく、描く内容がポリシーに反する場合です。明らかに多くの人が問題だと感じるような依頼をされることはまれです。しかしたとえば、子供のうちからメイクをするのはよくないと感じていたら、「小学生のかわいいメイク」という記事のイラストを描くのはポリシーに反する、と感じるかもしれません。

また、個人的に描くならば全く問題ないけれど、仕事をする上で守るべきポリシーは別、という人もいるでしょう。仮に児童向け、教育関係をメインの仕事先にしている人が、18禁の仕事を依頼された場合、個人的には18禁に忌避感がなくても、メインの仕事への影響を考えたら、受けない可能性が高そうです。

3:依頼の条件がポリシーに反する

金額や納期にはじまり、さまざまな依頼条件がポリシーに反することもありえます。これは具体的な条件に限りません。たとえばとても失礼な文面の依頼メールを受け取ったとき、「お互いに敬意を持ちあえる相手と仕事をしたい」というポリシーに反すると感じるかもしれません。

明文化されたポリシーでなくても、ここにあげたようなこだわりや方針は、それぞれにもっているのではないでしょうか。

ではポリシーに反する依頼が来たら、受け手にはどんな選択があるでしょうか。これもいくつかに分けて考えてみます。

ポリシーに反する依頼に対してできること

ポリシーに反する依頼に対して、受け手がとれる選択肢を3つあげてみます。

1:断る
2:受ける
3:交渉可能なら受ける

1:断る

最もシンプルな選択です。よほど売れっ子でない限り、仕事を断るのは経済的にも気持ち的にもつらいものです。それでも、この仕事を受けたら自分の心身を守れないと感じたら、断るしかありません。
ただし断り方は考える余地があります。ストレートに「ポリシーに反するから」と伝えなくてもよいのです。実際は、スケジュールが調整できないなど、無難な理由で断る人が多いでしょう。

ちなみに、身も蓋もないと思われるかもしれませんが、多少ポリシーに反しても、原稿料がとても良ければ断らない、という判断もありえます。

これは私の話ですが、以前『誰でもお金持ちになれる!(仮)』という実用書の挿絵を依頼されました。個人のポリシー的には微妙なラインです。この本を買う人も、本当に誰でもお金持ちになれるはず、と信じて買うわけではないでしょうし、騙されたと感じても1000円ちょっと。しかし私は断りました。原稿料がとても安かったからです。誰でもお金持ちになれる(そして著者は大富豪)と言っておきながら、挿絵に払う金額をケチるのはいかがなものか。内容に説得力がないのと、制作条件に合わないという、弱めの「ポリシー違反」が2つ重なったので、お断りしたのです。

2:受ける

ポリシーには反するけれど依頼を受ける。この選択も当然あります。ポリシーにも優先順位があるはずです。生活に困るほど仕事を選んでいては、絵を描くことを職業にする意味がなくなってしまいます。それならば、ポリシーに反しにくい仕事を選び、趣味で創作活動をしたほうが健やかでいられるかもしれません。

あるいは、どうせ誰かが同じ仕事をするなら自分がやって、せめて自分にできる方法で関わることでポリシーを守る、という考え方もあります。

たとえクライアントの事業の一部に賛同できない点があっても、仕事を受けたことでその考えに同意したことにはなりません。また、批判してはいけないという意味にもなりません。

以前、長期の仕事を受けていた企業内で問題が起きました。担当の方が気にして、このまま仕事を続けて大丈夫かと私の意向を確認してくれました。何よりこちらの気持ちを尊重してくれたことが嬉しく、感謝を伝えた上で、仕事は続けるけれど、場合によっては私がその問題について批判をすることがあるかもしれないと伝えました。

文句があるなら出ていけとか、同じ組織にいるなら同類だとか、いろいろな意見があります。けれど、クライアントがポリシーに反するたびに依頼を断っていたら、ほとんどの人は仕事を続けられないと思います。不祥事を起こした企業の社員がそのたびに全員やめることなどありません。でも、だからといって、社員がその問題に心を痛めていないとか、改善のための行動を何もしないわけではないはずです。

3:交渉や変更が可能なら受ける

断るか受けるかの2択ではなく、3つめの選択があります。依頼内容や条件で悩むなら、まず先に交渉の余地があるかきいてみます。

たとえば、依頼自体は受けたいけれど、ブランディングのために名前を出したくない場合もあると思います。そんなときは、筆名を変える、クレジットを表記しないなどの方法があります。主要な画風とそれ以外の画風によってペンネームを変えている人もいますし、子供向け、大人向けなどターゲットによって変えることもできるでしょう。

描く内容を変更してもらえるように相談することもあります。
以前、教科書の挿絵を手掛けたときのことです。家族を描くページで、お母さんと娘が台所にいて、お父さんと息子がリビングでテレビを見ている絵を描くよう指示がありました。20年ぐらい前のことですが、私は受け入れがたいと感じました。10代の生徒に、教科書が固定されたジェンダーロールを刷り込むことになるのではと危惧したからです。
長期にわたるチーム制作だったこともあり、今後のためにもなぜ変えてほしいかわかってもらいたいと思い、相談しました。結局その依頼は他のメンバーからのサポートも得て、落としどころを見つけることができました。

自分のポリシーを押し通すのでも、他者のポリシーに従うのでもなく、一緒に仕事をすることでお互いに考え方をブラッシュアップする。プロのスキルを互いに提供しあって、乗り越える方法を考える。これができたときの達成感は何にも代えがたいものです。

仕事を通じて自分のポリシーと向き合い、成長する

こう考えてみると、自分のポリシーを大切にしつつ、変化すること、ぶつかることを恐れすぎないのも大事なことだと感じます。

誰でも間違えることはあります。今自分が正しいと思っていることも、立場や時代が変われば、おかしく見えるかもしれません。間違いや、批判を受けることを極端に恐れていると、「炎上しないためにAIの俳優を起用する」「著作権フリーかつ既存のイラストのみをつかう」といったリスクを負わない流れが主流になり、どんどん自分たちの創作表現の幅を狭めてしまうかもしれません。

自分が何を信じ、良いと思うのか。それは本当に自分や誰かを幸せにするのか。そういうことを考え、関わる人とぶつかりながら変化し、成長していく。そこに人間である私たちが描き、仕事をする意味があるのかもしれません。

文/白ふくろう舎

【お知らせとお詫び】
この連載に加筆修正した書籍『絵で食べていきたい!』(弘文堂)第 1 刷(2024 年 12 月 15 日発行)に、修正を要する表現がございました。 下記URLの通り変更いただけますよう、お詫びと共に、お願い申し上げます。
正誤表 https://hondana-storage.s3.amazonaws.com/83/files/85018_1.pdf

書籍『絵で食べていきたい!』は、こちらからご購入いただけます。

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